捻転胃虫

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捻転胃虫
捻転胃虫の虫卵
分類
: 動物界 Animalia
: 線形動物門 Nematoda
: 双腺綱 Secernentea
亜綱 : 桿線虫亜綱 Rhabditia
: 円虫目 Strongylida
上科 : 毛様線虫上科 Trichostrongyloidea
: 捻転胃虫科 Haemonchidae
亜科 : 捻転胃虫亜科 Haemonchinae
: Haemonchus
: 捻転胃虫 H. contortus
学名
Haemonchus contortus (Rudolphi, 1803), Cobbold, 1898[1]
和名
捻転胃虫

捻転胃虫(ねんてんいちゅう、学名Haemonchus contortus)とは、ヒツジヤギウシなどの第四胃に寄生する吸血性の線虫。捻転胃虫症は畜産業者に大きな経済的損失を与えており、とくに温暖な地域で深刻である。

形態[編集]

虫卵は長さ70〜85 μm、幅およそ44 μmで、黄色がかっており、糞便中から見出される時には内部に16または32細胞期の胚を含んでいる。雌成虫は長さ18〜30 mmで、吸血した血液に満ちた腸管に白色の卵巣が巻き付いており、理容店のサインポールのような紅白の螺旋状の外見をしている。一方雄成虫は長さ10〜20 mmと小さく、特徴的な交接嚢が発達している。

生活環[編集]

雌は1日当たり1万個以上の卵を産み[2]、それが糞便と共に排出される。糞便内の湿潤環境で発生が進み、24〜29 ℃の条件では4〜6日で第1期(L1)幼虫が孵化する。L1および第2期(L2)幼虫は、その形状からラブジチス型(rhabditiform)とも呼ばれ、糞便中の細菌を摂食している。第3期(L3)幼虫はフィラリア型(filariform)となり感染性を持つ。L3幼虫はクチクラを備えているが、乾燥や高温には弱い。ヒツジ・ヤギやその他の反芻動物が草を喫食する際にL3幼虫を飲み込むことで感染する。L3幼虫は反芻胃を通って第4胃に到達し、およそ48時間以内に第4期(L4)幼虫となる。さらに脱皮して成虫となり吸血・交尾によって卵を産む。[3]

ゲノム[編集]

耐性獲得の機序を明らかにし、新規薬剤やワクチンの開発につなげることを期待して、 カルガリー大学グラスゴー大学、Moredun研究所、ウェルカム・トラスト・サンガー研究所の共同研究によるゲノム解読が進められている[4]。ドラフトゲノムが2013年に報告されている[5]

捻転胃虫症[編集]

成虫が第4胃の粘膜で吸血することによって宿主の血液が減り、捻転胃虫症が引き起こされる。主な症状は蒼白、貧血、浮腫、低成長、嗜眠、抑鬱などで、Bottle Jawと呼ばれる顎下の水腫が見られる場合がある。成長が阻害されるだけでなく、突然死を引き起こすこともあり、畜産業者に大きな経済的損失を与えている。駆虫薬で予防・治療が可能であるが、薬剤耐性の獲得が拡がっている。

脚注[編集]

  1. ^ 日本寄生虫学会用語委員会 「暫定新寄生虫和名表」 2008年5月22日 Archived 2011年4月14日, at the Wayback Machine.
  2. ^ Barber's pole worm (Haemonchus contortus) at Australian Wool Limited.
  3. ^ Haemonchus, Ostertagia, and Trichostrongylus spp”. The Merck Veterinary Manual (2006年). 2007年7月1日閲覧。
  4. ^ https://www.sanger.ac.uk/resources/downloads/helminths/haemonchus-contortus.html
  5. ^ Laing et al. (2013). “The genome and transcriptome of Haemonchus contortus, a key model parasite for drug and vaccine discovery”. Genome Biology 14: R88. 

参考文献[編集]

  • 平詔亨ほか著 『家畜臨床寄生虫アトラス』 チクサン出版社 1995年 ISBN 9784885004100

関連項目[編集]