「ストロマトライト」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
Luckas-bot (会話 | 投稿記録)
m r2.7.1) (ロボットによる 追加: et:Stromatoliit
1行目: 1行目:
[[ファイル:Stromatolites.jpg|right|250px|thumb|こぶのように見える先カンブリア紀のストロマトライトの化石。 Siyeh層中にあるものを撮影米国モンタナ州[[グレイシャー国立公園]]]]
[[ファイル:Stromatolites.jpg|right|thumb|250px|こぶのように見える先カンブリア紀のストロマトライトの化石。Siyeh層中にあるものを撮影米国モンタナ州[[グレイシャー国立公園]]]]
[[Image:CambrianStromatolites.jpg|thumb|250px]]
[[ファイル:CambrianStromatolites.jpg|thumb|250px|ストロマトライト([[カナダ]][[バンフ国立公園]])]]
'''ストロマトライト'''({{Lang-en-short|stromatolite}}<ref name="terms">{{Cite book|和書
'''ストロマトライト'''(Stromatolite)は、[[藍藻]]らんそうるい・シアノバクテリアとも)の死骸と[[泥]]粒などによって作られる[[層]]状の構造をもつ[[岩石]]のことである。特に、内部の断面が層状になっているものを指す。
|author = [[文部省]]編

|title = [[学術用語集]] 地学編
[[化石]]となったストロマトライトは世界各地で発見されるが、現生のものは[[オーストラリア]]・[[シャーク湾]](ハメリンプール)やセティス湖など、ごくわずかな水域のみで発見される。
|url = http://sciterm.nii.ac.jp/cgi-bin/reference.cgi
|year = 1984
|publisher = [[日本学術振興会]]
|isbn = 4-8181-8401-2
|page = 144
}}</ref>)は、[[藍藻]](シアノバクテリア)の死骸と[[泥]]粒などによって作られる[[層]]状の構造をもつ[[岩石]]のことである。特に、内部の断面が層状になっているものを指す。


== 概要 ==
== 概要 ==
ストロマトライトは藍藻類と堆積物が何層にも積み重なって形成される。
ストロマトライトは藍藻類と堆積物が何層にも積み重なって形成される。
#[[藍藻]]類が[[砂]]や[[]]の表面に定着し、日中に[[光合成]]を行う。
# 藍藻類が[[砂]]や泥の表面に定着し、日中に[[光合成]]を行う。
#夜間の休止期には泥などの堆積物を[[粘液]]で[[固定]]する。
# 夜間の休止期には泥などの[[堆積物]]を[[粘液]]で[[固定]]する。
#藍藻類は[[呼吸]]するために上部へ[[分裂]]し、翌日には再び光合成を始める。
# 藍藻類は[[呼吸]]するために上部へ[[分裂]]し、翌日には再び光合成を始める。
この繰り返しで、ストロマトライトは徐々に[[ドーム]]型に成長していく。成長速度は非常に遅く、1年に数mm程度しか成長しない。
この繰り返しで、ストロマトライトは徐々に[[ドーム]]型に成長していく。成長速度は非常に遅く、1年に数mm程度しか成長しない。なお、ストロマトライトの断面にある縞模様から、当時の一日の長さが推測できる


=== 分布 ===
== 分布 ==
[[ファイル:Stromatolites in Sharkbay.jpg|thumb|250px|オーストラリア・シャーク湾のストロマトライト]]
[[ファイル:Stromatolites in Sharkbay.jpg|thumb|250px|ストロマトライト(オーストラリア・シャーク湾]]
[[ファイル:Lake Thetis-Stromatolites-LaRuth.jpg|thumb|250px|ストロマトライト([[西オーストラリア州]]・セティス湖]]
藍藻類は原始的な細菌で、過酷な環境でも生息できる。ストロマトライトは海水域・淡水域の両方、地球上のあらゆるところにあった。また、最古のものは約35億年前といわれたが、これは今では否定されている。確かなストロマトライトでもっとも古いものは約27億年前のものである。
[[化石]]となったストロマトライトは世界各地で発見されるが、現生のものは[[オーストラリア]]・[[シャーク湾]](ハメリンプール)や{{仮リンク|セティス湖|en|Lake Thetis}}など、ごくわずかな水域のみで発見される。


藍藻類は原始的な[[細菌]]で、過酷な環境でも生息できる。ストロマトライトは、[[海水]]域・[[淡水]]域の両方、地球上のあらゆるところにあった。また、最古のものは約35億年前といわれたが、これは今では否定されている。確かなストロマトライトでもっとも古いものは約27億年前のものである。
[[先カンブリア時代]]には世界各地に存在し、地球に大量の[[酸素]]を提供したとされる。しかし先カンブリア時代末期(6億-8億年前)に、その数は大きく減少した。理由としては、ストロマトライトを餌にする生物が出現したためと考えられている。


ストロマトライトが現生する[[オーストラリア]][[シャーク湾]]や[[メキシコ]]のクアトロシエネガスは、[[砂漠]]に囲まれた閉鎖的な海域である。水の[[蒸発]]が激しく潮流が緩いため、外海の[[海水]]よりも[[塩分濃度]]が高い区域が存在し、その海岸部にストロマトライトが並んでいる。塩分濃度が高いため藍藻類の捕食者となる[[貝類]]や[[甲殻類]]のみならず、他の[[生物]]もほとんど生息できない。よってストロマトライトは現在まで残り、成長を続けている。
[[先カンブリア時代]]には世界各地に存在し、地球に大量の[[酸素]]を提供したとされる。しかし、先カンブリア時代末期(6億 - 8億年前)に、その数は大きく減少した。理由としては、ストロマトライトを餌にする生物が出現したためと考えられている。
ストロマトライトが現生するオーストラリアのシャーク湾や[[メキシコ]]の{{仮リンク|クアトロシエネガス|en|Cuatro Ciénegas}}は、[[砂漠]]に囲まれた閉鎖的な海域である。水の[[蒸発]]が激しく潮流が緩いため、外海の海水よりも[[塩分濃度]]が高い区域が存在し、その海岸部にストロマトライトが並んでいる。塩分濃度が高いため藍藻類の捕食者となる[[貝類]]や[[甲殻類]]のみならず、他の[[生物]]もほとんど生息できない。よってストロマトライトは現在まで残り、成長を続けている。


== 研究 ==
== 研究 ==
古くからこの岩石の存在は知られていたが、[[1883年]]に[[J. ホール]]がそれを「クリプトゾーン({{Lang|en|Cryptozoon}})」と名付けた。しかし当時は、これらが生物によりつくられたものかどうかは不明だった。その後、似たような構造は「[[エオゾーン]]」や「コレニア」と呼ばれた。
[[ファイル:Lake Thetis-Stromatolites-LaRuth.jpg|thumb|250px|[[西オーストラリア州]]・セティス湖(Lake Thetis)のストロマトライト]]


[[1908年]]には、[[E. カルコウスキー]] (Kalkowsky) が[[縞状炭酸塩岩]]を、[[ギリシア語]] {{Lang|el|stroma}} ({{Lang|en|bed cover}})と {{Lang|el|lith}} ({{Lang|en|rock}}) からストロマトライトと名付けた。[[19世紀]]後半から[[20世紀]]初頭にかけて、このような縞状の岩石が様々な呼び方で呼ばれたが、カルコウスキーはそれらをまとめてストロマトライトと呼ぶようにした。この頃、これらの岩石は藍藻類によって形成された化石だと言う学者も現れたが、ストロマトライトは淡水域・海水域の両方で形成されたとは考えられていなかった。
古くからこの岩石の存在は知られていたが、[[1883年]]にJ.ホールがそれを「クリプトゾーン」(Cryptozoon)と名付けた。しかし当時は、これらが生物によりつくられたものかどうかは不明だった。その後、似たような構造は「エオゾーン」や「コレニア」と呼ばれた。


[[1960年]]ごろになると、オーストラリア西海岸のシャーク湾で現生のストロマトライトが発見された。だがこの発見は、現生ストロマトライトと化石ストロマトライトを区分するかどうかということで、ストロマトライトについての定義をあいまいなものにした。その後、ストロマトライトについての研究は大きく前進し、多くの研究成果が出た。しかし、ストロマトライトについては未解明な部分もあり、今後それについての解釈が変わる可能性も否定できない。
[[1908年]]にはE.カルコウスキーが[[縞状炭酸塩岩]]を、ギリシア語のstroma(bed cover)とlith(rock)から'''ストロマトライト'''(Stromatolite)と名付けた。[[19世紀]]後半から[[20世紀]]初頭にかけて、このような縞状の岩石が様々な呼び方で呼ばれたが、カルコウスキーはそれらをまとめてストロマトライトと呼ぶようにした。この頃、これらの岩石は藍藻類によって形成された化石だと言う学者も現れたが、ストロマトライトは淡水域・海水域の両方で形成されたとは考えられていなかった。


== 脚注 ==
1960年ごろになると、オーストラリア西海岸のシャーク湾(ハメリンプール)で現生のストロマトライトが発見された。だがこの発見は、現生ストロマトライトと化石ストロマトライトを区分するかどうかということで、ストロマトライトについての定義をあいまいなものにした。その後、ストロマトライトについての研究は大きく前進し、多くの研究成果が出た。しかし、ストロマトライトについては未解明な部分もあり、今後それについての解釈が変わる可能性も否定できない。
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist}}


== 参考文献 ==
なお、ストロマトライトの断面にある縞模様から、当時の一日の長さが推測できる。
* {{Cite journal|和書
|author = 伊津野郡平
|year = 8
|month = 1995
|title = オーストラリアのハメリンプール湾における現生ストロマトライトの形態形成について
|journal = [[地質ニュース]]
|issue = 429
|pages = 41-54
|publisher = [[実業公報社]]
|issn = 0009-4854
|doi =
|url = http://www.gsj.jp/publications/pub/chishitsunews/news1995-08.html
|format = PDF
}}
* {{Cite journal|和書
|author = 平田大二
|year = 2000
|title = 展示シリーズ2 ストロマトライト―酸素大発生の謎を解く石―
|journal = 自然科学のとびら
|volume = 6
|issue = 2
|pages =
|publisher = [[神奈川県立生命の星・地球博物館]]
|issn = 1341-545X
|doi =
|url = http://nh.kanagawa-museum.jp/tobira/6-2/hirata.html
}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
{{Commons|Category:Stromatolites}}
{{Commonscat|Stromatolites}}
*[[地球]]
* [[古生物学]]
*[[古生物学]]
* [[地球史年表]]
* [[縞状鉄鉱床]]
*[[地球科学に関する記事の一覧]]
*[[オーストラリアの世界遺産]]
* [[藍藻]]
* [[オーストラリアの世界遺産]]

== 外部リンク ==
* {{Cite web
|author = トゥファオー製作所
|date =
|url = http://www.geol.sci.hiroshima-u.ac.jp/~geohist/kano/Carb/4/4_3.html
|title = 4.3.ストロマトライト
|work = 炭酸塩アトラス
|publisher = [[広島大学]]大学院理学研究科
|accessdate = 2012-04-16
}}


{{デフォルトソート:すとろまとらいと}}
{{デフォルトソート:すとろまとらいと}}

2012年4月16日 (月) 10:40時点における版

こぶのように見える先カンブリア紀のストロマトライトの化石。Siyeh層中にあるものを撮影(米国モンタナ州グレイシャー国立公園
ストロマトライト(カナダバンフ国立公園

ストロマトライト: stromatolite[1])は、藍藻(シアノバクテリア)類の死骸と粒などによって作られる状の構造をもつ岩石のことである。特に、内部の断面が層状になっているものを指す。

概要

ストロマトライトは藍藻類と堆積物が何層にも積み重なって形成される。

  1. 藍藻類がや泥の表面に定着し、日中に光合成を行う。
  2. 夜間の休止期には、泥などの堆積物粘液固定する。
  3. 藍藻類は呼吸するために上部へ分裂し、翌日には再び光合成を始める。

この繰り返しで、ストロマトライトは徐々にドーム型に成長していく。成長速度は非常に遅く、1年に数mm程度しか成長しない。なお、ストロマトライトの断面にある縞模様から、当時の一日の長さが推測できる。

分布

ストロマトライト(オーストラリア・シャーク湾)
ストロマトライト(西オーストラリア州・セティス湖)

化石となったストロマトライトは、世界各地で発見されるが、現生のものはオーストラリアシャーク湾(ハメリンプール)やセティス湖英語版など、ごくわずかな水域のみで発見される。

藍藻類は原始的な細菌で、過酷な環境でも生息できる。ストロマトライトは、海水域・淡水域の両方、地球上のあらゆるところにあった。また、最古のものは約35億年前といわれたが、これは今では否定されている。確かなストロマトライトでもっとも古いものは約27億年前のものである。

先カンブリア時代には世界各地に存在し、地球に大量の酸素を提供したとされる。しかし、先カンブリア時代末期(6億 - 8億年前)に、その数は大きく減少した。理由としては、ストロマトライトを餌にする生物が出現したためと考えられている。

ストロマトライトが現生するオーストラリアのシャーク湾やメキシコクアトロシエネガス英語版は、砂漠に囲まれた閉鎖的な海域である。水の蒸発が激しく、潮流が緩いため、外海の海水よりも塩分濃度が高い区域が存在し、その海岸部にストロマトライトが並んでいる。塩分濃度が高いため、藍藻類の捕食者となる貝類甲殻類のみならず、他の生物もほとんど生息できない。よって、ストロマトライトは現在まで残り、成長を続けている。

研究

古くからこの岩石の存在は知られていたが、1883年J. ホールがそれを「クリプトゾーン(Cryptozoon)」と名付けた。しかし当時は、これらが生物によりつくられたものかどうかは不明だった。その後、似たような構造は「エオゾーン」や「コレニア」と呼ばれた。

1908年には、E. カルコウスキー (Kalkowsky) が縞状炭酸塩岩を、ギリシア語stroma (bed cover)と lith (rock) から「ストロマトライト」と名付けた。19世紀後半から20世紀初頭にかけて、このような縞状の岩石が様々な呼び方で呼ばれたが、カルコウスキーはそれらをまとめてストロマトライトと呼ぶようにした。この頃、これらの岩石は藍藻類によって形成された化石だと言う学者も現れたが、ストロマトライトは淡水域・海水域の両方で形成されたとは考えられていなかった。

1960年ごろになると、オーストラリア西海岸のシャーク湾で、現生のストロマトライトが発見された。だがこの発見は、現生ストロマトライトと化石ストロマトライトを区分するかどうかということで、ストロマトライトについての定義をあいまいなものにした。その後、ストロマトライトについての研究は大きく前進し、多くの研究成果が出た。しかし、ストロマトライトについては未解明な部分もあり、今後それについての解釈が変わる可能性も否定できない。

脚注

  1. ^ 文部省編『学術用語集 地学編』日本学術振興会、1984年、144頁。ISBN 4-8181-8401-2http://sciterm.nii.ac.jp/cgi-bin/reference.cgi 

参考文献

関連項目

外部リンク