後装式

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。雪融 (会話 | 投稿記録) による 2015年10月31日 (土) 05:28個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (→‎特徴)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

M109自走榴弾砲段隔螺式閉鎖機(尾栓)。
25ポンド野砲の垂直鎖栓式閉鎖機。

後装式(こうそうしき、breech loading)は、銃砲の装填方式を2つに大別した1つで、銃砲身の尾部から砲弾装薬を装填する方式を言う。銃砲口から装填する前装式の対義語。

後込め(あとごめ)、元込め(もとごめ)、砲尾装填式とも呼ばれる。後装式の銃砲を後装銃後装砲ブリーチローダー (breech loader) と言う。後装式では銃砲の尾栓(閉鎖機)に工夫が必要となる。

特徴

前装式は、弾を撃った後、銃口を手元に戻して弾込めの作業をしなければならないのに対し、後装式は発射した姿勢を崩さず、手元で弾込めが可能である。さらに、弾や火薬を槊杖で銃口の奥深くに押し固める手間も無い。このため、前装式に比べて弾丸の装填が容易に迅速に行え、発射速度が速いという長所がある。

一方で、後装式は弾を込めた後、火薬の爆発を後ろに漏らさないように、弾を込めた箇所を完全に密閉する必要があった。しかし、技術力が未熟な時代では閉鎖機構の精度は低く、前装式に較べて故障や暴発などが起こりやすかったため、信頼性が低かった。このため、後装式という機構そのものは、銃の歴史の中でも比較的初期には登場していたにも関わらず、前装式に変わって主力となったのは、各国の工業力が高まった近代に入ってからである。

自動小銃機関銃など、装填の自動化も可能である。迫撃砲などの例外を除くと現代の大砲はほとんどがこの方式である。

構造

燃焼ガスの漏洩を防ぐため、銃砲尾を開閉する必要があるが、完全に密閉し、高温高圧に耐え、迅速に開閉できなければならないため、後装式の設計・製造で最大の困難となる。閉鎖機構は複雑で高い工作技術が必要であり、近代までは後装式の安全性、耐久性、保守性は前装式にかなり劣った。

大砲では尾栓による閉鎖機が使われる。近代的な尾栓には、ねじでねじ込む螺旋式 (screw breech) と、砲身に直角方向に栓を貫通させる鎖栓式 (sliding block breech) がある。では、連射を可能にするため、遊底(ボルト、スライド)が使われる。しばしば、銃砲自体の機構による閉鎖は不完全であり、金属薬莢による閉鎖が必要となる。

歴史

後装式は15世紀ごろまでには登場していたようで、初期の後装式にはフランキ式(仏郎機式)や縦栓式があった。しかしながらこれら初期の後装式砲は燃焼ガスの漏れにより前装式に対して威力が劣っていた。

日本史では、大友宗麟の「国崩」や、加藤清正朝鮮出兵鹵獲した砲などが登場する。

小銃では、17世紀には後装式が現れている。アメリカ独立戦争では、イギリス軍のフリントロック式小銃ファーガソンライフルが投入され、毎分6発という当時としては高い発射速度を誇ったが、数の少なさから戦況に影響はなかった。南北戦争においても前装式ライフルが主力であったが、主に騎兵が使用した後装式スペンサー銃の利点が理解され、戦後大量にあった前装式ライフルが後装式に改造され(アメリカのスプリングフィールドM1865、イギリスのスナイドル銃、フランスのタバティエール銃。何れも金属薬莢を使用して閉鎖を実現)、以降は後装式ライフルが歩兵の標準装備となった。他方、これに前後してプロイセンのドライゼ銃、フランスのシャスポー銃といった紙製薬莢を使用するボルトアクションライフルが開発されている。ドライゼ銃はガス漏れの問題があったが、シャスポー銃では生ゴム製のOリングを使用することで、高度な閉鎖を実現した。

大砲では、近代的な閉鎖機構が18世紀に発明され、イギリスでは1858年にアームストロング砲が制式採用された。しかし、鎖栓をネジで押し付けるというアームストロング砲の閉鎖機構は十分でなく、薩英戦争で尾栓破裂事後を起こしたため、イギリスは再び前装砲に戻っている。後装砲が真に実用的になるのは、1872年にシャルル・ラゴン・ド・バンジュ拡張式緊塞具を発明してからであった。

不発・遅発への対応

撃発に失敗し不発射を起こした際に比較的対応し易い構造である。前裝式の場合は尾栓が無く、不発があった際にも砲口から取り出さなければいけないので専用の工具を必要とし、更に除去作業中に遅発が発生すれば砲身内で加速された砲弾が自分に向かって飛んで来るため大事故を避けられず危険性が高いのに対し、後裝式の場合は尾栓が開けられるのでこれを利用して不発射弾を排除でき、万が一除去作業中に遅発が発生しても、その際に最も危険が高くなる砲口側へ回る必要が無いという利点がある。無論除去作業中に遅発が発生する可能性そのものは排除できないため危険な作業に違いは無いが、作業をしている人に向かって砲身内で加速された砲弾が飛んで来るわけではないので、砲口側からの除去に比べればまだ安全な方である。