扁平率
扁平率(へんぺいりつ、扁率、扁平度とも、flattening, oblateness)とは、楕円もしくは回転楕円体が、円もしくは球に比べてどれくらい扁平か(つぶれているか)を表す値である。主に扁球に近い天体に対して用いられ、f で表すことが多い。完全な球では値が 0 になり、つぶれるに従って値は 1 に近づく。
楕円または回転楕円体の長半径を a、短半径を b とすると、扁平率は
で定義される。(a - b) : a のように比の形で表すこともある。自転する天体の場合、遠心力によって赤道半径が極半径に比べて大きくなっているため、赤道半径を a、極半径を b として計算する。
地球の扁平率
地球の場合、表面に凹凸があって完全な回転楕円体ではないため、計測の仕方によってこの値は若干変わる。しかし測量の基準としては唯一の数値を定めておかなければならない。日本の測量法施行令第3条第2号[1]は、日本国内の陸地における測量の基準として、GRS 80に基づき、地球の赤道半径(測量法では「長半径」)と扁平率を次のように定義している[2]。
赤道半径 a = 6 378 137m(正確に)
扁平率 :
この定義から、極半径 b = 6 356 752.314 140 356m (近似値)となる。
また扁平率は、0.003 352 810 681 182 319(近似値)である。 離心率の2乗 e^2 = f(2-f)であるから、e^2 = 0.006 694 380 022 900 788(近似値)、 離心率 e は、0.081 819 191 042 815 791(近似値)となる。
アスペクト比(Aspect ratio) 0.996 647 189 318 817 705(近似値)
ただし、海上における測量の基準は上記のものとは微妙に異なっている(水路業務法施行令第2条第2号[3])。これはWGS 84と呼ばれる別の基準を採用したためである(ただし、WGS 84もGRS 80を基にしたものではあるが、数値の導出過程が異なっている。すなわち、扁平率を決定するに当たって、正規化された2次の帯調和重力係数から計算により導出した際に、基となるGRS 80の力学的形状係数J2の有効数字を8桁で打ち切ったために、微妙な差が発生したのである。)。赤道半径(=長半径)は同一(正確に 6 378 137m)であるが、扁平率は、
である。これによると、 極半径 = 6 356 752.314 245 179m(近似値) となり、測量法によるものに比べて、約0.104 824mmだけ長い。したがって、実用上は全く問題とはならない差である。 水路業務法施行令第2条による扁平率 f は、0.003 352 810 664 747 481(近似値)となる。なお、上記導出の経緯から、WGS 84の扁平率の値(及びそこから派生する量の値)は有効数字の観点からはその8桁目以降は意味を持たないのであるが、法令によって(12桁の)数値が定義されている以上、有効数字の議論を超えて「法令上は」意味があることに留意しなければならない。
太陽系の天体の扁平率
太陽は極めて球に近く、その扁平率はおよそ 9 × 10-6 とされる。太陽系の惑星の扁平率は、水星が 0.0006 未満、金星が 0.0002 未満、地球が前述の通りおよそ 0.0033528、火星が 0.00589 ± 0.00015、木星が 0.06487 ± 0.00015、土星が 0.09796 ± 0.00018、天王星が 0.0229 ± 0.0008、海王星が 0.0171 ± 0.0013 である。地球型惑星で比較的小さく、木星型惑星で比較的大きい傾向にある。扁平率が大きい土星は、倍率がそれほど大きくない天体望遠鏡でも、扁平であることが視認できる。実際、土星の極半径が約 54,364km であるのに対し、赤道半径は約 60,268km である。
第二及び第三扁平率
冒頭で定義された扁平率 f は“第一扁平率”と称され、しばしば次のように定義される第二扁平率 f' 及び第三扁平率 f' ' も用いられる。
第三扁平率は、n と表記されることもある。古くはフリードリヒ・ヴィルヘルム・ベッセルが n を子午線弧長の計算に使用している記述が1837年の論文中に認められる。
離心率との関係
楕円の扁平率は、長半径 a と短半径 b の比のみによって定まる値であり、離心率
も同様であるため、扁平率と離心率の一方が与えられると、もう一方の値も定まる。実際、扁平率 f と離心率 e の間には関係式
が成り立つ。例えば、扁平率が 0.1 の楕円の離心率はおよそ 0.43 である。離心率も扁平率と同様に、真円で 0 となり、つぶれるに従って 1 に近づくが、こちらは一般の円錐曲線に対する概念である。
出典
関連項目
参考文献
- 国家画像地図局(現 アメリカ国家地球空間情報局)技術報告8350.2, 7.3節
- König, R. and Weise, K. H. (1951): Mathematische Grundlagen der höheren Geodäsie und Kartographie, Band 1, Das Erdsphäroid und seine konformen Abbildungen, Springer-Verlag, Berlin/Göttingen/Heidelberg
- Ганьшин, В. Н. (1967): Геометрия земного эллипсоида, Издательство «Недра», Москва
- Bessel, F. W. (1837): Bestimmung der Axen des elliptischen Rotationssphäroids, welches den vorhandenen Messungen von Meridianbögen der Erde am meisten entspricht, Astronomische Nachrichten, 14, 333-346