頭胸部

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頭胸部(とうきょうぶ cephalothorax)というのは、節足動物の一部に見られる構造で、頭部胸部が融合したものである。

概説

節足動物の体は基本的に共通の構造をもつ体節の繰り返しで構成されている、いわゆる体節制を持つ。しかし、環形動物に見られるような素直な形ではなく、それらが数節ずつのまとまった構造となっているものが多い。これを合体節と言う。多足類以外では大きく頭部、胸部、腹部が区別できる。頭部には触角など感覚器と摂食器官が集まり、胸部には歩行用の足が並ぶ。腹部には遊泳用の足があるものもあるが、たいていは足は退化的である。

ところが、この頭部と胸部が融合して明確に区別できない例があり、それを頭胸部と言う。頭胸部が見られるのは、主にクモ類と甲殻類である。

頭胸部は合体節がさらに進んだものと考えられ、運動能力等においてより効果的な活動が可能になっていると考えられる。ちなみにカニヤシガニでは腹部を頭胸部に密着させることで体全体を単一の固まりにまとめることができ、運動能力が特に高い。

クモ類など

クモ形類の体の構造。
(1) 脚、(2) 頭胸部、(3) 腹部

クモ類は一般的に頭胸部と腹部に分かれた体を持つ。例えば一般のクモ目の体は頭胸部と腹部がそれぞれにまとまった塊になり、間を狭い柄がつないでいる。歩脚は頭胸部に集中する。

頭胸部をさらに分ける体節は全くない。ただし、眼が並び、口や鋏角がある頭部と、歩脚が並ぶ胸部とは区別がつく場合が多い。外見的には幅が異なり、胸部で幅広くなるほか、その間にははっきりとした溝があるのが普通である。

クモ型綱の各目を見ると、すべての目で頭胸部が見られる。ほとんどの目では頭胸部に体節が見られないが、コヨリムシ目などでは腹板に体節の区分が見られる。

クモ型綱に近いカブトガニも頭胸部が見られる。この類では背甲が幅広く広がるので、外見では頭部は区別できない。鋏角亜門のものは、基本的に頭胸部をもっている。例外はウミグモ類で、退化的な頭部とがはっきりと胸部から区別できる。

甲殻類

甲殻類の場合、たとえばエビやヤドカリの体は頭胸部と腹部の二部からなっている。頭胸部には見かけ上体節はなく、しっかりと一つにまとまり、触角と歩脚がある。腹部は多数の体節に分かれ、腹面には鰓状の付属肢がある。カニの場合には腹部は偏平で小さく、頭胸部の腹面に折り曲げられているので頭胸部だけが目立つ。

しかし、それ以外の甲殻類の場合、頭部と胸部は区別できるものも多い。例えばワラジムシフナムシのような等脚類などは、昆虫と同様に頭部と胸部がはっきり分かれている。背面から見て頭部と胸部の区別がなくても、腹面から見ればはっきり区別できる例も多い。これは、甲殻類全般によく見られる構造として、背甲というものが発達し、それが背中側から体の前半部を覆うためである。背甲が全身を覆ってしまい、二枚貝状のものもあるが、体前半を覆えば、上から見れば頭部と胸部の区別が見えない。エビやカニなど十脚類では背甲が後方と側面に広がって胸部を覆っているだけでなく、その側面が胸部の付属肢の基部で密着しているため、頭部と胸部は完全に一体化した形になっているものである。背甲の内部には付属肢の外枝であるが収まっており、鰓腔となっている。

その他の例

昆虫では一部のものに頭部と胸部の融合が見られる。たとえばカメムシ目タマミズムシ科等にその例がある。