ホス狂い

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ホス狂い(ほすぐるい)あるいはホス狂(ほすきょう)は[1]ホストに没頭する女性を示す言葉[2]ソーシャルネットワークサービス(SNS)で用いられる言葉で、これを自称する女性たちは誇らしさが見えると、ライターの宇都宮直子と作家の大泉りかは指摘している[3][2]。類語に一部の界隈で使われる言葉として、一人のホストに尽くす女性客を「担当狂い」と称する[4]。大泉はホス狂いと担当狂いの境界線は、女性客からすると限りなく近いと述べている[4]

定義

YouTuberとして「ぶーちゃんねる」で活動しているあおいは、当初自分が名乗るに当たって抵抗があったことに触れている[5]。ただ、ホス狂いという言葉は金銭を稼いでそれをホストクラブにて使うことができる人間でないと名乗れないもののため、歌舞伎町においてこの言葉が職業や肩書として一つのブランドになっているという認識を語っている[6]。また、宇都宮がインタビューしたある女性はホス狂いの定義について、どのような職業であるにもかかわらず自分の月収の半分以上をホストクラブに使う人と述べている[7]

かつては地位や名声を持った女性がホストクラブに通うことは、陰口を言われつつも一種のステータスとして認識されていた[8]。その認識は2022年でも変わっておらず、女性がホストクラブに通って大金を使って接客を受けることが、繁華街以外では特殊なこととして扱われているということに宇都宮は触れている[8]

習俗

6階建ての三経20ビル(旧商業ビル2番館[9])は大泉りか『ホス狂い』にて自殺未遂をしたホス狂いの話の中で紹介された[10]竹山実設計[11]1970年竣工[11]

ホス狂いを自称する人々の行動は、SNSが主となる[12]。彼女たちはホストクラブでの購入品や伝票の写真のアップロード、ホストクラブで使うための金額を稼ぐための風俗での勤務状況やホストに対する思いの吐露などを行うほか、それに対する自嘲を発信する[12]。中にはインフルエンサーとして自身の発信物から単著を出した人間も存在する[12]。また、彼女たちは2019年に発生した歌舞伎町ホスト刺殺未遂事件のような事件で加害者にシンパシーを抱くこともあるが[13]、2年後には過去の出来事として認識されていることに宇都宮は驚いたと述べている[14][注 1]。ただ、同様の事件は歌舞伎町で頻発しているものの、警察沙汰になることは少ない[16]。理由としてホストにとって客が罪悪感でより金を使う客になることが挙げられる[16]。宇都宮は同様の事件に関して、大手新聞社の社会部担当記者が本当の被害者は男性であるという意見を紹介している[17]

ホス狂いになる女性は、元々バンギャジャニオタなどの経歴を持つ者も多い[18]。これはヴィジュアル系アイドルはホストと見た目に共通項が見られることや、2022年前後のホストのアイドル化現象によるものも影響している[18]。またホストを女性客が「推し」として応援するという環境の誕生と成長により、客自身の消費できる量を上回る購買が発生している[19]。他にもメン地下と呼ばれるメンズ地下アイドルや、読者モデルのファンが多いと大泉のインタビューでは言われている[20]

大泉は国税庁の「平成30年分民間給与実態統計調査結果について」での女性の給与所得者の年間平均給与が293万円で、一般企業の給与でエース[注 2]の座を得ることは難しいとして、水商売アダルトビデオ風俗業パパ活などでその資金を得ていると指摘している[22]。また大泉は取材を通じて、インタビューを受けた女性の多くが担当のホストに使う目的の存在で労働意欲が沸くと述べていたことに言及している[23]。ホス狂いを称する女性たちは、多くの金を支払うことでホストに入れ込むようになるが、大泉はこれについてサンクコスト効果が恋愛面で機能してのめりこんでいくとの考えを述べている[24]。大泉がインタビューを行った女性の一人は、ホス狂いは評価制度の家庭で育っていることが多いとして、承認欲求を満たすためにホストクラブに通うと述べている[25]。他にも「担当」という言葉の存在が、ホス狂いの女性に対してホストがメンタルケアを施す必要を発生させていると大泉は指摘している[26]。また、ホストクラブはこうした労働環境にある女性にとってのサードプレイスとなっている[27]

受容

サイコミにて連載の『明日、私は誰かのカノジョ』では5、6巻にてゆあてゃというキャラクターが登場する[28]。彼女は量産型女子のファッションに身を包み、担当のために風俗業で稼ぎ、大金をホストクラブで払っている[28]。ゆあてゃは退廃的で魅力的なキャラクターとして10代から20代の女性に支持され、2021年6月の雑誌『LARME』43号にてゆあてゃがモデルとして表紙を飾るイラストが誌面に掲載された[28]。また、同作のファンであるファッションモデル佐藤ノアがゆあてゃの化粧やコーディネートを紹介した[28]。本作の舞台のモデルとなったNew Generationグループの「CRUISE」では単行本発売日にゆあてゃのパネルを配置したほか、客の送迎に使う「ホスワゴン」をゆあてゃの画像でラッピングした[29]。これ以降、歌舞伎町でゆあてゃと似た格好で歌舞伎町を歩く女性が増えたことを佐々木は指摘している[28]

脚注

注釈

  1. ^ 歌舞伎町のマンションのエントランスにて、客がホストの腹部を刺して重傷を負わせた事件[15]
  2. ^ 担当のホストの売上に最も貢献する客[21]

出典

  1. ^ 宇都宮 2022, p. 35.
  2. ^ a b 大泉 2022, p. 2.
  3. ^ 宇都宮 2022, pp. 35–36.
  4. ^ a b 大泉 2022, p. 112.
  5. ^ 宇都宮 2022, pp. 135–136.
  6. ^ 宇都宮 2022, p. 136.
  7. ^ 宇都宮 2022, p. 250.
  8. ^ a b 宇都宮 2022, p. 56.
  9. ^ 馬場ワトソン「ガイドブックに載らない3つの歌舞伎町ディープスポット」『ブッチNEWS』、エキサイト、2014年11月23日。 オリジナルの2022年11月13日時点におけるアーカイブhttps://web.archive.org/web/20221113143313/https://www.excite.co.jp/news/article/Bucchinews_811/2022年11月13日閲覧 
  10. ^ 大泉 2022, pp. 100–102.
  11. ^ a b 矢部智子「モダン建築の宝庫?!街角たてもの案内」『東京人』第454巻、都市出版、54頁、2022年6月3日。全国書誌番号:4438618 
  12. ^ a b c 宇都宮 2022, p. 65.
  13. ^ 宇都宮 2022, p. 36.
  14. ^ 宇都宮 2022, p. 67.
  15. ^ 佐々木 2022, p. 30.
  16. ^ a b 宇都宮 2022, p. 253.
  17. ^ 宇都宮 2022, p. 252.
  18. ^ a b 大泉 2022, p. 68.
  19. ^ 大泉 2022, pp. 69–70.
  20. ^ 大泉 2022, p. 83.
  21. ^ 大泉 2022, p. 15.
  22. ^ 大泉 2022, p. 41.
  23. ^ 大泉 2022, p. 75.
  24. ^ 大泉 2022, p. 58.
  25. ^ 大泉 2022, p. 39.
  26. ^ 大泉 2022, p. 122.
  27. ^ 大泉 2022, p. 220.
  28. ^ a b c d e 佐々木 2022, p. 23.
  29. ^ 大泉 2022, pp. 107–108.

参考文献