秘密録音

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

秘密録音(ひみつろくおん)とは、会話当事者の一方が相手方に同意を得ず、何の断りもなく会話を録音し、またはその事実を知らせないことをいう(対話者には内容を知らせる言葉を話している点で盗聴とは区別される)。

概要[編集]

会話の内容で「言った」「言わなかった」の水掛け論になることがあるため、会話内容の証拠保全のために、秘密録音が行われることがある。

しかし、秘密録音は会話相手にとっては、自分が承知しないまま会話内容が部外者や不特定多数に知られることを容易にするという性格があることから、プライバシー侵害に該当し憲法に規定された幸福追求権人格権に反する違法行為であると指摘がなされることがある。一方で会話の内容を会話相手に委ねている以上は会話相手に対する信頼の誤算による危険は話者が負担すべきとして合法とする意見もある(秘密録音を避けるのであれば、会話前に会話相手から録音機器を念入りに探して録音機器がないことを確認しない限り重要な会話をしない方法、意思疎通では音を出さずに常に筆談や手話で行った後で筆談された書類を破棄する方法など、秘密録音への対策として手間をかかる措置を取るべきとする)。日本の学説では秘密録音の適法性については、原則違法とはいえないとする無限定合法説[1]と、原則として許されないとする原則違法説[2]があり、さらに無限定合法説と原則違法説の中間説として「留保付合法説[3]」と「利益衡量説[4]」がある。

留保付合法説は会話当事者の秘密録音を原則として適法としつつも、一定の事情としては違法とする(違法とする一定の事情として、録音しない明示の約束がある場合、会話の内容や会話相手から判断して第三者への伝達等が考えられないことから会話が録音されない合理的期待が認められる場合、録音者が当初から会話内容の録音を悪用する目的で話を引き出した場合があげられている)[3]

利益衡量説は会話当事者の秘密録音を原則として違法としながらも、秘密録音をする正当な事由があって会話からプライバシーがそれほど出ないと解されるときに例外的に許されるとする[4]

捜査機関が主導する秘密録音は刑事訴訟法も絡んでくる。原則違法説は秘密録音には裁判所の令状を必要とする立場であり、令状のない秘密録音は違法収集証拠排除法則から証拠から排除すべしとする。日本国内の過去の判例では捜査機関が主導する秘密録音は個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、相当と認められる限度においてのみ、秘密録音を合法として証拠能力を認めている。誘拐事件等における脅迫電話では秘密録音がよく行われ、情報収集のために脅迫電話をかけた犯人の声を公開することがある[5]

A・B間の会話の秘密録音には以下のものがある。

  • AがBの同意を得ることなく録音する場合(当事者録音)
  • 第三者がAだけの同意を得て録音する場合(同意盗聴)

企業の対応ではクレームの対応等において水掛け論を避けるために裁判の証拠になるよう秘密録音をする場合がある。国民生活センター消費者苦情処理専門委員会小委員会は事業者が顧客からのクレームについて秘密録音する行為は個人情報保護法の適用という観点からは必ずしも個人情報の不正な取得(法17条)や利用目的の通知義務等(法18条)に直ちに違反するとは言えないが、事業者が顧客の信頼を確保する対応のあり方としては、書面による直接取得における利用目的の事前明示(法18条2項)に準じた取り扱いが望ましいとしている[6]

2013年2月5日にNHKで放送された「クローズアップ現代」では、録音された会話を録音者に有利なように改竄して裁判所に証拠提出して秘密録音が悪用された事例や職場で秘密録音をした従業員の出現によって全従業員が疑心暗鬼となって従業員間のコミュニケーションが殆ど無くなってしまった事例が紹介された[7]

技法[編集]

録音をする際には、アナログテープで録音することが望ましい[8]。アナログではダビングや長期の保存でマスターテープ劣化しやすい欠点こそあるが、裁判での証拠品では依然として高い証拠能力を有する[8]

デジタル録音(.wav.mp3などの形式)の場合、ファイルをコピーしても音質は劣化しないがコンピュータで声紋を変更するといった編集が容易であるため、裁判で証拠として採用されない場合があるためである[8]

秘密録音において相手方が自分の名前を名乗らない場合、話者を特定できる別の会話の録音して相手方の声紋を取る必要がある。

特定の場所における秘密録音[編集]

また、特定の区域や施設に入る際に許可無く録音機器等を持ち込むことを明示に禁止されている場合があるが、それにも関わらず無断で録音機器を持ち込んで録音していたことが発覚した場合は施設を管理する組織ができる範囲で録音者にペナルティを課せられることがある。[要出典]

裁判所における一般人の傍聴では録音機器の持ち込みは禁止されているが、それにも関わらず無断で録音機器を持ち込んだことが発覚した場合、裁判所法第71条により退廷させられた上に法廷秩序維持法によって20日以下の監置もしくは3万円以下の過料が課せられることがある。

秘密録音をした事件[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 平野龍一『刑事訴訟法』[1958]116頁
  2. ^ 鴨良弼『刑事証拠法』[1962]377頁
  3. ^ a b 佐藤文哉「最判解刑事篇昭和56年度」258頁
  4. ^ a b 井上正仁「強制捜査と任意捜査」[2006]178頁
  5. ^ 1963年の吉展ちゃん誘拐殺人事件・1987年の功明ちゃん誘拐殺人事件
  6. ^ 消費者が、事業者との通話内容を録音され、録音を消去してほしいと求めたが、事業者に断られたトラブル 国民生活センター消費者苦情処理専門委員会小委員会 2008年3月25日
  7. ^ NHKクローズアップ現代 2013年2月5日
  8. ^ a b c 清谷信一「弱者のための喧嘩術」(幻冬舎アウトロー文庫)P195

関連書籍[編集]

関連項目[編集]