ア・バオ・ア・クゥー

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ア・バオ・ア・クゥーA Bao A Qu)とは、作家ホルヘ・ルイス・ボルヘス1957年に発表した『幻獣辞典』に登場する幻獣

アラビアン・ナイト』(『千夜一夜物語』)を、バートン卿が英語へ翻訳する際に加えた注釈に、チトールにある「勝利の塔」に棲むとある、としている[1]

概要[編集]

以下は、『幻獣辞典』から、うかがわれるア・バオ・ア・クゥーの伝承である。

「勝利の塔」には、屋上のテラスへ通じる螺旋階段がある。この塔の最下層には、ア・バオ・ア・クゥーが眠っており、螺旋階段を上り始める者が現れると目を覚ます。人間の影に敏感なア・バオ・ア・クゥーはその人間のかかとを捕らえて、螺旋階段の外側をその者に付き添って登っていく。透明であった、その姿は一段上るごとに色と輝きを増していき、最上段まで登ったとき、ア・バオ・ア・クゥーは完全な姿を現す。

しかし「勝利の塔」を登り切った人間は涅槃に達することができると言われており、そうなれば、その者はいかなる影も落とすことはない。つまり、ア・バオ・ア・クゥーはその人間を捉えて最上段へ上ることはできない。

完全な姿になれなかったア・バオ・ア・クゥーは苦痛にさいなまれ、色も輝きも身体も衰えていく。まして、上っていた人間が踵を返して下り始めれば、ア・バオ・ア・クゥーはたちまち最下層まで転がり落ちて倒れ伏してしまう。

かくしてア・バオ・ア・クゥーは、「勝利の塔」の最下層で訪問者を待ち続けているのである。これまでに、ア・バオ・ア・クゥーが最上段まで上りきったことは一度しかないと言われている。

『幻獣辞典』では、ア・バオ・ア・クゥーの特性として、身体全体でものを見ることができる、触れると桃の皮のような手触りをした皮膚を持つ、と伝えられている。

伝承の舞台[編集]

インドのチトールにある「ヴィジャイ・スタンバ英語版(勝利の塔)」、1872年撮影。

「勝利の塔」があるとされるチトールの所在については、諸説ある。

脚注[編集]

  1. ^ ボルヘス、マルガリータ・ゲレロ『幻獣辞典』柳瀬尚紀訳、晶文社〈晶文社クラシックス〉、1998年、17-18頁
  2. ^ ボルヘス、マルガリータ・ゲレロ『幻獣辞典』柳瀬尚紀訳、晶文社〈晶文社クラシックス〉、1998年の訳註による。
  3. ^ アルベルト・マングウェル、ジアンニ・グアダルーピ著、『完訳 世界文学にみる架空地名大事典』337頁
  4. ^ リチャード・フランシス・バートン卿、『アラビアン・ナイト・エンターテインメント』の訳注より、ロンドン、1885年-1888年[要検証]

参考文献[編集]

  • 柳瀬尚紀 訳 『幻獣辞典』晶文社〈晶文社クラシックス〉、1998年。ISBN 978-4-7949-1265-7 原書は1967年のスペイン語版である。また、文庫版が2015年河出書房から出たが、その際(21頁)「バートン大尉が云々」は削除されている。
  • アルベルト・マングウェル、ジアンニ・グアダルーピ 著、高橋康也 中尾まさみ 安達まみ 桑子利男 林完枝 訳 『完訳 世界文学にみる架空地名大事典』講談社、2002年。ISBN 978-4062105644 

関連項目[編集]