大沼枕山

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大沼枕山の肖像画。明治24年に没する最後まで髷(まげ)を結っていた漢詩人。(大沼千早蔵)

大沼枕山(おおぬま ちんざん、文化15年3月19日1818年4月24日) - 明治24年(1891年10月1日)は江戸時代後期から明治前期の漢詩人。名は厚、字は子寿、通称は捨吉、号は水竹居、臺領、枕山。野にあって詩人として生き、最後まで髷姿を通した。

墓は東京都台東区谷中の瑞輪寺にある。[1]永井荷風は縁者にあたる枕山を「下谷叢話」でその人となりを愛惜こめて伝えている。

略年譜

(以下明治5年までは旧暦)

  • 文化15年(1818年)3月19日 生まれる。父は、大沼次右衛門。幕府の小吏であったが、竹渓と号し詩をよくした。その拝領屋敷は下谷御徒町にあった。
  • 文政10年(1827年)12月24日 父が66歳で没し、大沼家は叔父・次郎右衛門(竹渓弟 号杉井)が継ぎ、枕山は尾張国丹羽郡丹羽村の叔父・鷲津松隠(竹渓弟)の家塾有隣舎に寄寓しここで学んだ。有隣舎には明治の詩壇で活躍した森春濤、松隠亡き後に鷲津家を継いだ益斎の息・鷲津毅堂永井荷風の母方の祖父)が居り共に学んだ。
  • 天保6年(1835年) 江戸に帰り、父・竹渓を知る菊池五山の門を叩き、漢詩人として歩み始める。当時神田お玉ヶ池に“玉池吟社”を開いていた梁川星巌と交遊、その門人の横山(後、小野)湖山、鱸松塘とも親交を深める。
  • 天保8年(1837年) 房州を旅し詩作。
  • 天保9年(1838年) 初めての詩集『房山集』を刊行。序文は菊池五山、塩田随斎、題詞は宮沢雲山、梁川星巌。
  • 天保11年(1840年) 『枕山詠物詩』刊行。この年の暮れ、芝増上寺学頭寮の梅癡上人のもとに寄寓。
  • 天保15年(1844年)12月 増上寺学頭寮を出て下谷御徒町に家を借りる。
  • 弘化4年(1847年) 妻を娶る。
  • 嘉永2年(1849年) 『枕山絶句鈔(枕山詩鈔七絶)』刊行。この年初冬、下谷御徒町三枚橋南畔に家を建て、新居を“考詩閣”と名づけ詩社(下谷吟社)を開く。
大沼枕山の書
  • 嘉永3年(1850年) 『同人集 初編 二巻』刊行。
  • 嘉永4年(1851年) 『同人集 二編 二巻』刊行。この頃、結城の藩校で経書の講義をする。
  • 嘉永6年(1853年) 『詠雪詩』刊行。
  • 安政2年(1855年)『同人集 三編 二巻(服部孝編、大沼枕山批判)』刊行。10月2日安政の江戸大地震勃発。いち早く長詩「地震行」を出版し、震災の惨状と民の救済を訴える。
  • 安政3年(1856年)9月晦日 妻病没。三田台裏町薬王寺の大沼家の墓に葬る。戒名は積心院一乗妙道大姉。
  • 安政4年(1857年) 信州を遊歴。この年、叔父・杉井のなかだちで蔵前の札差・太田嘉兵衛の娘・梅(天保4年(1833年)6月6日生まれ)を後妻として迎える。
  • 安政6年(1859年)初秋 『枕山詩鈔初編 三巻』を刊行(天保6年から嘉永2年までの作品集)。
  • 万延元年(1860年)2月 長男・錀太郎が生まれたが、6月2日夭折。
  • 文久元年(1861年
    • 10月 『枕山詩鈔第二編 三巻』を刊行(嘉永4年から安政5年までの作品集)。
    • 12月22日 長女・嘉年(かね)が生まれる。
  • 文久2年(1862年)8月30日 宮侍・太田一に再縁していた母没、日暮里の禅宗青雲寺太田家墓に葬る。戒名は月桂院蘭室智秀大姉。
  • 文久4年(1864年) 『大沼枕山編 竹渓先生遺稿』刊行。
  • 元治元年(1864年)6月2日 新吉が生まれる。
  • 明治2年(1869年) 『東京詞』三十詩を賦す。『東京楽事』として折り本刊行。時事を諷したため、弾正台の糾問を受けたと言われている。
  • 明治3年(1870年) 古河藩の藩校にて経学詩文の講義をする。
  • 明治8年(1875年) 『下谷吟社詩 三巻』刊行。
  • 明治11年(1878年) 『江戸名勝詩』刊行。『江戸夢華詩』(沖冠嶺編輯 植村蘆洲節物詩と江戸名勝詩の合本 出板人中嶋清兵衛)刊行。
  • 明治12年(1879年)1月10日 義妹・小池旭(加賀の人、画師)、三河吉田(豊橋市)の宿にて没。戒名は登輝水琴信女。
  • 明治17年(1884年)11月30日 成島柳北没(48歳)。柳北発刊『花月新誌』(明治10年発刊、柳北の死によって17年10月、第百五十五号をもって廃刊)には枕山、芳樹(嘉年)、湖雲(新吉)が寄稿していた。この年『江戸繁昌詩』(「江戸夢華詩」10月17日改題御届 出板人江島伊兵衛)刊行。
  • 明治18年(1885年) 『歴代詠史百律』刊行。
    • 8月8日 門弟・植村蘆洲没(56歳)。墓は墨田区蓮花寺。墓碑銘は枕山の手で「山東野老埋骨之處」とある。
    • 10月24日 門弟・西川善次郎(旧明石藩士西川久吉次男 号鶴林(かくりん) 文久3年(1863年)8月19日生まれ)の妻となった嘉年が長女を出産、ひさと名づける。
  • 明治23年(1890年) 仲御徒町に鉄道が敷かれることになり、春、池之端(下谷花園町15番地)へ転居する。
    • 4月13日 ひさの妹・甲が生まれる。
    • 10月 鶴林(西川善次郎)が養子となり大沼家を継ぐ。
  • 明治24年(1891年)10月1日 病没。谷中瑞輪寺に葬る。戒名は昇仙院枕山日遊居士。
    谷中の瑞輪寺に建つ枕山の墓
  • 明治26年(1893年) 『枕山先生遺稿(大沼嘉禰編)』刊行。序文は杉浦梅潭。

著書・編著

  • 『房山集』 1冊 天保9年(1838)刊
  • 『枕山詠物詩』 1冊 天保11年(1840)刊
  • 『枕山詩鈔七絶』 1冊 嘉永2年(1849)刊
  • 大沼枕山・編 『同人集 初編』 2冊 嘉永3年(1850)刊
  • 大沼枕山・編 『同人集 二編』 2冊 嘉永4年(1851)刊
  • 『詠雪詩』 1冊 嘉永6年(1853)刊
  • 服部孝・編、大沼厚・批判 『同人集 三編』 2冊 安政2年(1855)刊
  • 『枕山詩鈔 初編』 3冊 安政6年(1859)刊
  • 『枕山詩鈔 二編』 3冊 文久元年(1861)刊
  • 『枕山詩鈔 三編』 3冊 慶応3年(1867)刊
  • 大沼枕山編 『竹渓先生遺稿』 1冊 文久4年(1864)刊
  • 『観月小稿』 1冊 慶応元年(1865)刊
  • 大沼枕山・編 「東京楽事(東京詞)」1帖 明治2年(1869)刊
  • 『下谷吟社詩』 3冊 明治8年(1869)刊
  • 『江戸名勝詩』 1冊 明治11年(1875)刊
  • 『歴代詠史百律』 1冊 明治18年(1885)刊
  • 大沼嘉年・編 『枕山先生遺稿』 1冊 明治26年(1893)刊
  • 『枕山大沼翁雑詩』 1冊 刊年不明
  • 『枕山随筆』 5冊(自筆詩稿)

  1. ^ “大沼枕山墓 "[1]は、1993年3月に台東区史跡に登載された。登載理由は「下谷に生まれ、幕末・明治時代前期に活躍し、江戸時代最後の漢詩人といわれた日本漢詩史上重要な人物である。また、当時の代表的な詩社、下谷吟社を開き、ここを中心に江戸の風物を詠み続けた。」としている。

参考文献

  • 信夫恕軒『大沼枕山傳』 「恕軒遺稿」
  • 河合次郎『枕山先生逸事』 「中正日報」 明治24年(1891)10月11日~11月20日
  • 宮本小一『瑞輪吟集』 瑞輪寺蔵 私家版 大正3年(1914)
  • 永井荷風『下谷叢話』 春陽堂 大正15年(1926)のち改訂して冨山房百科文庫
  • 玉林晴朗“大沼枕山と春性院守道” 「伝記」5巻7号 昭和13年(1938)
  • 今関天彭“大沼枕山” 「書苑」3巻11号 昭和14年(1939)
  • 森銑三“大沼枕山のこと” 「伝記」7巻10号 昭和15年(1940)
  • 今田哲夫“大沼枕山と股野達軒” 「文学」第34巻第3号 昭和41年(1966)
  • 前田愛『幕末・維新期の文学』 法政大学出版局 昭和47年(1972)
  • 富士川英郎『江戸後期の詩人たち』 筑摩叢書 昭和48年(1973)
  • ドナルド キーン『日本文学散歩』 朝日選書 昭和50年(1975)
  • 『漢詩人・大沼枕山―俳人友昇をめぐる人々―』 福生市郷土資料室[2]編 昭和60年(1985)
  • 『大沼枕山来簡集』 福生市郷土資料室編 昭和63年(1988)
  • 『成島柳北・大沼枕山』 江戸詩人選集第十巻 岩波書店 平成2年(1990)
  • 『漢詩人たちの手紙―大沼枕山と嵩古香―』 監修/尾形仂 ゆまに書房 平成6年(1994)
  • 安田吉人“漢詩人大沼枕山の生涯[3] 「調布日本文化」第5号 調布学園女子短期大学平成7年(1995)
  • “大沼枕山墓”[4]「台東区の文化財保護第2集」台東区教育委員会 平成10年(1998)
  • 色川大吉『明治の文化』 岩波現代文庫 岩波書店 平成19年(2007)
  • 齋藤希史『漢文学と近代日本』 日本放送出版協会 平成19年(2007)
  • 鷲原知良“明治期の大沼枕山について--『明治名家詩選』を中心に”「国文学解釈と鑑賞」平成20年(2008) 73(10), 153-160
  • 内田賢治「大沼枕山逸事集成」太平書屋 太平文庫76 平成26年(2014)

関連項目

外部リンク

  • 大沼枕山叢話[5]
  • 福生市郷土資料室・大沼枕山関係収蔵品[6]