二十年後 (オー・ヘンリーの小説)

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"二十年後"
著者 オー・ヘンリー
原題 "After Twenty Years"
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 英語
ジャンル 短編小説
収録 The Four Million
出版形態 アンソロジー
出版日 1906年4月10日
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『二十年後』(にじゅうねんご、英語: After Twenty Years)は、オー・ヘンリー短編小説[1]。初出は1906年刊行の短編小説集『四百万』英語版 [1]

あらすじ[編集]

ボブとジミー・ウェルズはある場所で20年後に再会する約束をした[2][3]。ボブが待っていると夜中に巡回中の警察官がやってきて、ボブはジミーとの約束や西部での成功体験を語る[3][4]。警察官が去った後、 ジミーと思しき背の高い男が現れ、2人は共に歩き始めるが、明るい場所に出たところでボブは背の高い男がジミーではないことに気付く[3][4]。背の高い男の正体は警察官であり、指名手配されていたボブを逮捕しに来たのであった[3][4]。警察官がボブに手渡した手紙から、最初に現れた警察官がジミーであり、ボブが指名手配犯であることに気付いたが自身の手で旧友を逮捕したくなかったため、別の私服警官を派遣したことが明かされる[3][4]

作品解釈[編集]

作中では、堅実な人生を歩んだジミーに対しては無批判であるのに対して、犯罪に走ったボブに対しては鉄槌を下している[5]。これはボブ個人を批判したというよりはボブのような人間全体、すなわち法を犯してまでアメリカン・ドリームを追い求めるような人間を批判したものと解釈できる[6]。具体的には同時代を生きたダイアモンド・ジム・ブレイディ英語版を批判したとみることができる[7]。ブレイディがボブのように法に触れたという証拠はないが、ニューヨークで生まれ、一代で財を成し、ダイヤモンドや美食を愛したことが共通しており、20年前にボブとジミーが食事したレストランの名が「ビッグ・ジョー・ブレイディズ」とブレイディの名を含んでいること、ジムの愛称形の1つ「ジミー」が登場人物の名に使われていることから、オー・ヘンリーがブレイディを意識して書いたことは疑う余地がない[7]。当時の読者もブレイディとボブの類似性に気付きながら読んでいたと思われるが、この小説が執筆された当時ブレイディは存命中であったため、オー・ヘンリーはボブの逮捕という衝撃の瞬間で筆を置き、ボブないしブレイディに対する批判の一切を読者に委ねたのであった[8]。こうした拝金主義の悪徳な人物と対極の人物として、地味ながら勇気や誠実などと表現すべきジミーを登場させ、両者をぶつけている[9]

意外な結末(サプライズ・エンディング)は、一歩間違えば馬鹿馬鹿しい読者騙しとして批判を浴びやすいものであり、用意周到かつ隙間なく伏線を張り、トリックを練り上げ、スリルとサスペンスを掻き立てて一気に意外な事実を突きつけ、その瞬間に作者の意図と作品全体の構成と意味を明示しなければ成立しない[10]。要するに、その驚きが読者の感情に訴えかけてくるだけの「情緒的な深み」をも含まなければならない[11]。こうした意味で金子光茂は、オー・ヘンリーは意外な結末を多用してきたが、短編として世界的名声を得た作品は『二十年後』のほかにないと述べている[12]

メディア化[編集]

英語教材としての利用[編集]

オー・ヘンリーの作品は無駄のない状況描写と意外な結末を特徴としており、学習者の興味をひきやすい[13]。日本の中等教育の場では『二十年後』が英語教材として利用され、2015年までに3社の教科書に平易な英語に書き直されて掲載された[14]。また大学向けの英語学習教材にも採用実績があり、注を付して原文のまま掲載されている[15]。多くはリーディング教材(長文問題[16])としての扱いであるが、開拓社の高校英語教科書Pioneer English Iでは文法や単語などを総合的に学ぶ正式な課として扱われた[2]。授業実践としては、登場人物の心情や場面を想像させるグループ学習の事例が報告されている[17]

脚注[編集]

  1. ^ a b c Gale, Cengage Learning. A Study Guide for O. Henry's "After Twenty Years". Gale, Cengage Learning. ISBN 978-1-4103-3939-3. https://books.google.com/books?id=nDq2DAAAQBAJ 
  2. ^ a b 田口 2015, p. 6.
  3. ^ a b c d e 金子 2006, pp. 80–81.
  4. ^ a b c d 田口 2015, pp. 6–10.
  5. ^ 金子 2006, p. 83.
  6. ^ 金子 2006, pp. 83–84.
  7. ^ a b 金子 2006, p. 84.
  8. ^ 金子 2006, pp. 84–85.
  9. ^ 金子 2006, p. 85.
  10. ^ 金子 2006, p. 87.
  11. ^ 金子 2006, p. 88.
  12. ^ 金子 2006, p. 80, 88.
  13. ^ 鈴木・赤松・小野 2016, p. 77.
  14. ^ 田口 2015, p. 2, 5.
  15. ^ 田口 2015, pp. 5–6.
  16. ^ 鈴木・赤松・小野 2016, pp. 79–80.
  17. ^ 鈴木・赤松・小野 2016, pp. 78–80.

参考文献[編集]

  • 金子光茂「サプライズ・エンディングの短篇小説―O・ヘンリーの『二十年後に』を中心に―」『大分大学教育福祉科学部研究紀要』第28巻第2号、大分大学教育福祉科学部、2006年10月、79-90頁、NAID 120001698342 
  • 鈴木悦子・赤松猛・小野章「英語科における協働的学習による「理解の深まり」について」『中学教育:研究紀要』第47号、広島大学附属東雲中学校、2016年3月18日、77-81頁、NAID 120005829501 
  • 田口誠一「英語教育における文学教材の意義について―O. Henry の"After Twenty Years" をめぐって―」『尚絅大学研究紀要 人文・社会科学編』第47号、尚絅大学、2015年3月31日、1-14頁、NAID 110009902971 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]