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非常用炉心冷却装置

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非常用炉心冷却装置(ひじょうようろしんれいきゃくそうち、ECCS、Emergency Core Cooling System、緊急炉心冷却装置)は、水を冷却材として用いる原子炉炉心で冷却水の喪失が起こった場合に動作する工学的安全施設である。炉心に冷却水を注入することで核燃料を長期に渡って冷却し燃料棒の損壊を防止する。ECCSの作動は原子炉の停止を意味する。

概要

冷却材に水を使う動力炉では、炉心を冷やす冷却系統の配管が破断するなどして冷却水が喪失すると、炉心の熱密度が高いため、スクラムと呼ばれる制御棒の一斉挿入による原子炉の緊急停止を行なっても、炉心の余熱と放射性物質の崩壊熱による高熱で炉心が破損・溶解する危険性がある。ECCSは原子炉圧力容器に水を注入することで、炉心を冷却し破損を防止する。

機能

ECCSは、炉心の冷却と原子炉圧力容器内の減圧という2つの機能を備えている。

例示

ECCSは幾つかの系統より構成される。以下に例を示す。

従来型BWRのECCS
  • 高圧炉心スプレイ系(HPCS)
  • 低圧炉心スプレイ系(LPCS)
  • 低圧注水系(LPCI)
  • 自動減圧系(ADS)
ABWR
  • 低圧注水系(LPFL)
  • 高圧炉心注水系(HPCF)
  • 原子炉隔離時冷却系(RCIC)
  • 自動減圧系(ADS)

基本構成

以下にABWRでの基本構成を示す。

低圧注水系

低圧注水系(LPFL系:Low Pressure Flooder System)は、圧力制御プールのプール水や外部給水経路の水を低圧モードで炉心シュラウド外側に注水する。残留熱除去系の一部となる。所内電源と非常用ディーゼル発電機のバックアップを含む交流モーターポンプで駆動される。BWRにおけるLPCIである。

高圧炉心注水系

高圧炉心注水系(HPCF系:High Pressure Core Flooder system)は、初期水源は復水貯蔵槽から、その後、最終水源には圧力制御プールからの水を高圧モードで炉心上部のノズルからシュラウド内側の燃料集合体に向けて注水する。所内電源と非常用ディーゼル発電機のバックアップを含む交流モーターポンプで駆動される。BWRにおいては高圧系HPCSと低圧系LPCSの多重構成となっている。

原子炉隔離時冷却系

原子炉隔離時冷却系(RCIC系:Reactor Core Isolation Cooling system)は、主蒸気隔離弁が作動され原子炉が隔離・閉鎖された場合に、初期水源は復水貯蔵槽から、その後、最終水源には圧力制御プールからの水を炉心シュラウド外側に注水する。所内電源と非常用ディーゼル発電機による電力のすべてが失われた事態を考慮して、炉心の崩壊熱による蒸気を使用したタービンによってポンプは駆動される。常に待機状態に置かれ、非常時には30秒で定格回転速度に達する必要があり、暖機運転がなく湿度の高い蒸気にも対応するなど、厳しい条件での運転が求められるため、特殊なタービンが使用される。

非常用復水器

冷却水との熱交換によって冷却凝縮し蒸気を水に戻す装置で、日本の原子炉では海水を冷却水としているが、大陸国家の内陸部に設置される原子炉では空冷式も存在する[要出典]。初期の古いBWR炉には原子炉隔離時冷却系(RCIC)ではなく、非常用復水器(IC)が実装されている。

自動減圧系

自動減圧系(ADS:Automatic Depressurization System)は、主に主蒸気管に接続されている複数の蒸気逃がし弁によって構成される。原子炉水位低とドライウェル圧力高の同時事象によって、例えば30秒後に自動的に作動するようになっている。ADSが作動すると、蒸気逃がし弁より出た炉心冷却水の蒸気は圧力抑制プールへと導かれ、原子炉圧力容器内の圧力を下げる。加圧水型原子炉では、原子炉圧力容器と一次冷却系内部が高圧である為、ECCS系統による冷却水の注入に当ってはADSによる減圧を行なう。

原子炉格納施設

原子力発電施設では、炉心と原子炉格納容器内部、冷却系の工学的安全施設であるECCSとは別に、原子炉格納施設の機能として1次格納施設である原子炉格納容器と、2次格納施設である原子炉建屋のそれぞれに工学的安全施設を備えている。

ECCSに関わる事象

スリーマイル島原子力発電所事故

1979年3月28日にスリーマイル島原子力発電所で発生した原子力事故では、一次冷却系の冷却水が大量に消失する中作業員が誤った判断によりECCSを停止してしまい、結果として炉心溶融を起こした。

関西電力美浜発電所2号機事故

1991年2月9日に発生。日本国内でECCSが動作した初の事例である。

福島第一原子力発電所事故

2011年3月に福島第一原子力発電所で発生した原子力事故では、同月11日に発生した東北地方太平洋沖地震により同発電所が全交流電源を喪失、冷却機能をも喪失した結果最終的に一部の炉で炉心溶融が起こり、発生した水素の爆発による容器・建屋の損壊で多量の放射性物質が外部に放出された。

同事故における冷却機能喪失の概要

事故当時稼働中だった原子炉1-3号基は地震発生時に自動停止したが、地震による送電路の損壊で外部電源を喪失し、また地震後に到来した津波により非常用電源も破壊され、全交流電源を喪失する事態となった。 これにより冷却水循環系およびECCSを動かせなくなり、また津波により冷却用海水系ポンプも破壊されてしまった。

2・3号機の原子炉においては電源喪失を考慮し隔離時冷却系・高圧注水系と2系統のタービン駆動注水装置を備えていたが、津波による非常用バッテリーの水没で高圧注水系が使用不能となった。 また地震発生後に非常用復水器が起動していたが、急激な圧力変化による容器の損傷を防ぐために作業員がこの回路をON/OFFしていたところ津波が到達、電源を失い遮断状態のまま非常用復水器が使用不能となり、同時に計器、動弁電源も失われた。

冷却系を次々と喪失する一方で、原子炉停止後も燃料は崩壊熱を出し続けたため蒸発により炉心の水位が低下、炉心溶融が発生し1号機では全燃料の融解に至った。

  • 詳細な事故原因はまだ確定的でない。
  • ECCSに関わる別の事象として、同発電所において2007年12月3日に4号機の高圧炉心注水系が故障する事象があった[1]

脚注

参考文献

  • 神田誠、他著 『原子力プラント工学』 オーム社  2009年2月20日第1版第1刷発行 ISBN 9784274206603

外部リンク

  • ECCS 原子力百科事典