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ランス・アダムス症候群

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
Lance-Adams症候群から転送)

ランス・アダムス症候群(ランス・アダムスしょうこうぐん、: Lance-Adams syndrome、LAS)とは、呼吸停止、気道閉塞、心停止などによる低酸素脳症の後遺症として、低酸素脳症発症後、数日もしくは数週間で皮質の興奮性亢進に伴う動作性ミオクローヌスを呈する病態のこと[1][2][3]1963年ジェームズ・ランスレイモンド・アダムスにより初めて報告された[4][5]

概要

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窒息や心肺停止などによる脳の低酸素障害の後遺症として動作時ミオクローヌスを呈する疾患である。安静臥位では出現しないが、立位をとらせたり、開口、舌の突出、上肢の挙上などの動作で誘発される非周期性、非律動性の筋収縮である[1][2]。意図や企図動作、緊張するなどの心身の不安により増悪する[1][2]

病理

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低酸素脳症による大脳基底核病変により出現する[2]

治療

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治療薬としてはセロトニンGABAA受容体の増強作用があるクロナゼパムバルプロ酸が広く用いられている[1][3]。クロナゼパム、バルプロ酸が無効であった症例に対し、レベチラセタムが有効であったと報告がされている[6]。他にピラセタムが有効性を示したという報告がされている[3][7]

薬物療法以外の治療法としては、2015年に富山大学医学部脳神経外科のチームが両側淡蒼球に対する深部脳刺激療法にて著効を示した症例を報告している[8]

ペランパネル

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2017年ごろからペランパネルが有効であるとの報告が集まってきており、完治例も報告されている[9][10][11][12][13]

2021年4月に京都大学のグループが気管支喘息発作により低酸素脳症になりランス・アダムス症候群になったケースに対し発症11年経過後に、2022年3月には北里大学のグループが縊首後ランス・アダムス症候群になったケースに対して発症1年6ヵ月経過後に、それぞれペランパネルを投与し、動作性ミオクローヌスが有意に改善し、立位保持が可能となった症例を報告する等、慢性期の症例に対しても改善が認められたとする症例の報告が増えている[13][14]

脚注

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  1. ^ a b c d ベッドサイドの神経の診かた 改訂17版 P179 南山堂 ISBN 978-4525247171
  2. ^ a b c d 神経診察クローズアップ-正しい病巣診断のコツ 改訂2版 P104 メジカルビュー社 ISBN 978-4758303804
  3. ^ a b c 星野愛, 熊田聡子, 横地房子, 八谷靖夫, 花房由季子, 冨田直, 沖山亮一, 栗原栄二, 「十分量のpiracetam投与が有効であったLance-Adams症候群の1例」『脳と発達』 2009年 41巻 5号 p.357-360, , doi:10.11251/ojjscn.41.357
  4. ^ Lance, J.W. and R.D. Adams: !2THE SYNDROME OF INTENTION OR ACTION MYOCLONUS AS A SEQUEL TO HYPOXIC ENCEPHALOPATHY." Brain 86, p.111-136 (1963), doi:10.1093/brain/86.1.111
  5. ^ 長山隆, 山根清美, 阿部裕光, 島國義, 高橋正宏, 太田舜二, 小林逸郎, 竹宮敏子, 丸山勝一「Postanoxic Encephalopathy の1症例 : 特に Lance-Adams症候群について」『東京女子医科大学雑誌』第54巻第10号、東京女子医科大学学会、1984年10月、1112-1117頁、ISSN 0040-9022NAID 120002357826 
  6. ^ KraussGL,Bergin A,Kramer RE,Cho YW,ReichiSG."Suppression of post-hypoxic and post-encephalitic myoclonus with levetiracetam." Newrology 2001:56:411-2, doi:10.1212/WNL.57.6.1144-b.
  7. ^ 林元久,木下喬弘,山川一馬,松田宏樹,藤見聡『日本救急医学会雑誌』第28巻第9号、日本救急医学会東京都文京区、2017年9月、623頁。 
  8. ^ Asahi T, Kashiwazaki D, Dougu N, Oyama G, Takashima S, Tanaka K, Kuroda S. Alleviation of myoclonus after bilateral pallidal deep brain stimulation for Lance-Adams syndrome.J Neurol. 2015 Jun;262(6):1581-3.
  9. ^ Goldsmith D, Minassian BA. "Efficacy and tolerability of perampanel in ten patients with Lafora disease." Epilepsy Behav 2016;62:132-135
  10. ^ Crespel A, Gelisse P, Tang NP, et al. Perampanel in 12 patient swith Unverricht-Lundborg disease. Epilepsia 2017;58:543-547, doi:10.1016/j.yebeh.2016.06.041.
  11. ^ Steinhoff BJ, Bacher M, Kurth C, et al. "Add-on perampanel in Lance-Adams syndrome." Epilepsy Behav Case Rep 2016;6:28-29, doi:10.1016/j.ebcr.2016.05.001.
  12. ^ Shiraishi H, Egawa K, Ito T, et al. "Efficacy of perampanel for controlling seizures and improving neurological dysfunction in a patient with dentatorubral-pallidoluysian atrophy (DRPLA)." Epilpsy Behav Case Rep 2017;8:44-46, doi:10.1016/j.ebcr.2017.05.004.
  13. ^ a b Daiji Saita, Satoru Oishi, Masanori Saito "Administration of a small dose of perampanel improves walking ability in a case of Lance-Adams Syndrome" psychiatry and clinical neurosciences 2022;Volume76, Issue3:89-89 .doi:10.1111/pcn.13320. PMID 34878204.
  14. ^ 齋藤和幸、大井和起、稲葉彰、小林正樹、池田昭夫、 和田義明「長期経過で持続した Lance-Adams 症候群の重症ミオクローヌスにペランパネルが奏効した 1 例」『臨床神経学』第61巻、日本神経学会東京都文京区、2021年4月、18-23頁、ISSN 0009-918X、ONLINE ISSN 1882-06542021年7月4日閲覧 

関連項目

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