ウケクチウグイ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ウケクチウグイ
マリンピア日本海飼育展示個体
保全状況評価
ENDANGERED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 条鰭綱 Actinopterygii
上目 : 骨鰾上目 Ostariophysi
: コイ目 Cypriniformes
: コイ科 Cyprinidae
亜科 : ウグイ亜科 Leuciscinae
: ウグイ属 Tribolodon
: ウケクチウグイ
T. nakamurai
学名
Tribolodon nakamurai
Doi and Shinzawa, 2000
和名
ウケクチウグイ

ウケクチウグイTribolodon nakamurai )は、コイ目コイ科ウグイ亜科に分類される。下顎が上顎よりやや突出するので「ウケクチ」の名がついている。また、その頭部の形状からホオナガバエウマヅラなどの別名がある。

分布[編集]

日本の秋田県山形県新潟県長野県に分布する。阿賀野川最上川[1]信濃川などの大きな河川に生息する。なお、信濃川水系(長野県内)の個体は、2004年に絶滅したとの報告がされた[2]が、2007年の調査で捕獲された[3]

形態[編集]

ウグイ属のなかでは最も大きくなり、全長60cmほどになる。なかには80cmまで成長する個体もある。後頭部から吻にかけて直線的で扁平な頭をしており、下顎が上顎よりやや突出する。下顎の先端が黒い。繁殖期には、婚姻色として腹部に縦帯が赤く1本出る。頭部後端から背鰭前部までのは40枚以上、側線鱗数は85枚以上になる。

生態[編集]

流域の大きな河川の上流から中流域にかけて生息する。産卵は6月頃に行われると考えられている。生息地が限定され、個体数も少ないため生態については不明な点が多い。山形県鶴岡市の私設博物館「出羽の里 未来遺産館」の研究者によると、庄内地方では成魚が最上川中流だけで見つかるのに対して、稚魚や幼魚は各河川や農業用水で採取報告があり、産卵のため最上川へ戻るのではないかと推測している[4]

降海特性は無い[5]

命名[編集]

1963年に中村守純によって福島県只見川水系の調査で発見され、他のウグイ属とは明らかに形態が違ったためウケクチウグイの和名が付けられた[6]。しかし、個体数が少ないために生態や行動がよく分からず、ウグイの亜種なのか、または型なのか、それとも別のなのかはっきりしなかったため学名が付けられていなかった。近年研究が進み、他のウグイ属の魚と比べて遺伝的分化が明確であることと、また雑種ができないことから2000年に新種として記載された。学名の種小名nakamuraiは、発見者の中村に敬意を表して献名されたものである[7]

原記載論文[編集]

Doi, Atsushi, and Hiroyuki Shinzawa. "Tribolodon nakamurai, a new cyprinid fish from the middle part of Honshu Island, Japan." (PDF) Raffles Bulletin of Zoology 48.2 (2000): 241-248.

保全状態評価[編集]

絶滅危惧IB類 (EN)環境省レッドリスト

[8]

発見時より個体数は少ない。河川改修による生息域の圧迫に加え、目だった保護活動が行われておらずウグイ属の他魚種と区別されずに漁獲されることもあり、さらに個体数減少が懸念されている。

脚注[編集]

  1. ^ 酒井治己, 桂和彦, 小野沢茂好「山形県最上川から得られたウケクチウグイ」『魚類学雑誌』第37巻第4号、日本魚類学会、1991年、424-426頁、doi:10.11369/jji1950.37.424 
  2. ^ 片野修, 中村智幸, 山本祥一郎, 阿部信一郎,「長野県浦野川における魚類の種組成と食物関係」『日本水産学会誌』 Vol.70 (2004) No.6 p.902-909, doi:10.2331/suisan.70.902
  3. ^ 北野聡, 田崎伸一, 美馬純一 ほか,「千曲川下流域における2009年の魚類採取記録」『長野県環境保全研究所研究報告書』 7号 p.75-78, 2011, 長野県環境保全研究所, NAID 120005321670
  4. ^ 岡部夏雄「淡水魚と歩んでいます◇山形県で生態調査30年 平和な環境保護にも力◇」日本経済新聞』朝刊2019年4月2日(文化面)2020年7月13日閲覧
  5. ^ 今井千文, 酒井治己, 新井崇臣,「コイ科の希少種ウケクチウグイの耳石Sr:Ca比解析による河川型生活史の検証」『水産大学校研究報告』57巻 2号 p.137-141, 2008-12-00, 水産大学校, NAID 40016776677
  6. ^ 中村守純『動物分布調査報告書(淡水魚類)7. ウケクチウグイ』日本自然保護協会、1980年
  7. ^ 『山形大学付属博物館報』28 P2-3 2002.3
  8. ^ 環境省生物多様性センター 絶滅危惧種情報検索 ウケクチウグイ

関連項目[編集]

外部リンク[編集]