児童手当

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児童手当(じどうてあて)とは、児童を育てる保護者に対して、主に行政から支給される手当のこと。いくつかの国で実施されており、日本では児童手当(1972年から2009年度まで、2012年度の呼び名)、子ども手当(2010年、2011年度の呼び名)という名称で実施している。

概要

従来、児童の育成は親の責任であったが、20世紀後半から、先進国においては親だけでは十分な育成が果たしにくい状況が生じた。これは、児童労働禁止の厳格化、子育てにかかる経費の増大や共働きの増加、核家族の増加といった環境の変化などによるものである。また、児童の数が出生率の低下によって減少している状況もあって、児童の育成に関しては政府も責任を持つべきであるという考え方が定着した。そのため、児童の育成を経済的な面から支援することにより、児童のいる家庭の生活を安定させ、また児童自身の健全な成長を促す目的で、児童手当の制度が各国で整備されるようになった。

扶養する児童や家族がいることに対して、政府が金銭の形で手当を支給する制度は、1926年ニュージーランドで行なわれたものに始まる[1]。その後、1950年頃までにアメリカ合衆国を除く先進国のほとんどでは児童を養育する家庭に対する手当制度が制定されるようになった。日本では、1972年から開始され、2010年度から11年度は時限立法により子ども手当制度が本手当を包括する。

日本

日本における児童手当は、児童手当法(昭和46年法律第73号)が制定され、1972年度以降支給されている。この児童手当は、何回か改正されており、2011年8月時点では、子ども手当として0歳から中学生までを対象に月1万3千円支給されている。

2006年度から2009年度

支給対象児童

児童手当の対象となるのは、0歳以上12歳に到達してから最初の年度末(3月31日)までの間にある児童である。日本の大多数の小学校は強固な年齢主義によって運営されているため、この期間の終了時点と小学校六年生の修了時点が重なる例が多い。このため、制度案内書のみならず児童手当法の本文附則でも、この年齢期間の者を「小学校修了前の児童」という表現で呼んでいるが、完全に年齢が基準であり、学歴や学籍は一切要件になっていない。例えば、児童が就学猶予等の理由によりこれ以降の時期に小学校6年生以下であったとしても、支給の対象にならないし、外国の小学校をすでに卒業していた場合でも、期間内であれば対象になる。なお、2010年に成立した子ども手当法では、この「小学校修了=12歳」に加え、新たに「中学校修了=15歳」、「高校修了=18歳」という、年齢主義に基づいた表現が組み入れられている。

支給対象となる児童の国籍、居住地は問わない。

手当を受ける者

児童手当は児童自身に対してではなく、児童を養育する者に対して支給される。通常は児童の親が手当を受けることになるが、両親ともが児童を養育していない場合は、代わって児童を養育している者に手当が支給される。

父母のうちどちらを児童手当の受給者とするかについては、児童の生計を維持する程度が高い者、と定めている。このため、一般には父母のうち所得が高い者が手当の受給者になる。ただし、自治体によっては児童の健康保険を負担している側を受給者としている場合もある。

また、受給者の所得による資格制限があり、手当を受けようとする者の税法上の所得が一定額以上であると、手当は支給されない。この限度額は手当を受けようとする者の扶養親族数や加入する年金によって変わる。

所得制限限度額(2006年4月以降)

扶養親族および扶養対象配偶者数 国民年金加入者・年金未加入者など 厚生年金等加入者
0人 4,600,000円 5,320,000円
1人 4,980,000円 5,700,000円
2人 5,360,000円 6,080,000円
3人 5,740,000円 6,460,000円
それ以降 1人増に付き380,000円増
老人扶養親族または老人控除対象配偶者がいる場合、1人につき60,000円増

また、手当の受給者は日本国内に住所を有していなくてはならない。受給者の国籍は問わない。

現況届を提出前に受給者が死亡した場合、児童手当法第12条に基づき、支給要件児童であった者にその未支払の児童手当を支払うことができる。

所得から控除できる額

所得制限限度額を計算するとき、下記の金額は所得税法上の所得額から控除することができる。

  • 一律控除(社会保険料等相当額) 80,000円
  • 普通障害者控除 270,000円
  • 寡婦(夫)控除 270,000円
  • 勤労学生控除 270,000円
  • 特別障害者控除 400,000円
  • 寡婦特例控除 350,000円
  • 雑損、医療費、小規模企業共済等掛金控除 各控除額に相当する額

手当の額

児童手当の額は、受給者ごとに0歳以上18歳に到達してから最初の年度末までの間にある児童の数に応じて決定される(これを支給要件児童という)。支給対象児童が上から数えて一人目または二人目であれば、月額5,000円、三人目以降であれば、月額10,000円が支給される。3歳未満の児童に対する児童手当の額は、出生順位にかかわらず一律10,000円が支給される。

児童の年齢   順番   手当(月額)
  11歳      一人目    5,000円
   8歳      二人目    5,000円
   6歳      三人目   10,000円
   4歳      四人目   10,000円
=============================
  合計               30,000円
児童の年齢   順番   手当(月額)
   8歳      一人目    5,000円
   1歳      二人目   10,000円(3歳未満であるので、2人目でも10,000円)
=============================
  合計               15,000円
児童の年齢   順番   手当(月額)
  16歳      一人目        0円(13歳以上であるので、受給対象外)
   8歳      二人目    5,000円
   7歳      三人目   10,000円
=============================
  合計               15,000円
児童の年齢   順番   手当(月額)
  16歳      一人目        0円(13歳以上であるので、受給対象外)
  13歳      二人目        0円(13歳以上であるので、受給対象外)
   7歳      三人目   10,000円
=============================
  合計               10,000円
児童の年齢   順番   手当(月額)
  19歳      ―――        0円(18歳後の年度末を超えているので、順番に数えない)
  13歳      一人目        0円(13歳以上であるので、受給対象外)
   6歳      二人目    5,000円
   3歳      三人目   10,000円
=============================
  合計               15,000円

手当の支給

児童手当は、手当を受けようとする者が、自分の住む市区町村に請求することによって支給が開始される。児童が別の市区町村に居住していても良い。出生届や転入届といった住民票戸籍上の手続きだけでは支給されず、別に児童手当に関する手続きを行なう必要がある。また、公務員の場合、所属する官庁に請求する。

請求の結果、支給が決定されると、前述の方法によって計算された額が、毎年2月・6月・10月に4ヶ月分ずつまとめて支給される。支給は一般的には受給者が指定する金融機関の口座に振り込まれるが、市区町村によっては窓口において直接手渡す。また、児童の数が増減したときには届け出る必要があるほか、年に1回6月には児童の養育状況や前年の所得を確認するための現況届と呼ばれる届出をする必要があった。

手当の費用負担

児童手当の費用の負担については、国、都道府県、市区町村がそれぞれを負担するのが基本になっているが、詳細は児童の年齢や受給者の加入する年金の種類によって複雑に分かれている。ただし、支給はこれらを一括して市区町村(公務員の場合所属官庁)が行なうため、受給にあたって負担割合を意識する必要はない。

児童が3歳未満の場合

まず、3歳未満の児童の場合、受給者が厚生年金等に加入しているかどうかによって負担割合は変化する。

児童手当は児童の育成にかかる費用を社会全体で負担するという考え方から、政府は厚生年金等の対象となる事業所の事業主から、年金保険料にあわせて拠出金として費用の一部を徴収している。受給者が厚生年金等に加入している場合、受給者の児童手当の支給額のはこの拠出金から支払われるため、国、都道府県、市町村は残りをそれぞれを負担する。

受給者が厚生年金等に加入していない場合には、拠出金からの支出がないため基本のずつの負担割合となる。

さらに、受給者の所得が上記所得制限額の表の左列(国民年金加入者・年金未加入者など)の額より高く、右列(厚生年金等加入者)の額未満であるとき(このときの給付を「特例給付」と呼ぶ)は、手当は全額が拠出金から支給される。

児童が3歳以上の場合

児童が3歳以上の場合、手当は受給者の加入する年金や所得の額に関わりなく、全て国、都道府県、市区町村がそれぞれの負担割合となる。

受給者が公務員の場合

児童の年齢に関わりなく、児童手当を受給するのが公務員である場合、手当は全て所属する官庁が全額負担する。

児童手当の国負担金は三位一体の改革に伴う国から地方への税源移譲の対象として、2006年度予算からは国・都道府県・市区町村の負担割合を原則としてずつとすることで決着した。しかし、この決着後、児童手当の支給対象を拡大することが決定したため、地方六団体などでは負担増となる分を地方交付税で確実に確保するよう国に求めている。

2010年度・2011年度

2010年度、2011年度は子ども手当が支給されている。詳しくは子ども手当を参照。

2012年度以降

2012年度以降子ども手当は廃止され、2007年度から2009年度での児童手当を拡張させた手当で支給する予定である。

日本の児童手当制度の変遷

諸外国における児童手当制度の成立・発展の中、日本の社会保障制度を構築するにあたって年金健康保険と同様に児童手当制度を創設すべきであるという主張は昭和30年代からなされていた。政府は1961年6月に中央児童福祉審議会の特別部会として児童手当部会を発足させ、部会は他国の制度や日本の家庭の実態から児童手当制度の創設を検討し、1964年には中間報告を発表した。この中では「社会保険の制度として」「第1子から」「義務教育終了時までまたは18歳まで」「児童の最低生活費を維持するもの」としての児童手当制度が提言されていた。その後、厚生大臣の懇談会「児童手当懇談会」の報告(1968年)、厚生大臣の審議会「児童手当審議会」の中間答申(1970年)を経て、1971年に児童手当法が成立し、翌年1月1日(沖縄県は日本復帰した同年5月15日)から制度が開始されることになった。成立当初は3人以上の児童がいる場合に、3人目以降が5歳未満の場合に1人月額3,000円を支給する制度であった。

児童手当制度の主な改正

改正年月 対象年齢(下線は通称) 支給月額 備考
1972年 第3子以降 5歳未満 3,000円 年齢は段階的に引き上げを明示
1973年 第3子以降 10歳未満 3,000円
1974年 第3子以降 義務教育終了前 4,000円
1975年 5,000円
1978年 5,000円(6,000円) 支給月額のカッコ内は低所得者(市町村民税所得割非課税者)に対する特例
1979年 5,000円(6,500円)
1981年 5,000円(7,000円)
1986年 第2子 - 2歳未満 第3子以降 - 義務教育終了前 2,500円/5,000円 所得割非課税者の特例廃止。支給月額は 第2子/第3子以降
1987年 第2子 - 4歳未満 第3子以降 - 9歳未満
1988年 第2子以降 義務教育就学前
1991年 第1子 - 1歳未満 第2子以降 - 5歳未満 5,000円/10,000円 支給月額は 第1子・第2子/第3子以降
1992年 第1子 - 2歳未満 第2子以降 - 4歳未満
1993年 第1子以降 3歳未満
2000年 第1子以降 6歳まで(小学校就学前
2004年 第1子以降 9歳まで(小学校第3学年修了前
2006年 第1子以降 12歳まで(小学校修了前
2007年 3歳未満は第1・2子でも10,000円に
2010年 中学校修了まで 13,000円 子ども手当、所得制限なし
2012年 3歳未満、第3子以降の小学生まで
第1・2子の小学生まで、中学生
15,000円
10,000円
所得制限:960万円程度、民自公合意案

通称の部分は公的機関でも使われる用語だが、正しくない。前述の節を参照。

この変遷と同時に、手当を受けようとするものの所得制限の額も変遷している。制度発足当初からは平均所得の伸びに伴い、所得の限度額は上昇していったが、1982年の行政改革特例法により所得制限が強化され、限度額は引き下げられた。その後、物価上昇に伴って所得制限額は少しずつ上昇していき、2001年に大幅に引き上げられた。また、国の少子化対策として、支給対象者を全体のおよそ90%に引き上げるため、2006年4月から所得制限がさらに緩和され、2010年以降(子ども手当)は所得制限がなくなった。しかし、2012年から再び所得制限が発生する予定である。

日本の児童手当制度(2009年度以前)の問題点

所得制限を1円でも超えると児童手当はまったく支給されないため、所得制限を少し超えた人よりも所得が少なくても児童手当を加えると手取りの収入が多くなるという、所得制限の前後で収入の逆転現象が起こっている。さらに、後述の扶養控除を加味すれば、所得制限を少し超えた人よりも所得の多い人(所得税率が高くなる人)の方が恩恵が高く、所得制限を少し超えた人が一番恩恵にあずかれない制度になっている。

日本の児童手当制度は他国に比べ不十分であるという指摘が多くなされている。そのため、民主党は、支給対象児童を中学校終了までと公称し、児童の食費・被服費をまかなえる水準へと支給額を引き上げて月額26,000円とする「子ども手当」の創設を主張していた[2]

また、児童がいることに対する経済的支援としての扶養控除との関係の不明確さも指摘されている。児童手当と扶養控除とは、ともに家族がいる家庭に対して経済的に支援を行なうという点で目的が一致するが、児童手当は(所得制限を超える)高所得者に恩恵がなく、扶養控除は低所得者(非課税者など)では恩恵がなくなる。低所得者に対する支援の観点からは、扶養控除より児童手当を拡充すべきであるが、扶養控除および配偶者控除廃止による増税、さらには2009年度補正予算で廃案になった多くの支援予算や雇用・医療・介護などの緊急手当てなどの廃止、さらには国債の増発、地方へ負担を強いることに対しても反発も大きく、OECDは子ども手当よりも保育施設の充実などを行うべきだと指摘している。これらをどのように配分して児童を養育する家庭への支援を行なっていくかは、政府の少子化対策の一つの課題である。また、外国人への支給・外国に居住している日本人への不支給という問題点もある[要出典]

日本以外

アイルランド

アイルランドでは、16歳以下に支給され、full-time education であれば、19歳以下まで支給される。子どもの数によって、支給される額が以下のように変わる[3]

子どもの数 月額
1 €140
2 €280
3 €447
4 €624
5 €801
6 €978
7 €1,155
8 €1,332

フィンランド

フィンランドでは、フィンランド国内にいる17歳未満に支給される。さらに、一人親家庭の場合、子ども1人あたり46.79€が追加される。

子どもの数 月額
1 €100,40
2 €110,94
3 €141,56
4 €162,15
5以上 €182,73

ドイツ

ドイツでは18歳未満、失業者の場合は21歳未満、学生は27歳未満に支給される。支給月額は、第1子から第3子までは約2.3万円、第4子からは約2.7万円。所得の制限なし[4]

オーストラリア

オーストラリアでは、Baby Bonus という形で子どもが生まれた時に、$5,294支給される。

アメリカ

アメリカ合衆国では、確定申告の際にタックスクレジットとして子供一人あたり年間1000ドルが給付されており、これが事実上児童手当の代替となっている。

脚注

  1. ^ 「児童手当制度について」中央児童福祉審議会児童手当部会中間報告、1964年
  2. ^ [1][リンク切れ]
  3. ^ [2]
  4. ^ 2006年版『少子化社会白書』より

参考文献

  • 児童手当制度研究会『三訂 児童手当法の解説』中央法規出版、2004年(ISBN 4-8058-4557-0)
  • 児童手当制度研究会『児童手当法改正のすべて―児童手当法改正法逐条解説/新旧対照条文』中央法規出版、2000年(ISBN 4-8058-4276-8)

関連事項