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2009年3月23日 (月) 22:20時点における版

団体交渉拒否(だんたいこうしょうきょひ)は、労働者あるいは労働組合団体交渉の申し入れに対し、使用者が団体交渉を拒否すること。団交拒否(だんこうきょひ)とも呼ばれる。不利益取扱、支配介入と並ぶ不当労働行為の類型である。

労働組合法の規定

第7条(不当労働行為) 使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。 一 (略) ニ 使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと 三(以下略)

団交拒否の内容

西谷敏(西谷・後掲書)によれば、次のような使用者の態度は団交拒否と看做される。

窓口拒否

労働者の団交申し入れに対しただ単純に拒否することは、当然に不当労働行為となる。

不誠実な交渉態度

使用者は誠実交渉義務を負うとされ、これに反した場合は不当労働行為となる。また、必要な資料の提示を求められた場合は、合理的理由がない限りこれを提示しなければならない。

カール・ツアイス事件(東京地方裁判所平成元年9月22日判決)では、「使用者には、誠実に団体交渉にあたる義務があり、……自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意を持って団体交渉に当たらなければなら」ないと示されている。

複数組合の取扱差別

企業内に複数組合がある場合、一方の組合だけに団交を応諾したり、それぞれの組合の団交に応じたとしても同じ要求に回答が違う場合は、不当労働行為となる。

団交の一方的打ち切り

使用者が労働者との合意を見出す努力をしないまま一方的に団交を打ち切ることは、不当労働行為となる。

しかし、労使双方の主張が平行線をたどり、交渉進展の見込みがない場合は団体交渉拒否に理由があるとする(池田電器事件、最高裁判所平成4年2月14日判決)。また、団交における労働者側の暴力行為の存在を理由に団交を打ち切った例もあるが、判例は打切りに合理性があるとしている(寿建築研究所事件、最高裁判所昭和53年11月24日判決)。

合意の協約化拒否

合意に対して協約化を拒否することは、不当労働行為と看做される(商大八戸ノ里ドライビングスクール事件、大阪地方裁判所平成4年12月25日決定)。団交の結果を尊重しないということになるからである。ただし、ここにおいて合意とは、特段の事情のない限り、交渉事項の全部について合意があったことが必要である(文祥堂事件、最高裁判所平成7年1月24日判決)。

団交を経ない労働条件の変更

就業規則の一方的変更を団体交渉を経ずに行なうことは、団交拒否の不当労働行為となるという学説がある。

団交拒否の救済

労働委員会による救済

労働者は不当労働行為が行なわれたと考えた場合、労働委員会に救済命令を申し立てることができる。労働委員会は、不当労働行為に当たると認められる場合、「団体交渉に応ぜよ」などの救済命令(団交応諾命令)を発する。窓口拒否の場合は簡単な内容になるが、複雑な事案の場合はケースによって文言が変わる。

申立ての間に使用者側が態度を改めて団交に応じた場合などは、その時点で申立てに対する救済利益はなくなる。この場合、過去の団交拒否に対してポスト・ノーティスを命じるなどの救済をすべきか否かの問題のみが残る。

また、団交拒否を労働関係調整法第6条に定める労働争議として、労働委員会にあっせんを求めることもできる。

司法による救済

裁判所に対して救済を求めることができる。かつては団交応諾の仮処分を認める判例が多かったが、学説の変化(団交請求権の否定)に伴い、団体交渉権は具体的権利を要求したものではないとする判例(新聞之新聞社事件、東京高等裁判所昭和50年9月25日決定)が出てから団交応諾仮処分を出す例は稀となった。

学説は、団交請求権を否定しつつも団体交渉を求める地位にあることの確認請求については肯定するようになっている。現在の裁判例ではこのような仮処分の申立て(国鉄事件、東京高等裁判所昭和62年1月27日判決で確認請求を認容)、団交拒否への損害賠償請求が主流となっている。

損害賠償の場合は、民法709条に定める不法行為に基づく請求となるが、相手方に団交拒否についての故意又は過失があったかが問題となる。また、これが今後の円滑な団体交渉の保障につながるとは限らず、あくまで過去の違法行為の確認にとどまることとなる。

その他

派遣労働において、派遣先使用者が派遣労働者と交渉する義務を負うことがある。

参考文献

  • 西谷敏『労働組合法 第2版』(有斐閣、2006年)308頁
  • 浅倉むつ子・島田陽一・盛誠吾『労働法 第3版』(有斐閣、2008年)353頁(盛執筆部分)
  • 菅野和夫『労働法 第5版補正2版』(弘文堂、2001年)532頁
  • 菊池高志「誠実団交義務─カール・ツアイス事件」菅野和夫・西谷敏・荒木尚志編『労働判例百選 第7版』(有斐閣、2002年)244頁
  • 橋詰洋三「団体交渉の打切りと再開─寿建築研究所事件」菅野ほか編上掲書、248頁