大麻精神病

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内, 検索

大麻精神病(cannabis psychosis、たいませいしんびょう)とは、大麻を摂取することによって引き起こされる急性・慢性を問わない広義での精神障害の総称であり、マリファナ精神病、カンナビス精神病とも表記されるが米国精神医学会のDSM-IV-TR[2000年]の日本語版では“大麻”を採用している。 急性精神病から脱した後、動作動作喪失性症候群と呼ばれる意欲喪失状態を残す場合がある。

大麻によるバッドトリップ(嫌悪反応)[1]や酩酊状態は一過性の症状で急性中毒・急性中毒性精神病に該当する。大麻使用者の精神病の発症リスクが40%増加する調査結果がある[2]。 また、大麻精神病は精神障害の診断と統計の手引きでは「大麻誘発性精神病性障害(292)」に、疾病及び関連保健問題の国際統計分類では「大麻使用による精神および行動の障害・精神病性障害(F12.5)」にそれぞれ該当する。

日本では2002年の有床精神科医療施設のみを対象とした実態調査では7例が、2004年の実態調査 [3]では8例が報告されている。

WHOの見解では大麻精神病(とくに慢性中毒性精神病)は仮説の病態であり、その存在は調整因子を考慮していない臨床観察から言われており、大麻使用者に併発した統合失調症や他の精神疾患と明確に区別できないとしている[4]。また、経過も多様であり、大麻との因果関係を確定することは困難で、診断基準や分類も一定せず、大麻精神病という疾患単位(clinical entity)は確立していない[5]


目次

[編集] 概要

大麻精神病の症状として幻覚、妄想、不安、無気力、抑うつ状態があるが暴力行為など攻撃的な行動、犯罪的行動は見られないと言われる。また麻薬と異なり大麻による離脱症状は認められない。大麻の身体的依存性は明確に否定されているが精神的依存性については長期使用者の臨床データーが乏しく未だ多くの議論がある。高用量の大麻を長期にわたって手に入れやすい国では、顕著な精神病症状を示す患者が見られると述べる精神科医がいる[6]。また(他の薬物や既存の精神病兆候などの)交絡因子に関係なく、大麻摂取量と精神病発症リスクは正の相関があると報告されている[7]。 一方で、後述にあるように、大麻摂取による慢性中毒性精神病との因果関係に否定的な研究報告が幾つかある。

大麻に批判的な態度をとるものは大麻摂取によって引き起こされる身体的・精神的・社会的影響は軽視できるものではないと主張する。一方で、大麻の合法化を主張する側はアルコールやタバコの害は死に至るものも多いのに比べ大麻の摂取には致死性が無いこと。さらに大麻にはアルコールやタバコのような依存性がなく大麻摂取による妄想性は一過性であり摂取を止めればなくなることが指摘されている。

[編集] 各国での精神病問題

  • 日本
厚生労働省所管の公益法人財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センターウェブサイトである「ダメ。ゼッタイ。」では

大麻を乱用すると気管支や喉を痛めるほか、免疫力の低下や白血球の減少などの深刻な症状も報告されています。また「大麻精神病」と呼ばれる独特の妄想や異常行動、思考力低下などを引き起こし普通の社会生活を送れなくなるだけではなく犯罪の原因となる場合もあります。また、乱用を止めてもフラッシュバックという後遺症が長期にわたって残るため軽い気持ちで始めたつもりが一生の問題となってしまうのです。社会問題の元凶ともなる大麻について、正確な知識を身に付けてゆきましょう。

と説明している。この主張に対して大麻への寛容な政策をもとめる民間団体「カンナビスト」(大麻非犯罪化人権運動)は、2004年情報公開法に基づく複数の開示請求を厚生労働省に対して行ったが、厚生労働省は行政文書不開示決定通知書を通達、不開示とした理由に「開示請求に係る行政文書を保有していないため」との返答をした[8]。これは後の2006年になって、アメリカから輸入した薬物標本の説明書を翻訳し、抜粋されたものと分かった[9]
2004年に全国の精神科病床を有する医療施設を対象にして行った実勢調査[3]ではアルコール以外の精神作用物質使用に関連した精神疾患患者の症例数は453症例あり、『覚せい剤症例』51%(233例),『有機溶剤症例』が17.0%(77例)と、両薬物合わせて症例全体の約70%を占め、この他は全て10%以下で、『睡眠薬症例』9.7%,『その他症例』4.4%と続き、『大麻症例』は3.8%であった。
  • アメリカ
1972年のマリファナ及びドラッグ濫用に関する全国委員会(シャーファー委員会)で「大麻による急性の精神障害で入院しなければならないような例は、アルコールのように顕著なものではない。大麻関連の精神病で特別に長期化するようなものはほとんど見られない。もし、大麻の重度使用が特別な精神障害を引き起こすとしても、極めて稀であるか、あるいは他の原因で起こった急性または慢性の精神病と区別することも極度に難しい」との報告書[10]の内容を認めた。
この他にも1999年に全米疫学学会誌に掲載された1300人を対象とした研究で「15年以上にわたって大麻のヘビーユーザーとライトユーザー、全く使わなかった人の間で有意な認知機能の低下はなかった」との報告[11]など、精神病問題に否定的な研究報告がある。2009年以降、大麻系合成ドラッグが流出し問題になっている。合成大麻の一部は副作用が強く医薬品として使用することはできない。特に精神作用が強いスパイスゴールドと呼ばれるものはアメリカとイギリスでは麻薬取締法の第1種に指定されている。[12]
  • イギリス
1969年にイギリス政府の諮問していた委員会が「大麻の喫煙が直接、深刻な身体的危険に関連しているという証拠はない。」というウットン・レポート[13]を発表した。
2002年には薬物乱用諮問委員会(ACMD)の「大麻の長期使用についての中心課題の一つは、それが心の病、特に精神病のリード役になるかどうかということで(中略)明確な因果関係は実証されなかった。」と報告[14]した。2004年に政府は大麻の危険性と精神疾患の関連性は明白でないという薬物乱用諮問協議会の調査結果によって危険指定をランクBから1段階下げたCに指定した。しかし大麻の蔓延と精神疾患の危険性の懸念する声は消えず。2009年に内相のジャッキー・スミスは、昨年5月に再び大麻の薬物指定格を再びBに格上げした。
  • スウェーデン
スウェーデンでは徴兵検査を受けた18歳から20歳の青年を45570人を15年間に渡って追跡調査を行った結果、大麻を1回以上使用したことのある者の統合失調症の相対的発症リスクは使用しなかった者と比較して2.4倍、50回使用した場合は6倍に上るとした。[15]

[編集] 脚注

[ヘルプ]
  1. ^ 吐き気や不安、不快、恐怖感などの使用者にとって好ましくない副作用。
  2. ^ Arseneault2004,Sumple2005,Henquest2005,Moore2007
  3. ^ a b 尾崎茂,和田 清,大槻直美. 全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査. 平成16 年度厚生労働科学研究費補助金分担研究報告書(改訂版)PDF文書
  4. ^ Division of Mental Health and Prevention of Substance Abuse, World Health Organization: Programme on substance abuse Cannabis: a health perspective and research agenda. 1997. (PDFファイル)
  5. ^ 横山尚友洋: 大麻精神病.医学書院 精神医学 34巻 :839, 1992
  6. ^ Kaplan & Sadock's SYNOPSYS OF PSYCHIATRY: Behavioral Sciences/Clinical Psychiatry, 9th ed. Lippincott Willams & Wilkins. 2003.(書籍)
  7. ^ Verdoux H, Tournier M. Cannabis use and risk of psychosis: an etiological link? Epidemiol Psichiatr Soc. 2004 Apr-Jun;13(2):113-9.
  8. ^ 「ダメ。ゼッタイ。」の大麻に関する見解には根拠がない 大麻取締法変革センター
  9. ^ スクープ!!「ダメ。ゼッタイ。」サイトの大麻に関する記述 大麻取締法変革センター
  10. ^ The Report of the National Commission on Marihuana and Drug Abuse
  11. ^ Cannabis Use and Cognitive Decline in Persons under 65 Years of Age
  12. ^ 薬物乱用中毒百科.丸善株式会社発行 : 2010
  13. ^ The Wootton Report
  14. ^ The Classification of Cannabis under the Misuse of Drugs Act 1971 (2002)
  15. ^ 薬物乱用中毒百科.丸善株式会社発行 :186p, 2010

[編集] 関連項目

個人用ツール
名前空間
変種
操作
案内
ヘルプ
ツールボックス