オフィクレイド
オフィクレイド(Ophicleïde)は、キー式ビューグル属に属する低音金管楽器である。
解説
オフィクレイドはフランスの楽器製作者アラリ(Jean Hilaire Asté)が1817年に考案し、1821年に特許を取得した。管はファゴットのように中央で折れ曲がり、サクソフォーンのように9個から12個のキーが付いていて(実際には逆にサクソフォーンがオフィクレイドを模して発明された)、管体の側面に開いた音孔を開閉する。一般にオフィクレイドと呼ばれている楽器は、トロンボーンやユーフォニアムと同じ全長のB♭管、またはC管で、トロンボーンやユーフォニアムよりやや口径の小さいマウスピースを用い、約3オクターブの音域を演奏する。これをバス・オフィクレイドとして、他にアルト、コントラルト、コントラバスなどのオフィクレイドも造られた。
オフィクレイドという名前は、ギリシア語で蛇を意味する ὄφις (ophis) とキーを意味する κλείς (kleis) に由来する。
オフィクレイド(バス・オフィクレイド)はスポンティーニのオペラ『オリンピア』(1819年)で初めて用いられ、以後ロマン派時代のオーケストラにおいて金管楽器群の低音部を担ったが、次第にチューバが主流となった。イタリア、スペイン、フランスなどでは主に軍楽隊で20世紀初頭まで用いられていたが、その後サクソルンが主流となった。有名な楽曲では、メンデルスゾーンの『夏の夜の夢』序曲と劇付随音楽(ただし、メンデルスゾーンの自筆譜にはバスホルンが指定されている)、ベルリオーズの『幻想交響曲』などで用いられている。ワーグナーはオペラ『さまよえるオランダ人』を作曲した当初はオフィクレイドを編成に加えていたが、後にチューバへと書き換えている。
オフィクレイドの音色は、バリトン・サクソフォーンに似た外観や、音孔が管体の随所にあることから、粗野で音量に乏しいものと連想されがちであるが、実際はユーフォニアムのような音色と、当時のオーケストラの中での役割としては十分と思われる音量を兼ね備えている。ただし、低音域は第1倍音で奏されるため、ユーフォニアムのペダルトーンのようなやや荒い響きになりやすい。
現在、オフィクレイドが指定されている楽曲を演奏する場合、ごくまれにオフィクレイドを忠実に使用する場合もあるが、大抵はチューバで代用される。ただ、音域が比較的高いため、また音色や他の楽器とのバランスなどの兼ね合いから、B♭管やC管よりも、E♭管やF管のチューバ、あるいはユーフォニアムを使用するのが好ましいとされる。また、現代では後述のヴァルヴ式オフィクレイドのような楽器も開発されている。
主要メーカー
オフィクレイドを製造していたメーカーは、上記のアラリの他、主だったところではゴートロ(Gautrot)、ケノン(Couesnon)などがある。また、アドルフ・サックスやその父も製造していた。生産は20世紀初頭に一旦途絶えたが、21世紀になり、イギリスのウェセックス・テューバ(Wessex Tubas)[2]や日本のプロジェクト・ユーフォニアム(PROJECT EUPHONIUM)[3]などの会社が、かつてのバスやアルトのオフィクレイドを復刻させた楽器を販売するようになった[2][3]。
また金管楽器製作者の中川崇雄[4]は、"Valved Ophicleide"(ヴァルヴ式オフィクレイド)というF管の楽器を製造している[5]。この楽器は、オリジナルのオフィクレイドのようなキー・メカニズムではなくロータリーヴァルヴを採用している[5]。
現代の奏者
- ダグラス・ヨー (アリゾナ州立大学教授、元ボストン交響楽団バストロンボーン奏者)[6]
- Marc Girardot (オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティック)[7]
- Nick Byrne(シドニー交響楽団トロンボーン奏者)[8]
- Roland Szentpali(ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団首席テューバ奏者)
- Patrick Wibart(Quatuor Opus 333 バス・サクソルン奏者)
- 佐伯茂樹(東京ヒストリカルブラス 古楽器奏者、音楽評論家)[9]
脚注
- ^ “Leopold Uhlmann | Contrabass Valve Ophicleide in D | Austrian | The Met”. メトロポリタン美術館. 2020年6月23日閲覧。
- ^ a b “Ophicleide and Saxophone | Quality Brass Instruments”. Wessex Tubas. 2019年5月22日閲覧。
- ^ a b “AMUSE CLASSIC OPHICLEIDE”. プロジェクト・ユーフォニアム. 2019年5月22日閲覧。
- ^ “会社理念”. Takao Nakagawa. 2019年5月22日閲覧。
- ^ a b “Valved Ophicleide”. Takao Nakagawa. 2019年5月22日閲覧。
- ^ Douglas Yeo. “Douglas Yeo: Historical Instruments Vitae”. Douglas Yeo Trombone Web Site. 2019年5月22日閲覧。
- ^ “Understanding Period instruments | The Ophicleide with Marc Girardot”. Monteverdi Choir and Orchestras Official Channel, Youtube (2018年11月28日). 2019年5月22日閲覧。
- ^ Elizabeth Fortescue (2017年5月17日). “Bike crash steered SSO’s Nick Byrne into passion for the ophicleide”. The Daily Telegraph (Sydney). 2019年5月22日閲覧。
- ^ “プロフィール”. 佐伯茂樹オフィシャルサイト. 2019年5月22日閲覧。