スニヤエフ・ゼルドビッチ効果

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スニヤエフ・ゼルドビッチ効果(スニヤエフ・ゼルドビッチこうか、: Sunyaev-Zel'dovich effectSZ効果 あるいは SZE)は、宇宙空間に存在する高エネルギーの電子が、逆コンプトン効果(通常のコンプトン効果とは逆に、電子のエネルギーが、エネルギーの低い光子に転移する)により、宇宙マイクロ波背景放射 (Cosmic Microwave Background radiation ; CMB) を歪める現象である。観測されたCMBスペクトルの歪みは、宇宙の密度摂動を検出するのに利用されている。スニヤエフ・ゼルドビッチ効果を用いることにより、いくつかの密度の高い銀河団が観測されている。

概要[編集]

スニヤエフ・ゼルドビッチ効果は、さらに次のように分類できる。

  • 熱的効果 : CMB光子が高温に起因する高エネルギーの電子と相互作用を行なう。
  • キネティック効果 : これは2次のオーダーの効果であり、CMB光子が、全体として運動している電子集団中の電子(非熱的な運動エネルギーにより高いエネルギーを持つ)と相互作用を行なう。(エレミア・オストライカー(Jeremiah P. Ostriker) と Ethan Vishniac にちなんで、Ostriker-Vishniac 効果とも呼ばれる[1]。)
  • 偏光現象

ラシード・スニャーエフ(Rashid Sunyaev) と ヤーコフ・ゼルドビッチ(Yakov Zel'dovich) がこの効果の存在を予測し、1969年、1972年、1980年に調査を実施した。スニヤエフ・ゼルドビッチ効果は、主要な宇宙物理学的、宇宙論的関心事となっている。この効果は、ハッブル定数を決定する上で大きな助けとなる。銀河団に起因するSZ効果を、通常の密度摂動に起因するものから区別するために、電磁スペクトル依存性と、CMB変動の空間的依存性の双方が用いられる。CMBデータの、より高い角度分解能(高次の項を含む)での解析においては、スニヤエフ・ゼルドビッチ効果を考慮に入れる必要がある。スニヤエフ・ゼルドビッチ効果自体の研究としては、ボルツマン方程式を用い、CMB光子と電子の2回散乱(2回逆コンプトン散乱)を考慮した熱的効果が計算されている。

現在の研究は、この効果が銀河団間のプラズマによって、どのようにして生ずるかというモデリングと、ハッブル定数の評価へのこの効果の利用、背景放射のゆらぎの角度平均統計における異なる成分の分離、といったところに焦点を当てている。この理論における、熱的効果とキネティック効果のデータを得るため、流体力学的な構造形成シミュレーションが研究されている[2]

この効果の振幅の小ささと、観測エラーとの混同、CMB温度ゆらぎなどの要因のため、観測は容易ではない。しかし、スニヤエフ・ゼルドビッチ効果は散乱効果であるので、その強度は赤方偏移に依存しない。これは非常に重要な点であり、この方法によって、高い赤方偏移を受けた銀河団を、低い赤方偏移の場合と同様に、容易に検知できるということを意味する。高い赤方偏移を受けた銀河団の検出を容易にしている、別の要因は角直径・赤方偏移関係である: 統計的に角直径を赤方偏移の関数と見なした場合、赤方偏移 z = 0.3 〜 2 では、角直径の変化は小さい。つまり、この範囲の赤方偏移を持つ銀河団は、視野内で同じようなサイズを持つということである。スニヤエフ・ゼルドビッチ効果によって発見された銀河団を、宇宙論パラメーターの決定に用いる方法は Barbosa らによって示されている (1996)。これは、今後予定されているサーベイ (SPT, ACT, プランク)で得られるであろうダークエネルギーの力学を理解するうえで参考になるであろう。

観測についての時系列[編集]

  • 1983年 — Cambridge Radio Astronomy Group と Owens Valley Radio Observatory の研究者が、銀河団の中から最初にSZ効果を検出。
  • 1993年 — Ryle Telescope が、銀河団のSZ効果の恒常観測を開始。
  • 2003年 — WMAP衛星が全天のCMBマップを作成。SZ効果の限定的な検知能力を持つ。
  • 2005年 — アークミニット・マイクロケルビン・イメージャー (Arcminute Microkelvin Imager ; AMI ; 電波干渉計マラード電波天文台) とスニヤエフ・ゼルドビッチ・アレイ (Sunyaev-Zel'dovich Array ; SZA ; 電波干渉計) が、SZ効果を使って、高い赤方偏移を受けた銀河団の観測を開始。
  • 2007年 — 南極点望遠鏡 (South Pole Telescope ; SPT ; 電波望遠鏡) が2007年2月16日にファーストライト。同年3月から科学観測開始。
  • 2007年 — アタカマ宇宙論望遠鏡 (Atacama Cosmology Telescope ; ACT ; 電波望遠鏡) が6月8日にファーストライト。銀河団のSZ効果のサーベイを開始。
  • 2008年 — 南極点望遠鏡がSZ効果による最初の銀河団を発見。
  • 2009年 — プランク探査体が5月14日に打ち上げられ、7月に太陽―地球のL2ラグランジュ点に到達。8月13日からマイクロ波による全天サーベイを開始[3]
  • 2010年 — プランク探査体、2月14日から2回目の全天サーベイを開始[4]
  • 2012 – ACTがキネティックSZ効果の最初の検出[5]

脚注[編集]

  1. ^ Ostriker and Vishniac, Effect of gravitational lenses on the microwave background, and 1146+111B,C Nature (ISSN 0028-0836), vol. 322, Aug. 28, 1986, p. 804.
  2. ^ Cunnama D., Faltenbacher F.; Passmoor S., Cress C.; Cress, C. & Passmoor, S. (2009). “The velocity-shape alignment of clusters and the kinetic Sunyaev-Zeldovich effect”. MNRAS letters 397 (1): L41–L45. Bibcode 2009MNRAS.397L..41C. doi:10.1111/j.1745-3933.2009.00680.x. 
  3. ^ http://www.rssd.esa.int/index.php?project=PLANCK&page=Pointing
  4. ^ http://www.rssd.esa.int/index.php?project=PLANCK&page=dev_news
  5. ^ Hand, Nick (2012). “Detection of Galaxy Cluster Motions with the Kinematic Sunyaev-Zel'dovich Effect”. Physical Review Letters, submitted. Bibcode 2012arXiv1203.4219H. 

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]