/t/の声門閉鎖音化

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tの声門閉鎖音化: t-glottalization, t-glottalisation, t-glottaling)は、英語における発音変化の1つである。声門音の置換(glottal replacement)とも。

概要[編集]

英語では、とある条件下において、無声歯茎破裂音 /t/声門破裂音(声門閉鎖音) [ʔ] に変化することがある。この現象を t の声門閉鎖音化という。教本によっては、声門音の置換と表記されている[1]

歴史[編集]

イギリスノリッジ出身の社会言語学者であるピーター・トラッドギル英語版は、1870年代生まれの農村に住む人々の英語の変種の研究から t の声門閉鎖音化はノーフォークで始まったと主張している[2]

また、フィールド言語学者であるピーター・ライト(Peter Wright)は、ランカシャーで始まったことを発見しているが、t の声門閉鎖音化は、いわゆる発音の怠け癖のようなものと考えられているが、変種によっては、何百年も前からあったかもしれない」とも述べている[3]

デイヴィッド・クリスタル英語版は、ダニエル・ジョーンズバートランド・ラッセルエレン・テリーといった20世紀初頭の容認発音の話者が、t の声門閉鎖音化を使っていると主張している[4]

生起環境[編集]

t の声門閉鎖音化は、/t/音節の尾子音にあって、共鳴音に先行され、さらに別の子音が後続する場合に生じる[1]。以下の例にある通り、1語内であっても、2語に跨る場合でも生じる。

1語内の場合: butler [bʌʔlə], pitfall [pɪʔfɔːl], cats [kæʔs]

2語に跨る場合: part time [pɑːʔ taɪm], light rain [laɪʔ reɪn], felt wrong [felʔ lɒŋ]

なお、イギリス英語では [ʔ] が語中で母音間に出現することはないが、使用頻度の高い句では母音が後続する語末の位置でも /t/[ʔ] に変化することがある(例: let us [leʔ əs][1]。また、若者の間ではポーズの前で [ʔ] を使う人もいる(例: wait [weɪʔ][1]

分布[編集]

t の声門閉鎖音化は、イギリス英語、特に現在ではロンドンリーズエディンバラグラスゴーで最も一般的にみられている[5]

t の弾音化との関係[編集]

t の弾音化と t の声門閉鎖音化は、いわゆる「相補分布」の関係にある。つまり、t の弾音化が出現する環境では t の声門閉鎖音化は出現せず、t の声門閉鎖音化が出現する環境では t の弾音化は出現しない。

脚注[編集]

  1. ^ a b c d Carley, Paul; Inger M. Mees; Beverley Collins (2017). English Phonetics and Pronunciation Practice. Routledge. p. 19 
  2. ^ Trudgill, Peter (2016). Dialect Matters: Respecting Vernacular Language. Cambridge University Press. p. 132 
  3. ^ Wright, Peter (1981). The Lanky Twang: How it is spoke. Dalesmon. p. 22 
  4. ^ Crystal, David (2005). The Stories of English. Penguin. p. 416 
  5. ^ Jones, Daniel (2004). Cambridge English Pronouncing Dictionary. Cambridge University Press. p. 216