生体分子凝縮体

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生体分子凝縮体(せいたいぶんしぎょうしゅうたい、: Biomolecular condensate)は、非結合型のオルガネラおよびオルガネラサブドメインの分類である。他のオルガネラと同様に、生体分子凝縮体は細胞のある専門分野に特化したサブユニットである。多くのオルガネラとは異なり、生体分子凝縮体の組成は結合する膜によって制御されない。代わりに、生体分子凝縮体は、タンパク質およびその他の生体高分子コロイドエマルションまたはゲル-ゾルへの相分離によって形成される。これは、これらの高分子の物理化学的性質によって決定される。コロイド的挙動は細胞質ゾル内の様々な生体高分子のクラスター化、オリゴマー化、またはポリマー化によって生成され、液-液、液-ゲル、または液-固相分離のいずれかを駆動する。生体分子凝縮体は自己凝集の一種であり、高分子クラウディング(こみあい)によって強く増強される。

生細胞のコンパートメント化(区画化)のための組織化原理としての生体分子凝縮体の概念は19世紀に遡る。これは、ウィリアム・ベイト・ハーディ英語版エドマンド・ビーチャー・ウィルソン英語版細胞質(当時は「原形質」と呼ばれた)をコロイドとして説明したことに始まる[1][2]。より最近に、相分離(phase separation)という用語が細胞質[3]と核[4]ののコロイド的分離を説明するために高分子物理学およびコロイド化学から借用された。新しく造られた「生体分子凝縮体」という用語はコロイド的相分離を受けている生体高分子を選択的に指し示す(合成高分子は含まれない)。これは、気-液相転移と続く分離のコロイド型である凝縮と類似している[5][6]

物理学では、"condensation"(凝縮)は典型的には気-液相転移を指すのに対して、生物学では "condensation" という用語はかなり広い意味で使われ、液-液、液-ゲル、または液-固相分離をも指し、細胞周期の前期の間のDNA凝縮英語版または白内障におけるクリスタリンのタンパク質凝集といった液-固相転移も指す[7]。したがって、「生体分子凝縮体」は多くの異なる種類の生体コロイドを広く説明する。

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生体分子凝縮体の例は細胞質および核において、液-液または液-固相分離によるものと考えられ特徴付けられてきた。

液-液、液-ゲル、液-固相分離によって生じる細胞質内生体分子凝縮体:

細胞骨格フィラメントは、アモルファス液滴または顆粒ではなく線維状ネットワークへと整えられる違いを除いては、相分離と類似した重合過程によって形成されると主張することもできる。

コロイド的相分離には不特定多数の構成要素間のオリゴマー的またはポリマー的相互作用が関与するため、ウイルスカプシドまたはプロテアソームといった決まった数のサブユニットによるより小さなタンパク質複合体の形成とは異なっていると、一般的に考えられている。

核内生体分子凝縮体:

ヘテロクロマチンを含むその他の核構造および凝縮した有糸分裂染色体におけるDNA凝縮は相分離と類似した機構によって起こり、そのため生体分子凝縮に分類することもできる。

出典[編集]

  1. ^ “The Structure of the Protoplasm”. Science 10 (237): 33–45. (July 1899). Bibcode1899Sci....10...33W. doi:10.1126/science.10.237.33. PMID 17829686. https://zenodo.org/record/2117300. 
  2. ^ “On The Structure of Cell Protoplasm”. Journal of Physiology 24 (2): 158–210. (May 1899). doi:10.1113/jphysiol.1899.sp000755. PMC 1516635. PMID 16992486. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1516635/. 
  3. ^ “Phase separation in cytoplasm, due to macromolecular crowding, is the basis for microcompartmentation”. FEBS Letter 361 (2–3): 135–139. (March 1995). doi:10.1016/0014-5793(95)00159-7. PMID 7698310. 
  4. ^ “Can visco-elastic phase separation, macromolecular crowding and colloidal physics explain nuclear organisation?”. Theor Biol Med Model 4 (15): 15. (Apr 2007). doi:10.1186/1742-4682-4-15. PMC 1853075. PMID 17430588. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1853075/. 
  5. ^ “Controlling compartmentalization by non-membrane-bound organelles”. PNAS 26 (373): 4666–4684. (Nov 2018). doi:10.1098/rstb.2017.0193. PMC 5904305. PMID 29632271. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5904305/. 
  6. ^ “Biomolecular condensates: organizers of cellular biochemistry”. Nat Rev Mol Cell Biol 18 (5): 285–298. (May 2017). doi:10.1038/nrm.2017.7. PMID 28225081. 
  7. ^ Benedek GB (1 September 1997). “Cataract as a protein condensation disease: the Proctor Lecture”. Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 38 (10): 1911–21. PMID 9331254. http://www.iovs.org/cgi/reprint/38/10/1911. 
  8. ^ “Wnt/Beta-Catenin Signaling Regulation and a Role for Biomolecular Condensates”. Developmental Cell 48 (4): 429–444. (Feb 2019). doi:10.1016/j.devcel.2019.01.025. PMC 6386181. PMID 30782412. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6386181/. 
  9. ^ “Multiprotein complexes governing Wnt signal transduction”. Current Opinion in Cell Biology 51 (1): 42–49. (Apr 2018). doi:10.1016/j.ceb.2017.10.008. PMID 29153704. 

推薦文献[編集]

外部リンク[編集]