ネーター環

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数学においてネーター環(ネーターかん、Noetherian ring)は、イデアルの昇鎖条件などのある種の有限性を持つ環の一種。エミー・ネーターによって提唱された。イデアルが有限生成であるということからは単項イデアル整域の一般化とも見ることができる。

定義

環に対して、以下の 3 条件は同値である。

  1. (昇鎖条件):左イデアルの任意の昇鎖列は有限回で停止 。
  2. (極大条件):左イデアルの空でない任意の族は必ず包含関係に関する極大元を持つ。
  3. (有限型条件):任意の左イデアルは有限生成

これらの条件のどれか一つ、従って全部を満たす環は左ネーター的であるあるいは左ネーター環であるという。「左イデアル」を全て「右イデアル」に置き換えても同様のことが成り立ち、右ネーター環が定義される。左ネーター的かつ右ネーター的である環は両側ネーター環と呼ぶが、考えている環が可換環であれば左ネーター環あるいは右ネーター環は自然に両側ネーター環となる。ゆえにネーター的可換環は単にネーター環と呼ぶ(左右の区別が明確であって誤解の虞のない場合には、左ネーター的あるいは右ネーター的であることをネーター的と省略して呼ぶこともあるので、ネーター環という用語が必ずしも可換ネーター環を意味するものというわけではない)。

判定条件としては、任意の素イデアルが有限生成(コーエン)がある。

諸概念

ネーター環の定義において包含関係の双対をとった、降鎖条件、極小条件を満たす環をアルティン環と呼ぶ。アルティン環は一般にネーター環となり、組成列を持つ。

ネーター環の定義において、左または右からの積を加群への左または右作用に読み替え、環のイデアルを環上の部分加群と読み替えることによりネーター加群の概念を得る。

ヒルベルトの基底定理

ネーター環上の多項式環はまたネーター環である。これをヒルベルトの基底定理と呼ぶ。この定理の逆は、岡潔コーエンによって独立に示された。[要出典] 環上の有限生成環は多項式環の準同型像であるから、基底定理からはネーター環上の有限生成環が再びネーター環となることが従う。また同様にしてネーター環上の形式的べき級数環もネーター環となる。

次元

可換環 A の素イデアル P に対して、真の減少列

の長さを r と定める。P で始まる素イデアルの真の減少列の長さの最大値を P高さ (height) といい、ht P で表す。また、A の素とは限らないイデアル I に対しては、その高さ ht II を含む素イデアルの高さの最小値と定める。A がネーター環であるならば、Krullの標高定理によって任意の素イデアルの高さは有限である。ネーター環 A次元(dimension、またはKrull次元 Krull dimension)を、PA の素イデアル全体を動くときの ht P の最大値と定義する。ネーター環の次元は、A の素イデアルの真の上昇列の長さ(これは、ネーター環の定義から有限)の最大値と一致する。ネーター環の Krull 次元は常に有限になるとは限らない。

関連項目