「スニヤエフ・ゼルドビッチ効果」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
en:Sunyaev-Zel'dovich effect (09:59, 10 November 2008 UTC) を翻訳
(相違点なし)

2008年12月17日 (水) 14:40時点における版

スニヤエフ・ゼルドビッチ効果 (英: Sunyaev-Zel'dovich effect ; しばしば略して SZ効果)は、宇宙空間に存在する高エネルギーの電子が、逆コンプトン効果(通常のコンプトン効果とは逆に、電子のエネルギーが、エネルギーの低いCMB光子に転移する)により、宇宙背景放射 (Cosmic Microwave Background radiation ; CMB) を歪める現象である。観測されたCMBスペクトルの歪みは、宇宙の密度摂動を検出するのに利用されている。スニヤエフ・ゼルドビッチ効果を用いることにより、いくつかの密度の高い銀河団が観測されている。

概要

スニヤエフ・ゼルドビッチ効果は、さらに次のように分類できる。

  • 熱的効果 : CMB光子が高温に起因する高エネルギーの電子と相互作用を行なう。
  • キネティック効果 : これは2次のオーダーの効果であり、CMB光子が、全体として運動している電子集団中の電子(非熱的な運動エネルギーにより高いエネルギーを持つ)と相互作用を行なう。(Jeremiah P. Ostriker と Ethan Vishniac にちなんで、Ostriker-Vishniac 効果とも呼ばれる。[1])
  • 偏光現象

Rashid Sunyaev と Yakov Zel'dovich がこの効果の存在を予測し、1969年、1972年、1980年に調査を実施した。スニヤエフ・ゼルドビッチ効果は、主要な宇宙物理学的、宇宙論的関心事となっている。この効果は、ハッブル定数を決定する上で大きな助けとなる。銀河団に起因するSZ効果を、通常の密度摂動に起因するものから区別するために、電磁スペクトル依存性と、CMB変動の空間的依存性の双方が用いられる。CMBデータの、より高い角度分解能(高次の項を含む)での解析においては、スニヤエフ・ゼルドビッチ効果を考慮に入れる必要がある。

現在の研究は、この効果が銀河団間のプラズマによって、どのようにして生ずるかというモデリングと、ハッブル定数の評価へのこの効果の利用、背景放射のゆらぎの角度平均統計における異なる成分の分離、といったところにに焦点を当てている。この理論における、熱的効果とキネティック効果のデータを得るため、流体力学的な構造形成シミュレーションが研究されている。

この効果の振幅の小ささと、観測エラーとの混同、CMB温度ゆらぎなどの要因のため、観測は容易ではない。しかし、スニヤエフ・ゼルドビッチ効果は散乱効果であるので、その強度は赤方偏移に依存しない。これは非常に重要な点である: これは、高い赤方偏移を受けた銀河団を、低い赤方偏移の場合と同様に、容易に検知できるということを意味する。高い赤方偏移を受けた銀河団の検出を容易にしている、別の要因は角直径・赤方偏移関係である: 統計的に角直径を赤方偏移の関数と見なした場合、赤方偏移 z = 0.3 ~ 2 では、角直径の変化は小さい。つまり、この範囲の赤方偏移を持つ銀河団は、視野内で同じようなサイズを持つということである。

観測についての時系列

  • 1983年 — Cambridge Radio Astronomy Group と Owens Valley Radio Observatory の研究者が、銀河団の中から最初にSZ効果を検出。
  • 1993年 — Ryle Telescope が、銀河団のSZ効果の恒常観測を開始。
  • 2003年 — WMAP衛星が全天のCMBマップを作成。SZ効果の限定的な検知能力を持つ。
  • 2005年 — Arcminute Microkelvin Imager (マラード電波天文台) と Sunyaev-Zel'dovich Array (アレイ式電波望遠鏡) が、SZ効果を使って、高い赤方偏移を受けた銀河団の観測を開始。
  • 2007年 — 南極点望遠鏡 (South Pole Telescope ; SPT ; 電波望遠鏡) が2007年2月16日にファーストライト。同年3月から科学観測開始。
  • 2007年 — Atacama Cosmology Telescope (ACT ; 電波望遠鏡) が6月8日にファーストライト。銀河団のSZ効果のサーベイを開始予定。

レファレンス

  1. ^ Ostriker and Vishniac, Effect of gravitational lenses on the microwave background, and 1146+111B,C Nature (ISSN 0028-0836), vol. 322, Aug. 28, 1986, p. 804.

参考文献

外部リンク

関連項目