しの字嫌い
しの字嫌い(しのじぎらい)は古典落語の演目の一つ。上方落語ではしの字丁稚(しのじでっち)。
概要
[編集]上方の『正月丁稚』(東京では『かつぎや』)の前半部分が独立したもの。
原話は、明和5年(1768年)に出版された笑話本『絵本軽口福笑ひ』にある無題の小咄。
主な演者に東京の10代目金原亭馬生、7代目立川談志、柳家三三、上方の4代目桂文我などがいる。
あらすじ
[編集]下男の権助(上方では商家の丁稚・定吉)は働き者で忠義に厚いが、主人が「火を煙草盆に入れろ」と言えば「火をそのまま煙草盆に入れたら焦げちまう。『煙草盆の中の火入れの中の灰の上へ火を入れる』と言うのが道理だべ」と言い返すなど、屁理屈をこねる癖がある。主人はこらしめてやろうと、「『死ぬ』『しくじる』など、『し』のつく言葉は縁起が悪いから、『し』の字を言うのを一切禁止にする。もしお前が先に言ったら1年間無給、わたしが先に言ったら小遣いをあげよう」と提案した。
主人は早速権助に、飯が炊けたかを質問する。「おまんま、炊いて『し』めえやした」と言わせようという算段だ。「おまんまは、炊いて、……炊き終わっとります」「水は汲んでおいたかな?」「水なら、とっくに汲んで……『汲んでおわった』」
主人は再び策を巡らせ、権助が普段「お『し』りが大きい」と悪口を言っている、分家の嫁のことについて質問し、さらに四貫四百四十四文(しかんしひゃくしじゅうしもん)の銭を勘定させることを思いついた。そのとき「あ『し』の、『し』びれが切れました」と言わせるよう、権助を正座させることも決めて、あらためて部屋に権助を呼んだ。
「この前、分家のおかみさんの悪口を言っていたな。あれ、なんと言っていたんだ?」「あれは、お、おケツが大きい、と」
「そうだ権助。銭箱に、銭がだいぶ溜まってきたんだ。勘定をやってくれないか?」「ようがす。ん? これは……」「さぁ権助、早く数えて」「へぇ、ウムム……あ、『あんよ』の、ウーン、『よびれ』が切れた」
権助は少し考え、ひとつうなずくと、
「ちょっとそろばんを持ってくだされ。まず二貫、次に二貫。今度は二百で、また二百。お次は二十で、また二十。最後は二と二で……合わせてなんぼだべ?」「お前さんが言うんだ」「へぇ……よ貫よ百よ十よ文。それで悪けりゃ三貫一貫(さんがんいっかん)、三百百(さんびゃくひゃく)、三十十文(さんじゅうじゅうもん)、三文一文(さんもんいちもん)」
主人は思わず、「うーん、『し』ぶとい」[1]。(主人「『し』ぶといやつ・・・『し』まった!」と二回言ってしまう「落ち」もある。[2])