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'''箒虫動物'''(ほうきむしどうぶつ、{{sname||Phoronida}})は、[[キチン質]]の[[棲管]]にすむ海産の[[底生生物|底生]][[無脊椎動物]]。独立の動物[[門 (分類学)|門]]を構成するが種数は少なく、現生種は2[[属 (分類学)|属]]10数[[種 (分類学)|種]]のみが知られる<ref name=bd/>。
'''箒虫動物'''(ほうきむしどうぶつ、[[学名]]:Phoronid)は、比較的小さな[[動物]]の門で、フォロニス属とフォロノプシス属の2つの属に20種弱が知られている。ホウキムシは[[ミミズ]]に似ているが、多くの[[環形動物]]や[[脊椎動物]]のように体に沿った[[消化管]]ではなく、途中でUターンして口の近くから排出する消化管を持っている。極地方を除き全ての海域で見られる。400mまでの深さに住むが、多くは0から70mの間に住む。寿命は約1年だと考えられている。成体は[[キチン]]質の管を分泌し、その中で暮らす。この管は海底の土や砂の中に埋められるか、岩に固定される。岩に固定される場合は群体を作り、互いにねじれ合って離れ難くする。[[石灰岩]]や[[貝殻]]を溶かして穴を開け、その中で生活する種もある。


和名は{{仮リンク|触手冠|en|Lophophore}}が[[箒]]のように見えることから<ref name=bd/>。学名の{{sname|Phoronida}}は、[[ギリシア神話]]の女神フォロニス([[イーオー]]の別名)に由来する<ref name=bru/>。
口の周りの[[触手]]にある[[繊毛]]で餌を集める。[[外肛動物]]や[[腕足動物]]とともに、箒虫動物も[[触手冠動物]]に含まれ、1つの門とされる。北アメリカ西岸で見られる30cmほどでオレンジ色の {{Snamei||Phoronopsis californica}}、北アメリカ沿岸で見られる12cmほどの {{Snamei||Phoronis psammophila}}、ヨーロッパの多くの海岸で見られる {{Snamei||Phoronis hippocrepia}} など、10種程度が知られている。


== 特徴 ==
50cmほどの長さに達するものもいるが、ほとんどは細い体を持つ。例えば {{Snamei||Phoronopsis harmeri}} は20cmの長さだが直径は3mmしかない。しかし多くの種はこれより短く、{{Snamei||Phoronis hippocrepia}} は3-5cmの長さである。最も小さい種の {{Snamei||Phoronis ovalis}} は、たった6mmしかなく、[[カキ (貝)|カキ]]の殻上で1cm2あたり150匹も集まって群体で生活している。
体は[[蠕虫]]状で、胴部の一方の端に触手冠、他方に端球と呼ばれる膨らみを持つ。小さいものでは体長5[[センチメートル]]程度、大きいものでは25センチメートルに達する。体表は薄いクチクラに覆われる<ref name=bd/>。体色はふつう[[肌色]]で、[[黒]]や[[茶色]]のこともある<ref name=emig/>。


触手冠は繊毛の生えた触手が環状に並んだ構造で、スリット状の[[口]]はそれに囲まれている。口は口上突起に覆われている。[[消化管]]は口から伸び、端球のなかで膨らんで[[胃]]になる。胃から触手冠側に折り返すように[[腸]]が伸び、触手冠の外側に開く[[肛門]]につながる<ref name=bd/><ref name=bru/>。そのため、消化管は全体としてU字型になる。
箒虫動物は[[体腔]]を持つ動物である。消化管は短い食道が胃につながり、湾曲しながら腸を通って口付近の肛門まで続く構造をしている。[[循環器系]]は、1本の[[動脈]]と[[静脈]]が[[毛細血管]]で繋がった単純な構造をしている。触手の1本1本にも血管がめぐっている。血液はほぼ無色であるが、[[ヘモグロビン]]に似た色素が含まれ、酸素の運搬を助けている。


真[[体腔]]を持つ。体は前体(口上突起)、中体(触手冠の基部)、後体(胴部)の3体節性で、[[体腔]]もそれに対応して3つに分かれている<ref name=bru/>。すなわち、口上突起内の前腔、触手冠の基部にあって触手内部にも伸びる中腔、胴部の体腔を成す後腔の3つの体腔を持つ。体腔液中には数種類の[[細胞]]がある<ref name=bru/>。
[[神経系]]は口から肛門まで続く[[神経節]]、触手の基部にある神経環、神経節から体表に沿って伸びる1本か2本の巨大神経繊維からなっている。2つの管状の排出器を持つ。腎管の形状は種を分類する手がかりになる。
[[ファイル:Phoronida.gif|150px|left|thumb|箒虫動物の体の構造。]]
発達した[[閉鎖血管系]]を持つ<ref name=bd/>。主な[[血管]]は、端球側から触手冠側に血液を流す導入性血管と、その逆の導出性血管である。血液中には、[[ヘモグロビン]]を含む[[赤血球]]があり、触手冠で取り込まれた酸素は導出性血管から体中に運ばれる。血管は胃と接触しており、栄養分を胃から血液中に取り込んでいると考えられる<ref name=bru/>。胴部に1対の[[腎管]]があり、老廃物の排出のほか、[[配偶子]]の放出経路にもなる<ref name=bru/>。


固着生活に伴って頭部が縮小しているため、明瞭な[[脳]][[神経節]]は持たない。[[中枢神経系]]は触手冠基部の表皮内にある神経環で、そこから触手冠や[[筋肉]]に[[神経]]が伸びる。表皮と、その下にある環筋層の間に神経の張り巡らされた層がある<ref name=bru/>。
箒虫動物は[[雌雄同体]]または[[雌雄異体]]で、[[無性生殖]]をする。[[配偶子]]は腎管を通って放出され、受精は体内で行われることが多い。繁殖には2つの異なった戦略がとられる。 {{Snamei||Phoronis ovalis}} などの種は卵黄の多い大きな卵を12-25個と少量生む。これらの卵は親の管の中で育てられ、孵化するまで外に出ない。もう1つの戦略は、小さな卵を500個以上生み、すぐに外に放出するものである。卵は2,3日後に孵化しアクチノトロカ幼生となる。幼生は[[プランクトン]]を食べながら成長し、2-3週間で成体となる。変態は30分以内に完了する。
{{See also|触手冠動物#特徴}}
== 繁殖と発生 ==
横[[分裂]]や[[出芽]]による[[無性生殖]]のほかに、[[有性生殖]]も行う。[[雌雄同体]]の種と[[雌雄異体]]の種をともに含む。
[[ファイル:Phoronid ASlotwinski.jpg|thumb|アクチノトロカ幼生。]]
繁殖様式は保育型、放任型、保護型の3つに分類できる<ref name=bd/>。保護型は{{snamei||Phoronis ovalis}}1種のみで知られるもので、受精卵は母親の棲管内で発生し、[[ナメクジ]]様の[[幼生]]になって、短期間の浮遊生活を送る(アクチノトロカ幼生期はない)。[[ホウキムシ]]や[[ヒメホウキムシ]]など保育型の種では、[[精子]]は凝集して精包になり、配偶相手に受け渡される。精子は相手の体内に入り込んで[[受精]]し、受精卵は体外に放出されて、しばらく母親の体表に付着して発生する。その後、アクチノトロカ幼生として孵化し、浮遊生活を始める。放任型では、受精卵が親の体表に付着する時期がなく、はじめから海水中で生活する<ref name=bd/>。いずれの場合も、[[卵割]]は[[卵割#割球の配置|放射性]]の[[卵割#全割|全等割]]。


アクチノトロカという幼生の名は、まだ成体との関係がわからなかったころに、幼生のみが新種として[[記載]]され、{{snamei|Actinotrocha}}という属名を名付けられたことに由来する<ref name=bd/>。この幼生も、成体と同じく体は3つの部位に分かれる<ref name=bru/>。
箒虫動物は触手が傷つくと再生することができ、特に {{Snamei||Phoronis ovalis}} などの種は、卵を育てるために自らわざと切り落とすことがある。卵が孵化すると、触手は再生される。


== 分布と生態 ==
箒虫動物は水ごと食べ物を吸い込む。水流に向かって触手を動かし、やってきた食物の破片を口に運ぶ。表皮から直接アミノ酸を取り込むこともできる。
[[ファイル:Phoronis Maria Grazia Montanucci2.jpg|thumb|群生するフォロニス属の一種。]]
南極海を除く世界中の海域で見られる。多くの種は[[汎存種|広域分布種]]である<ref name=emig/>。[[潮間帯]]の泥底から、水深400[[メートル]]の海底まで、垂直的にも広い範囲に生息する<ref name=bru/>。
[[ファイル:Nur03506.jpg|thumb]]
寿命は約1年と考えられている<ref name=emig/>。成体は[[キチン]]質の棲管を分泌し、その中で暮らす。この管は海底の土や砂の中に埋められるか、岩や貝殻に固定される<ref name=emig/>。岩に固定される場合は、多数の個体の棲管同士が癒合し、群生する場合が多い<ref name=bru/><ref name=bd/>。埋在性の場合は単独である<ref name=emig/>。ホウキムシは、砂の中に作られる[[ムラサキハナギンチャク]]の棲管に[[共生]]することがある<ref name=bd/>。


膨らんだ端球によって体を棲管内に固定していて、[[魚類]]や[[腹足類]]、[[線虫]]類などの[[捕食者]]が接近すると、素早く管の奥に身を隠す<ref name=bru/><ref name=emig/>。体壁に環筋と縦筋の[[筋肉]]層を持つもののその力は弱く、棲管に出てしまうとほとんど動けない<ref name=bru/>。触手冠は食われたり[[自切]]したりして失われても、[[再生]]することができる<ref name=bru/><ref name=emig/>。
箒虫動物は固い構造を持たないため、[[化石]]はほとんど残っていないが、巣穴と思われるもの[[デボン紀]]以降の地層で見つかっている。また[[カンブリア紀]]の {{Snamei||Iotuba chengjiangensis}} の化石は、U字型の消化管と触手を持つため、箒虫動物の1種であると見られている。らに、hederellids言われる管状の謎の化石も箒虫動物と関係がある可能性る。


触手冠を使って[[繊毛粘液摂食]]を行い<ref name=bru/>、水中の[[藻類]]や無脊椎動物の幼生、[[デトリタス]]などを食べる<ref name=emig/>。触手に生えた繊毛が水流を起こし、流れてきた餌の粒子は粘液に付着し、繊毛によって口に運ばれる<ref name=bru/>。
{{デフォルトソート:ほうきむしとうふつ}}


== 系統 ==
{{See also|触手冠動物#系統進化|腕足動物#系統}}
箒虫動物・[[腕足動物]]・[[外肛動物]]の3群は伝統的に[[触手冠動物]]としてまとめられ、発生様式や形態形質から[[新口動物]]に含まれると考えられていた。しかし、[[分子系統学]]によってこれらの動物は[[旧口動物]]、そのなかでも[[冠輪動物]]の[[系統]]に属すると考えられるようになった。

冠輪動物に含まれる各門の系統関係は不明確である。箒虫動物は腕足動物と近縁であると考えられることが多く、腕足動物と箒虫動物を併せた{{仮リンク|腕動物|en|Brachiozoa}}という分類群も提唱されている<ref name=bd/>。箒虫動物は腕足動物の一部から進化したと考える研究者は、箒虫動物を腕足動物門の亜門とする体系を提唱している<ref name=cohen/>が、確たる結論はない<ref name=saito/>。

== 化石 ==
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== 分類 ==
以下の2属に分類されている。前者は触手冠と胴部の間に襟襞と呼ばれる部位を持つが、後者は襟襞を持たない<ref name=bd/>。
*[[フォロノプシス属]] {{snamei||Phoronopsis}}
*[[フォロニス属]] {{snamei||Phoronis}} - [[ホウキムシ]]、[[ヒメホウキムシ]]など

== 参考文献 ==
{{reflist|refs=
<ref name=bru>{{cite book |last=Brusca |first=RC |coauthors=Brusca, GJ
|title=Invertebrates |edition= 2nd ed |year=2003 |publisher=Sinauer Associates, Inc. |isbn=9780878930975 |pages=773-778}}</ref>
<ref name=bd>{{cite book|和書|author=馬渡峻輔|chapter=箒虫動物門|title=無脊椎動物の多様性と系統(節足動物を除く)|editor=白山義久(編集)|others=岩槻邦男・馬渡峻輔(監修)|year=2000|publisher=[[裳華房]]|isbn=4785358289|pages=227-229}}</ref>
<ref name=emig>{{cite book |last=Emig |first=CC |title=Grzimek’s Animal Life Encyclopedia |year=2003 |publisher=Thompson Gale |isbn=0787653624 |url=http://paleopolis.rediris.es/Phoronida/EMIG/REPRINTS/232.pdf |edition=2 |editor=B Grzimek, D G Kleiman, M Hutchins |pages=491–495 |chapter=Phylum: Phoronida|volume=2: Protostomes}}</ref>
<ref name=cohen>{{cite journal |last=Cohen |first=BL |title=Monophyly of brachiopods and phoronids: reconciliation of molecular evidence with Linnaean classification (the subphylum Phoroniformea nov.) |journal=Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences |year=2000 |volume=267 |issue=1440 |pages=225-231 |doi=10.1098/rspb.2000.0991}}</ref>
<ref name=saito>{{cite book |和書 |author=斎藤道子 |chapter=触手冠動物の起源と腕足動物の進化 |title=海洋の生命史 |editor=西田睦(編集) |series=海洋生命系のダイナミクス |publisher=[[学校法人東海大学出版会|東海大学出版会]] |isbn=9784486016854 |pages=63-81}}</ref>
<ref name=cohen2>{{cite journal |last=Cohen |first=BL et al. |title=Molecular phylogeny of brachiopods and phoronids based on nuclear-encoded small subunit ribosomal RNA gene sequences |journal=Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences |year=1998 |volume=353 |issue=1378 |pages=2039-2061 |doi=10.1098/rstb.1998.0351 |url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1692429/pdf/WBXWFK1XG0RE68JE_353_2039.pdf |format=PDF}}</ref>
<ref name=emig2>{{cite journal |last=Emig |first=CC |title=Fossil Phoronida and their inferred ichnotaxa |journal=Carnets de Géologie / Notebooks on Geology - Letter / Note brève |year=2010 |url=http://paleopolis.rediris.es/Phoronida/EMIG/REPRINTS/300.pdf |format=PDF |volume=CG2010_L03}}</ref>
<ref name=tw>{{cite book |last=Taylor |first=PD |coauthors=Wilson, MA |year=2008 |chapter=Morphology and affinities of hederelloid "bryozoans" |pages=301-309 |editor=Hageman, SJ, Key, MM, Jr., and Winston, JE (eds.) |title=Bryozoan Studies 2007: Proceedings of the 14th International Bryozoology Conference, Boone, North Carolina, July 1-8, 2007 |series=Virginia Museum of Natural History Special Publication 15 |url=http://www3.wooster.edu/geology/taylorwilson08.pdf |format=PDF}}</ref>
}}

== 外部リンク ==
{{Wikispecies|Phoronida}}
{{Commonscat|Phoronida}}
*{{cite web |author=加藤哲哉 |title=ホウキムシの全形 |work=動物行動の映像データベース |date=2005-03-15 |accessdate=2011-09-27 |url=http://zoo2.zool.kyoto-u.ac.jp/ethol/showdetail.php?movieid=momo050312ps02b}}
*{{cite web |author=加藤哲哉 |title=ホウキムシの頭部 |work=動物行動の映像データベース |date=2005-03-16 |accessdate=2011-09-27 |url=http://zoo2.zool.kyoto-u.ac.jp/ethol/showdetail.php?movieid=momo050312ps03b}}
:[[変態]]直後のフォロニス属の一種の動画。

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[[Category:無脊椎動物]]
[[Category:無脊椎動物]]



2011年9月26日 (月) 18:42時点における版

箒虫動物門
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
亜界 : 真正後生動物亜界 Eumetazoa
上門 : 冠輪動物上門 Lophotrochozoa
: 箒虫動物門 Phoronida
学名
Phoronida Hatschek, 1888
和名
箒虫動物
英名
phoronid
箒のような触手冠を持つ。

箒虫動物(ほうきむしどうぶつ、Phoronida)は、キチン質棲管にすむ海産の底生無脊椎動物。独立の動物を構成するが種数は少なく、現生種は210数のみが知られる[1]

和名は触手冠英語版のように見えることから[1]。学名のPhoronidaは、ギリシア神話の女神フォロニス(イーオーの別名)に由来する[2]

特徴

体は蠕虫状で、胴部の一方の端に触手冠、他方に端球と呼ばれる膨らみを持つ。小さいものでは体長5センチメートル程度、大きいものでは25センチメートルに達する。体表は薄いクチクラに覆われる[1]。体色はふつう肌色で、茶色のこともある[3]

触手冠は繊毛の生えた触手が環状に並んだ構造で、スリット状のはそれに囲まれている。口は口上突起に覆われている。消化管は口から伸び、端球のなかで膨らんでになる。胃から触手冠側に折り返すようにが伸び、触手冠の外側に開く肛門につながる[1][2]。そのため、消化管は全体としてU字型になる。

体腔を持つ。体は前体(口上突起)、中体(触手冠の基部)、後体(胴部)の3体節性で、体腔もそれに対応して3つに分かれている[2]。すなわち、口上突起内の前腔、触手冠の基部にあって触手内部にも伸びる中腔、胴部の体腔を成す後腔の3つの体腔を持つ。体腔液中には数種類の細胞がある[2]

箒虫動物の体の構造。

発達した閉鎖血管系を持つ[1]。主な血管は、端球側から触手冠側に血液を流す導入性血管と、その逆の導出性血管である。血液中には、ヘモグロビンを含む赤血球があり、触手冠で取り込まれた酸素は導出性血管から体中に運ばれる。血管は胃と接触しており、栄養分を胃から血液中に取り込んでいると考えられる[2]。胴部に1対の腎管があり、老廃物の排出のほか、配偶子の放出経路にもなる[2]

固着生活に伴って頭部が縮小しているため、明瞭な神経節は持たない。中枢神経系は触手冠基部の表皮内にある神経環で、そこから触手冠や筋肉神経が伸びる。表皮と、その下にある環筋層の間に神経の張り巡らされた層がある[2]

繁殖と発生

分裂出芽による無性生殖のほかに、有性生殖も行う。雌雄同体の種と雌雄異体の種をともに含む。

アクチノトロカ幼生。

繁殖様式は保育型、放任型、保護型の3つに分類できる[1]。保護型はPhoronis ovalis1種のみで知られるもので、受精卵は母親の棲管内で発生し、ナメクジ様の幼生になって、短期間の浮遊生活を送る(アクチノトロカ幼生期はない)。ホウキムシヒメホウキムシなど保育型の種では、精子は凝集して精包になり、配偶相手に受け渡される。精子は相手の体内に入り込んで受精し、受精卵は体外に放出されて、しばらく母親の体表に付着して発生する。その後、アクチノトロカ幼生として孵化し、浮遊生活を始める。放任型では、受精卵が親の体表に付着する時期がなく、はじめから海水中で生活する[1]。いずれの場合も、卵割放射性全等割

アクチノトロカという幼生の名は、まだ成体との関係がわからなかったころに、幼生のみが新種として記載され、Actinotrochaという属名を名付けられたことに由来する[1]。この幼生も、成体と同じく体は3つの部位に分かれる[2]

分布と生態

群生するフォロニス属の一種。

南極海を除く世界中の海域で見られる。多くの種は広域分布種である[3]潮間帯の泥底から、水深400メートルの海底まで、垂直的にも広い範囲に生息する[2]

寿命は約1年と考えられている[3]。成体はキチン質の棲管を分泌し、その中で暮らす。この管は海底の土や砂の中に埋められるか、岩や貝殻に固定される[3]。岩に固定される場合は、多数の個体の棲管同士が癒合し、群生する場合が多い[2][1]。埋在性の場合は単独である[3]。ホウキムシは、砂の中に作られるムラサキハナギンチャクの棲管に共生することがある[1]

膨らんだ端球によって体を棲管内に固定していて、魚類腹足類線虫類などの捕食者が接近すると、素早く管の奥に身を隠す[2][3]。体壁に環筋と縦筋の筋肉層を持つもののその力は弱く、棲管に出てしまうとほとんど動けない[2]。触手冠は食われたり自切したりして失われても、再生することができる[2][3]

触手冠を使って繊毛粘液摂食を行い[2]、水中の藻類や無脊椎動物の幼生、デトリタスなどを食べる[3]。触手に生えた繊毛が水流を起こし、流れてきた餌の粒子は粘液に付着し、繊毛によって口に運ばれる[2]

系統

箒虫動物・腕足動物外肛動物の3群は伝統的に触手冠動物としてまとめられ、発生様式や形態形質から新口動物に含まれると考えられていた。しかし、分子系統学によってこれらの動物は旧口動物、そのなかでも冠輪動物系統に属すると考えられるようになった。

冠輪動物に含まれる各門の系統関係は不明確である。箒虫動物は腕足動物と近縁であると考えられることが多く、腕足動物と箒虫動物を併せた腕動物英語版という分類群も提唱されている[1]。箒虫動物は腕足動物の一部から進化したと考える研究者は、箒虫動物を腕足動物門の亜門とする体系を提唱している[4]が、確たる結論はない[5]

化石

Hederelloidea化石の電子顕微鏡写真。

箒虫動物は固い構造を持たないため、明確な化石は発見されていない[6]ものの、デボン紀以降の地層で巣穴と思われる生痕化石が見つかっている[3]。またカンブリア紀Iotuba chengjiangensisの化石は、U字型の消化管と触手を持つため、箒虫動物の1種であると主張されている[7]。ほかに、シルル紀からデボン紀の地層に見つかり、Hederelloideaと呼ばれている管状の化石は、コケムシ類と考えられていたものの、箒虫動物であることが示唆されている[8]

分類

以下の2属に分類されている。前者は触手冠と胴部の間に襟襞と呼ばれる部位を持つが、後者は襟襞を持たない[1]

参考文献

  1. ^ a b c d e f g h i j k l 馬渡峻輔 著「箒虫動物門」、白山義久(編集) 編『無脊椎動物の多様性と系統(節足動物を除く)』岩槻邦男・馬渡峻輔(監修)、裳華房、2000年、227-229頁。ISBN 4785358289 
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o Brusca, RC; Brusca, GJ (2003). Invertebrates (2nd ed ed.). Sinauer Associates, Inc.. pp. 773-778. ISBN 9780878930975 
  3. ^ a b c d e f g h i Emig, CC (2003). “Phylum: Phoronida”. In B Grzimek, D G Kleiman, M Hutchins. Grzimek’s Animal Life Encyclopedia. 2: Protostomes (2 ed.). Thompson Gale. pp. 491–495. ISBN 0787653624. http://paleopolis.rediris.es/Phoronida/EMIG/REPRINTS/232.pdf 
  4. ^ Cohen, BL (2000). “Monophyly of brachiopods and phoronids: reconciliation of molecular evidence with Linnaean classification (the subphylum Phoroniformea nov.)”. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences 267 (1440): 225-231. doi:10.1098/rspb.2000.0991. 
  5. ^ 斎藤道子 著「触手冠動物の起源と腕足動物の進化」、西田睦(編集) 編『海洋の生命史』東海大学出版会〈海洋生命系のダイナミクス〉、63-81頁。ISBN 9784486016854 
  6. ^ Cohen, BL et al. (1998). “Molecular phylogeny of brachiopods and phoronids based on nuclear-encoded small subunit ribosomal RNA gene sequences” (PDF). Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences 353 (1378): 2039-2061. doi:10.1098/rstb.1998.0351. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1692429/pdf/WBXWFK1XG0RE68JE_353_2039.pdf. 
  7. ^ Emig, CC (2010). “Fossil Phoronida and their inferred ichnotaxa” (PDF). Carnets de Géologie / Notebooks on Geology - Letter / Note brève CG2010_L03. http://paleopolis.rediris.es/Phoronida/EMIG/REPRINTS/300.pdf. 
  8. ^ Taylor, PD; Wilson, MA (2008). “Morphology and affinities of hederelloid "bryozoans"”. In Hageman, SJ, Key, MM, Jr., and Winston, JE (eds.) (PDF). Bryozoan Studies 2007: Proceedings of the 14th International Bryozoology Conference, Boone, North Carolina, July 1-8, 2007. Virginia Museum of Natural History Special Publication 15. pp. 301-309. http://www3.wooster.edu/geology/taylorwilson08.pdf 

外部リンク

  • 加藤哲哉 (2005年3月15日). “ホウキムシの全形”. 動物行動の映像データベース. 2011年9月27日閲覧。
  • 加藤哲哉 (2005年3月16日). “ホウキムシの頭部”. 動物行動の映像データベース. 2011年9月27日閲覧。
変態直後のフォロニス属の一種の動画。