「遷移双極子モーメント」の版間の差分
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一般に遷移双極子モーメントは、2つの状態の位相因子を含む[[複素数|複素]][[ベクトル]]量である。 |
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遷移双極子モーメントの向きは、どのように系が与えられた偏光の電磁波と相互作用するかを決める、遷移の分極を与える。 |
遷移双極子モーメントの向きは、どのように系が与えられた偏光の電磁波と相互作用するかを決める、遷移の分極を与える。 |
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遷移双極子モーメントの大きさの二乗は、系の電荷分布による相互作用の強さを与える。 |
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遷移双極子モーメントの単位は、[[SI単位系]]では[[クーロン]]-[[メートル]] (Cm)であるが、[[デバイ]](D)を用いた方が簡単な形になる。 |
遷移双極子モーメントの単位は、[[SI単位系]]では[[クーロン]]-[[メートル]] (Cm) であるが、[[デバイ]] (D) を用いた方が簡単な形になる。 |
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== 定義 == |
== 定義 == |
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遷移<math>\scriptstyle{m\, \rightarrow\, n} \ </math>についての''' |
遷移 <math>\scriptstyle{m\, \rightarrow\, n} \ </math> についての'''(電気)双極子モーメント演算子'''は、各電子の電気双極子モーメントの総和で表せる。 |
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遷移双極子モーメントは、双極子モーメント演算子を[[状態ベクトル]](一般に始状態の[[エネルギー固有状態]])を用いて[[行列表示]]したものの非対角要素である。位置表示の[[波動関数]]で表すと、始状態と終状態の波動関数で <math>\mathbf{\hat{d}}</math> をはさみ、それを全位置(または始状態と終状態の波動関数が無視できないような領域)について積分したものである。 |
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量子的な遷移双極子モーメントの現象論的な理解は、古典的な双極子との類似点から得られる。 |
量子的な遷移双極子モーメントの現象論的な理解は、古典的な双極子との類似点から得られる。この比較は便利だが、2つは全くの別物であるので注意が必要である。 |
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原子や分子が振動数<math>\scriptstyle{\omega}</math>の電磁波と相互作用する場合、電磁場と遷移双極子モーメントの相互作用によって、始状態からエネルギー差が<math>\scriptstyle{\hbar\omega}</math>である終状態への遷移が起こる。 |
原子や分子が振動数 <math>\scriptstyle{\omega}</math> の電磁波と相互作用する場合、電磁場と遷移双極子モーメントの相互作用によって、始状態からエネルギー差が <math>\scriptstyle{\hbar\omega}</math> である終状態への遷移が起こる。これが低エネルギー状態から高エネルギー状態への遷移の場合、[[フォトン]]の[[吸光|吸収]]が起こる。高エネルギー状態から低エネルギー状態への遷移の場合、フォトンの[[発光スペクトル|放出]]が起こる。この計算の電気双極子演算子から電荷 <math>\scriptstyle{e}</math> が省略された場合、[[振動子強度]]として用いられる <math>\scriptstyle{\mathbf{R}_\alpha}</math> が得られる。 |
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これが低エネルギー状態から高エネルギー状態への遷移の場合、[[フォトン]]の[[吸光|吸収]]が起こる。 |
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高エネルギー状態から低エネルギー状態への遷移の場合、フォトンの[[発光スペクトル|放出]]が起こる。 |
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この計算の電気双極子演算子から電荷<math>\scriptstyle{e}</math>が省略された場合、[[振動子強度]]として用いられる<math>\scriptstyle{\mathbf{R}_\alpha}</math>が得られる。 |
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== 応用== |
== 応用== |
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遷移双極子モーメントは、電気双極子相互作用による遷移が許容であるかどうかを決定する場合に有用である。 |
遷移双極子モーメントは、電気双極子相互作用による遷移が許容であるかどうかを決定する場合に有用である。 |
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双極子演算子<math>\mathbf{\hat{d}} </math>は<math>\mathbf{r} \ </math>についての奇関数である。よって、<math>\Psi^*_n \ </math>と<math>\Psi_m \ </math>は、片方が奇関数でもう一方が偶関数ならば、<math>\Psi^*_n \,\, \mathbf{\hat{d}} \,\, \Psi_m</math>全体は偶関数になる。よって積分して得られる遷移双極子モーメントがゼロではなくなるので許容である。 |
双極子演算子 <math>\mathbf{\hat{d}} </math>は<math>\mathbf{r} \ </math> についての奇関数である。よって、<math>\Psi^*_n \ </math> と <math>\Psi_m \ </math> は、片方が奇関数でもう一方が偶関数ならば、<math>\Psi^*_n \,\, \mathbf{\hat{d}} \,\, \Psi_m</math> 全体は偶関数になる。よって積分して得られる遷移双極子モーメントがゼロではなくなるので許容である。 |
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例えば、結合性<math>\scriptstyle{\pi} \ </math>軌道から反結合性<math>\scriptstyle{\pi^*} \ </math>軌道への遷移は、遷移双極子モーメントがゼロでないので許容である。 |
例えば、結合性 <math>\scriptstyle{\pi} \ </math> 軌道から反結合性 <math>\scriptstyle{\pi^*} \ </math> 軌道への遷移は、遷移双極子モーメントがゼロでないので許容である。 |
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これは電気双極子遷移における[[パリティ]][[選択律]]を反映している。 |
これは電気双極子遷移における[[パリティ]][[選択律]]を反映している。 |
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|date = 1997 |
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2012年2月28日 (火) 13:32時点における版
遷移双極子モーメント(せんいそうきょくしモーメント)あるいは遷移モーメント(せんいモーメント、英: transition moment[1])は、始状態 と終状態 の間の遷移に関わる電気双極子モーメントであり、通常は と表記される。
概要
一般に遷移双極子モーメントは、2つの状態の位相因子を含む複素ベクトル量である。
遷移双極子モーメントの向きは、どのように系が与えられた偏光の電磁波と相互作用するかを決める、遷移の分極を与える。
遷移双極子モーメントの大きさの二乗は、系の電荷分布による相互作用の強さを与える。
遷移双極子モーメントの単位は、SI単位系ではクーロン-メートル (Cm) であるが、デバイ (D) を用いた方が簡単な形になる。
定義
遷移 についての(電気)双極子モーメント演算子は、各電子の電気双極子モーメントの総和で表せる。
遷移双極子モーメントは、双極子モーメント演算子を状態ベクトル(一般に始状態のエネルギー固有状態)を用いて行列表示したものの非対角要素である。位置表示の波動関数で表すと、始状態と終状態の波動関数で をはさみ、それを全位置(または始状態と終状態の波動関数が無視できないような領域)について積分したものである。
古典的な双極子との類似点
量子的な遷移双極子モーメントの現象論的な理解は、古典的な双極子との類似点から得られる。この比較は便利だが、2つは全くの別物であるので注意が必要である。
古典的な双極子
2つの古典的な点電荷 と の場合、負電荷から正電荷への変異ベクトル を用いて、電気双極子モーメントは以下のように書ける。
- .
電場が存在すると、電磁波により2つの電荷は逆の方向に力を受けて双極子における正味のトルクが生じる。トルクの大きさは、2つの電荷の大きさと距離に比例し、電場と双極子の角度によって変化する。
- .
量子的な遷移双極子
電磁波と遷移双極子モーメント の相互作用は、電荷分布、電場の強さ、電場と遷移モーメントの相対分極に依存する。さらに、遷移双極子モーメントは始状態と終状態の幾何学構造や相対的な位相にも依存する。
遷移
原子や分子が振動数 の電磁波と相互作用する場合、電磁場と遷移双極子モーメントの相互作用によって、始状態からエネルギー差が である終状態への遷移が起こる。これが低エネルギー状態から高エネルギー状態への遷移の場合、フォトンの吸収が起こる。高エネルギー状態から低エネルギー状態への遷移の場合、フォトンの放出が起こる。この計算の電気双極子演算子から電荷 が省略された場合、振動子強度として用いられる が得られる。
応用
遷移双極子モーメントは、電気双極子相互作用による遷移が許容であるかどうかを決定する場合に有用である。
双極子演算子 は についての奇関数である。よって、 と は、片方が奇関数でもう一方が偶関数ならば、 全体は偶関数になる。よって積分して得られる遷移双極子モーメントがゼロではなくなるので許容である。
例えば、結合性 軌道から反結合性 軌道への遷移は、遷移双極子モーメントがゼロでないので許容である。
脚注
関連項目
外部リンク
- “IUPAC compendium of Chemical Terminology” (PDF) (英語). IUPAC (1997年). 2007年1月15日閲覧。