巻物
巻物(まきもの)とは図書形態の1つ。巻子本(かんすぼん/けんすぼん)とも。掛軸も含まれる。
概要
折本や冊子形態の書物が現れる以前の図書装丁であり、その歴史は長く、洋の東西を問わず見られる形態である。英語では「scroll」というが、これは escrow(捺印証本)と roll(巻いたもの)からの連想による語であり、単に roll だけでも巻物を意味する。材質には紙のほかパピルスや羊皮紙などが使われ、複数枚をのり付けして片端に木や竹などで作った芯(軸)を付け、巻いていくことで携帯、保管がしやすいようにした(なお、日本の場合を例にとれば、芯(軸)の材料として一般には杉が高級なものには紫檀を材料としたり、漆や蒔絵を施した)。冊子と異なり、文書は紐をほどいて端から読んでいくことしかできず、検索性や一覧性に著しく欠けていたため、巻物を等寸に折り込んだ「折本」や「冊子」が主流となっていった。しかしそのあとも絵巻物や経文などとして長く利用されてきた。現在は新刊本が巻物で発刊されるということはないが、「巻数」「全巻」などの言葉にその名残をとどめている。
歴史
東洋で紙が製作される前(紀元前)、文字は竹簡・木簡として細い竹片や木片に書かれ、紐で編まれて巻かれて保存されていた。その後、紙が発明され、記録用材として使用されるようになっても、その形式が残り、巻かれて保存された。閲覧性の向上のため、その巻物を折ったり、分割するなどして、今日の書籍の形態となった。掛軸も絵を記した巻物の一種と見ることができる。
日本の巻物の事例
日本では巻物は記録媒体としての利用以外に、写経にも使用され、特に平安時代から鎌倉時代にかけて、写経が流行し、平家納経に代表されるなど何万巻もの写経が行われた。また、平安時代から『源氏物語絵巻』のように物語に絵をつけた絵巻物が作成された。文と絵が交互に書かれていることから、これを交互絵巻という。絵画を時間の経過で捉えるという、当時では世界に類例を見ない形態が発生した。これらの絵巻物を観る際は、右から左にかけて観るものであり、物語は右から左へと展開していく。また、「合せ軸」と呼ばれる芯の高低を調整する特殊な芯や本文の前に厚紙や絹で作った縹を加えて装丁するなどの技術が見られた。
裏書
巻物の裏に、注釈や補足事項を書き記す場合がある。これは「裏書」(うらがき)と呼ばれる[1]。また、「勘物」(かんもつ)とも呼ばれている。現代で言う、脚注の様なものである。
その他
脚注
- ^ 松村明監修『大辞泉』(1998年、小学館)