「大麻精神病」の版間の差分

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'''大麻精神病'''(cannabis psychosis、たいませいしんびょう)とは、他の問題と明確に鑑別されない臨床観察から言われている仮説の障害で、明確に定義されておらず<ref name="who97"/><ref name="naid40002058911"/>、大麻の使用を中止すると数日以内に治る状態である<ref name="who97"/>。診断基準では、世界保健機関の疾病分類 ''[[ICD-10]]'' では精神病の用語は用いられず、向精神薬誘発性の精神病性障害の診断が用意されており、短期的なものとされる<ref name="ICD-10"/>。アメリカ精神医学会の ''DSM-IV'' の'''大麻誘発性精神病性障害'''<ref group="注" name="記載手順"/>は、[[大麻]]を摂取することよって引き起こされ多くは1日以内におさまる急性の[[精神障害]]である<ref name="dsm-iv-tr"/>。そぞれ大麻によ幻覚の体験は、精神病性障害ではなく[[薬物中毒|中毒]]の診断を考慮せよとしている<ref name="ICD-10"/><ref name="dsm-iv-tr"/>。
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様々に報告されているが、2012年のイギリス薬物政策委員会(UKDPC)の科学的な調査報告は、大麻使用により一時的な精神病症状を呈すことについては強い証拠があるが、大麻の使用が精神病<!--原文通りpsychosis-->のリスクを増加させているかについては議論があるとしている<ref name="Afresh">{{cite book|author=イギリス薬物政策委員会|title=A fresh ApproAch to drugs|publisher=the UK Drug Policy Commission |date=2012-10|url=http://www.ukdpc.org.uk/wp-content/uploads/a-fresh-approach-to-drugs-the-final-report-of-the-uk-drug-policy-commission.pdf|format=pdf|accessdate=2014-9-1|isbn=978-1-906246-41-9|page=65-66}}</ref>。
様々に報告されているが、2012年のイギリス薬物政策委員会(UKDPC)の科学的な調査報告は、大麻使用により一時的な精神病症状を呈すことについては強い証拠があるが、大麻の使用が精神病<!--原文通りpsychosis-->のリスクを増加させているかについては議論があるとしている<ref name="Afresh">{{cite book|author=イギリス薬物政策委員会|title=A fresh ApproAch to drugs|publisher=the UK Drug Policy Commission |date=2012-10|url=http://www.ukdpc.org.uk/wp-content/uploads/a-fresh-approach-to-drugs-the-final-report-of-the-uk-drug-policy-commission.pdf|format=pdf|accessdate=2014-9-1|isbn=978-1-906246-41-9|page=65-66}}</ref>。


==定義==
==定義==
経過も多様であり、大麻との因果関係を確定することは困難で、診断基準や分類も一定せず、大麻精神病という疾患単位 (clinical entity) は確立していない<ref name="naid40002058911">{{Cite journal |和書|author=横山尚洋 |date=1992-08 |title=大麻(カンナビス)精神病 (薬物依存の臨床<特集>) |journal=精神医学 |volume=34 |issue=8 |pages=p839-842 |naid=40002058911}}</ref>。
経過も多様であり、大麻との因果関係を確定することは困難で、診断基準や分類も一定せず、大麻精神病という疾患単位 (clinical entity) は確立していない<ref name="naid40002058911">{{Cite journal |和書|author=横山尚洋 |date=1992-08 |title=大麻(カンナビス)精神病 (薬物依存の臨床<特集>) |journal=精神医学 |volume=34 |issue=8 |pages=p839-842 |naid=40002058911}}</ref>。背景として精神病という伝統的な分類は、不正確な診断をもたらしたため、''ICD-10'' や ''DSM-IV'' のような診断基準によって厳密な区別がなされてきた<ref>{{Cite book|和書|author=Susan Nolen-Hoeksema, Barbara L.Fredrickson, Geoff R.Loftus, Willem A.Wagenaar|coauthors=(監訳)内田一成|title=ヒルガードの心理学|edition=15版|publisher=|date=2012-05|isbn=978-4-7724-1233-9|page=794}} ''Atkinson & Hilgard's Introduction to Psychology'', 15ed.</ref>。


===世界保健機関===
===世界保健機関===
1997年の[[世界保健機関]] (WHO) の報告書は、大麻精神病 (cannabis psychoses) の存在は、臨床観察から言われている仮説の障害であり、大麻の使用を中止すると数日以内に治るもので、明確に定義されておらず、大麻使用者に発生した他の精神病性の問題と統合失調症とが明確に鑑別されていないとしている<ref name="who97">{{cite report|author=世界保健機関|title=Program on Substance Abuse : Cannabis: a health perspective and research agenda. WHO/MSA/PSA/97.4 |publisher=[[世界保健機関|World Health Organization]] |date=1997|url=http://whqlibdoc.who.int/hq/1997/WHO_MSA_PSA_97.4.pdf|format=pdf|accessdate=2014-06-10|page=18}}</ref>。
1997年の[[世界保健機関]] (WHO) の報告書は、大麻精神病 (cannabis psychoses) の存在は、臨床観察から言われている仮説の障害であり、大麻の使用を中止すると数日以内に治るもので、明確に定義されておらず、大麻使用者に発生した他の精神病性の問題と統合失調症とが明確に鑑別されていないとしている<ref name="who97">{{cite report|author=世界保健機関|title=Program on Substance Abuse : Cannabis: a health perspective and research agenda. WHO/MSA/PSA/97.4 |publisher=[[世界保健機関|World Health Organization]] |date=1997|url=http://whqlibdoc.who.int/hq/1997/WHO_MSA_PSA_97.4.pdf|format=pdf|accessdate=2014-06-10|page=18}}</ref>。


''[[ICD-10]]''(『[[疾病及び関連保健問題の国際統計分類]]』第10版)では、「神経症と精神病」の項にて、精神病 (psychosis) が用いられず、精神病性 (Psychotic) で言及されていることに触れている<ref name="ICD-10"/>。向精神薬誘発性精神病の項にて、そのような精神病状態は短期的なものであり、誤ってより深刻な[[統合失調症]]のような状態が診断されれば、悲惨な影響を与えると注意している<ref name="ICD-10">{{Cite book|和書|author=[[世界保健機関]] |coauthors=(翻訳)融道男、小見山実、大久保善朗、中根允文、岡崎祐士|title=ICD-10精神および行動の障害:臨床記述と診断ガイドライン|edition=新訂版 |publisher=医学書院|date=2005|isbn=978-4-260-00133-5}}、{{Cite book|author=世界保健機関|title=The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders : Clinical descriptions and diagnostic guidelines (blue book)|publisher=World Health Organization|date=1992|url=http://www.who.int/classifications/icd/en/bluebook.pdf|format=pdf|isbn=}} 英語原本では Neurosis and psychosis(p10), Disorder(p11)
''[[ICD-10]]''(『[[疾病及び関連保健問題の国際統計分類]]』第10版)では、「神経症と精神病」の項にて、[[精神病]] (psychosis) の用語が用いられず、妄想や幻覚のような症状を示す精神病性 (Psychotic) の用語で言及されていることに触れている<ref name="ICD-10"/>。向精神薬誘発性精神病の項にて、そのような精神病状態は短期的なものであり、誤ってより深刻な[[統合失調症]]のような状態が診断されれば、悲惨な影響を与えると注意している<ref name="ICD-10">{{Cite book|和書|author=[[世界保健機関]] |coauthors=(翻訳)融道男、小見山実、大久保善朗、中根允文、岡崎祐士|title=ICD-10精神および行動の障害:臨床記述と診断ガイドライン|edition=新訂版 |publisher=医学書院|date=2005|isbn=978-4-260-00133-5}}、{{Cite book|author=世界保健機関|title=The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders : Clinical descriptions and diagnostic guidelines (blue book)|publisher=World Health Organization|date=1992|url=http://www.who.int/classifications/icd/en/bluebook.pdf|format=pdf|isbn=}} 英語原本では Neurosis and psychosis(p10), Disorder(p11)
, F1x.5 Psychotic disorder (pp72-73) の項。</ref>。また、高用量の大麻を摂取するなどの知覚の歪みや幻覚の体験は、[[薬物中毒|急性中毒]]の診断を考慮せよとしている<ref name="ICD-10"/>。''ICD-10''には、精神障害の定義があるため、症状が機能不全を起こしていないものは精神障害ではない<ref name="ICD-10"/>。
, F1x.5 Psychotic disorder (pp72-73) の項。</ref>。また、高用量の大麻を摂取するなどの知覚の歪みや幻覚の体験は、[[薬物中毒|急性中毒]]の診断を考慮せよとしている<ref name="ICD-10"/>。''ICD-10''には、精神障害の定義があるため、症状が機能不全を起こしていないものは精神障害ではない<ref name="ICD-10"/>。


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===アメリカ精神医学会===
===アメリカ精神医学会===
『[[精神障害の診断と統計マニュアル]]』第4版(''DSM-IV'')では、物質誘発性精神病性障害の項に由来となった物質名に続いて記す記載手順が示される<ref group="注" name="記載手順">診断名の記載手順には、例にコカイン誘発性精神病性障害のように記すとあるため、大麻誘発性精神病性障害とする。</ref><ref name="dsm-iv-tr"/>。大量の大麻の使用後に通常は被害妄想が起きることがあるが、これは明らかにまれであり1日以内に寛解し、2-3日のこともあるとされ、大麻には[[離脱]]の診断名が設けられておらず、理由は高用量の使用で生じると言われてはいるが臨床的に著名ではないことである<ref name="dsm-iv-tr">{{Cite book|和書|author=アメリカ精神医学会|authorlink=アメリカ精神医学会|coauthor=高橋三郎・[[大野裕]]・染矢俊幸訳|title=DSM-IV-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル(新訂版)|publisher=[[医学書院]]|date=2004|isbn=978-0890420256|pages=5、193、232、329-331}} </ref>。精神病性症状が4週以上も続く場合には他の理由を考慮せよとしている<ref name="dsm-iv-tr"/>。''DSM''には、重症度の診断基準があるため、[[精神障害#重症度|著しい苦痛や機能の障害を起こしていない]]場合は除外される<ref name="dsm-iv-tr"/>。
『[[精神障害の診断と統計マニュアル]]』第4版(''DSM-IV'')では、物質誘発性精神病性障害の項に由来となった物質名に続いて記す記載手順が示される<ref group="注" name="記載手順">診断名の記載手順には、例にコカイン誘発性精神病性障害のように記すとあるため、大麻誘発性精神病性障害とする。</ref><ref name="dsm-iv-tr"/>。大量の大麻の使用後に通常は被害妄想が起きることがあるが、これは明らかにまれであり1日以内に寛解し、2-3日のこともあるとされ、大麻には[[離脱]]の診断名が設けられておらず、理由は高用量の使用で生じると言われてはいるが臨床的に著名ではないことである<ref name="dsm-iv-tr">{{Cite book|和書|author=アメリカ精神医学会|authorlink=アメリカ精神医学会|coauthor=高橋三郎・[[大野裕]]・染矢俊幸訳|title=DSM-IV-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル(新訂版)|publisher=[[医学書院]]|date=2004|isbn=978-0890420256|pages=5、193、232、329-331}} </ref>。精神病性症状が4週以上も続く場合には他の理由を考慮せよとしている<ref name="dsm-iv-tr"/>。大麻の中毒による、現実検討が損なわれていない、光、音、幻視は[[薬物中毒|中毒]]であり、精神病性障害ではない<ref name="dsm-iv-tr"/>。''DSM-IV''には、重症度の診断基準があるため、[[精神障害#重症度|著しい苦痛や機能の障害を起こしていない]]場合は除外される<ref name="dsm-iv-tr"/>。

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DSM第3版-Rでは、大麻依存と乱用が治療を求めるのはまれだとしている<ref name="DSM-3R">{{Citation|和書|author=アメリカ精神医学会|authorlink=アメリカ精神医学会|others=高橋三郎訳|year=1988|title=DSM-III-R 精神障害の診断・統計マニュアル|publisher=[[医学書院]]|isbn=978-4260117388|page=161}}</ref>。
DSM第3版-Rでは、大麻依存と乱用が治療を求めるのはまれだとしている<ref name="DSM-3R">{{Citation|和書|author=アメリカ精神医学会|authorlink=アメリカ精神医学会|others=高橋三郎訳|year=1988|title=DSM-III-R 精神障害の診断・統計マニュアル|publisher=[[医学書院]]|isbn=978-4260117388|page=161}}</ref>。

==成分==
大麻には、成分として[[テトラヒドロカンナビノール]] (THC) と{{仮リンク|カンナビジオール|en|cannabidiol}} (CBD)が含まれる<ref>{{Cite book|和書| last1=グリンスプーン| first1=レスター|authorlink1=レスター・グリンスプーン| last2=バカラー | first2=ジェームズ |translator=久保儀明 |title=マリファナ|publisher=青土社|date=1996|isbn=4-7917-5453-0|page=18}} ''Marihuana, the forbidden medicine'', 1993</ref>。THCが多い大麻は特に危険であるとの知見が示されているため、CBDがTHC誘発性精神病を阻害するのではとの仮説を検証するために、健康な被験者でCBDか偽薬かを与えた後にTHCを投与した試験では、CBDが投与された場合に精神病症状が少なかった<ref name="pmid23042808">{{cite journal|last1=Englund|first1=A.|last2=Morrison|first2=P. D.|last3=Nottage|first3=J.|coauthors4=et al.|title=Cannabidiol inhibits THC-elicited paranoid symptoms and hippocampal-dependent memory impairment|journal=Journal of Psychopharmacology|volume=27|issue=1|pages=19–27|year=2012|pmid=23042808|doi=10.1177/0269881112460109}}</ref>。


== 各国での言及 ==
== 各国での言及 ==
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===その他の論===
===その他の論===
イギリスでの大麻精神病による入院は、大麻の法的規制がクラスCに格下げされた2004年から2009年の間には、その前後と比較して減少していたため、薬物の使用以外の要因が関与していたとの仮説を説明した<ref name="pmid23867051">{{cite journal|last1=Hamilton|first1=Ian|last2=Lloyd|first2=Charlie|last3=Hewitt|first3=Catherine|last4=Godfrey|first4=Christine|title=Effect of reclassification of cannabis on hospital admissions for cannabis psychosis: A time series analysis|journal=International Journal of Drug Policy|volume=25|issue=1|pages=151–156|year=2014|pmid=23867051|doi=10.1016/j.drugpo.2013.05.016}}</ref>

高用量の大麻を長期にわたって手に入れやすい国では、顕著な精神病症状を示す患者が見られると述べる[[精神科医]]がいる<ref>Kaplan & Sadock's SYNOPSYS OF PSYCHIATRY: Behavioral Sciences/Clinical Psychiatry, 9th ed. Lippincott Willams & Wilkins. 2003.(書籍)</ref>。
高用量の大麻を長期にわたって手に入れやすい国では、顕著な精神病症状を示す患者が見られると述べる[[精神科医]]がいる<ref>Kaplan & Sadock's SYNOPSYS OF PSYCHIATRY: Behavioral Sciences/Clinical Psychiatry, 9th ed. Lippincott Willams & Wilkins. 2003.(書籍)</ref>。



2016年9月8日 (木) 09:13時点における版

大麻精神病(cannabis psychosis、たいませいしんびょう)とは、他の問題と明確に鑑別されない臨床観察から言われている仮説の障害で、明確に定義されておらず[1][2]、大麻の使用を中止すると数日以内に治る状態である[1]。診断基準では、世界保健機関の疾病分類 ICD-10 では精神病の用語は用いられず、向精神薬誘発性の大麻による精神病性障害の診断が用意されており、短期的なものとされる[3]。アメリカ精神医学会の DSM-IV大麻誘発性精神病性障害[注 1]は、明らかにまれに大量の大麻の使用後に通常は被害妄想が生じ、多くは1日以内におさまるとされる[4]

様々に報告されているが、2012年のイギリス薬物政策委員会(UKDPC)の科学的な調査報告は、大麻使用により一時的な精神病症状を呈すことについては強い証拠があるが、大麻の使用が精神病のリスクを増加させているかについては議論があるとしている[5]

定義

経過も多様であり、大麻との因果関係を確定することは困難で、診断基準や分類も一定せず、大麻精神病という疾患単位 (clinical entity) は確立していない[2]。背景として精神病という伝統的な分類は、不正確な診断をもたらしたため、ICD-10DSM-IV のような診断基準によって厳密な区別がなされてきた[6]

世界保健機関

1997年の世界保健機関 (WHO) の報告書は、大麻精神病 (cannabis psychoses) の存在は、臨床観察から言われている仮説の障害であり、大麻の使用を中止すると数日以内に治るもので、明確に定義されておらず、大麻使用者に発生した他の精神病性の問題と統合失調症とが明確に鑑別されていないとしている[1]

ICD-10(『疾病及び関連保健問題の国際統計分類』第10版)では、「神経症と精神病」の項にて、精神病 (psychosis) の用語が用いられず、妄想や幻覚のような症状を示す精神病性 (Psychotic) の用語で言及されていることに触れている[3]。向精神薬誘発性精神病の項にて、そのような精神病状態は短期的なものであり、誤ってより深刻な統合失調症のような状態が診断されれば、悲惨な影響を与えると注意している[3]。また、高用量の大麻を摂取するなどの知覚の歪みや幻覚の体験は、急性中毒の診断を考慮せよとしている[3]ICD-10には、精神障害の定義があるため、症状が機能不全を起こしていないものは精神障害ではない[3]

WHOの依頼により2015年に作成された大麻に関する報告書は、大麻の使用によって一過性の統合失調症のような症状を呈することがあり、1903年にワーノックがこのような誘導を発見したと記している[7]

アメリカ精神医学会

精神障害の診断と統計マニュアル』第4版(DSM-IV)では、物質誘発性精神病性障害の項に由来となった物質名に続いて記す記載手順が示される[注 1][4]。大量の大麻の使用後に通常は被害妄想が起きることがあるが、これは明らかにまれであり1日以内に寛解し、2-3日のこともあるとされ、大麻には離脱の診断名が設けられておらず、理由は高用量の使用で生じると言われてはいるが臨床的に著名ではないことである[4]。精神病性症状が4週以上も続く場合には他の理由を考慮せよとしている[4]。大麻の中毒による、現実検討が損なわれていない、光、音、幻視は中毒であり、精神病性障害ではない[4]DSM-IVには、重症度の診断基準があるため、著しい苦痛や機能の障害を起こしていない場合は除外される[4]

DSM第3版-Rでは、大麻依存と乱用が治療を求めるのはまれだとしている[8]

成分

大麻には、成分としてテトラヒドロカンナビノール (THC) とカンナビジオール (CBD)が含まれる[9]。THCが多い大麻は特に危険であるとの知見が示されているため、CBDがTHC誘発性精神病を阻害するのではとの仮説を検証するために、健康な被験者でCBDか偽薬かを与えた後にTHCを投与した試験では、CBDが投与された場合に精神病症状が少なかった[10]

各国での言及

日本
厚生労働省所管の公益法人財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センターのウェブサイトである「ダメ。ゼッタイ。」では、以下のように説明している。

大麻を乱用すると気管支や喉を痛めるほか、免疫力の低下や白血球の減少などの深刻な症状も報告されています。また「大麻精神病」と呼ばれる独特の妄想や異常行動、思考力低下などを引き起こし普通の社会生活を送れなくなるだけではなく犯罪の原因となる場合もあります。また、乱用を止めてもフラッシュバックという後遺症が長期にわたって残るため軽い気持ちで始めたつもりが一生の問題となってしまうのです。社会問題の元凶ともなる大麻について、正確な知識を身に付けてゆきましょう。

この主張に対して大麻への寛容な政策をもとめる民間団体「カンナビスト」(大麻非犯罪化人権運動)は、2004年、情報公開法に基づく複数の開示請求を厚生労働省に対して行ったが、厚生労働省は行政文書不開示決定通知書を通達、不開示とした理由に「開示請求に係る行政文書を保有していないため」との返答をした[11]。これは後の請求によって、アメリカから輸入した薬物標本の説明書を翻訳し抜粋されたものであることが分かった[12]
アメリカ
1972年のマリファナ及びドラッグ濫用に関する全国委員会(シャーファー委員会)で「大麻による急性の精神障害で入院しなければならないような例は、アルコールのように顕著なものではない。大麻関連の精神病で特別に長期化するようなものはほとんど見られない。もし、大麻の重度使用が特別な精神障害を引き起こすとしても、極めて稀であるか、あるいは他の原因で起こった急性または慢性の精神病と区別することも極度に難しい」との報告書の内容を認めた[13]
アメリカ精神医学会は2013年見解声名を行い、少なくとも大麻使用と精神医学的障害との強い関連があるとしている[14]
イギリス
1968年にイギリス政府の諮問していた委員会が「大麻の喫煙が直接、深刻な身体的危険に関連しているという証拠はない。」というウットン・レポートを発表した[15]
2002年には薬物乱用諮問委員会 (ACMD) の「大麻の長期使用についての中心課題の一つは、それが心の病、特に精神病のリード役になるかどうかということで(中略)明確な因果関係は実証されなかった。」と報告した[16]。2004年に政府は大麻の危険性と精神障害の関連性は明白でないという薬物乱用諮問協議会の調査結果によって危険性指定をランクBから1段階下げたCに指定した。しかし、大麻の蔓延と精神障害の危険性の懸念する声は消えず、2008年5月に内相のジャッキー・スミスは大麻の薬物指定格を再びBに格上げした。
2012年のイギリス薬物政策委員会(UKDPC)は、大麻の使用によって一時的な精神病症状を呈することにおいては強い証拠がある一方で、20世紀前半の大麻使用率の顕著な増加に比して精神障害は同様に増加しているということもなく、大麻の使用と精神障害との関係については議論の対象であるとし、大麻の使用が精神病のリスクを増加させていないとする研究と、弱い関連がある研究を提示している[5]

研究

団体による報告の形ではなく、個別の研究を取り扱う。

文献研究

2004年の文献のレビューでは、精神病症状に対する自己治療の仮説が唱えられてきたが、いくつかの前向き研究ではまた(他の薬物や既存の精神病の兆候などの)交絡因子に関係なく、大麻摂取量と精神病発症リスクは正の相関があったが、特異的ではなかった(特徴的ではない)ことが報告されている[17]

個別の追跡研究

1999年に全米疫学学会誌に掲載された1,300人を対象とした研究で「15年以上にわたって大麻のヘビーユーザーとライトユーザー、全く使わなかった人の間で有意な認知機能の低下はなかった」との報告[18]。 スウェーデンでは徴兵検査を受けた18歳から20歳の青年を45,570人を15年間に渡って追跡調査を行った結果、大麻を1回以上使用したことのある者の統合失調症の相対的発症リスクは使用しなかった者と比較して2.4倍、50回使用した場合は6倍に上るとした[19]

その他の論

イギリスでの大麻精神病による入院は、大麻の法的規制がクラスCに格下げされた2004年から2009年の間には、その前後と比較して減少していたため、薬物の使用以外の要因が関与していたとの仮説を説明した[20]

高用量の大麻を長期にわたって手に入れやすい国では、顕著な精神病症状を示す患者が見られると述べる精神科医がいる[21]


注釈

  1. ^ a b 診断名の記載手順には、例にコカイン誘発性精神病性障害のように記すとあるため、大麻誘発性精神病性障害とする。

出典

  1. ^ a b c 世界保健機関 (1997). Program on Substance Abuse : Cannabis: a health perspective and research agenda. WHO/MSA/PSA/97.4 (pdf) (Report). World Health Organization. p. 18. 2014年6月10日閲覧
  2. ^ a b 横山尚洋「大麻(カンナビス)精神病 (薬物依存の臨床<特集>)」『精神医学』第34巻第8号、1992年8月、p839-842、NAID 40002058911 
  3. ^ a b c d e 世界保健機関、(翻訳)融道男、小見山実、大久保善朗、中根允文、岡崎祐士『ICD-10精神および行動の障害:臨床記述と診断ガイドライン』(新訂版)医学書院、2005年。ISBN 978-4-260-00133-5 世界保健機関 (1992) (pdf). The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders : Clinical descriptions and diagnostic guidelines (blue book). World Health Organization. http://www.who.int/classifications/icd/en/bluebook.pdf  英語原本では Neurosis and psychosis(p10), Disorder(p11) , F1x.5 Psychotic disorder (pp72-73) の項。
  4. ^ a b c d e f アメリカ精神医学会『DSM-IV-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル(新訂版)』医学書院、2004年、5、193、232、329-331頁。ISBN 978-0890420256 
  5. ^ a b イギリス薬物政策委員会 (2012-10) (pdf). A fresh ApproAch to drugs. the UK Drug Policy Commission. p. 65-66. ISBN 978-1-906246-41-9. http://www.ukdpc.org.uk/wp-content/uploads/a-fresh-approach-to-drugs-the-final-report-of-the-uk-drug-policy-commission.pdf 2014年9月1日閲覧。 
  6. ^ Susan Nolen-Hoeksema, Barbara L.Fredrickson, Geoff R.Loftus, Willem A.Wagenaar、(監訳)内田一成『ヒルガードの心理学』(15版)、2012年5月、794頁。ISBN 978-4-7724-1233-9  Atkinson & Hilgard's Introduction to Psychology, 15ed.
  7. ^ Bertha K. Madras (2015). Update of Cannabis and its medical use (pdf) (Report). World Health Organization. p. 10. 2016-9-1閲覧 {{cite report}}: |accessdate=の日付が不正です。 (説明)
  8. ^ アメリカ精神医学会『DSM-III-R 精神障害の診断・統計マニュアル』高橋三郎訳、医学書院、1988年、161頁。ISBN 978-4260117388 
  9. ^ グリンスプーン, レスター、バカラー, ジェームズ 著、久保儀明 訳『マリファナ』青土社、1996年、18頁。ISBN 4-7917-5453-0  Marihuana, the forbidden medicine, 1993
  10. ^ Englund, A.; Morrison, P. D.; Nottage, J. (2012). “Cannabidiol inhibits THC-elicited paranoid symptoms and hippocampal-dependent memory impairment”. Journal of Psychopharmacology 27 (1): 19–27. doi:10.1177/0269881112460109. PMID 23042808. 
  11. ^ 「ダメ。ゼッタイ。」の大麻に関する見解には根拠がない (大麻取締法変革センター)
  12. ^ 「平成17年度覚せい剤等撲滅啓発事業の事業計画書の提出について」等の一部開示決定に関する件(平成19年度(行情)答申第398号) (PDF) (内閣府)
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関連項目