ミケルの定理
ミケルの定理(みけるのていり、英語: Miquel's theorem)はフランスの高校教師であるオーギュスト・ミケルの名を冠する幾何学の定理である[1]。三角形の3辺またはその延長に点を一つずつとる。うち2点と、その間の三角形の頂点を通る円は、一点で交わる。ミケルの定理はミケルの発見した円の定理の一つで、彼の発見した諸定理は、ジョゼフ・リウヴィルのJournal de Mathématiques Pures et Appliquées によって出版された。
厳密にいうと、ある△ABCについて、直線BC,CA,AB上にそれぞれ点A' ,B' ,C' をとり、△A'B'C,△B'C'A,△C'A'Bの外接円を描く(ミケル円、Miquel's circles)。3つのミケル円は一点で交わる(ミケル点、Miquel point)[2]。さらに3つの角∠MA'C,∠MB'A, ∠MC'Bは等しくまた、∠MA'B,∠MB'C,∠MC'A も等しい[3][4]。
この定理は、 内接四角形の角の性質と有向角を用いることで示すことができる。円A'B'C,AB'C' の交点について と角度追跡することによりBA'MC'の共円が示されてミケルの定理を得る。
Pivot theorem
[編集]ミケルの定理を共線でない3点A' ,B' ,C' の成す三角形に着目した場合はForder (1960, p. 17)によってPivot theoremと名づけられている[5]。
ミケル点の三線座標
[編集]A' ,B' ,C' のBC,CA,ABに対するfractional distances(線分の長さを1とした時の、線分の始点からの距離)をそれぞれda,db,dc、線分BC,CA,ABの長さをそれぞれa,b,cとしてそのミケル点の三線座標(x,y,z)は以下の式で表される。
ただしd' a= 1 - da,d' b= 1 - db,d' c= 1 - dc である。
da=db=dc=1/2である場合、ミケル点は外心(cos α : cos β : cos γ)になる。
ミケルの定理の逆
[編集]ミケルの定理の逆は次のような定理である。点Mを通る3円について、1つの円上に点A をとり、2つ目の円とのMでないほうの交点の一つをC'として、直線AC'と2つ目の円のC'でない方の交点をBとする。同様に、3つ目の円に対してBからA',Cをつくる。このとき点A,C,B'は共線であり、△ABCの辺上にA' ,B' ,C' が存在する。
相似な内接三角形
[編集]△XYZが三角形△ABCに内接し相似であるとき、任意の△XYZにおいて、そのミケル点は不動である[6]:p. 257。
ミケルの四辺形定理
[編集]完全四辺形の辺から成る4つの三角形の外接円は一点で交わる[7]。これをミケルの四辺形定理またはミケルとシュタイナーの四辺形定理(Miquel and Steiner's Quadrilateral Theorem)という。
この定理は、1827,1828年に ヤコブ・シュタイナーによってジョセフ・ジェルゴンヌ の出版物(Annales de Gergonne)で発表されたが、厳密な証明はミケルによって与えられた[7][8]。
ミケルの五点円定理
[編集]凸な五角形ABCDEについて、その辺を延長し星形五角形FGHIKをつくる。5つの円CFD,DGE,EHA,AIB,BKCの、隣り合う円の元の五角形の頂点でない方の交点は共円である[9]。これをミケルの五点円定理(Miquel's pentagon theorem)という。この定理の逆として、五円定理が知られている。
ミケルの六円定理
[編集]円上に四点A,B,C,Dをとり、隣り合う2点を通る円延べ4円を描く。それぞれの円について、4円の隣り合う円との交点の一方が共円ならば、もう一方の交点も共円である。これをミケルの六円定理(Miquel's six circle theorem)または六円定理(six circles theorem)、四円定理(four circles theorem)という[10]。ただし、六円定理は別の定理を指すこともある。この定理は一般にはシュタイナーによるものとされているが、証明を行ったのはミケルのみである[11]。 David G. Wellsはこの定理もMiquel's theoremと呼んでいる[12]。
三次元におけるミケルの定理
[編集]ミケルの定理は三次元に一般化されている。三角形を四面体に、円を球に置き換える。4つの球は一点で交わる[4]。
関連項目
[編集]出典
[編集]- ^ A high school teacher in the French countryside (Nantua) according to Ostermann & Wanner 2012, p. 94
- ^ “ミケルの定理とミケル円”. 高校数学の美しい物語 (2021年3月7日). 2024年7月1日閲覧。
- ^ Miquel, Auguste (1838), “Mémoire de Géométrie”, Journal de Mathématiques Pures et Appliquées 1: 485–487, オリジナルの2013-02-13時点におけるアーカイブ。
- ^ a b Wells 1991, p. 184 - Wells refers to Miquel's theorem as the pivot theorem
- ^ Coxeter & Greitzer 1967, p. 62
- ^ Francisco Javier Garc ́ıa Capita ́n, (2016). “Locus of Centroids of Similar Inscribed Triangles”. Forum Geometricorum (vol 16): 257-267 .
- ^ a b Ostermann & Wanner 2012, p. 96
- ^ Steiner, J. (1827/1828), “Questions proposées. Théorème sur le quadrilatère complet”, Annales de Mathématiques 18: 302–304
- ^ Ostermann & Wanner 2012, pp. 96–97
- ^ Pedoe 1988, p. 424
- ^ Ostermann & Wanner 2012, p. 352
- ^ Wells 1991, pp. 151–2
参考文献
[編集]- Coxeter, H.S.M.; Greitzer, S.L. (1967), Geometry Revisited, New Mathematical Library, 19, Washington, D.C.: Mathematical Association of America, ISBN 978-0-88385-619-2, Zbl 0166.16402
- Forder, H.G. (1960), Geometry, London: Hutchinson
- Ostermann, Alexander; Wanner, Gerhard (2012), Geometry by its History, Springer, ISBN 978-3-642-29162-3
- Pedoe, Dan (1988) [1970], Geometry / A Comprehensive Course, Dover, ISBN 0-486-65812-0
- Smart, James R. (1997), Modern Geometries (5th ed.), Brooks/Cole, ISBN 0-534-35188-3
- Wells, David (1991), The Penguin Dictionary of Curious and Interesting Geometry, New York: Penguin Books, ISBN 0-14-011813-6, Zbl 0856.00005
外部リンク
[編集]- Weisstein, Eric W. "Miquel's theorem". mathworld.wolfram.com (英語).
- Weisstein, Eric W. "Miquel Five Circles Theorem". mathworld.wolfram.com (英語).
- Weisstein, Eric W. "Miquel Pentagram Theorem". mathworld.wolfram.com (英語).
- Weisstein, Eric W. "Pivot theorem". mathworld.wolfram.com (英語).
- Miquels' Theorem as a special case of a generalization of Napoleon's Theorem at Dynamic Geometry Sketches