核膜
核膜(かくまく、英: nuclear membrane, nuclear envelope)は、真核生物の核を細胞質から隔てている生体膜であり、遺伝物質を内包している。内膜と外膜からなる二重の脂質二重層構造をとり、外膜は小胞体とつながっている[1]。内膜と外膜の空間は核膜槽 (perinuclear space)と呼ばれ、その幅は約 20–40 nmである[2][3]。核膜に存在する核膜孔は多数のタンパク質からなる核膜孔複合体で構成され、核の内外を移動する物質の通り道となっている[1]。内膜の内側 (核質側) にはラミンからなる中間径フィラメントが格子状に裏打ち構造 (核ラミナ) を形成し、核の形態を保っている。中間径フィラメントは外膜の外側にもより緩やかな構造を形成し、核膜の構造的支持を行っている[1]。
核膜は細胞分裂の際に一時消失することがあるが終期には再形成される。
構造
[編集]核膜は、内膜と外膜からなる二重の脂質二重層構造である。内膜と外膜は、核膜孔によって互いに連結されている。2種類の中間径フィラメントのネットワークが核膜の支持を行っている。内側のネットワークは内膜の内側に形成される核ラミナである[4]。外膜の外側でもより緩やかなネットワークが形成され、外側からの支持を行っている[1]。
外膜
[編集]外膜は小胞体の膜と連続している[5]。外膜は小胞体の膜は物理的に連結されている一方で、小胞体の膜よりもはるかに高濃度のタンパク質を含んでいる[6]。哺乳類に存在する4つのネスプリン (nuclear envelope spectrin repeat, nesprin) タンパク質は、すべて外膜に発現している[7]。ネスプリンタンパク質はKASHドメインを持っており、LINC複合体 (linker of nucleoskeleton and cytoskeleton complex) の一部として、細胞骨格繊維と核の骨格を連結している[8][9][10]。ネスプリンを介した細胞骨格への連結は、核の配置と細胞の機械受容機能に寄与している[11]。ネスプリン-1とネスプリン-2はアクチン繊維のような細胞骨格の構成要素と直接結合したり、核膜槽のタンパク質と結合したりする[9][10]。ネスプリン-3とネスプリン-4は、核輸送の「積み荷」を降ろす過程に寄与している可能性がある。ネスプリン-3はプレクチン (plectin) に結合し、核膜と細胞質の中間径フィラメントを連結している[12]。ネスプリン-4は、微小管の+端方向へ移動するモータータンパク質のキネシン-1と結合する[13]。また、外膜は内膜と融合して核膜孔を形成し、この過程は細胞の成長に寄与している[14]。
内膜
[編集]内膜は核質を包んでおり、内膜の内側は核ラミナと呼ばれるメッシュ状の中間径フィラメントで覆われている。核ラミナの厚さは約 10–40 nmで、核膜を安定化するとともに、クロマチンの機能や遺伝子発現にも関与している[6]。内膜は、核膜を貫く核膜孔によって外膜と連結されている。内膜と外膜は小胞体の膜と連結しているものの、膜に埋め込まれているタンパク質は連続体中へ拡散するよりも、むしろその場に留まる傾向にある[15]。
内膜のタンパク質の変異は、いくつかのラミノパシーと呼ばれる疾患を引き起こす。
核膜孔
[編集]核膜には、核膜孔による穴が数千個程度存在する。核膜孔は直径約 100 nmのタンパク質複合体で、内側のチャネルの直径は約 40 nmである[6]。核膜孔は内膜と外膜を連結している。
細胞分裂
[編集]細胞周期の間期のG2期の間、核膜は表面積を増し、核膜孔の数は倍増する[6]。酵母のような真核生物ではclosed mitosisという形式の有糸分裂が行われ、核膜は細胞分裂中も形成されたままである。紡錘糸は核膜の内部で形成されるか、核膜をばらばらにすることなく貫通する[6]。他の真核生物 (動物や植物など) ではopen mitosisという形式の有糸分裂が行われ、紡錘糸が内部の染色体にアクセスできるよう、核膜は前中期の間に解体されなければならない。核膜の解体と再形成の過程はあまり解明されていない。
解体
[編集]哺乳類では、有糸分裂初期の一連の段階の後、核膜は数分以内に解体される。まず、M-Cdkがヌクレオポリンのポリペプチドをリン酸化し、それらは核膜孔複合体から選択的に除去される。その後、核膜孔複合体の残りの部分が同時に解体される。核膜孔複合体は小さなポリペプチドの断片へ分解されるのではなく、いくつかの安定なパーツへ解体されることが、生化学的な証拠からは示唆される[6]。また、M-Cdkは核ラミナの要素をリン酸化して解体し、核膜は小さな小胞へと解体される[16]。核膜が小胞体へ吸収されるという強力な証拠が電子顕微鏡と蛍光顕微鏡から得られており、通常小胞体では見られない核内タンパク質が有糸分裂中には出現する[6]。
哺乳類細胞では、有糸分裂前中期の核膜の解体以外にも、細胞の移動によって核膜が破れることがある[17]。この一時的な破壊は、細胞質のタンパク質複合体ESCRT (endosomal sorting complexes required for transport) によって迅速に修復される[17]。核膜が破れている間は、DNAの2本鎖切断も引き起こされる。限られた環境を通って移動する細胞の生存は、効率的な核膜とDNAの修復装置に依存していると考えられる。
核膜の解体の異常はラミノパシーやがん細胞でも観察され、細胞のタンパク質の誤った局在、小核の形成やゲノムの不安定性をもたらす[18][19][20]。
再形成
[編集]終期において核膜が再形成される正確な機構については議論があり、2つの理論が存在する[6]。
- 小胞の融合: 核膜の小胞が互いに融合し、核膜が再構築される。
- 小胞体の整形: 小胞体の吸収された核膜を含む部分が核の空間を包み、閉じた膜が再形成される。
起源
[編集]比較ゲノミクスや進化、核膜の起源についての研究からは、核は原始的な真核生物の祖先に出現し、古細菌と細菌の共生によって引き起こされたことが提唱されている[21]。核膜の進化的起源についてはいくつかの考えが提唱されており、原核生物の祖先の細胞膜の陥入、古細菌宿主中に始原的ミトコンドリアの存在が確立されたことに伴う新規の膜系の形成、などが唱えられている[22]。核膜の適応的機能としては、ミトコンドリアの祖先によって細胞中で産生される活性酸素種からゲノムを保護する障壁となっていた可能性がある[23][24]。
出典
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