クロード・バロン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

クロード・バロンClaude BalonあるいはBallon1671年 - 1744年5月9日)は、フランスバレエダンサーバレエ指導者・振付家・作曲家である[注釈 1][1]。美貌と表現力を兼ね備えたダンサーで、同時期にパリ・オペラ座で活躍したミシェル・ブロンディと人気を二分した[1][2][3]。バレエ用語の「バロン」(en:Ballon (ballet))は、彼の名に由来するといわれる[注釈 2][2][4]

生涯[編集]

パリの生まれ[1]。1690年にパリ・オペラ座に入り、ジャン=バティスト・リュリ作曲の『カドミュスとエルミオーヌ』(en:Cadmus et Hermione)で舞台デビューした[1]。バロンはすぐにその才能と魅力を認められて、人気ダンサーとなった[1][2]

当時のパリ・オペラ座には、ミシェル・ブロンディ(1675年から1677年頃 - 1739年8月6日)というもう1人の人気男性ダンサーが在籍していた[2][3]。ブロンディはピエール・ボーシャンの甥でその指導を受け、後にパリ・オペラ座のメートル・ド・バレエに就任した人物であった[2][3]。バロンとブロンディはほぼ同時期にパリ・オペラ座に入り、ライバルとして世評が高かった[2][3]。ブロンディは個性的な踊りに優れていて、「史上最高の美男ダンサー」と評されていた[2]。一方のバロンは、「この上もなく趣味が良く、比べようもないほど表現力に富む」と形容された[2]。その時期のバロンを描いた肖像画では、『ギリシアのアマディス』(1699年)、『カーニヴァルと馬鹿騒ぎ』(1704年)などが現存する[1]

バロンは1699年に、バレエ史上初のバレリーナの1人として知られるマリー=テレーズ・スュブリニとともにロンドンで舞台に立った[1][5]。バロンとスュブリニが踊ったデュエットのうちいくつかは、ラウール=オージェ・フイエが考案した舞踊記譜法で記録が残されているため、再現が可能である[1]。スュブリニの後継者として舞台に登場したフランソワーズ・プレヴォーとも共演した[6]。1708年にバロンとプレヴォーは、ピエール・コルネイユ作の悲劇『オラース』(en:Horace (play))の最後の場面を演じて好評を博した[6]

1712年頃にパリ・オペラ座を去って、ソーにあったデュ・メーヌ公夫人ルイーズ・ベネディクト・ド・ブルボンの小宮廷(ソー城)に出仕した[1]。デュ・メーヌ公夫人の小宮廷では、1714年に『アポロとミューズたち』(Apollo et les Muses)というバレエ作品を上演してこちらも好評であった[1]。『アポロとミューズたち』は、後のバレエ・ダクシオンの先駆的作品として認識されている[1]

1715年に当時5歳のルイ15世の舞踊教師に就任し、次いで1719年には「王のバレエの作曲家」に任命された[1][7]。同じく1719年にピエール・ボーシャンの後任として、王立舞踊アカデミーの総裁に就任した[1][7]

1731年、「フランス児童の舞踊教師」という称号を授与された[1][7]。1744年、ヴェルサイユにて死去した[1][7]。バレエ用語の「バロン」は、彼の名に由来するといわれる[注釈 2][2][4]。なお、マリー・サレは彼の個人的な弟子の1人であったという[1][8]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ しばしば、「ジャン・バロン」(Jean BalonまたはBallon)と呼ばれるが、これは誤りである。
  2. ^ a b 「バロン」(ballon)は跳ぶにおいて、軽やかに跳び上がって空中に一瞬静止し、再び柔軟に床に下り立つことのできる踊り手の能力を指す用語。バロンと似た単語に「バロネ」(ballonne)がある。バロネは「ボール(または風船)のように膨らんだ」という意味で、軸足で踏み切って跳躍し(または跳躍の代わりにポワント(爪先)もしくはドゥミ・ポワント(足指の腹)で立ち)、瞬間的に動作する足を45度の角度に伸ばしてから、軸足のク・ドゥ・ピエ(足首の上)の位置に戻して着地するパで、跳ぶパの1種である。フランス文学者で舞踊評論家の佐々木涼子は、著書『バレエの歴史 フランス・バレエ史-宮廷バレエから20世紀まで』(2008年)で、バロネという単語もクロード・バロンの名に由来するという説を記述している。

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 『オックスフォード バレエダンス辞典』410-411頁。
  2. ^ a b c d e f g h i 佐々木、83-84頁。
  3. ^ a b c d 鈴木、87-88頁。
  4. ^ a b Greskovic, Robert (2005). Ballet 101: A Complete Guide to Learning and Loving the Ballet. Hal Leonard Corporation. ISBN 978-0-87910-325-5 
  5. ^ 『オックスフォード バレエダンス辞典』258頁。
  6. ^ a b Women’s Work: Making Dance in Europe before 1800 Google ブックス 2014年5月10日閲覧。(英語)
  7. ^ a b c d Dictionnaire de la danse Page 34 ラルース大百科事典 2014年7月1日閲覧。(フランス語)
  8. ^ 佐々木、100頁。

参考文献[編集]

外部リンク[編集]