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国際VHF

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

国際VHF(こくさいVHF)とは、船舶において全世界的に使われている無線通信システムである。マリンバンドとも言われ、英語では”marine VHF band”と呼ばれる。 沿岸海域では入出港の連絡、船位通報、航行の安全、遭難通信、外洋でも船舶相互間通信に使用されている。

法令等で定義がされた言葉ではないが、日本では総務省が、2009年(平成21年)に「船舶共通通信システム」として制度を整備している。

概要

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日本においては1964年(昭和39年)9月に法制化され、VHF150MHz帯FM方式を使用する。空中線電力海岸局が最大50W、船舶局が最大25W、船上通信局が最大1Wである。 「海上における人命の安全のための国際条約」(SOLAS条約)により、国際航海に従事する旅客船および総トン数300トン以上のその他の船舶に、船舶安全法により100トン以上の日本船舶に、デジタル選択呼出装置(以下DSC。特定の無線局との通信チャンネルを自動的に設定する装置、ボタン一つで遭難警報を発する機能も備える。)を付加した無線設備の設置が義務付けられている。 日本船籍の船舶の場合は、総務省令無線機器型式検定規則(以下、「検定規則」と略す。)による型式検定機器であることも要件である。

周波数には#チャンネルのように番号が付与されている。 呼出周波数はch16であり、このチャンネルで相手局を呼び出し(船舶相互では相手の呼出符号が分からない事もあり得るが、この場合は「さんふらわあ、さんふらわあ、こちら第十一咸臨丸」のように、船体に必ず大書されているはずの船名で呼びかける。このためマイクロホン・スピーカー・制御装置部分は必ずブリッジや操舵室に設置されている)、種別に従ったチャンネルに移動する。 すなわち船舶局同士なら「船舶相互」使用順位1のch06に、海岸局と船舶局なら「港務通信及び船舶通航」使用順位1のch20に移動する。 また、陸上の電気通信回線と接続して船舶電話としても使用でき、この場合は、「公衆」使用順位1のch26に移動する。 日本においては手動方式で1986年(昭和61年)まで使用され、その後は270MHz帯自動方式に完全移行、更に2003年(平成15年)には携帯電話衛星電話を応用したシステムに完全移行し、船舶電話専用のシステムとしては使われていない。

移動先のチャンネルが使用中であれば、

 船舶相互 ch06 → ch08 → ch10 → …

 港務通信及び船舶通航 ch20 → ch22 → ch18 → …

 公衆 ch26 → ch27 → ch25 → …

と使用順位に従ったチャンネルに順次移動する。

国際VHFを使用するには、政令電波法施行令により総合無線通信士海上無線通信士、第一級・第二級・第三級海上特殊無線技士のいずれかの無線従事者による操作又はその監督を要する。 更に、必要な種別の無線局の免許を申請して無線局免許状も交付されなければ使用できない。 なお第三級総合無線通信士、第四級海上無線通信士および第二級・第三級海上特殊無線技士は国内通信しか行なえず、国際通信はできない[1]。 また、第三級海上特殊無線技士(以下、「三海特」と略す。)は、空中線電力5W以下の船舶局(総務省告示[2]にいう特定船舶局)の音声通信の無線設備の通信操作のみできる。

マリンVHF

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プレジャーボートのために1991年(平成3年)12月に法制化され、レジャー、スポーツ用に18チャンネル分を割り当て「マリンVHF」と称し、ch77を呼出周波数としている。 これは、1988年(昭和63年)のなだしお事件を契機に、国際VHF以外の漁業無線なども設置していない船舶のために制度化された日本独自のシステムである。 これに先立ち、1990年(平成2年)7月に無線従事者の操作の範囲等を定める政令が改正され、三海特が国際VHFを操作できることとなった。 (その他の資格は制定時から操作できた。)

しかし、ATISを付加した型式検定機器又は特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則(以下、「証明規則」と略す)による適合表示無線設備であることを要求していたため、機種が少なく、海外向けの機器と比較すると機能に対して価格が割高となるなど、普及は進まなかった。

船舶共通通信システムとしての整備

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2008年(平成20年)のイージス艦衝突事故を契機に船舶の規模・用途を問わず共通に通信できるシステムの整備が課題となり、総務省は検討会を発足し、翌2009年(平成21年)1月に、「国際VHFを任意設置である100トン未満の船舶への普及を図ること」と報告 [3] された。 これを受け同年10月には、北米向けの簡素な機器の導入のために、技術基準や検査制度などの緩和を目的に省令等を改正 [4] した。 この中で、マリンVHF機器からはATIS機能強制を撤廃をしたものの、簡素な機器でも適合表示無線設備であるもののみを、簡易な免許手続や定期検査除外の対象としている。

安価な機器を使用できることになったとはいえ、小型漁船は漁業無線が27MHz帯や40MHz帯であるため新規に導入しなければならず、プレジャーボートは無線従事者の資格取得が必須なこともあり、導入・維持のための経費や手間を考え、設置に躊躇することがあるといわれている。 なお、逆輸入機を非常時に使用できるとして販売するネットショップやこれを無資格、無免許で設置する者があるが、販売はともかく設置した時点で電波法違反の不法無線局として取締り・刑事罰の対象となる。 (販売を規制する法令は無く、逆輸入機であっても免許を受けることは可能である。但し、適合表示無線設備ではないため手続きが煩瑣なものとなる。)

なお、近年では国内無線機メーカーから廉価な水に浮く携帯型の国際VHF無線機などが発売されており、数万円で導入でき、また、アンテナも技術基準適合認定に定められた最大9dBiのアンテナを使用することができ、広範囲に通信ができるように改善されてきている。

免許制度については「三海特にも、5W携帯形どまりでなく遠距離交信可能な25W据置形までと、非常時にも有効なDSCを使用できるように操作範囲を緩和してほしい」との意見があると報告されている。 (報告書のパブリックコメントなどには、「北米や欧州にならい、国内通信に限定したチャンネルを割り当て、これには資格は不要とし免許を届出制にする」などより一層の緩和を求める意見もある。)

システムの有効利用と普及のためには、局数増加に伴うマナー低下を防止し、呼出周波数ch16の聴守慣行を確立することが肝要であるといわれる。

表示

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型式検定機器には検定マークの、適合表示無線設備には技適マークの表示が義務付けられている。また、国際VHFの機器を表す記号は、

  • 型式検定機器は、検定番号及び機器の型式名の1字目又は1~2字目
  • 適合表示無線設備は、技術基準適合証明番号又は工事設計認証番号の英字の4~5字目

にあり、種別毎に次のとおりである。(検定規則別表第8号、証明規則様式7)

種別 記号 備考
型式検定機器 DSC付 SV  
DSC無し
(マリンVHFを含む)
F 記号は陸上無線用の機器と共用
平成11年12月31日まで
適合表示無線設備 同上 QY 平成11年10月13日以降
平成21年10月2日以降は次の2項に該当するものを除く
固定型 SU 25W以下の船舶局用で次の項に該当しないもの
携帯型 TU 5W以下の船舶局用

但し、2013年(平成25年)4月以降の工事設計認証番号(4字目がハイフン(-))に記号表示は無い。

チャンネル

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総務省告示周波数割当計画別表3-4による。

チャンネル番号 送信周波数 使用順位
船舶局 海岸局 船舶相互 港務通信及び船舶通航 公衆
ch60 156.025MHz 160.625MHz 17位 25位
ch01 156.050MHz 160.650MHz 10位 8位
ch61 156.075MHz 160.675MHz 23位 19位
ch02 156.100MHz 160.700MHz 8位 10位
ch62 156.125MHz 160.725MHz 20位 22位
ch03 156.150MHz 160.750MHz 9位 9位
ch63 156.175MHz 160.775MHz 18位 24位
ch04 156.200MHz 160.800MHz 11位 7位
ch64 156.225MHz 160.825MHz 22位 20位
ch05 156.250MHz 160.850MHz 6位 12位
ch65 156.275MHz 160.875MHz 21位 21位
ch06 156.300MHz 1位
ch66 156.325MHz 160.925MHz 19位 23位
ch07 156.350MHz 160.950MHz 7位 11位
ch67 156.375MHz 156.375MHz 9位 (10位)
ch08 156.400MHz 2位
ch68 156.425MHz 156.425MHz (6位)
ch09 156.450MHz 156.450MHz 5位 (5位)
ch69 156.475MHz 156.475MHz 8位 (11位)
ch10 156.500MHz 156.500MHz 3位 (9位)
ch70 156.525MHz 156.525MHz 遭難通信・安全通信及び呼出しのためのデジタル選択呼出し
ch11 156.550MHz 156.550MHz (3位)
ch71 156.575MHz 156.575MHz (7位)
ch12 156.600MHz 156.600MHz (1位)
ch72 156.625MHz 6位
ch13 156.650MHz 156.650MHz 4位 (4位)
ch73 156.675MHz 156.675MHz 7位 (12位)
ch14 156.700MHz 156.700MHz (2位)
ch74 156.725MHz 156.725MHz (8位)
ch15 156.750MHz 156.750MHz 11位 (14位)
ch75 保護周波数帯
ch16 156.800MHz 156.800MHz 遭難通信・安全通信及び呼出し
ch76 保護周波数帯
ch17 156.850MHz 156.850MHz 12位 (13位)
ch77 156.875MHz 10位
ch18 156.900MHz 161.500MHz 3位
ch78 156.925MHz 161.525MHz 12位 27位
ch19 156.950MHz 161.550MHz 4位
ch79 156.975MHz 161.575MHz 14位
ch20 157.000MHz 161.600MHz 1位
ch80 157.025MHz 161.625MHz 16位
ch21 157.050MHz 161.650MHz 5位
ch81 157.075MHz 161.675MHz 15位 28位
ch22 157.100MHz 161.700MHz 2位
ch82 157.125MHz 161.725MHz 13位 26位
ch23 157.150MHz 161.750MHz 5位
ch83 157.175MHz 161.775MHz 16位
ch24 157.200MHz 161.800MHz 4位
ch84 157.225MHz 161.825MHz 24位 13位
ch25 157.250MHz 161.850MHz 3位
ch85 157.275MHz 161.875MHz 17位
ch26 157.300MHz 161.900MHz 1位
ch86 157.325MHz 161.925MHz 15位
ch27 157.350MHz 161.950MHz 2位
ch87 157.375MHz 161.975MHz 14位
ch28 157.400MHz 162.000MHz 6位
ch88 157.425MHz 162.025MHz 18位
*=「マリンVHF」として割り当てられたチャンネル。

脚注

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  1. ^ これら4種の無線従事者の試験科目には英会話が無く、能力が担保されないことによる。総合無線通信士#国家試験海上無線通信士#国家試験海上特殊無線技士#国家試験を参照。但し、遭難通信などは国際通信と国内通信の区別がないので行なえる。
  2. ^ 平成21年総務省告示第471号 電波法施行規則第34条の6第1号の規定に基づく小規模な船舶局に使用する無線設備として総務大臣が別に告示する無線設備 総務省電波利用ホームページ 電波関係法令集
  3. ^ 海上における船舶のための共通通信システムの在り方及び普及促進に関する検討会報告書 (PDF) 総務省 平成21年1月27日 報道資料より
  4. ^ 船舶が任意に設置する安価な国際VHF機器の導入に伴う関係規定の整備 同上 平成21年10月1日 報道資料

関連項目

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外部リンク

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