猫のフーガ

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ト短調フーガ
ドメニコ・スカルラッティ
別名 猫のフーガ
形式 フーガチェンバロ独奏
調拍子 ト短調、8分の6拍子
テンポ モデラート ♩=84
出版年 1739年
作品番号 Kk. 30、L. 499
プロジェクト:クラシック音楽
Portal:クラシック音楽
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猫のフーガ(ねこのフーガ、: La Fuga del Gatto: Cat fugue)とは、ドメニコ・スカルラッティによるチェンバロ独奏用単一楽章ソナタ「ト短調フーガ」(Kk. 30、L. 499)の広く知られる通称である。

由来[編集]

この通称は作曲者自身が名付けたものではなく、フーガを構成する風変わりなモチーフに関する伝説により、19世紀初め頃から使われ出した。伝説によれば、スカルラッティの愛プルチネッラは音が出るのに興味を持ち、チェンバロの鍵盤の上を横切る習慣があった。スカルラッティはこれらの「即興演奏」の中から1つのフレーズを書き出し、フーガの主要モチーフとして使用した(右上の楽譜参照)[1]

この通称は19世紀のコンサート演目に使用され、名付け親のムツィオ・クレメンティ[2]カール・チェルニーアレッサンドロ・ロンゴ英語版などの出版者も使っている[3]

影響[編集]

楽譜は1739年にロンドンで出版された。自身の旧作の再利用と他人の曲からの「拝借」で知られるゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルは、1739年9月下旬から10月下旬にかけて『12の合奏協奏曲集 作品6』を書き上げたが、第3曲第2楽章の奇妙な下って行く音程はスカルラッティのこの曲のモチーフを思わせる[4]音楽理論家で作曲家のアントニーン・レイハによる、1803年の「ピアノのための36のフーガ」第9番は猫のフーガと同じ主題をもとにしている[5]

アントニーン・レイハ、フーガ 第9番

ハンス・フォン・ビューローは、この曲をピアノコンサート演奏用にアレンジしている[6]

演奏[編集]

19世紀には人気のある曲になっている。ローマの手稿コレクター、アッビ・サンティーニから楽譜をもたらされたフランツ・リストは1840年代初めにベルリンで演目に組み込んだ[7]イグナーツ・モシェレスもこの曲を演奏した。両者とも「猫のフーガ」のタイトルで演目に組み込んでいる[3]

脚注[編集]

  1. ^ Martyn, Elizabeth (2007). Everything Your Cat Expects You to Know. New Holland Publishers. p. 25. ISBN 978-1-845-37953-7 
  2. ^ 中山靖子 編「注解」『スカルラッティ ソナタ集 1』(35刷)音楽之友社、2015年5月31日、109頁。ISBN 978-4-276-90627-3 
  3. ^ a b Booklet accompanying CD box set Scarlatti: The Keyboard Sonatas performed by Scott Ross; page 143
  4. ^ Simon P. Keefe, The Cambridge Companion to the Concerto, page 63. Cambridge University Press, 2005. ISBN 0-521-83483-X.
  5. ^ 田中博幸 編「楽曲解説」『レイハ(ライヒャ)『ピアノのための36のフーガ 作品36』』ヤマハミュージックメディア、07頁。ISBN 978-4-636-87511-9 
  6. ^ Katzenfuge = Cat's fugue”. WorldCat. 2016年3月26日閲覧。
  7. ^ Dana Gooley, The Virtuoso Liszt, page 179. Cambridge University Press, 2004. ISBN 0-521-83443-0.

外部リンク[編集]