シビレエイ目

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シビレエイ目
生息年代: 始新世現世[1]
Torpedo fuscomaculata
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 軟骨魚綱 Chondrichthyes
亜綱 : 板鰓亜綱 Elasmobranchii
: シビレエイ目 Torpediniformes
学名
Torpediniformes
de Buen, 1926
和名
シビレエイ(痺鱝)
デンキエイ(電気鱝)
英名
Electric ray
本文参照

シビレエイ目、痺鱝目・痺鱏目、Torpediniformes は、軟骨魚綱板鰓亜綱の下位分類群で、エイのグループの一つ。2科12属60種を含む。捕食・防御のための発電器官を持つことで知られ、その電圧は8-220ボルトに達する[2]

タイプ属ヤマトシビレエイ属 Torpedo で、これはラテン語で「麻痺した」を意味する torpere に由来する。

形態

1対の発電器官。

体盤は丸い。背鰭は2基で、大きく丸いが、タイワンシビレエイ科では退化する場合もある。尾は筋肉質で太く、尾鰭はよく発達する。体は柔らかくて分厚く、皮膚は皮歯を欠く。1対の発電器官腎臓型で、胸鰭の基部にある。吻は、タイワンシビレエイ科では大きく幅広いが、ヤマトシビレエイ科では欠く。口、鼻孔、5対の鰓裂は体盤下面に位置する[2][3]

1000m以浅の沿岸域に生息する。泳ぎは遅く、他のエイと異なって尾鰭で推進力を生み出す。砂泥に埋もれて無脊椎動物や小魚を待ち伏せ、電気ショックで麻痺させて捕食する[4]

人との関連

このエイが獲物を麻痺させる能力は古くから知られており、古代ギリシアでは、出産や手術時に痛みを麻痺させるために用いられていた[2]プラトンは『メノン (対話篇)』において、ソクラテスが難解な質問で人々を当惑させる様子をこのエイに例えている[5]古代ローマの医師スクリボニウス・ラルグス46年Compositiones Medicaeにおいて、torpedo fish頭痛痛風の治療に有効であると述べている[6]。このような能力を持つため、その正体が電気であると理解されるまでは、このエイは魔術的な生物だと信じられていた[7]

後述するように、日本近海にもヤマトシビレエイなどが生息している。底引き網で漁獲されることもあるが、上記の電気ショックを避けるため、漁師は手で触れないようにする[8]

日本の理化学研究所(理研)が、シビレエイの電気器官を分析したアデノシン三リン酸(ATP)系発電機を開発した[9]。理研は、シビレエイにつけた発振器からの超音波を捉えて海底の地形を精密に調べるバイオロギング実験に成功しており、将来はその発電器官を発振器の電力に使うことをめざす[10]

分類

3科12属に、およそ60種が属する[11]。ヤマトシビレエイ科は大型の獲物を麻痺させて丸呑みするが、タイワンシビレエイ科は堆積物内の小型の獲物を捕食する。どちらの科も電気ショックを防御に用いるが、タイワンシビレエイ科が電気ショックを捕食に用いているかは不明である[12]

属名の後の括弧内の数字は種数。

ヤマトシビレエイ科

ヤマトシビレエイ科 Torpedinidae は、2亜科2属22種を含む。

タイワンシビレエイ科

タイワンシビレエイ科 Narcinidae は、2亜科10属38種を含む。

日本近海には以下の5種が生息する。

  • シビレエイ Narke japonica (Temminck & Schlegel, 1850) Japanese sleeper ray 最も一般的なシビレエイ。
  • ハクテンシビレエイ N.dipterygia (Bloch & Schneider, 1801)  Numbray インド洋から西太平洋の広範囲に分布する小型種。
  • ネムリシビレエイ Crassinarke dormitor Takagi, 1951 Sleeper torpedo 日本や台湾に分布する。
  • ヤマトシビレエイ Tetronarce tokionis (Tanaka, 1908) Trapezoid torpedo 全長70cmに迫る大型種で、水深1000mの深海に生息する。
  • ゴマフシビレエイ T.californica Ayres, 1855 Pacific electric ray 主な生息地は北アメリカ大陸西岸で、日本では過去数件の水揚げがある。

T.tokionisT.californicaの属名はTorpedoを採用し、Tetronarceシノニムとみなすのが一般的だが、「FishBase」ではTetronarceに属する種として採録されている。

脚注・出典

  1. ^ Froese, Rainer, and Daniel Pauly, eds. (2011). "Torpediniformes" in FishBase. February 2011 version.
  2. ^ a b c Martin, R. Aidan. Electric Rays. ReefQuest Centre for Shark Research. Retrieved on October 12, 2008.
  3. ^ Hamlett, William C. (1999). Sharks, Skates, and Rays: The Biology of Elasmobranch Fishes. Baltimore and London: JHU Press. ISBN 0-8018-6048-2 
  4. ^ Stevens, J. & Last, P.K. (1998). Paxton, J.R. & Eschmeyer, W.N.. ed. Encyclopedia of Fishes. San Diego: Academic Press. p. 66. ISBN 0-12-547665-5 
  5. ^ http://en.wikisource.org/wiki/Meno
  6. ^ Bullock, Theodore Holmes, Hopkins, Carl D., Popper, Arthur N., and Fay, Richard R. (2005). Electroreception. Springer. pp. 5–7. ISBN 0-387-23192-7 
  7. ^ B.P. Copenhaven, 'A tale of two fishes: Magical objects in natural history from antiquity through the scientific revolution', Journal of the History of Ideas, Vol. 52, No. 3 (1991), pp 373-398.
  8. ^ 【深海アイドル図鑑】(75) ヤマトシビレエイ毎日新聞』朝刊2019年1月17日(科学面)2019年1月20日閲覧
  9. ^ シビレエイ発電機-強電気魚の電気器官を利用したATP系発電システムの開発- 理化学研究所 報道発表資料(2016年5月31日)2019年1月20日閲覧
  10. ^ 動物たちは見た(3)エイがつくる海底地図日本経済新聞』朝刊2021年2月21日サイエンス面)2021年2月25日閲覧
  11. ^ Nelson, J.S. (2006). Fishes of the World (fourth ed.). John Wiley. pp. 69–82. ISBN 0-471-25031-7 
  12. ^ Compagno, Leonard J.V. and Heemstra, Phillip C. (May 2007) "Electrolux addisoni, a new genus and species of electric ray from the east coast of South Africa (Rajiformes: Torpedinoidei: Narkidae), with a review of torpedinoid taxonomy". Smithiana, Publications in Aquatic Biodiversity, Bulletin 7: 15-49. Retrieved on October 22, 2008.

関連項目