片親引き離し症候群

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

片親引き離し症候群(かたおやひきはなししょうこうぐん、英:Parental Alienation Syndrome、略称PAS)とは、1980年代初めにリチャード・A・ガードナーによって提唱された用語で、両親の離婚別居などの原因により、子供を監護している方の(監護親)が、もう一方の親(非監護親)に対する誹謗中傷悪口などマイナスなイメージを子供に吹き込むことでマインドコントロール洗脳を行い、子供を他方の親から引き離すようし向け、結果として正当な理由もなく片親に会えなくさせている状況を指す。「洗脳虐待」と訳されることもある。また子供を引き取った親に新しい交際相手ができた場合に、子供に対してその交際相手を「お父さんorお母さん」と呼ぶようにしつけ、実父・実母の存在を子供の記憶から消し去ろうとするのもこれに当たるといわれる。

PASは、医学界や法学界では「疾患」であるとは認定されておらず、ガードナーの理論や関連研究は、法学者や精神科医から広く批判されている[1][2][3][4]

片親引き離し症候群は、2010年に発表されたアメリカ精神科医師会による『精神障害の診断と統計マニュアル』第5版(DSM-5)の草案には記載されていないが、ワーキング・グループによる「他の情報源が提案する疾患」には記載されている[5]。それによれば、片親引き離し症候群とは「同居親の行動によって非同居親と子供との関係が不当に破壊される状態」である。

概要[編集]

PASの影響として、子供の精神面や身体面に様々な悪弊が出たり、生育に悪影響のあることが、欧米を中心に児童心理学者をはじめ法律関係者などにも広く認識され、連れ去り・引き離し自体が最も悪質な児童虐待であると同時に配偶者に対しての極めて悪質な情緒的虐待であると捉えられているが[6][7][8][9][10]、日本では専門家の間でも充分に認識されているとは言いがたい。ガードナーは、PASは子供に様々な情緒的問題、対人関係上の問題などを生じさせ、長期間にわたって悪影響を及ぼすと主張、引き離しを企てている親の行為は子供に対する精神的虐待であると指摘している。離婚や別居で一方の親が子供から離れると、子供は「同居親から捨てられる」不安と恐怖を強く抱いて徐々に同居親の心理に同調するようになる事が解明されており、それによって同居親が非同居親を憎み嫌う心理が子供に影響すると考えられている。すなわち、「同居親から見捨てられない」ために本能的に「同居親を守ろう、喜ばせよう」という思考が働き、同居親の心理に同調して自ら非同居親の存在を否定するようになっていくのである。その結果子供は精神的に同居親に従属する存在となり、自我の喪失・混乱などの情緒的問題を生じていくのである。こうした事を防ぐためにも、非同居親との頻繁で有意義かつ継続的な交流は重要であるとされている[1]

PASの法的証拠としての有効性は、専門家委員会のレビューや、イギリスのイングランド・ウェールズ控訴院によって否定されており、カナダ法務省はPASを用いないように推奨しているが、米国の家庭裁判所での論争においては用いられた例がある[11][12]。ガードナーは、PASは法曹界に受け入れられており、多くの判例もあるとしているが、実際の事件を法的に分析した結果、この主張は正しくないことが示されている[4]

PASを医学的に「症候群」や「疾患」であると認定している専門職団体はない。アメリカ精神医学会の『精神障害の診断と統計マニュアル』第5版(DSM-5)の草案には記載されていない。 連れ去りが、子供にしばしば引き起こす精神的障害は、分離不安、ADHD、PTSD、摂食障害、学習障害、行動障害などである[13]。これらの精神的障害は、DSMに記載されている。自然災害もPTSDを起こすことがあるが、自然災害は「疾患」ではない。同様に、連れ去り自体は「疾患」ではない。

PASという用語について[編集]

PASは診断学上の症候群の概念には該当していない。これについては、ガードナーとケリー&ジョンストンの間で激しい論争があった。しかしケリー&ジョンストンとて監護親による悪意のプログラミングを完全に否定したわけではなく、「疎外された子供」の定義から評価することを提唱し、子供が他方の親との接触に抵抗を示すケースの全てを、悪意のプログラミングによる片親引き離し症候群と考えるのは単純であると批判し、診断学上のシンドローム(症候群)に該当しないと批判したのである。児童虐待ドメスティックバイオレンス(DV)も、初期には"Battered Child Syndrome"や"Battered Women's Syndrome"という呼び方がされていたが、やはりシンドロームではないということで今では使われていない。しかしこれは、(当然ながら)児童虐待やDVを否定するものではない。2008年にアメリカ医学会は、PASという診断名はDSM-IV診断基準(精神病の鑑別基準)には採用しないと発言している。結論としてはシンドロームという部分ではケリー&ジョンストンたちの主張が認められたが、親が不当に疎外されている(PA)、子供が片親から不当に疎外されている(AC)現象については肯定され、その一因として片親による悪意のコーチングやプログラミングも否定されていないということであり、片親疎外をPASという用語、シンドロームという概念で評価することは不適切であるということに過ぎない。正確な用語表記としてはPA=Parental Alienation(片親疎外)と表記するべきであろう。

児童虐待やDVが、原因となる精神疾患が他に存在するケースにおいても、病理の発現という評価を受けることに鑑みれば、PA自体が精神疾患の基準に該当しないからといってPAという現象を否定することは失当である。諸外国において、離婚後もなぜ共同監護が運用され、双方の親と子の交流が注意深く保護されているのか考えるべきである[14]

日本の現状[編集]

現在、日本の離婚件数は年間約25万件にものぼり、うち約16万組に未成年の子がいる。しかし日本は、先進国の中では唯一離婚後共同親権・離婚後共同監護を認めておらず[要出典]、離婚に際してどちらか一方の親が親権者となる単独親権制度を採用しているため、子の争奪を巡って夫婦間で熾烈な争いが繰り広げられるケースが多い[15][16]。また明治以降の家制度の中で根づいた「離婚は縁切り」との社会通念も、「離婚後、離れて暮らす親子は一切関わりを持たない方がいい」「子供と別れた親はそっと陰で見守るべきであり、別れた家族の前に表立って出てくるべきではない」という意識の基になっており、そのため特に同居親の再婚があった場合、子供を想うが故に「自分の事は忘れて新しい親と家族を作った方が幸せなんじゃないか」と考えて引き離された子供との面会を早々に断念する非同居親も多数いる。さらに、同居親に対して子供との面会を求める行為も「相手への未練があって、子供を出しにして縒りを戻したがっているだけ」との偏見や誤解を持たれやすく、周囲の誹謗中傷に耐えかねて泣く泣く子供との面会を断念する非同居親もいる。

子供の親権を得る上で有利になるために、一方の親による離婚前の連れ去り別居や配偶者暴力防止法を悪用した虚偽のDV申し立てなど手段を選ばない方法が横行しており[17]、このために夫婦間の感情的葛藤がさらに高まる事でPAという形で何ら罪のない子供が被害を受けるケースが多くなっている現状があり、他の先進国並みに離婚後共同親権の確立を求める声も強い[18]。また、連れ去り別居に加えて「違法ではない」という理由で子供宛の手紙やプレゼントを子供に渡さず着払いで送り返したりする、面会交流の話し合いを拒否する、「お父(母)さんなんて嫌い」「会いたくない」といった手紙を子供に書かせる、養育費を受け取らない、学校行事への参加を「子供に会いに来たら未成年者略取誘拐容疑で通報する」などと書面で脅して妨害する、離婚調停や面会調停の途中で交流禁止の審判を申し立てるなどの悪質な養育・交流の妨害が行われているケースもあり、これらも問題視されている。特に虚偽のDV申し立てという行為によって離婚し成立した母子家庭の場合、母親の前夫への怒りや葛藤の次なる矛先が子供に向かったり、再婚・交際相手の男との関係が前夫との間に生まれた子供の存在を排除しようとする事などで、児童虐待に至るケースも多いとされている。母性優先の原理に則った裁判所の判断によって父親が子と会えなくなるケースが多いが、連れ去りなどによる場合は現状追認が優先され、母親側が子と会えなくなる場合も少からずある。面接交渉権が認められても、実際にはPAによって監護者側の意図が反映され[19]、子に会えない親、片親に会えない子が数多く存在する。裁判所での子供の意思の確認は15歳未満ではほとんど行われず、15歳以上で行われる場合も、監護側の親の意思により形成された(かも知れない)表面的なものを判断材料とし、現状維持を追認するケースが大半である[20]。親権について親同士の争いがある場合は、家庭裁判所調査官による調査が行われるのが通例であるが、形式的なものが多く、虐待があってもそれが認められる事は少ない[21]。したがって、上述のように母性優先の原則に則り、母親側に親権が与えられる事が多い。

また、子供の親権を持った同居親が再婚した場合に自身の連れ子と再婚相手を養子縁組させる「連れ子養子縁組」も、片親引き離しの要因になっているという報告もある。子供に対する親権を持つ同居親が再婚し、その新たな配偶者と子供が養子縁組をする場合、非同居親への報告や許可を取る事は全く必要ない。即ち、非同居親の側が全く知らない間に、子供に親権を持つ法律上の新しい親(養親)ができるのである。この場合は役場に届けを出すだけで済み、裁判所などの「権限のある当局」の許可を必要としない(民法798条ただし書き[22])。これらは明らかに、養子縁組に関する児童の権利に関する条約第21条(a)の内容「養子縁組には裁判所の許可が必要」「実の父母の同意を義務づける」に違反している。元来は、新たな配偶者との「連れ子の養子縁組」の場合は子供の福祉を害する事はない、という見方に基づいて裁判所の許可を必要としないとされた物であるが、「養親」らによる子供への虐待が多発するなど、今の時代や実態から乖離している[23]

こうして子供が養子縁組をした事で、離婚の時に親権を失い法的に親でなくなっている非同居親は、事前に何も知らされないにも関わらず養子縁組で法的に子供の親となった「養親」に対抗する事ができなくなり、ますます面会交流の実現は困難なものとなる。つまり、「養親」が子供に対する親権を持つ事で、非同居親は子供との血縁という否定しようのないつながりがありながら「親である事」を法的に完全に否定される事になり、これは非同居親に対する人権・人間性の侵害という意見もある。さらに現状では養子縁組後、裁判所は非同居親に対して、「面会交流は再婚家庭の平安を乱し子供の精神的安定を害する」または「『養親』の監護権を害するおそれがある」として、面会交流の実施を認めない事が多い。これが、「結果的に司法が片親引き離しを助長している」という指摘もあり、同居親による引き離しで我が子に会えなくなった非同居親が司法にまで切り捨てられる形になり、絶望感から自殺に至るなど深刻な事態も発生している(この事は結果的に司法が子供から実親の一方を永久に奪い去るという事になり、子供の福祉に反しているといえる)。

こうした事情を鑑みて、現在では民法改正や「親子の交流断絶の防止に関する法律」の成立に向けた法案整備が行われており、片親引き離しの根絶・減少を目指す取り組みが始まっている(中部 共同親権法制化運動の会の報告より)。また離婚で引き離された子供と実父との交流を妨害した母親と、実父の許可を得ない連れ子養子縁組によって交流妨害に荷担した母親の再婚相手の行為の不法性を訴えた損害賠償訴訟が行われたり、同居親側の弁護士が意図的に非同居親と子供の交流を妨害したとして賠償責任を問われたり、家庭裁判所が、同居親である母親が離婚後の子供と父親との面会交流を妨害した事を理由に、親権者を母親から父親に変更する判断を下した事もあるなど、司法側や当事者の意識の変化も若干ながらみられている。

片親引き離しの影響[編集]

片親引き離しは、子供に次のような影響を与える。

片親だけで育てられた子供は、精神的な問題を起こしやすい
片親だけで育てられた子供は、学業成績不良、睡眠障害、抑うつ症状、自殺企図、違法行為、風紀の乱れ、薬物依存などの問題を起こしやすい。バージニア大学のヘザリントン教授は、離婚が子供に及ぼす影響について研究したが、「片親だけで育てられた子供は、精神的トラブルが2倍になる[24]」と述べた(ここでは触れられていないが、再婚家庭においても同様の問題が起きやすい事が指摘されている。詳しくは下記を参照)。
子供の発達・発育に不利になる
ケンブリッジ大学のMichael Lamb 教授は、「片親と子供の分離が子供に不利にならないようにするためには、時間をうまく配分したとしても、片親と過ごす時間が子供の時間の30~35%以上あることが必要である」と述べた。
父親の役割を果たせなくなる
父親の役割と、母親の役割は、共通の部分もあるが、異なる部分もある。父親は、子供が成長して迎え入れられる社会について、子供に教え準備をさせる。父親は、子供の独立を促す。また規律、ルール、労働、責任、協力、競争などについて、子供に教える [25][26][27]。母親だけで子供を育てると、特に男の子の教育において、これらの点について訓練や準備が充分には行われず、こうした点が不得意な大人になる[28][29]
同居親との関係もうまく行かなくなる
別居や離婚が子供の思春期以後に起きた場合には、子供から片親が引き離されると、子供は同居親からも精神的に離れていく事が多い。同居親とあまり話さなくなったり、自室に引きこもったりする事が多くなる。同居親に新しい交際相手ができて性的活動が行われるようになると、この傾向は一層顕著になる[30]。これは同居親の中で、交際相手の方が子供より優先されている事を示しているといえる。
非同居親を子供から引き離したという事は、子供の利益を第一に考えていない事と、離婚による単独親権下で子供の優先順位が下へ下へと落とされていく事の顕著な証明である。しかし子供から見れば、最も大切な関係のうちの一つを切られたのである。それにより子供の健全な発育は困難にされたのである。子供は、離婚交渉や元配偶者への仕返しの道具にされたのである。共同親権下の健全な家庭においては子供は生まれながらにして家庭内で最優先にされるが、片親の単独親権となると子供の優先順位は親よりも低くなっていく事が多い。そうした理由により、子供は同居親に対して全幅の信頼を寄せる事はなくなる。人質の全てが、ストックホルム症候群になるわけではない。
同居親が再婚したり新たに交際を始めた場合、子供とその相手の間にもトラブルが起きる
同居親が新たな配偶者を連れてきて子供に「この人があなたの新しい親だ」と告げた場合、同居親としては子供が自分の再婚を祝福し、新しい配偶者を「親」と認める事を望むが、期待通りの反応が得られないと同居親やその配偶者が子供に怒りを覚え、虐待に至る可能性もある。特に再婚・内縁家庭を築いたばかりの頃は「新しいパートナーが自分を愛しているのだから、自分の子供も同じように我が子として愛してくれるはず」「子供も新しい親ができて幸せに思うはず、新しい親をすんなり親として受け入れてくれるはず」との幻想を抱きやすく、次第に現実とのギャップが強まる事が虐待の要因になり得る(子連れ再婚を考えるサイトより)。また、連れ子の存在はしばしば同居親が新しい配偶者との絆を深める上での障害になり得るため、そこから虐待が起こる事もある(それを防ぐ上でも、再婚家庭の連れ子が非同居の実親との交流を持つ事は重要である。再婚夫婦が絆を深める時間を作る際の連れ子の居場所は、非同居の実親の下が最適であるとの研究結果が出ている)(親子ネットNAGANOより、子連れ再婚について)。夫婦に取っては離婚をすれば赤の他人でも、子供に取っては血縁のある親が唯一の親であるという事実は否定しようのない物である。同居親に取っては人生の新たなパートナーとして選んだ相手でも、子供からすれば親とは異なる見ず知らずの人物がいきなり目の前に現れてその人物を親として受け入れるよう圧力をかけられる事で、多大な精神的苦痛を強いられる。また心の中で守り続けてきた非同居親との絆を奪われる恐怖と絶望感から、同居親にも激しく反発するようになる事もある。連れ子に取って親の新しい配偶者は得てして「唯一の頼れる人を奪う憎い相手」と認識される一方で、同時に「同居親から見捨てられないためにはこの人を親として受け入れなければならない」という激しい葛藤が生じる。一方の親が去ってただでさえ不安や寂しさを抱えた中でそうした事態になれば、子供の精神的な負担はさらに増大する[2][3]。再婚で親に取って新しい夫(妻)ができる事と子供に取って新しい親ができる事は大きく意味が異なるという事を、よく理解する必要がある。なお引き離しを行う側の理論として「父(母)親が2人になったら子供が混乱する」「いつまでも実父(母)がつきまとっていたら子供がなかなか新しい親に馴染まない」という物があるが、これは誤りであり、離れて暮らす実親との安定した交流があってこそ子供は養親とも良好な関係を築きやすい事が最近になって解明されている。

この他、子供と非同居親との交流が断絶される事によって、一人親・再婚・内縁関係の家庭において子供への虐待が発生した場合に、非同居親が子供を助けるための介入ができないなどのリスクも高まる(共同親権法制化運動の会のサイトより、事例集(ウェブアーカイブ))。また非同居親が直接子供に関わる事のできない状況が続く事が、母子家庭の貧困の一因として挙げられる養育費の不払いをもたらしているという指摘もある。

片親引き離しが起きやすい要因[編集]

同居親が非同居親の悪口を言ったり、非同居親の事を話すのを嫌がる
子供に取って血縁のある親は自身の遺伝子のルーツであり、離別した年齢にもよるが親子として共に生活していく中でも多大な影響を与える物である。子供と血縁のある非同居親の悪口を言ったり非同居親の話題を禁じたりするのは子供の存在の一部を否定する事と同然であり、自尊心の低下など心理面での悪影響をもたらす。非同居親の事について子供に「お父(母)さんはお前を捨てた」「お父(母)さんは死んだんだ」などと嘘を教えたり、再婚家庭や内縁関係の家庭において、同居親が子供に対し自分の再婚・交際相手を「親」と認めるよう強要したり、非同居親の事を無理矢理忘れさせようとする事も(非同居親に関する物を捨てたりなど)同様の悪影響をもたらす。また養子縁組で法の上での親子関係を構築した場合に、養親が実親になった、養子を実子にしたつもりになる事で、子供には虐待の危機に加え「家族・肉親・愛したい対象・愛されたい対象の混乱」という事態が起こる。養子縁組は、養親に取っては「新しく子供が増えた」という認識であるが、子供自身の内心には間違いなく、本来愛したい・愛されたい対象であるべき「血縁のある実親」が別に存在する。その事を子供自身が知る事がいかに重要であるかは、児童の権利に関する条約にも謳われている点からも明らかである。
同居親が、子供が非同居親と会う事に否定的な発言や態度を取る
元配偶者に対する感情のもつれがあっても、それを子供に露骨に示す事は避けるべきである。このような行為は子供に非同居親と会う事に対する罪悪感を植えつけ、子供自身が面会を避けるようになる要因となる。また同様の理由で、非同居親と顔を合わせたくないので学校の行事などに出たがらないという行為も避けるべきである(例え離婚・別居前に夫婦間DVなどの問題があったとしても、子供と非同居親の面会交流とは別問題とするべきである)。
養育費の不払いなどのトラブルを子供の前で口に出す
養育費の不払いなど離婚に関するトラブルは弁護士などの専門家に相談すべきであり、子供に直接聞かせる事は避けるべきである。このような事を聞かされると子供は非同居親の愛情を信じられなくなり、やはり自尊心の低下などをもたらす。

片親疎外の段階と症状の違い[編集]

ガードナーは、片親疎外の段階について3つに区分し、それぞれの段階に応じた対処の方法を提唱している。以下の表はその区分の目安である。

主な症状 軽度 中度 重度
中傷のキャンペーン 最小 中度 手強い
薄弱・軽率・不条理な、軽蔑の正当化(嫌悪感や恐怖心の説明が不合理・不適切な内容で、拒絶された親の言動と釣り合っていない) 最小 中度 多数の不条理な正当化
両面感情の欠如(非同居親をもっぱら否定的な言葉で言い表し、同時に同居親をほとんど完璧なよい存在として言い表す) 正常な両面感情 両面感情なし 両面感情なし
独立思考者現象(非同居親を拒絶しているのは自分自身の意思であって、同居親の影響ではないと言い張る) 普通はない ある ある
両親間の対立での疎外する親への反射的な支持 最少 ある ある
非同居親への誹謗・中傷・搾取に対する罪悪感の欠如 普通の罪悪感 最少か欠如 欠如
シナリオの借用(子供の表現が、片親疎外を引き起こそうとしている同居親の表現を模倣している) 最少 ある ある
非同居親の親戚・知人らへの憎悪や恐怖の対象の拡大 最少 ある 手強い、しばしば狂信的
訪問面会時にすぐ慣れるか 普通は慣れる 中度 手強い、訪問できない
訪問時の行為 良好 時折、敵対的で挑発的 訪問しない、もしくは破壊的で、訪問中はずっと挑発的
同居親との結びつき 強い、健全 強い、軽度から中度に病的 深刻に病的、 偏執的な結合
非同居親との結びつき 強い、健全かやや病的 強い、健全かやや病的 強い、病的

また、男性の男性による男性のための離婚・夫婦問題相談では、片親疎外の種類を「あまり悪意のない片親疎外」「積極的に行われる片親疎外」「取り憑かれたように執拗な片親疎外」の3種に分類している。このうち「積極的に行われる片親疎外」では、同居親が(元)配偶者に対する怒りや葛藤を抱えていて疎外を行う事に対する罪悪感との間で苦悩している事も多く、同居親への精神面のケアを要する場合もある。また「取り憑かれたように執拗な片親疎外」は一番深刻なケースであり、同居親は子供と非同居親との関係を意図的に破壊しようと目論み、自分と子供の気持ちが異なる事が理解できない。「有害な親から我が子を守るのが自分の務めだ」と思い込んでいる事も多く、非同居親を盛んに中傷し、子供自身がその親を憎む・嫌うように仕向ける。そしてこうした刷り込みによる子供の「お父(母)さんなんて嫌い」「会いたくない」という意思表示を盾に取って「子供自身が嫌がっているのに会わせる事はできない」と面会交流を頑なに拒絶する。このようなケースでは、子供を同居親から一時的に隔離しての児童精神科医による治療を要する事もある。

片親引き離しを防ぐためのガイドライン[編集]

さくらの森行政書士事務所では発行している「子どもに会いたい親のためのハンドブック」において、離婚後の両親と子供の交流のあり方と離婚協議書の中でそれを明文化する事を提唱している。これは片親疎外の根絶・減少を目指す取り組みとして、離婚する当事者の意識向上を図った物である。主な項目は以下の通り。

  • 子供に元配偶者の悪口を言わない
  • 子供と元配偶者の面会交流を妨害・制限しない
  • 子供と元配偶者のコミュニケーションを妨害・制限しない(メール・電話・手紙など)
  • 子供と元配偶者の象徴的なコミュニケーションを妨害・廃棄しない(写真・贈り物など)
  • 子供が元配偶者の話題を出したときに、愛情を撤去しない
  • 子供に「元配偶者はあなたのことが嫌い」と言わない
  • 子供に選択(自分を取るのか、元配偶者を取るのか)を強制しない
  • 子供に「元配偶者は危険・害悪」という印象を作り上げない
  • 子供に夫婦間の問題を相談しない(裁判資料を見せることを含む)
  • 子供に元配偶者を拒絶するよう強制しない
  • 子供に元配偶者を偵察させるようなことをしない
  • 子供に元配偶者に対する秘密を創らせるようなことをしない
  • 子供に元配偶者を呼び捨てにさせない(これまで通り、『お父(母)さん』と呼ばせる)
  • 子供に養親だけを「お父(母)さん」と呼ぶことを強制しない
  • 子供に関する医療や学業、その他の重要な情報(もちろん自身の再婚も)は元配偶者にちゃんと伝える
  • 元配偶者との関係を抹消する目的で子供の名前を変更することはしない
  • 子供の依存心を強化するようなことをしない

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ Bernet, W (2008). “Parental Alienation Disorder and DSM-V”. The American Journal of Family Therapy 36 (5): 349-366. doi:10.1080/01926180802405513. 
  2. ^ Bruch, CS (2001). “Parental Alienation Syndrome and Parental Alienation: Getting It Wrong in Child Custody Cases” (pdf). Family Law Quarterly 35 (527): 527-552. http://www.law.ucdavis.edu/faculty/Bruch/files/fam353_06_Bruch_527_552.pdf. 
  3. ^ Wood, CL (1994). “The parental alienation syndrome: a dangerous aura of reliability”. Loyola of Los Angeles Law Review 29: 1367–1415. http://fact.on.ca/Info/pas/wood94.htm 2008年4月12日閲覧。. 
  4. ^ a b Hoult, JA (2006). “The Evidentiary Admissibility of Parental Alienation Syndrome: Science, Law, and Policy”. Children's Legal Rights Journal 26 (1). http://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=910267. 
  5. ^ PAS
  6. ^ Parental Kidnapping: A New Form of Child Abuse
  7. ^ Parental Child Abduction is Child Abuse
  8. ^ Parental Kidnapping: Prevention and Remedies Hoff著、アメリカ弁護士協会、2000年
  9. ^ 米国政府文書
  10. ^ The Crime of Family Abduction 米国法務省の文書
  11. ^ Fortin, Jane (2003). Children's Rights and the Developing Law. Cambridge University Press. pp. 263. ISBN 9780521606486. 
  12. ^ Bainham, Andrew (2005). Children: The Modern Law. Jordans. pp. 161. ISBN 9780853089391. 
  13. ^ Parental Child Abductions Victims of Violence - カナダ政府が出資している機関
  14. ^ ISBN 4334035507 離婚で壊れる子どもたち 棚瀬一代
  15. ^ NHK解説委員室 視点・論点「会えないパパ 会えないママ」2009年03月19日 (木)
  16. ^ 「親権」と「親」の乖離後藤富士子
  17. ^ 弁護士の中にはこうした行為を積極的に行うよう指導している者もいるとされており、この事も「第三者が片親引き離しを助長している」として問題視されている。また日本では別居時に子供を配偶者に無断で連れ去っても罪に問われる事はないが、自分の子供を連れ去られた側が連れ戻しに行くと未成年者略取誘拐罪に問われるなど、刑法の運用においても問題が指摘されている。海外では、配偶者であろうと無断で自分の子供を連れ去れば実子誘拐罪に問われるのが普通である。
  18. ^ 親子の交流断絶防止法制定を求める全国連絡会
  19. ^ 山形新聞 平成23年12月21日朝刊:益子行弘
  20. ^ ISBN 4582855768 子どもの連れ去り問題 コリン・ジョーンズ
  21. ^ 負けた側の真実:越智みさ子に詳しい。
  22. ^ 798条では「未成年者を養子とするには家庭裁判所の許可を得なければならない」とされているが、連れ子養子縁組については「自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合はこの限りでない」と例外とされている。
  23. ^ また、「子供の親になる者」を決めるに当たって子供自身の意思が全く反映されない点も子供の権利を侵害しているという指摘もある。民法797条では、子供が自分の意思で養親との養子縁組を行えるのは子供が15歳以上の場合に限られる(どうなってるんだろう? 子どもの法律)。
  24. ^ ISBN 0393324133 For Better or for Worce, Hetherington
  25. ^ The Role of the Father
  26. ^ Biology of Dads BBCドキュメンタリー番組
  27. ^ 人間関係「父親が子どもの発達に与える影響」第2節 p37-39 著:谷田貝公昭
  28. ^ The Importance of Fathers in the Healthy Development of Children 米国政府文書
  29. ^ Fathers' impact on their children's learning and achievement Fatherhood Institute
  30. ^ ISBN 1886230846 Parenting after Divorce, P70

参考サイト[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]