コールドスリープ
コールドスリープ(和製英語: cold sleep)とは、宇宙船での惑星間移動などにおいて、人体を低温状態に保ち、目的地に着くまでの時間経過による搭乗員の老化を防ぐ装置、もしくは同装置による睡眠状態。移動以外にも、肉体の状態を保ったまま未来へ行く一方通行のタイムトラベルの手段としても用いられる。
SF作品にはよく出てくる手法である。
なお、和製英語におけるSF用語であることから、英語圏で使われることはなく、冷凍睡眠や長期冷凍睡眠にはハイバネーション(冬眠)やハイパースリープといった語句が主に使われる。
概要
一般にコールドスリープには、低温状態にして睡眠後に時々覚醒するタイプ、冬眠タイプ、冷凍タイプがあると考えられる。
数十年以上もの長期間におよぶ惑星間の有人移動の際、それに必要不可欠な搭乗員の食料や酸素といった生命維持系、健康維持のための生活空間など、生活に要するものを少なく抑えることができれば宇宙船の質量を減らすことができ、その分だけ燃料を減らすことができるほか、備蓄スペースを別のことに利用できる。また、数十年以上をかけての有人移動には、人間の寿命との兼ね合いが生じる。このような点から、コールドスリープが選択される。
一方、生命を保ったまま人間を冷凍させる技術や、長期冬眠をさせるための技術は確立していない。
冷凍した場合、水分が凍結した時に起こる体積膨張によって細胞を破壊してしまうため、生命を保ったまま人間を冷凍できるかどうかなどの問題がある。なお、精子の冷凍保存は実用化されている。
実現されている技術
実現されているコールドスリープ技術としては、スペースワークス・エンタープライジズ社の「ライノチル・システム」が最も実用性の高いものとして考えられる。これは鼻孔より冷却材を吸入させ、人体が冬眠状態となる31.6 - 33.8度まで体温を下げるというものである。NASAによる出資下でスペースワークス社が研究を行っているこの技術は、救命医療の分野においては「ボディクーリングシステム」の名称ですでに人体を1週間の冬眠状態に至らせることに成功しており、2014年現在も研究が継続されている[1]。
類似する技術
クライオニクス
日本では行われてはいないが、クライオニクス(cryonics、人体冷凍保存)と呼ばれるサービスがある。これは、死んだ直後の人体を冷凍保存し、医療技術の発展した未来に復活の望みを求めるものである。しかし、先述したように冷凍時や解凍時の細胞破壊を克服する技術の目覚ましい進歩が必要とされることに加え、すでに破壊されてしまった細胞の復元は非常に困難であることから、実際に彼らが復活するかについては悲観的や否定的な意見が多い。
あえて比較するならコールドスリープは架空の技術だが、クライオニクスは(さまざまな問題があるものの)既存の技術である。また、コールドスリープは生きている人体が対象であり、クライオニクスは死んだ後の人体が対象である。
停滞フィールド
SF作品などでコールドスリープに近い使われ方をするテクノロジーに停滞フィールド (stasis) というものがある。これは対象の時空間をまるごと停止することで、肉体が外部からの影響を一切受けないようにする技術である。恒星間航行における主観的時間の短縮や、重犯罪者に対する長期間の冷凍刑などの応用例がある。ただし、時空間を高度に操作する技術が必要であるため、実現の可能性はきわめて低いと考えられる。
ラリー・ニーヴンの小説『プタヴの世界』(1966年)における、異星人のスリント人が乗る宇宙船に事故が発生したため、宇宙服に内蔵された停滞フィールドを起動して救助を待つつもりが発見されずに15億年後の地球で目覚めた、などの例がある。
冷凍遺体からのクローン作製
2008年、理化学研究所の若山照彦らのチームが、死後16年間冷凍保存されていたマウスからクローンマウスを産み出すことに成功した。これにより、理論的には冷凍保存された人の遺体からクローン人間を生み出すことが可能となった。この技術を応用すれば、マンモスなどの絶滅動物の凍結死体からクローンを作れる可能性もあると期待されている。ただし、クローン個体は単にDNAや体の構造が一致するだけのもので意識や記憶の共有は起きないと考えられており、この技術を人間に用いても、本人にとっては寿命が延びることを意味しない。
登場作品
脚注
- ^ hiroching (2014年10月8日). “人間を人工冬眠させて火星に送る?NASAが火星有人探査計画の一環として、コールドスリープを検討中”. CNN.co.jp 2014年10月14日閲覧。