リンク 16
リンク16/TADIL J (Tactical Digital Information Link J)は、北大西洋条約機構で用いられる戦術データ・リンクのフォーマット。統合戦術情報伝達システム (JTIDS)上で運用され、従来は同義に使用されてきたが、現在、NATOにおいて、同様の接続を実現する多機能情報伝達システム(MIDS)が開発され、順次に実用化されている。従来、戦術データ・リンクとして用いられてきたリンク 4やリンク 11は、リンク 16や、同様の技術を用いたリンク 22によって代替される予定である。
概要
[編集]時分割多元接続 (TDMA) 方式を採用し、優れた秘匿性や耐妨害性、高い伝送速度を実現している。また、TDMA方式の採用により、より容易にデータ・リンク・ネットワークが構築できるようになった。
リンク16に接続する艦船や航空機はJU (JITDS Unit)と呼ばれ、各タイムスロット内で情報を送信するか受信するかを割り当てられる。1秒間に128のタイムスロットがあり、4秒(512タイム・スロット)を1セットと呼んでいる。さらに、3つのセット(セットA、セットB、セットC)で1フレーム(12秒)を構成している。秘匿性向上のため、各セット内で各JUに割り当てられたタイム・スロットはランダムに配置されている。さらに、1フレーム(1536タイム・スロット)からなる複数のネットワークに0から126までのネットナンバーが与えられ、マルチネット(127ネットワーク)を構成している。
これにより、従来使用されてきたリンク11を大きく上回るユニットがネットワークに参加できるようになり、また伝送速度も向上した。リンク11では、双方向通信に参加できるユニットは最大で62、通常運用で20程度であったが、リンク16ではその10倍近いと言われている。また、伝送速度は音声通信では2.4~16kbps、データ通信では31.6kbps、57.6kbps、115.2kbps、238kbps、1.137Mbpsのいずれかを選択でき、1.3または2.25kbpsであったリンク11の100倍近いものとなっている[1][2]。
使用する周波数はUHFで、この周波数の特性により、見通し線内での通信しかできない。このため、衛星通信(後述)や航空機の中継によって、通信可能距離を延伸する試みがなされている。
S-TADIL JとSTDL
[編集]リンク16がUHF帯を採用したことで、通信可能距離は見通し線内に制約されることになった。これを解決するため、アメリカ合衆国とイギリスは、それぞれ異なる手法で、衛星を経由させての通信技術を開発した。
S-TADIL J
[編集]アメリカが開発したS-TADIL J (Satellite-TADIL J) は、FLTSATCOMなど、UHF帯の衛星通信(UHF-SATCOM)を使用するものである。衛星通信での多元接続方式としては一般的な要求時割付多元接続 (DAMA)を採用することで、ニア・リアル・タイムでの通信を行っている。ネットワークに参加できるユニット数は16、通信速度は2,400または4,800bpsで、DAMAモードを解除することで9,600bpsまで上げられるが、推奨されておらず、またそのようにはできないようになっている。
艦上では、WSC-3やUSC-42 Mini-DAMAといったUHF-SATCOM通信ターミナルで送受信を行い、KG-84(en)暗号機、C2P(Command & Control Processor)を介して戦術情報処理装置に接続される。従って、S-TADIL Jを使用するためには、戦術情報処理装置がJTIDS/MIDSに対応している必要があると言われている。
S-TADIL Jの開発は1994年、Space and Naval Warfare Systems Command (SPAWAR)(en)において、Joint-Range Extension (JRE) の一環として、C2Pを衛星に接続する試みとしてはじめられた。1995年にはSATLINK-16から現在の名前に改称し、1996年には、カール・ヴィンソン空母戦闘群(現 空母打撃群)おいて運用試験が実施された。
S-TADIL Jは現在、特に広域での作戦連携が必要となるミサイル防衛任務で重用されており、海上自衛隊のイージスシステム搭載艦の一部にも搭載されている。また、S-TADIL Jは、将来的にはJREAP(en)プロジェクトのもとで、JREAP-Aとして標準化されるとも言われている。
STDL
[編集]イギリスが開発したSTDL (Satellite Tactical Data Link) は、SHF帯の衛星通信を使用するもので、上述のS-TADIL Jとの互換性は無い。リンク16と同じくTDMA方式を採用しており、リアルタイム性は確保されるが、伝送容量や速度は低下する。フレームあたりのタイム・スロット数は伝送速度に依存するが、19.2kbpsでは1フレームあたり最大で32スロットが割り当てられ、16のユニットが参加できる。
インヴィンシブル級軽空母や42型・45型駆逐艦、23型フリゲート、トラファルガー級・アスチュート級原子力潜水艦に搭載されている。
参考文献
[編集]- 多田智彦「データリンクの基礎知識」『世界の艦船』2002年4月号82-85頁
- Lockheed Martin UK (2009年). “Tactical Data Links - Satellite Link 16” (HTML) (英語). 2009年1月12日閲覧。
- Lockheed Martin UK (2009年). “Tactical Data Links - MIDS/JTIDS Link 16, and Variable Message Format - VMF” (HTML) (英語). 2009年1月12日閲覧。