超音波歯ブラシ

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超音波歯ブラシ
(Megasonex)

超音波歯ブラシ(ちょうおんぱはぶらし、英語: ultrasonic toothbrush)とは、歯垢を除去し、歯垢細菌を無害にするために、超音波を発生させることによって動作する、家庭での日常的な使用のために設計された電動歯ブラシである。通常、1.6MHzの周波数で動作し、96,000,000パルスまたは毎分192,000,000回の動きに相当する。超音波は、可聴域en:Hearing range)を超える周波数で生成される一連の音波として定義される[1]

背景[編集]

電動歯ブラシは1950年代初頭から一般の人々に使用されている。電動歯ブラシは進化しており、現在ではその振動速度に基づいて、電動音波速、超音波の3つのカテゴリに分類できる。

電動歯ブラシは、上下方向または円運動のいずれかに振動し、場合によってはその2つの組み合わせで振動する。通常、振動速度は1分あたりの動きで測定され、一般的な電動歯ブラシは毎分数千回から毎分約10,000 ~ 12,000回の速度で振動する。いわゆる音波速歯ブラシは、モーター自体の音の他に、振動の速度つまり周波数が人間の声音に使用される平均的な範囲内にあるため、音波速と呼ばれる速度で機能する。典型的な成人男性のの基本周波数は 85 ~ 180 Hz (1分間に10,200 ~ 21,000動作)、典型的な成人女性の音声周波数は 165 ~ 255 Hz (1分間に19,800 ~ 30,600動作) である[2][3]

超音波歯ブラシは、通常埋め込まれた圧電結晶から超音波を生成することによって機能し、その周波数は20,000 Hz (1分間に 2,400,000 回の動き) 以上である。多くの科学的研究[4]が行われている最も一般的な周波数は約1.6MHzの領域にあり、これは9600万パルスまたは1分間に1億9200万回の動きに相当する。

歴史[編集]

最初の超音波歯ブラシは、当初 Ultima と名付けられ、後に Sonex Corporation によって Ultrasonex と名付けられ、1992年に Robert T. Bock によって初めて米国で特許を取得した[5]。同年、アメリカ食品医薬品局は家庭での日常使用を承認した。当初、Ultima は超音波でのみ機能していた。数年後、追加の音波振動を提供する Ultrasonex 歯ブラシを作成するためにモーターが追加された。その後、SonexはSalton, Inc.に売却され、米国を含む多くの国で製品の販売が開始されたほか、日本市場向けに Ultima の改良版を開発した東レにも売却された。2008年、Saltonの新しい所有者は口腔衛生市場から撤退することを決定した。これに応じて、Ultreo や Emmi-Dent など、他のいくつかの企業が独自の超音波歯ブラシの販売を開始した。さらに、2012年後半、Robert T. Bock は最新の技術を使用した新しい超音波歯ブラシ、Smilex 超音波歯ブラシを開発した。東レは Ultima の意匠に関する権利を売却することを決定した。本権利はアメリカの歯科産業専門の起業家によって買収され、その技術をさらに改良し、低振幅の音波振動を備えた Megasonex 超音波歯ブラシを発売した。 数年後、Megasonexの親会社は最初の超音波舌クリーナーの特許を出願した[6]。2018年の時点では、超音波歯ブラシはEmmi-Dent、Megasonex、Smilexのブランドのみで販売されている。

超音波歯ブラシの有効性[編集]

1.0〜3.0 MHz の範囲の超音波[要出典]は、骨の治癒速度の向上[7]アフタ性口内炎の治療[8]歯肉出血の治療[9]歯垢の除去[10]を目的として、一部の治療用医療機器で使用されている。

超音波の安全性[編集]

超音波は半世紀以上にわたって医療に使用されており、その安全性もほぼ同じ期間研究されてきた。1992年に、米国 FDA は歯ブラシでの 1.6MHz の周波数の超音波の使用を初めて許可した。1993年、米国超音波医学研究所 (AIUM)(en:American Institute of Ultrasound in Medicine)は、アメリカ電機工業会(NEMA)と協力して、FDA の新しい規制に組み込まれた熱指数と機械指数を含む出力表示基準(ODS)を策定した。これらの規制により、超音波装置の出力は、周囲の組織温度が 1°C を超えて上昇するのを避けるために十分な低いレベルに制限されている[11]

主な超音波歯ブラシメーカー[編集]

脚注[編集]

  1. ^ High Intensity Focused Ultrasound - Physics”. uci.edu. 2015年1月27日閲覧。
  2. ^ Titze, I.R. (1994). Principles of Voice Production, Prentice Hall (currently published by NCVS.org) (pp. 188), ISBN 978-0-13-717893-3.
  3. ^ Baken, R. J. (1987). Clinical Measurement of Speech and Voice. London: Taylor and Francis Ltd. (pp. 177), ISBN 1-5659-3869-0.
  4. ^ 品田佳世子; 橋爪リナ直美; 寺岡加代; 黒崎紀正; 志村則夫 (1999). “超音波歯ブラシがエナメル質表面のStreptococcus mutansに及ぼす影響”. 日本歯科保存学雑誌 42 (2): 410–417. 
  5. ^ Removable brush-head for ultrasonic toothbrush” (英語). Google Patents (1992年8月18日). 2024年2月4日閲覧。
  6. ^ Ultrasonic tongue scraper” (英語). Google Patents (2013年6月28日). 2024年2月4日閲覧。
  7. ^ Padilla, F; Puts, R; Vico, L; Raum, K (Jul 2014). “Stimulation of bone repair with ultrasound: a review of the possible mechanic effects”. Ultrasonics 54 (5): 1125–45. doi:10.1016/j.ultras.2014.01.004. PMID 24507669. 
  8. ^ Brice, SL (Jan 1997). “Clinical evaluation of the use of low-intensity ultrasound in the treatment of recurrent aphthous stomatitis”. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod 83 (1): 14–20. doi:10.1016/s1079-2104(97)90084-6. PMID 9007917. 
  9. ^ Terezhalmy, GT; Iffland, H; Jelepis, C; Waskowski, J (Jan 1995). “Clinical evaluation of the effect of an ultrasonic toothbrush on plaque, gingivitis, and gingival bleeding: a six-month study”. J Prosthet Dent 73 (1): 97–103. doi:10.1016/s0022-3913(05)80278-1. PMID 7699607. 
  10. ^ 品田佳世子; 橋爪リナ直美; 寺岡加代; 黒崎紀正; 志村則夫 (1999). “超音波歯ブラシがエナメル質表面のStreptococcus mutansに及ぼす影響”. 日本歯科保存学雑誌 42 (2): 410–417. 
  11. ^ American Institute of Ultrasound in Medicine (AIUM). Bioeffects and safety of diagnostic ultrasound. Laurel, MD: AIUM Publications; 1993