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「原子力発電」の版間の差分

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'''原子力発電'''(げんしりょくはつでん)とは、[[原子核反応]]時に出る[[エネルギー]]を利用した[[発電]]。ここでは地上の核分裂を利用した主に商業用の原子力発電について説明する。
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'''原子力発電'''(げんしりょくはつでん)とは、[[原子核反応]]時に出る[[エネルギー]]を利用した[[発電]]。ここでは地上の核分裂を利用した原子力発電について説明する。


*原子力発電の[[施設]]に関しては'''[[原子力発電所]]'''を参照
*原子力発電の[[施設]]に関しては'''[[原子力発電所]]'''を参照
*核反応を起こさせる装置については'''[[原子炉]]'''または'''[[核融合炉]]'''を参照
*核分裂反応を安全に維持する装置については'''[[原子炉]]'''を参照
*核融合炉に関しては[[原子核融合]]・[[トカマク型]]・[[ヘリカル型]]・[[レーザー核融合]]・[[常温核融合]]を参照
*核融合炉に関しては'''[[核融合炉]]'''・'''[[原子核融合]]''''''[[トカマク型]]''''''[[ヘリカル型]]''''''[[レーザー核融合]]'''を参照
*宇宙で核反応を使った発電については[[原子力電池]]を参照
*軍用推進機関としての原子炉については'''[[原子力空母]]'''、'''[[原子力潜水艦]]'''、'''[[原子力]]'''を参照
*宇宙での核反応を使った発電については'''[[原子力電池]]'''を参照


==概要==
==概要==
[[原子力]]とは原子核反応により得られるエネルギー(核エネルギー)のこと。核反応には[[核分裂反応]]と[[核融合]]反応の二種類の反応があるが、発電技術として実用化されているのは核分裂反応だけなので、単に「原子力発電」と言う場合には核分裂反応のエネルギーを用いた発電方法を指す。
[[原子力]]とは原子核反応により得られるエネルギー(核エネルギー)のこと。核反応には[[核分裂反応]]と[[核融合]]反応の二種類の反応があるが、発電技術として実用化されているのは核分裂反応だけなので、単に「原子力発電」と言う場合には核分裂反応のエネルギーを用いた発電方法を指す。


地上に設置された[[原子力発電所]]の場合、放射性物質の核分裂反応で発生する熱を使って水を沸騰させ、蒸気タービンを回すことで発電機を回して発電する。効率よく発電するためには、この沸騰した水を冷やして再び液体に戻す冷却塔という建物を必要とするが、日本や世界の多くの原子力発電所では冷却水として利用するために海や川のそばに建設することで冷却塔を省いている。火力発電所は石油や石炭、液化天然ガスといった[[化石燃料]]を燃やして熱を作り出し、原子力発電所では核分裂反応によって熱を発生させているが、発生した蒸気でタービンを回し発電機で発電するという点では、両者は似た仕組みといえる。
地上に設置された[[原子力発電所]]の場合、放射性物質の核分裂反応で発生する熱を使って水を沸騰させ、蒸気タービンを回すことで発電機を回して発電する。効率よく発電するためには、この沸騰した水を冷やして再び液体に戻す[[冷却塔]]という建物を必要とするが、日本や世界の多くの原子力発電所では冷却水として利用するために海や川のそばに建設することで冷却塔を省いている。火力発電所は石油や石炭、液化天然ガスといった[[化石燃料]]を燃やして熱を作り出し、原子力発電所では核分裂反応によって熱を発生させているが、発生した蒸気でタービンを回し発電機で発電するという点では、両者は似た仕組みといえる。



==詳細==
==世界のエネルギー消費==
===放射能の問題===
[[Image:アメリカエネルギー省のEIAによる世界の燃料別エネルギー消費量の推移グラフ1980年-2030年(Annual2004).JPG|thumb|350px|right]]
[[Image:Nuclear power stations.png|thumb|350px|right|原子力発電の世界での現状:濃い緑色は原子炉をすでに持つ国。明るい青緑色は新たに持つ国。濃い黄色は追加で持つことを検討している国。薄い黄色は初めて持つことを検討している国。青は建設を中止したか廃炉した国。明るい青は廃炉をした国。赤はすべての商業用原子炉を廃炉した国。]]

2004年の実績では、原子力発電によって世界中のエネルギーの3.5%、世界中の電力の15.7%が供給されており、米国、日本、フランスで世界中の原子力による電力の57%が発電されている。。<ref name="iea_pdf">Cite web|url=http://www.iea.org/dbtw-wpd/Textbase/nppdf/free/2006/key2006.pdf|title=Key World Energy Statistics|accessdate=2006-11-08|publisher=International Energy Agency|year=2006|format=PDF}}</ref>

2007年には、[[IAEA]]は世界中で435基の原子力動力炉が31ヶ国で運転されている<ref name="UIC">{{cite web|url=http://www.uic.com.au/reactors.htm|title=World NUCLEAR POWER REACTORS 2005-06, 15/08/2006, Australian Uranium Information Centre}}</ref>と報告している。<ref>[http://www.iaea.org/cgi-bin/db.page.pl/pris.oprconst.htm NUCLEAR POWER PLANTS INFORMATION], by [[IAEA]], 15/06/2005</ref>
<ref name="UIC">{{cite web|url=http://www.uic.com.au/reactors.htm|title=World NUCLEAR POWER REACTORS 2005-06, 15/08/2006, Australian Uranium Information Centre}}</ref>

米国は最も多くのエネルギーを原子力によって生産しており、原子力発電によって総電力の20%をまかなっている。フランスにいたっては、2006年の実績では80%もの電気エネルギーを原子炉から得ている。<ref name="eia_s.1766">{{Cite web|url=http://www.eia.doe.gov/oiaf/servicerpt/erd/nuclear.html|title=Impacts of Energy Research and Development With Analysis of Price-Anderson Act and Hydroelectric Relicensing|accessdate=2006-11-08|publisher=Energy Information Administration|year=2004|work=Nuclear Energy (Subtitle D, Section 1241)}}</ref><ref name="npr20060501">{{Cite web|url=http://www.npr.org/templates/story/story.php?storyId=5369610|title=France Presses Ahead with Nuclear Power|accessdate=2006-11-08|publisher=NPR|year=2006|author=Eleanor Beardsley}}</ref>
[[EU]]全体では、電力の30%を核エネルギーから得ている。
<ref>{{Cite web|url=http://epp.eurostat.ec.europa.eu/portal/page?_pageid=1996,39140985&_dad=portal&_schema=PORTAL&screen=detailref&language=en&product=sdi_cc&root=sdi_cc/sdi_cc/sdi_cc_ene/sdi_cc2300|title=Gross electricity generation, by fuel used in power-stations|accesdate=2007-02-03|publisher=Eurostat|year=2006}}</ref>

原子力政策はEU加盟の各国によって違いがあるが、いくつかのEU加盟国やオーストラリア、アイルランドなどの国では稼動中の原子力発電所は存在しない。反対にフランスでは59基もの原発が稼動しており、火力を含めた総発電量の18%をイタリア、イギリス、ドイツに輸出してる。<ref>{{Cite news
| last = EnerPub
| title = France: Energy profile
| work = Spero News
| accessdate = 2007-08-25
| date = 2007-06-08
| url = http://www.speroforum.com/site/article.asp?idarticle=9839&t=France%3A+Energy+profile
}}</ref><ref name="WNA">{{Cite web
| author = World Nuclear Association
| title = Nuclear Power in France
| accessdate = 2007-08-25
| year = 2007
| month = August
| url = http://www.world-nuclear.org/info/inf40.htm
}} ([http://www.uic.com.au/nip28.htm alternate copy])</ref>
多くの[[軍隊]]や[[砕氷船]]のような民間が[[原子力船]]において[[原子力推進]]を利用している。

国際的な研究が、本質的にな安全な原子力発電プラント([[w:en:Passive nuclear safety]])や[[核融合炉]]の開発、高温電気分解(High-temperature electrolysis、HTE または steam electrolysis)によって海水淡水化や地域の暖房の供給、などにおいて進められている。

[[w:en:Nuclear power by country|国別の原子力発電(英語)]]と[[w:en:List of nuclear reactors|原子炉のリスト(英語)]]を参照


==放射能の問題==
原子核反応を発電に利用する場合、原子力発電所の稼動中に常に発生する[[放射線]]や、運転後に随時発生する大量の[[放射性廃棄物]]への対処が問題となる。
原子核反応を発電に利用する場合、原子力発電所の稼動中に常に発生する[[放射線]]や、運転後に随時発生する大量の[[放射性廃棄物]]への対処が問題となる。


放射線とは放射能を持つ物質が放つ[[アルファ線]]・[[ベータ線]]・[[ガンマ線]]・[[中性子線]]のことだが、アルファ線・ベータ線に比べてコントロールの難しいガンマ線が、発電施設で働く作業者の健康にとって有害となる可能性がある([[放射能障害]])。原子力発電所を建てた時点では、炉心にある核燃料以外には放射能は持たないが、発電運転を行うことやただ核燃料を保持しているだけでも周囲の物質に放射線を通じてや直接放射性物質が移動・拡散することで、放射能が広がってゆく。放射性物質はそこにあるだけで、勝手に周りに放射線を放ち、放射線を受けた物質もまた弱いながらも徐除に放射能を帯びてゆく点で管理が難しい。
放射線とは放射能を持つ物質が放つ[[アルファ線]]・[[ベータ線]]・[[ガンマ線]]・[[中性子線]]のことだが、アルファ線・ベータ線に比べてコントロールの難しいガンマ線が、発電施設で働く作業者の健康にとって有害となる可能性がある(放射能障害)。原子力発電所を建てた時点では、炉心にある核燃料以外には放射能は持たないが、発電運転を行うことやただ核燃料を保持しているだけでも周囲の物質に放射線を通じてや直接放射性物質が移動・拡散することで、放射能が広がってゆく。放射性物質はそこにあるだけで、勝手に周りに放射線を放ち、放射線を受けた物質もまた弱いながらも徐除に放射能を帯びてゆく点で管理が難しい。


なお、原子力発電所内の作業者のリスクとしては、放射線[[被曝]]の危険だけではなく、その膨大な[[熱量]]も危険である。過去の原子力事故では被曝による生命の危機以前に熱死や焼死したケースも少なくない。
なお、原子力発電所内の作業者のリスクとしては、放射線[[被曝]]の危険だけではなく、その膨大な[[熱量]]も危険である。過去の原子力事故では被曝による生命の危機以前に熱死や焼死したケースも少なくない。
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また、原子炉の老朽化などにより原子炉の使用を終える時、それ自体が放射性廃棄物となる。'''原子炉の解体処分は困難な問題'''であり、解体出来ても出来なくても長期にわたり'''電力を生まなくなった原子炉'''を維持管理しなければいけないが、今後半永久的に発生する廃炉や放射性廃棄物の永続的な維持管理コストについて信頼できる費用見積もりがなく、'''我々の子孫にそれらコストを付け回しているという点でも問題'''を抱えている。
また、原子炉の老朽化などにより原子炉の使用を終える時、それ自体が放射性廃棄物となる。'''原子炉の解体処分は困難な問題'''であり、解体出来ても出来なくても長期にわたり'''電力を生まなくなった原子炉'''を維持管理しなければいけないが、今後半永久的に発生する廃炉や放射性廃棄物の永続的な維持管理コストについて信頼できる費用見積もりがなく、'''我々の子孫にそれらコストを付け回しているという点でも問題'''を抱えている。


原子力発電所の解体に必要な費用については、[[総合エネルギー調査会原子力部会]]の平成9年の原子力安全委員会月報によると、原子力発電所の解体により発生する廃棄物は、110万kW級原子力発電施設で約50万トン〜55万トン程度、このうち放射性廃棄物として適切に処理処分する必要がある廃棄物は1万トン前後のすべて低レベルの放射性廃棄物(総廃棄物の3%以下)とし、コンクリートや鋼材など残りの97%以上(約49〜53万トン)は放射性廃棄物として扱う必要のない一般[[産業廃棄物]]として処分可能な廃棄物と想定[[http://www.enecho.meti.go.jp/e-ene/handbook/07_syobun/7302_hai-syobun_a.html]]し、国内原子炉についてはそれら試算に基づいて廃炉費用の積み立てを1987年3月より「原子力発電施設解体引当金」として行っているが、[[電気事業連合会]]は、国内55基の原子力発電所の解体費用が、これまでの想定より、原子炉解体により、コンクリートや金属片などの放射性廃棄物が大量に発生するなどの理由で、想定してきた約2兆6000億円から約2兆9000億円に膨らむとの試算を2007年2月8日に経済産業省に示している。なお、すでに廃止措置が決まり、現在解体作業が進行している米国初期の原子炉であるメーンヤンキー原発では、'''コンクリートや原子炉構造物など廃棄物の半分が放射能を帯びている[[http://www.nikkei-bookdirect.com/science/page/magazine/0306/reactor.html?PHPSESSID=d0c287eacbf7755d36a5ff1785a249de]]'''結果となっていおり、2010年頃から徐々に本格化する、国内原子炉の原子炉老朽化による廃炉に伴う費用の想定値がそもそも正しい試算に基づいて計算が行われているか疑わしい結果となっており、今後さらに膨らむものと想定される。
原子力発電所の解体に必要な費用については、総合エネルギー調査会原子力部会の平成9年の原子力安全委員会月報によると、原子力発電所の解体により発生する廃棄物は、110万kW級原子力発電施設で約50万トン〜55万トン程度、このうち放射性廃棄物として適切に処理処分する必要がある廃棄物は1万トン前後のすべて低レベルの放射性廃棄物(総廃棄物の3%以下)とし、コンクリートや鋼材など残りの97%以上(約49〜53万トン)は放射性廃棄物として扱う必要のない一般[[産業廃棄物]]として処分可能な廃棄物と想定[[http://www.enecho.meti.go.jp/e-ene/handbook/07_syobun/7302_hai-syobun_a.html]]し、国内原子炉についてはそれら試算に基づいて廃炉費用の積み立てを1987年3月より「原子力発電施設解体引当金」として行っているが、[[電気事業連合会]]は、国内55基の原子力発電所の解体費用が、これまでの想定より、原子炉解体により、コンクリートや金属片などの放射性廃棄物が大量に発生するなどの理由で、想定してきた約2兆6000億円から約2兆9000億円に膨らむとの試算を2007年2月8日に経済産業省に示している。なお、すでに廃止措置が決まり、現在解体作業が進行している米国初期の原子炉であるメーンヤンキー原発では、'''コンクリートや原子炉構造物など廃棄物の半分が放射能を帯びている[[http://www.nikkei-bookdirect.com/science/page/magazine/0306/reactor.html?PHPSESSID=d0c287eacbf7755d36a5ff1785a249de]]'''結果となっていおり、2010年頃から徐々に本格化する、国内原子炉の原子炉老朽化による廃炉に伴う費用の想定値がそもそも正しい試算に基づいて計算が行われているか疑わしい結果となっており、今後さらに膨らむものと想定される。


原子力発電所そのものを建てることも問題となる。現在の原子力に関する技術レベルでは核燃料棒の被覆からはじまって炉心、圧力容器、格納容器、建屋という何重もの壁を設けることで最低限の安全性を確保しているが、一度大きな事故が起きれば周辺への影響が計り知れないだけに、多くの周辺住民を中心にして[[原子力事故]]への危惧の声が今も絶えない。実際にチェルノブイリ原子力発電所やスリーマイル島原子力発電所の重大な原子力事故の例や、日本についていえば、日本国内で続発する小さな事故やミス、隠蔽工作などがあるので、行政や電力会社の言うことを鵜呑みに出来ず、まだまだ安全神話といったレベルには程遠いのが現状である。
原子力発電所そのものを建てることも問題となる。現在の原子力に関する技術レベルでは核燃料棒の被覆からはじまって炉心、圧力容器、格納容器、建屋という何重もの壁を設けることで最低限の安全性を確保しているが、一度大きな事故が起きれば周辺への影響が計り知れないだけに、多くの周辺住民を中心にして[[原子力事故]]への危惧の声が今も絶えない。実際にチェルノブイリ原子力発電所やスリーマイル島原子力発電所の重大な原子力事故の例や、日本についていえば、日本国内で続発する小さな事故やミス、隠蔽工作などがあるので、行政や電力会社の言うことを鵜呑みに出来ず、まだまだ安全神話といったレベルには程遠いのが現状である。


===核分裂と原子炉===
==核分裂と原子炉==
原子力発電における核分裂反応とは、たとえば天然のウラニウムが半減期にもとづくスピードで自然に自己崩壊する自発核分裂とは別に、人為的に起こす核分裂反応を指す。以下に人為的な核分裂反応について説明する。
原子力発電における核分裂反応とは、たとえば天然のウラニウムが半減期にもとづくスピードで自然に自己崩壊する自発核分裂とは別に、人為的に起こす核分裂反応を指す。以下に人為的な核分裂反応について説明する。


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実際には、分裂によって生まれる中性子はあまりに高速度なので次のウラニウム235の原子核では捕まえられずに反応は起きない。核分裂反応を進めるために多くの原子炉では水を使って、水の原子核と相互作用させて高速中性子の飛行の邪魔をさせることでスピ-ドを落とさせる。このとき水分子は弾かれることで運動エネルギーをもらい温度が上がる。何度もぶつかった中性子は遅くなりやがて次のウラニウム235の原子核に吸収される。
実際には、分裂によって生まれる中性子はあまりに高速度なので次のウラニウム235の原子核では捕まえられずに反応は起きない。核分裂反応を進めるために多くの原子炉では水を使って、水の原子核と相互作用させて高速中性子の飛行の邪魔をさせることでスピ-ドを落とさせる。このとき水分子は弾かれることで運動エネルギーをもらい温度が上がる。何度もぶつかった中性子は遅くなりやがて次のウラニウム235の原子核に吸収される。


これまでの説明は、ただ一つの核分裂反応であるが、一定量の核燃料に遅い中性子を当てて核分裂反応を起こすと、この反応で生じた複数の中性子がやがて次の核分裂反応を引き起こす。多くの中性子が核燃料とは違った方向へ飛び出すが、いくつかは必ず核燃料内部で次の核分裂反応に使われる。核燃料が一定以上だけあれば([[臨界量]])外へ飛び出すより核燃料内部で反応する割合が高くなり、この反応が連鎖的に続いて外から中性子を供給しなくても核分裂反応が続く状態となる。これが[[臨界状態]]である。
これまでの説明は、ただ一つの核分裂反応であるが、一定量の核燃料に遅い中性子を当てて核分裂反応を起こすと、この反応で生じた複数の中性子がやがて次の核分裂反応を引き起こす。多くの中性子が核燃料とは違った方向へ飛び出すが、いくつかは必ず核燃料内部で次の核分裂反応に使われる。核燃料が一定以上だけあれば(臨界量)外へ飛び出すより核燃料内部で反応する割合が高くなり、この反応が連鎖的に続いて外から中性子を供給しなくても核分裂反応が続く状態となる。これが[[臨界状態]]である。


臨界状態は、核分裂反応が連鎖している状態であるが、仮にこの連鎖が異常に高い効率で核分裂反応が進む
臨界状態は、核分裂反応が連鎖している状態であるが、仮にこの連鎖が異常に高い効率で核分裂反応が進む
とすぐに核燃料内部が中性子であふれ、出来るだけ速やかにすべてのウラニウム235の原子核を核分裂される方向へと働いてしまう。制御を超えて一度に進む核分裂反応は、エネルギーの発生も一度に起こり、発生する高熱と強力な放射線があたりに放たれてしまう。これが核爆発である。もちろん現在の発電用原子炉で核爆発が起きることは全く無く、起こりえる最悪の可能性としては進みすぎた核分裂反応による高温のために炉心が溶け落ちる炉心融解である。炉心融解を避けるために、核燃料の精製度や量、形、配置、反射材、制御棒の高さ、水の圧力、ホウ酸の量、可燃性毒物の量などの調整により制御された範囲内で核分裂反応が進むようにしている。また、多少の調整のブレがあってもすぐには制御を離れないように、最初から炉心での反応そのものが簡単には進まないように設計している(負の反応度)。
とすぐに核燃料内部が中性子であふれ、出来るだけ速やかにすべてのウラニウム235の原子核を核分裂される方向へと働いてしまう。制御を超えて一度に進む核分裂反応は、エネルギーの発生も一度に起こり、発生する高熱と強力な放射線があたりに放たれてしまう。これが核爆発である。もちろん現在の発電用原子炉で核爆発が起きることは全く無く、起こりえる最悪の可能性としては進みすぎた核分裂反応による高温のために炉心が溶け落ちる炉心融解である。炉心融解を避けるために、核燃料の精製度や量、形、配置、反射材、制御棒の高さ、水の圧力、ホウ酸の量、可燃性毒物の量などの調整により制御された範囲内で核分裂反応が進むようにしている。また、多少の調整のブレがあってもすぐには制御を離れないように、最初から炉心での反応そのものが簡単には進まないように設計している(負の反応度)。


===原子力発電の歴史===
==原子力発電の歴史==
1951年、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]の[[高速増殖炉]]EBR-1で行われたものが史上初の原子力発電とされる。[[日本]]に初めて導入された商用発電炉は世界最初に実用化された[[イギリス|英国]]製の[[マグノックス炉|ガス冷却炉]]であった。
1951年、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]の[[高速増殖炉]]EBR-1で行われたものが史上初の原子力発電とされる。[[日本]]に初めて導入された商用発電炉は世界最初に実用化された[[イギリス|英国]]製の[[マグノックス炉|ガス冷却炉]]であった。


===原子力発電の現状===
==日本での原子力発電産業の現状==
現在の日本では経済性や安全性から[[軽水炉]]の2つのタイプ、[[沸騰水型原子炉]](BWR)と[[加圧水型原子炉]](PWR)が使われている。
現在の日本では経済性や安全性から[[軽水炉]]の2つのタイプ、[[沸騰水型原子炉]](BWR)と[[加圧水型原子炉]](PWR)が使われている。


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[[2004年]]現在、[[日本]]における定格最大出力電力の約30%、電力量の約50%を担っている。一次エネルギーとしての原子力エネルギーは電力事業のみであり、日本での一次エネルギーに対する割合は15%程度となっている。原子力エネルギーにおいて、世界で最も高いウェートを示している国は[[フランス]]であり、国の一次エネルギーとしては40%、発電電力量としては75%を超えている。このように、原子力エネルギーが高い割合を占める国では、原子力発電は発電出力の変更を行わないか極めて遅いため、調整力として[[揚水発電]]や電力輸出入を活用している事が多い。フランスの場合でも、[[ヨーロッパ]]に張り巡らされた送電網、特に隣国[[ドイツ]]との電力輸出入が活用されている。
[[2004年]]現在、[[日本]]における定格最大出力電力の約30%、電力量の約50%を担っている。一次エネルギーとしての原子力エネルギーは電力事業のみであり、日本での一次エネルギーに対する割合は15%程度となっている。原子力エネルギーにおいて、世界で最も高いウェートを示している国は[[フランス]]であり、国の一次エネルギーとしては40%、発電電力量としては75%を超えている。このように、原子力エネルギーが高い割合を占める国では、原子力発電は発電出力の変更を行わないか極めて遅いため、調整力として[[揚水発電]]や電力輸出入を活用している事が多い。フランスの場合でも、[[ヨーロッパ]]に張り巡らされた送電網、特に隣国[[ドイツ]]との電力輸出入が活用されている。

==日本での賛否==
日本では、[[広島市|広島]]・[[長崎市|長崎]]への[[原子爆弾]]投下や、[[第五福竜丸]]の[[米軍]]の[[水素爆弾]]実験で発生した[[放射性降下物]](いわゆる「死の灰」)被曝の被害を受けたこともあり、[[放射能]]や[[放射線]]に対して嫌悪感を抱く人は多く、建設時には地域住民の反対運動が頻発する。一方で、原子力[[発電所]]ができると、地元には一定の[[雇用]]が期待できるほか、電源立地地域対策交付金などの電源三法交付金、[[固定資産税]]、[[法人税]]などの税収も確保できる。このことから、地域住民が賛否を巡って対立することが多い。



==原子力発電の利点と問題点==
==原子力発電の利点と問題点==
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現行の原子力発電には以下の利点が挙げられる。
現行の原子力発電には以下の利点が挙げられる。


* 発電時に[[酸素]]を必要としない。
* [[地球温暖化]]の原因とされる[[二酸化炭素]]を排出しない
* [[地球温暖化]]の原因とされる[[二酸化炭素]]を排出しない
* 使用する燃料の重量・体積が[[化石燃料]]型の発電に比べて極端に少なくて済む
* 使用する燃料の重量・体積が[[化石燃料]]型の発電に比べて極端に少なくて済む
79行目: 117行目:
* 軍事転用の制約に関わる国際社会への配慮(例・[[北朝鮮]]に関連する諸問題)
* 軍事転用の制約に関わる国際社会への配慮(例・[[北朝鮮]]に関連する諸問題)
* 起動停止の所要時間が長い(通常停止)
* 起動停止の所要時間が長い(通常停止)
** 炉の特性上、通常は負荷追従運転を行わない
** 炉の特性上、通常は負荷追従運転を行わない(日本の場合)
** 運転停止による損失が非常に大きく、運転率を極めて高い水準に維持し続ける必要があるため、夜間電力の利用促進など、需要の増減の調整能力がきわめて弱い
** 運転停止による損失が非常に大きく、運転率を極めて高い水準に維持し続ける必要があるため、夜間電力の利用促進など、需要の増減の調整能力がきわめて弱い
* 停止中の炉心冷却問題
* 停止中の炉心冷却問題
85行目: 123行目:
* 施設建設や周辺整備などに多大なコストがかかる
* 施設建設や周辺整備などに多大なコストがかかる
** 原子力発電所の設備・施設そのものが[[火力発電]]所と比べてコスト高
** 原子力発電所の設備・施設そのものが[[火力発電]]所と比べてコスト高
** 対応する'''揚水発電所'''の建設コスト
** 対応する'''[[揚水発電所]]'''の建設コスト
** '''建設反対運動'''への対応として、地元への見返り事業等に大きなコストがかかる
** '''建設反対運動'''への対応として、地元への見返り事業等に大きなコストがかかる
** 電気利用者・[[電力会社]]と施設周辺に住む住民との利益・不利益が相応でない可能性がある
** 電気利用者・[[電力会社]]と施設周辺に住む住民との利益・不利益が相応でない可能性がある
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** 将来の原子力発電を担ってくれる若手技術者が減少傾向にある
** 将来の原子力発電を担ってくれる若手技術者が減少傾向にある


== 運用の難しさ ==
特に日本では、[[広島市|広島]]・[[長崎市|長崎]]への[[原子爆弾]]投下や、[[第五福竜丸]]の[[米軍]]の[[水素爆弾]]実験で発生した[[放射性降下物]](いわゆる「死の灰」)被曝の被害を受けたこともあり、[[放射能]]や[[放射線]]に対して嫌悪感を抱く人は多く、建設時には地域住民の反対運動が頻発する。一方で、原子力[[発電所]]ができると、地元には一定の[[雇用]]が期待できるほか、[[電源立地地域対策交付金]]などの[[電源三法]]交付金、[[固定資産税]]、[[法人税]]などの税収も確保できる。このことから、地域住民が賛否を巡って対立することが多い。
原子力発電の燃料は[[ウラニウム]]である。'''天然ウラン'''を発電用燃料に精製・加工する過程での主要な工程が[[ウラン濃縮]]であり、ウラン濃縮で残ったカスが[[劣化ウラン]]である。この'''ウラン燃料'''を炉心で発電に使用した後の'''使用済み核燃料'''には[[プルトニウム]]などの'''核廃棄物'''が含まれる。


韓国、台湾などは低濃縮核燃料を海外から購入しているので国内で劣化ウランは発生しない。[[CANDU炉]]を主用するカナダでは放射性物質[[三重水素]](リチウム)ができてまう 。
=== 運用の難しさ ===
原子力発電の燃料は[[ウラニウム]]である。'''天然ウラン'''を発電用燃料に精製・加工する過程での主要な工程が[[ウラン濃縮]]である。ウラン濃縮で残ったカスが[[劣化ウラン]]である。この'''ウラン燃料'''を炉心で発電に使用した後の'''使用済み核燃料'''には[[プルトニウム]]'''核廃棄物'''が含まれる。


===軍事===
<!--韓国、台湾などは出来上がった核燃料を購入しているので国内で劣化ウランは発生しない。CANDU炉を主用するカナダでも発生しない。天然ウラン燃料を使用する使用済み核燃料再処理していないでプルウムも発生ない-->
'''軍事'''への転用も大きな懸念項目である。

'''軍事'''への転用も大きな懸念項目である。使用済み核燃料に含まれるプルトニウムは'''濃縮'''を行えば'''原爆'''などに転用することが可能であり、劣化ウランは[[劣化ウラン弾]]として、また核廃棄物はそのままで[[汚い爆弾]]となる。また戦時下では原子力発電所そのものが攻撃目標になる。
* 劣化ウランは[[劣化ウラン弾]]として、また核廃棄物はそのままで[[汚い爆弾]]となる。また戦時下では原子力発電所そのものが攻撃目標になる。
* 使用済み核燃料に含まれるプルトニウムは'''濃縮'''を行えば'''原爆'''などに転用することが可能という誤解があるが、これは不可能ではないが誰も行なわない。ただし、使用済み核燃料になる前の少しだけ使った後の核燃料は、現在最も有効な兵器級プルトニウムの原料供給源である。このためIAEAは核燃料交換作業の監視に力を注いでいる。


また事故等が無くても'''原子炉の老朽化'''などにより原子炉の使用を終える時、それ自体が放射性廃棄物となる。原子炉の解体処分は困難な問題であり、解体出来ても出来なくても長期にわたり管理しなければいけない。
また事故等が無くても'''原子炉の老朽化'''などにより原子炉の使用を終える時、それ自体が放射性廃棄物となる。原子炉の解体処分は困難な問題であり、解体出来ても出来なくても長期にわたり管理しなければいけない。
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=== 発電所建設費の例 ===
=== 発電所建設費の例 ===
{{出典の明記}}
*原子力 泊発電所3号機 約2900億円 91.2万kW(出力) 平成20年10月運転開始
*原子力 泊発電所3号機 約2900億円 91.2万kW(出力) 平成20年10月運転開始
*水力(揚水型) [[神流川発電所]] 5250億円 270万kW(最大出力) 1997年5月工事開始、2011年7月工事完了予定
*水力(揚水型) [[神流川発電所]] 5250億円 270万kW(最大出力) 1997年5月工事開始、2011年7月工事完了予定
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世界合計:498基(43549)
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== 原子力発電プラントの基本要素(PWR)==
==原子力発電プラントの基本要素(PWR)==
[[汽力発電]]の一種である原子力発電も原理は[[ランキンサイクル]]であるため、作動流体である[[冷却材]]の[[サイクル]]を形成する4要素が中心となる。
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出展および参考([[http://www1.bbiq.jp/atosan/index.files/dennkenn/4gennsiryoku.html]]、[[http://www.gpc.pref.gifu.jp/infocen/yakudatu/enetoku/3/parts/main03.htm]]、[[http://www.con-pro.net/readings/water/doc0042.html]]、[[電磁石同期発電機]])
出展および参考([[http://www1.bbiq.jp/atosan/index.files/dennkenn/4gennsiryoku.html]]、[[http://www.gpc.pref.gifu.jp/infocen/yakudatu/enetoku/3/parts/main03.htm]]、[[http://www.con-pro.net/readings/water/doc0042.html]]、[[電磁石同期発電機]])




==関連項目==
==関連項目==
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*[[原子力工学]]
*[[原子力工学]]
*[[原子力事故]] : 主な事故は、こちらを参照。
*[[原子力事故]] : 主な事故は、こちらを参照。
*[[原子力撤廃 ]]
*[[原子核]]
*[[ウラン]]
*[[プルトニウム]]
*[[放射能]]
*[[原子核分裂]]
*[[原子核分裂]]
*[[原子炉]]
*[[核融合炉]]

==注釈==
<references/>


== 参考資料 ==
==参考資料==
JAIF資料。
JAIF資料。


[[Category:原子力|けんしりよくはつてん]]
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[[Category:発電|けんしりよくはつてん]]
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[[Category:原子力発電所|けんしりよくはつてん]]
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[[cs:Jaderná elektrárna]]
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2007年9月19日 (水) 14:21時点における版

原子力発電(げんしりょくはつでん)とは、原子核反応時に出るエネルギーを利用した発電。ここでは地上の核分裂を利用した主に商業用の原子力発電について説明する。

概要

原子力とは原子核反応により得られるエネルギー(核エネルギー)のこと。核反応には核分裂反応核融合反応の二種類の反応があるが、発電技術として実用化されているのは核分裂反応だけなので、単に「原子力発電」と言う場合には核分裂反応のエネルギーを用いた発電方法を指す。

地上に設置された原子力発電所の場合、放射性物質の核分裂反応で発生する熱を使って水を沸騰させ、蒸気タービンを回すことで発電機を回して発電する。効率よく発電するためには、この沸騰した水を冷やして再び液体に戻す冷却塔という建物を必要とするが、日本や世界の多くの原子力発電所では冷却水として利用するために海や川のそばに建設することで冷却塔を省いている。火力発電所は石油や石炭、液化天然ガスといった化石燃料を燃やして熱を作り出し、原子力発電所では核分裂反応によって熱を発生させているが、発生した蒸気でタービンを回し発電機で発電するという点では、両者は似た仕組みといえる。


世界のエネルギー消費

ファイル:アメリカエネルギー省のEIAによる世界の燃料別エネルギー消費量の推移グラフ1980年-2030年(Annual2004).JPG
原子力発電の世界での現状:濃い緑色は原子炉をすでに持つ国。明るい青緑色は新たに持つ国。濃い黄色は追加で持つことを検討している国。薄い黄色は初めて持つことを検討している国。青は建設を中止したか廃炉した国。明るい青は廃炉をした国。赤はすべての商業用原子炉を廃炉した国。

2004年の実績では、原子力発電によって世界中のエネルギーの3.5%、世界中の電力の15.7%が供給されており、米国、日本、フランスで世界中の原子力による電力の57%が発電されている。。[1]

2007年には、IAEAは世界中で435基の原子力動力炉が31ヶ国で運転されている[2]と報告している。[3] [2]

米国は最も多くのエネルギーを原子力によって生産しており、原子力発電によって総電力の20%をまかなっている。フランスにいたっては、2006年の実績では80%もの電気エネルギーを原子炉から得ている。[4][5] EU全体では、電力の30%を核エネルギーから得ている。 [6]

原子力政策はEU加盟の各国によって違いがあるが、いくつかのEU加盟国やオーストラリア、アイルランドなどの国では稼動中の原子力発電所は存在しない。反対にフランスでは59基もの原発が稼動しており、火力を含めた総発電量の18%をイタリア、イギリス、ドイツに輸出してる。[7][8] 多くの軍隊砕氷船のような民間が原子力船において原子力推進を利用している。

国際的な研究が、本質的にな安全な原子力発電プラント(w:en:Passive nuclear safety)や核融合炉の開発、高温電気分解(High-temperature electrolysis、HTE または steam electrolysis)によって海水淡水化や地域の暖房の供給、などにおいて進められている。

国別の原子力発電(英語)原子炉のリスト(英語)を参照


放射能の問題

原子核反応を発電に利用する場合、原子力発電所の稼動中に常に発生する放射線や、運転後に随時発生する大量の放射性廃棄物への対処が問題となる。

放射線とは放射能を持つ物質が放つアルファ線ベータ線ガンマ線中性子線のことだが、アルファ線・ベータ線に比べてコントロールの難しいガンマ線が、発電施設で働く作業者の健康にとって有害となる可能性がある(放射能障害)。原子力発電所を建てた時点では、炉心にある核燃料以外には放射能は持たないが、発電運転を行うことやただ核燃料を保持しているだけでも周囲の物質に放射線を通じてや直接放射性物質が移動・拡散することで、放射能が広がってゆく。放射性物質はそこにあるだけで、勝手に周りに放射線を放ち、放射線を受けた物質もまた弱いながらも徐除に放射能を帯びてゆく点で管理が難しい。

なお、原子力発電所内の作業者のリスクとしては、放射線被曝の危険だけではなく、その膨大な熱量も危険である。過去の原子力事故では被曝による生命の危機以前に熱死や焼死したケースも少なくない。

原子力発電所で発電運転すると、その保守作業などに使用したあらゆる物が、潜在的に放射性廃棄物となる。作業着一式から清掃具や交換部品などである。出来るだけ放射性廃棄物を減らす努力を電力会社は行っているが、やはりどうしても発生してしまう。また、長い間、炉心で核分裂反応を行った核燃料もやがては新しい物と交換しなければならず、使用済み核燃料という名の高レベル放射性廃棄物となる。一次冷却系という水などの液体を循環させている部分の放射性物物質のカスや、建物の空気をきれいにして外部に出すためのフィルターも放射性廃棄物である。

放射能を持った物質、つまり放射性物質を何らかの処理をして放射能を消すということが容易には出来ない。その処理に伴う放射線が新たな放射性物質を生み出すからだが、長い時間をかけてその放射線を放射しつくせば放射能は消えてしまう。ただ放射性物質の中には、1秒も経たずに放射能をほとんど失うものもあれば、数十億年経っても、半分にしか放射線が弱まらない種類もあるので(半減期)、それらが混ざり合った放射性物質は、結局は危険のない状態で保管することでしか問題を回避できない。日本をはじめ多くの国が放射性廃棄物の地下埋設処分を考えている(深地層処分)が、埋められる土地の地域住民は実際の放射性物質の漏洩というリスクを冷静に考えるだけでなく「核のゴミ」という悪いイメージも手伝って、その多くが近隣での処分に反対する。これが放射性廃棄物の処分問題である。広大な国土を持つアメリカ合衆国やロシアのような例を除けば、多くの国で地下埋設の処分地確保に問題を抱えている。

また、原子炉の老朽化などにより原子炉の使用を終える時、それ自体が放射性廃棄物となる。原子炉の解体処分は困難な問題であり、解体出来ても出来なくても長期にわたり電力を生まなくなった原子炉を維持管理しなければいけないが、今後半永久的に発生する廃炉や放射性廃棄物の永続的な維持管理コストについて信頼できる費用見積もりがなく、我々の子孫にそれらコストを付け回しているという点でも問題を抱えている。

原子力発電所の解体に必要な費用については、総合エネルギー調査会原子力部会の平成9年の原子力安全委員会月報によると、原子力発電所の解体により発生する廃棄物は、110万kW級原子力発電施設で約50万トン〜55万トン程度、このうち放射性廃棄物として適切に処理処分する必要がある廃棄物は1万トン前後のすべて低レベルの放射性廃棄物(総廃棄物の3%以下)とし、コンクリートや鋼材など残りの97%以上(約49〜53万トン)は放射性廃棄物として扱う必要のない一般産業廃棄物として処分可能な廃棄物と想定[[1]]し、国内原子炉についてはそれら試算に基づいて廃炉費用の積み立てを1987年3月より「原子力発電施設解体引当金」として行っているが、電気事業連合会は、国内55基の原子力発電所の解体費用が、これまでの想定より、原子炉解体により、コンクリートや金属片などの放射性廃棄物が大量に発生するなどの理由で、想定してきた約2兆6000億円から約2兆9000億円に膨らむとの試算を2007年2月8日に経済産業省に示している。なお、すでに廃止措置が決まり、現在解体作業が進行している米国初期の原子炉であるメーンヤンキー原発では、コンクリートや原子炉構造物など廃棄物の半分が放射能を帯びている[[2]]結果となっていおり、2010年頃から徐々に本格化する、国内原子炉の原子炉老朽化による廃炉に伴う費用の想定値がそもそも正しい試算に基づいて計算が行われているか疑わしい結果となっており、今後さらに膨らむものと想定される。

原子力発電所そのものを建てることも問題となる。現在の原子力に関する技術レベルでは核燃料棒の被覆からはじまって炉心、圧力容器、格納容器、建屋という何重もの壁を設けることで最低限の安全性を確保しているが、一度大きな事故が起きれば周辺への影響が計り知れないだけに、多くの周辺住民を中心にして原子力事故への危惧の声が今も絶えない。実際にチェルノブイリ原子力発電所やスリーマイル島原子力発電所の重大な原子力事故の例や、日本についていえば、日本国内で続発する小さな事故やミス、隠蔽工作などがあるので、行政や電力会社の言うことを鵜呑みに出来ず、まだまだ安全神話といったレベルには程遠いのが現状である。

核分裂と原子炉

原子力発電における核分裂反応とは、たとえば天然のウラニウムが半減期にもとづくスピードで自然に自己崩壊する自発核分裂とは別に、人為的に起こす核分裂反応を指す。以下に人為的な核分裂反応について説明する。

ウラニウム235のような大きいためにもともと不安定な原子核が、外部から来た比較的遅い中性子の衝突によって、この中性子を一度原子核内に吸収することでさらに不安定なり、短い時間の後に原子核が6:4程度の比率で中ぐらいの原子核2つに分裂し、同時に2-3個の高速度の中性子を放出する物理現象である。この時生まれる新たな原子の発生確率はかなりの精度で判明している。新たに生まれた原子核の種類によっては、短時間後に、分裂した原子核から余剰エネルギーを放出するため電子を放出して(ベータ崩壊)安定になろうとすることがあるので、この物理現象も一連の核分裂反応に含めることがある。また、新たに生まれた原子核の種類の多くが、さらに核分裂反応を何度か繰り返すことで安定な原子核になろうとする。これも広い意味での原子力発電における核分裂反応といえる。

実際には、分裂によって生まれる中性子はあまりに高速度なので次のウラニウム235の原子核では捕まえられずに反応は起きない。核分裂反応を進めるために多くの原子炉では水を使って、水の原子核と相互作用させて高速中性子の飛行の邪魔をさせることでスピ-ドを落とさせる。このとき水分子は弾かれることで運動エネルギーをもらい温度が上がる。何度もぶつかった中性子は遅くなりやがて次のウラニウム235の原子核に吸収される。

これまでの説明は、ただ一つの核分裂反応であるが、一定量の核燃料に遅い中性子を当てて核分裂反応を起こすと、この反応で生じた複数の中性子がやがて次の核分裂反応を引き起こす。多くの中性子が核燃料とは違った方向へ飛び出すが、いくつかは必ず核燃料内部で次の核分裂反応に使われる。核燃料が一定以上だけあれば(臨界量)外へ飛び出すより核燃料内部で反応する割合が高くなり、この反応が連鎖的に続いて外から中性子を供給しなくても核分裂反応が続く状態となる。これが臨界状態である。

臨界状態は、核分裂反応が連鎖している状態であるが、仮にこの連鎖が異常に高い効率で核分裂反応が進む とすぐに核燃料内部が中性子であふれ、出来るだけ速やかにすべてのウラニウム235の原子核を核分裂される方向へと働いてしまう。制御を超えて一度に進む核分裂反応は、エネルギーの発生も一度に起こり、発生する高熱と強力な放射線があたりに放たれてしまう。これが核爆発である。もちろん現在の発電用原子炉で核爆発が起きることは全く無く、起こりえる最悪の可能性としては進みすぎた核分裂反応による高温のために炉心が溶け落ちる炉心融解である。炉心融解を避けるために、核燃料の精製度や量、形、配置、反射材、制御棒の高さ、水の圧力、ホウ酸の量、可燃性毒物の量などの調整により制御された範囲内で核分裂反応が進むようにしている。また、多少の調整のブレがあってもすぐには制御を離れないように、最初から炉心での反応そのものが簡単には進まないように設計している(負の反応度)。

原子力発電の歴史

1951年、アメリカ高速増殖炉EBR-1で行われたものが史上初の原子力発電とされる。日本に初めて導入された商用発電炉は世界最初に実用化された英国製のガス冷却炉であった。

日本での原子力発電産業の現状

現在の日本では経済性や安全性から軽水炉の2つのタイプ、沸騰水型原子炉(BWR)と加圧水型原子炉(PWR)が使われている。

日本の原子力発電は需要に合わせた電気出力の増減(負荷追従運転)は行わず、常時一定の電力供給を専門としている。これはチェルノブイリ原子力発電所の重大事故のもともとのきっかけが負荷追従運転の実験にあった点が影響していると言われている。[[3]] 夜間などの電力が余る時間帯の原子力発電電力を揚水発電所へ送って、上のダムへと水をくみ上げ昼間の発電に備える工夫も行っているが、負荷追従運転が出来ないのは経済性からいえば無駄である。現在フランスでは商用原子炉で負荷追従運転が認可されている。

増え続ける使用済み核燃料に含まれるプルトニウムの処分方法とウラニウムの輸入量を減らすための解決策として、高速増殖炉計画が推進されていたが、技術的な困難さのために計画は頓挫した。今またMOX燃料によるプルサーマル計画という似たような計画が進められようとしている。政府行政と電力会社に対して反対派市民団体がこの計画の中止を叫んでいる。2007年7月16日に起きた新潟県中越沖地震で明るみに出た東京電力柏崎刈羽原子力発電所のさまざまな問題で原子力発電反対派の市民は勢いをつけている。一方で政府と電力会社も2007年の石油価格高騰や温暖化対策の広がりを背景に原子力発電の有利性をアピールするのに余念がない状態である。

2004年現在、日本における定格最大出力電力の約30%、電力量の約50%を担っている。一次エネルギーとしての原子力エネルギーは電力事業のみであり、日本での一次エネルギーに対する割合は15%程度となっている。原子力エネルギーにおいて、世界で最も高いウェートを示している国はフランスであり、国の一次エネルギーとしては40%、発電電力量としては75%を超えている。このように、原子力エネルギーが高い割合を占める国では、原子力発電は発電出力の変更を行わないか極めて遅いため、調整力として揚水発電や電力輸出入を活用している事が多い。フランスの場合でも、ヨーロッパに張り巡らされた送電網、特に隣国ドイツとの電力輸出入が活用されている。

日本での賛否

日本では、広島長崎への原子爆弾投下や、第五福竜丸米軍水素爆弾実験で発生した放射性降下物(いわゆる「死の灰」)被曝の被害を受けたこともあり、放射能放射線に対して嫌悪感を抱く人は多く、建設時には地域住民の反対運動が頻発する。一方で、原子力発電所ができると、地元には一定の雇用が期待できるほか、電源立地地域対策交付金などの電源三法交付金、固定資産税法人税などの税収も確保できる。このことから、地域住民が賛否を巡って対立することが多い。


原子力発電の利点と問題点

利点

現行の原子力発電には以下の利点が挙げられる。

  • 地球温暖化の原因とされる二酸化炭素を排出しない
  • 使用する燃料の重量・体積が化石燃料型の発電に比べて極端に少なくて済む
  • 核燃料の交換頻度が低い事や核燃料物質の国際的な入手ルート・価格がほぼ確立し安定している為に、化石燃料型の発電に比べて相対的に安定した電力供給が期待できる
  • 経済性が高い(発電量当りの単価が安い)という意見がある(しかし、この意見は廃炉や放射性廃棄物の半永久管理に関するコスト(現状では見積もり不能)などを一切考慮していない)
  • 化石燃料資源の乏しい国でも比較的少量の核燃料を繰り返し使用する再処理技術(=核燃料サイクル)の確立により核燃料物質の入手に関わる制約が圧倒的に緩和できる
  • 技術力のあることが国際的にアピールできる
  • 海水からのウラン採取が実現すれば燃料はさらに豊富となる

問題点

現行の原子力発電には以下の問題点が指摘されている。

  • 放射性物質であり生物化学的な毒性もある放射性廃棄物を作り出す
    • このため重大事故が発生すると周辺環境に多大な被害を与え、その影響は地球規模に及ぶ
    • また高レベル放射性廃棄物の最終処分地が決定していない
    • 今後老朽化した原子炉が使用を終える場合、それ自体が放射性廃棄物となり半永久的に管理しなければならないが、そのコストについては不明な点が多い
    • 発電施設および核廃棄物へのテロの危険
  • ウラン資源の可採埋蔵量に由来する資源枯渇問題
    • 地殻中のウラン235のみの利用を考えた場合、資源がそれほど豊富なわけではない。また、需要が多い中国などに海外での輸入の買い負けが指摘されている
  • 軍事転用の制約に関わる国際社会への配慮(例・北朝鮮に関連する諸問題)
  • 起動停止の所要時間が長い(通常停止)
    • 炉の特性上、通常は負荷追従運転を行わない(日本の場合)
    • 運転停止による損失が非常に大きく、運転率を極めて高い水準に維持し続ける必要があるため、夜間電力の利用促進など、需要の増減の調整能力がきわめて弱い
  • 停止中の炉心冷却問題
    • 現在の原子炉では運転停止中であっても残留熱除去系・余熱除去系による炉心の冷却が常に必要で、地震等の苛烈な事故発生時に発電所外部電力・自家発電電力の喪失時には、最悪の場合、炉心融解の危険がある
  • 施設建設や周辺整備などに多大なコストがかかる
    • 原子力発電所の設備・施設そのものが火力発電所と比べてコスト高
    • 対応する揚水発電所の建設コスト
    • 建設反対運動への対応として、地元への見返り事業等に大きなコストがかかる
    • 電気利用者・電力会社と施設周辺に住む住民との利益・不利益が相応でない可能性がある
  • 地方の寒村などに建設されることによる弊害
    • 電力の生産地と消費地が離れて存在するため、長距離送電時の電力ロスが大きい、送電網のコスト、 また送電線事故での停電リスクが増大する
    • 大都会の住民は原子力発電に起因する恐怖・嫌悪を日常では感じないので、電力会社や政府へ安全を訴え・監視する勢力とはあまりならない
  • 地質学的側面から、立地場所が限定される
  • 原子力発電所の新規建設数が減少していることからメーカーの原子力部門における技術の継承が困難となってきている
    • 将来の原子力発電を担ってくれる若手技術者が減少傾向にある

運用の難しさ

原子力発電の燃料はウラニウムである。天然ウランを発電用燃料に精製・加工する過程での主要な工程がウラン濃縮であり、ウラン濃縮で残ったカスが劣化ウランである。このウラン燃料を炉心で発電に使用した後の使用済み核燃料にはプルトニウムなどの核廃棄物が含まれる。

韓国、台湾などは低濃縮核燃料を海外から購入しているので、国内で劣化ウランは発生しない。CANDU炉を主用するカナダでは放射性物質の三重水素(トリチウム)ができてしまう 。

軍事

軍事への転用も大きな懸念項目である。

  • 劣化ウランは劣化ウラン弾として、また核廃棄物はそのままで汚い爆弾となる。また戦時下では原子力発電所そのものが攻撃目標になる。
  • 使用済み核燃料に含まれるプルトニウムは濃縮を行えば原爆などに転用することが可能という誤解があるが、これは不可能ではないが誰も行なわない。ただし、使用済み核燃料になる前の少しだけ使った後の核燃料は、現在最も有効な兵器級プルトニウムの原料供給源である。このためIAEAは核燃料交換作業の監視に力を注いでいる。

また事故等が無くても原子炉の老朽化などにより原子炉の使用を終える時、それ自体が放射性廃棄物となる。原子炉の解体処分は困難な問題であり、解体出来ても出来なくても長期にわたり管理しなければいけない。

公正な評価の難しさ

原子力発電に関する様々な評価をする場合、極めて高い専門性が必要となる。しかし、日本においては原子力発電の研究者はほぼ100%電力会社や機器メーカ、その関連機関で働くか、その助成を受けている(大学など)[要出典]エラー: タグの貼り付け年月を「date=yyyy年m月」形式で記入してください。間違えて「date=」を「data=」等と記入していないかも確認してください。。したがって、中立的な見解、特に批判的な発言をしたり、不利なデータを出すことがきわめて困難になっている。一方、原発反対側の意見も、専門性に欠けていたり、データ不足であったり、またあまりにもイデオロギー的であったり、情緒的議論に流れがちである。

発電コストなどのデータ

1kWhあたりの発電コスト

経済産業省(旧通産省)による試算

平成11年に通商産業省資源エネルギー庁が発表した試算によれば、1kWhあたりの発電コストは以下の通り。

  • 原子力  5.9
  • LNG火力 6.4円
  • 石炭火力 6.5円
  • 石油火力10.2円
  • 水力  13.6円

出典:総合エネルギー調査会原子力部会(第70回)資料3:原子力発電の経済性について(平成11年12月)

なお、この試算は漁業補償金や原子力に特有な再処理、バックエンドコストを含んだもの(燃料費は1kWhあたり1円から2円と見積もられている。)だが、電源三法による地元交付金等は含まれていない。とされているが、これまでに、こうした事業で見込みよりも安く済んだことは無く、バックエンドコストも未だに実行されていないので増える可能性が大きい。また、電源三法交付金は1kWhあたり44銭5厘であったものが37銭5厘程度まで下がっているが、電源構成比(約30%)から考えれば、原子力のためだけに殆ど使われる費用ということでは3倍程度と考えるべきである。つまり、1.12円程度は原子力発電の発電原価に付加されねばならないということになる。よって原子力発電所の発電原価は7円程度と考えられるべきで、さらにプルサーマルを行った場合の燃料費の増大などを勘案すればもっと高価と考えられる。今後、すべての再処理作業を行った場合幾らになるのかという試算も必要だろう。ただし、火力発電は現在の燃料価格の高騰により上記で示された値段から大幅に高騰していることは確実であり、その点も考慮する必要があると推測される。原子力発電コストは燃料費の割合が低いが故に、燃料費の高騰を原因とする値段の高騰を招きにくい特性がある。また、コストが安いといえども、原子力発電の発電コストは運転率80%を前提とした数字であり、安定連続発電を続けないと発電コストが幾何級数的に跳ね上がる性質があることには注意するべきである、という意見がある。

事故や老朽化により廃棄された原子炉の最終処分までのコストや最終処分後の半永久的な管理コストについての信頼できる費用見積もりが、原子力発電の総発電コストを考える上で充分に考慮されていない、という意見がある。

CO2を出さないということでは、水力や地熱、太陽、波力など再生可能エネルギーが多くの人たちの期待を集めているものの、政府や原発推進派からはコスト面での競争力が無い点を攻撃されるが、今後、投資や研究開発によってどれほど下がるのかという事も考慮に入れた上での試算が必要である、という意見がある。

参考:エコノミストの再生可能エネルギーに関する論評。 http://cruel.org/economist/economistnewenergy.html

原子力資料情報室による試算 2005年6月に特定非営利活動法人原子力資料情報室が発表した試算によれば、運転年数40年の場合、1kWhあたりの発電コストは以下の通り。

  • 原子力  5.73円
  • LNG火力 4.88円
  • 石炭火力 4.93円
  • 石油火力8.76円
  • 水力  7.20円

出典:公益事業学会第55回全国大会:原子力発電の経済性に関する考察(2005年6月12日)

1kWhあたりの二酸化炭素排出量

温室効果の原因となる二酸化炭素の排出量が少ないことは、原子力発電の利点の一つとされている。電力中央研究所が平成12年に発表した試算によれば、原子力をはじめとする各種発電方式について、発電所の建設から廃止までの発電量と二酸化炭素排出量を考慮した、1kWhあたりの二酸化炭素排出量は以下の通り。

  • 原子力 22グラム
  • 水力 11グラム
  • LNG火力 608グラム
  • 石油火力 742グラム
  • 石炭火力 975グラム

出典:(財)電力中央研究所「ライフサイクルCO2排出量による原子力発電技術の評価」研究報告:Y01006(平成13年8月)

原子力発電では核分裂反応に起因する二酸化炭素の排出は全くないが、発電所の建設・運用・廃止や燃料の生産・輸送、廃棄物の処分等に起因する二酸化炭素の排出も上記の試算には含まれているため、若干の排出が見られる。この点は水力発電も同様である。

発電所建設費の例

  • 原子力 泊発電所3号機 約2900億円 91.2万kW(出力) 平成20年10月運転開始
  • 水力(揚水型) 神流川発電所 5250億円 270万kW(最大出力) 1997年5月工事開始、2011年7月工事完了予定
  • 天然ガス 市原発電所 約100億円 11万kW(出力) 平成16年10月運転開始
  • 石炭 敦賀火力発電所2号機 1275億円 70万kW(出力) 平成12年9月運転開始

世界の原子力発電所開発状況(2003)

数字(基数)は計画中の発電所を含む。()内は発電量、単位は万kW。

世界合計:498基(43549)

原子力発電プラントの基本要素(PWR)

汽力発電の一種である原子力発電も原理はランキンサイクルであるため、作動流体である冷却材サイクルを形成する4要素が中心となる。

原子炉(炉心、燃料棒集合体、制御棒)、蒸気タービン復水器ポンプ

またこのほかに補助的な役割を果たす多くの機器や設備が必要となる。

発電機、変圧器、送電線、発電機建屋、圧力容器、格納容器、燃料交換装置とクレーン、原子炉建屋、一次冷却水配管系、ニ次冷却水配管系、緊急炉心冷却装置、熱交換器、加圧器、非常用ポンプ、非常用発電機、燃料プール、センサー類、冷却水フィルター、空気フィルター、各種圧力逃がし弁、復水器冷却水系設備、コントロールルームと操作機器・記録装置類・通信機器類、消火装置、放射性管理区画ゲート等

原子力発電プラントで特徴的な設備は気体・液体・固体の放射性廃棄物処理設備や放射線を検出するための環境センサー類、放射線管理区域の出入りを管理する設備である。

火力発電所との違い

一般には「タービン周りは原子力発電所でも火力発電所でも同じ」とよくいわれるが以下の点で違いがある。

  • 蒸気が違う
    • タービンを回す蒸気が原子力発電所(280-290度、6.9MP)では火力発電所の蒸気(600-610度、31MP)よりも温度・圧力が低く設計されており熱効率が劣る
    • 核燃料棒の被覆に使われているジルコニウムは比較的高温に弱いため一次・二次冷却水ともにそれほど高温には出来ない
    • 火力発電所では超臨界蒸気超臨界流体)が使用されている 超臨界流体とは、液体の性質と気体の性質を持った非常に濃厚な蒸気であるので熱を効率良く運ぶことが出来る。
  • タービンが違う
    • 原子力用タービンの回転数は1500rpm又は1800rpm 火力用タービンは3000rpm又は3600rpm
    • 蒸気の差を補うために、同出力では火力発電所のタービンより原子力タービンの方が大型となる

出展および参考([[4]]、[[5]]、[[6]]、電磁石同期発電機


関連項目

注釈

  1. ^ Cite web|url=http://www.iea.org/dbtw-wpd/Textbase/nppdf/free/2006/key2006.pdf%7Ctitle=Key World Energy Statistics|accessdate=2006-11-08|publisher=International Energy Agency|year=2006|format=PDF}}
  2. ^ a b World NUCLEAR POWER REACTORS 2005-06, 15/08/2006, Australian Uranium Information Centre”. Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。
  3. ^ NUCLEAR POWER PLANTS INFORMATION, by IAEA, 15/06/2005
  4. ^ Impacts of Energy Research and Development With Analysis of Price-Anderson Act and Hydroelectric Relicensing”. Nuclear Energy (Subtitle D, Section 1241). Energy Information Administration (2004年). 2006年11月8日閲覧。
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参考資料

JAIF資料。