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'''ブリオッシュ'''([[フランス語|仏]]:Brioche)は[[フランス]]の[[菓子パン]]([[ヴィエノワズリー]])の一つ。ブリオーシュとも書く。普通の[[フランスパン]]とは違い、[[水]]の代わりに[[牛乳]]を加え、[[バター]]と[[鶏卵|卵]]を多く使ったパンである。材料が焼き菓子に近いことから、発酵の過程を要する[[ケーキ]]の一種とされることもある。名 |
'''ブリオッシュ'''([[フランス語|仏]]:Brioche)は[[フランス]]の[[菓子パン]]([[ヴィエノワズリー]])の一つ。ブリオーシュとも書く。普通の[[フランスパン]]とは違い、[[水]]の代わりに[[牛乳]]を加え、[[バター]]と[[鶏卵|卵]]を多く使った口当たりの軽い発酵パンの一種である。材料が焼き菓子に近いことから、発酵の過程を要する[[ケーキ]]({{lang-fr-short|gâteau}} 、ガトー)の一種とされることもある。名称は[[ノルマン語]]で「(生地を[[麺棒]]で)捏ねる」を意味する動詞の古形「brier」(現代フランス語 broyer 「すり潰す」や英語 break 「破壊する」と同語源)から派生したもの。 |
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'''ブリオッシュ・ア・テ |
'''ブリオッシュ・ア・テート'''({{lang|fr|brioche à tête}} 、「頭のついたブリオッシュ」)という、[[だるま]]のような形に成形したものが最も一般的であるが、他にも色々な形に成形される。[[プロヴァンス]]地方などでは[[公現祭]]を祝って[[ガレット・デ・ロワ]]の代わりにブリオッシュ生地を用いてブリオッシュ・デ・ロワ(brioche des Rois)またはガトー・デ・ロワ(gâteau des Rois)という菓子を作る。「ロワ」とは[[東方の三博士]](les Rois mages)のことで、ブリオッシュ・デ・ロワは普通のブリオッシュよりも大きく、王冠のような環型の生地を砂糖漬けの果実などで飾りつける。またブリオッシュの生地は、[[クグロフ]]、[[サヴァラン]]、[[ババ (菓子)|ババ]]などにも応用される。 |
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[[シチリア]]ではブリオ |
[[シチリア]]ではブリオッシャ(brioscia)と呼ばれ、よく[[グラニテ|グラニタ]]と共に食したり、二つ切りにしてグラニタをはさんで食べたりする。 |
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現代ではブリオッシュを朝食に食べることがあるが、中世ヨーロッパでは、主食とするパンは小麦粉を水と塩のみで練って作るもので、バターや牛乳、卵の入ったブリオッシュのようなパンは菓子であると考えられた。[[18世紀]]のフランス王妃[[マリー・アントワネット]]が言ったと伝えられる「[[マリー・アントワネット#「パンがなければ」の発言|パンが食べられないのならお菓子を食べればよいのに]]」の「お菓子」とはこのブリオッシュのことである。 |
発祥は[[16世紀]]の[[オート=ノルマンディー地域圏|ノルマンディー高地地方]]で、当地はバター等の良質の乳製品の産地として有名であった。現代ではブリオッシュを朝食に食べることがあるが、[[中世]]ヨーロッパでは、主食とするパンは小麦粉を水と塩のみで練って作るもので、バターや牛乳、卵の入ったブリオッシュのようなパンは菓子であると考えられていた。[[18世紀]]のフランス王妃[[マリー・アントワネット]]が言ったと伝えられる「[[マリー・アントワネット#「パンがなければ」の発言|パンが食べられないのならお菓子を食べればよいのに]]」の「お菓子」とはこのブリオッシュのことである。 |
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== 「パンがなければ、ブリオッシュを食べればいいじゃない」 == |
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フランス革命前に民衆が貧困と食料難に陥った際、マリー・アントワネットが「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」と、不適切な発言をしたと、しばしば紹介される。原文は、{{lang-fr-short|“Qu'ils mangent de la brioche”}}、直訳すると「彼らはブリオッシュを食べるように」である。 |
フランス革命前に民衆が貧困と食料難に陥った際、マリー・アントワネットが「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」と、不適切な発言をしたと、しばしば紹介される。原文は、{{lang-fr-short|“Qu'ils mangent de la brioche”}}、直訳すると「彼らはブリオッシュを食べるように」である。 |
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ブリオッシュは現代ではパンの一種の扱いであるが、かつてはお菓子の一種の扱いをされており、バターと卵を普通のパンより多く使った、いわゆる「贅沢なパン」であ |
ブリオッシュは現代ではパンの一種の扱いであるが、かつてはお菓子の一種の扱いをされており、バターと卵を普通のパンより多く使った、いわゆる「贅沢なパン」であった。 |
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発言の主は[[マリー・アントワネット]]とされることが多い。 |
発言の主は[[マリー・アントワネット]]とされることが多い。 |
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お菓子ではなくケーキまたはクロワッサンと言ったという変形もある。なおフランスのクロワッサンやコーヒーを飲む習慣は、彼女がオーストリアから嫁いだ時にフランスに伝えられたと言われている。(ルイ16世の叔母である[[ヴィクトワール・ド・フランス|ヴィクトワール王女]]の発言とされることもある)。 |
お菓子ではなくケーキまたはクロワッサンと言ったという変形もある。なおフランスのクロワッサンやコーヒーを飲む習慣は、彼女がオーストリアから嫁いだ時にフランスに伝えられたと言われている。(ルイ16世の叔母である[[ヴィクトワール・ド・フランス|ヴィクトワール王女]]の発言とされることもある)。 |
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ただし、これはマリー・アントワネット自身の言葉ではない、ともされている。例えば、[[ジャン=ジャック・ルソー|ルソー]]の『告白』([[1766年]]頃執筆)の第6巻に、ワインを飲むためにパンを探したが見つけられないルソーが、“家臣からの「農民にはパンがありません」との発言に対して「それならブリオッシュを食べればよい」とさる大公 |
ただし、これはマリー・アントワネット自身の言葉ではない、ともされている。例えば、[[ジャン=ジャック・ルソー|ルソー]]の『告白』([[1766年]]頃執筆)の第6巻に、ワインを飲むためにパンを探したが見つけられないルソーが、“家臣からの「農民にはパンがありません」との発言に対して「それならブリオッシュを食べればよい」とさる大公夫人が答えた”ことを思い出したとあり、この記事が有力な原典のひとつであるといわれている。庇護者で愛人でもあったヴァラン夫人とルソーが気まずくなり、マブリ家に家庭教師として出向いていた時代([[1740年]]頃)のことという。 |
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[[アルフォンス・カー]]は、[[1843年]]に出版した『悪女たち』の中で、執筆の際にはこの発言は既にマリー・アントワネットのものとして流布していたが、1760年出版のある本に「[[トスカーナ大公国]]の公爵夫人」のものとして紹介されている、と書いている。 |
[[アルフォンス・カー]]は、[[1843年]]に出版した『悪女たち』の中で、執筆の際にはこの発言は既にマリー・アントワネットのものとして流布していたが、1760年出版のある本に「[[トスカーナ大公国]]の公爵夫人」のものとして紹介されている、と書いている。 |
2011年5月9日 (月) 07:38時点における版
ブリオッシュ(仏:Brioche)はフランスの菓子パン(ヴィエノワズリー)の一つ。ブリオーシュとも書く。普通のフランスパンとは違い、水の代わりに牛乳を加え、バターと卵を多く使った口当たりの軽い発酵パンの一種である。材料が焼き菓子に近いことから、発酵の過程を要するケーキ(仏: gâteau 、ガトー)の一種とされることもある。名称はノルマン語で「(生地を麺棒で)捏ねる」を意味する動詞の古形「brier」(現代フランス語 broyer 「すり潰す」や英語 break 「破壊する」と同語源)から派生したもの。
ブリオッシュ・ア・テート(brioche à tête 、「頭のついたブリオッシュ」)という、だるまのような形に成形したものが最も一般的であるが、他にも色々な形に成形される。プロヴァンス地方などでは公現祭を祝ってガレット・デ・ロワの代わりにブリオッシュ生地を用いてブリオッシュ・デ・ロワ(brioche des Rois)またはガトー・デ・ロワ(gâteau des Rois)という菓子を作る。「ロワ」とは東方の三博士(les Rois mages)のことで、ブリオッシュ・デ・ロワは普通のブリオッシュよりも大きく、王冠のような環型の生地を砂糖漬けの果実などで飾りつける。またブリオッシュの生地は、クグロフ、サヴァラン、ババなどにも応用される。
シチリアではブリオッシャ(brioscia)と呼ばれ、よくグラニタと共に食したり、二つ切りにしてグラニタをはさんで食べたりする。
発祥は16世紀のノルマンディー高地地方で、当地はバター等の良質の乳製品の産地として有名であった。現代ではブリオッシュを朝食に食べることがあるが、中世ヨーロッパでは、主食とするパンは小麦粉を水と塩のみで練って作るもので、バターや牛乳、卵の入ったブリオッシュのようなパンは菓子であると考えられていた。18世紀のフランス王妃マリー・アントワネットが言ったと伝えられる「パンが食べられないのならお菓子を食べればよいのに」の「お菓子」とはこのブリオッシュのことである。
「パンがなければ、ブリオッシュを食べればいいじゃない」
この節には独自研究が含まれているおそれがあります。 |
フランス革命前に民衆が貧困と食料難に陥った際、マリー・アントワネットが「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」と、不適切な発言をしたと、しばしば紹介される。原文は、仏: “Qu'ils mangent de la brioche”、直訳すると「彼らはブリオッシュを食べるように」である。 ブリオッシュは現代ではパンの一種の扱いであるが、かつてはお菓子の一種の扱いをされており、バターと卵を普通のパンより多く使った、いわゆる「贅沢なパン」であった。
発言の主はマリー・アントワネットとされることが多い。
お菓子ではなくケーキまたはクロワッサンと言ったという変形もある。なおフランスのクロワッサンやコーヒーを飲む習慣は、彼女がオーストリアから嫁いだ時にフランスに伝えられたと言われている。(ルイ16世の叔母であるヴィクトワール王女の発言とされることもある)。
ただし、これはマリー・アントワネット自身の言葉ではない、ともされている。例えば、ルソーの『告白』(1766年頃執筆)の第6巻に、ワインを飲むためにパンを探したが見つけられないルソーが、“家臣からの「農民にはパンがありません」との発言に対して「それならブリオッシュを食べればよい」とさる大公夫人が答えた”ことを思い出したとあり、この記事が有力な原典のひとつであるといわれている。庇護者で愛人でもあったヴァラン夫人とルソーが気まずくなり、マブリ家に家庭教師として出向いていた時代(1740年頃)のことという。
アルフォンス・カーは、1843年に出版した『悪女たち』の中で、執筆の際にはこの発言は既にマリー・アントワネットのものとして流布していたが、1760年出版のある本に「トスカーナ大公国の公爵夫人」のものとして紹介されている、と書いている。 トスカーナは1760年当時、マリー・アントワネットの父であるフランツ・シュテファンが所有しており、その後もハプスブルク家に受け継がれたことから、こじつけの理由の一端になった[要出典]、ともされる。
当時のフランス法には、「食糧難の際にはパンとブリオッシュを同じ値段で売ること」となっていた[要出典]との説もあり、そのことがこの発言伝説の下敷きのひとつになった[要出典]とも言われる。ちなみに、ブリオッシュがバターや卵を利用したお菓子とほぼ同じとみなされるパンを示すようになったのは18世紀後半からであり、18世紀初頭まではチーズやバターなどの各地方の特産物を生地に混ぜて栄養性と保存性を高めた保存食という乾パン的位置づけであった[要出典]。そうなると「パンがなければブリオッシュを」との発言が1700年代前半のものであったのか後半のものであったかにより、意味合いが異なってくる可能性もある。
いずれにせよ、当時の貴族の贅沢三昧の暮らしぶり、極端な貧富の差、暴政などに対する民衆の怒りの気持ちが込められて流布されていた表現であり、現代でもその当時の民衆の気持ちを推し量りながら引用される逸話であることには変わりはなく、ブリオッシュはフランス革命の一種のシンボルにもなっている。