法務技官
法務技官(ほうむぎかん)は、法務省で採用される専門職員(技官)の官職名である。
法務技官 | |
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![]() 少年鑑別所 | |
基本情報 | |
名称 | 法務省専門職員 |
職種 | 専門職・国家公務員 |
業種 | 司法・臨床・医療・心理学 |
詳細情報 | |
必須試験 |
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就業分野 |
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関連職業 |
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平均年収 |
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法務省専門職員(人間科学)採用試験で採用される矯正心理専門職の他、矯正医官や看護師、薬剤師などの医療従事者、作業専門官がある。
目次
概要[編集]
法務省専門職員(人間科学)は、法務省における人間科学の知識が必要な官職に従事する職員を採用するため、平成24年度に新設された官職である。 区分は、矯正心理専門職区分、法務教官区分、保護観察官区分の3区分が存在する。
大学院を卒業し、臨床心理士・公認心理師などの資格を持つ者もいる。矯正心理専門職の場合は大学院での心理学の修士号が事実上必要である。 採用区分は男性はA区分で、女性はB区分である。
矯正心理専門職[編集]
心理技官とも呼ばれる[3]。矯正心理専門職は主として少年鑑別所や少年院、刑事施設(刑務所、少年刑務所及び拘置所)などに勤務する。人事異動により矯正管区や矯正局といった上級官庁で勤務することもあるが、その場合には官職名は法務事務官とすることが多い。基本的には採用1年目に新規採用職員を対象とした基礎科研修、5年目に専門性を向上させるための応用科研修を受講する。場所は矯正研修所東京支所で行われ、3か月間の集合研修となる。
近年、国家資格として新設された公認心理師の養成に係る実習を受け入れている少年鑑別所もある。公認心理師法では、実践力の高い人材を養成する上で、大学・大学院外の施設における実習科目は非常に重要な科目として位置付けられている。その実習施設には、矯正施設が含まれていることから、公認心理師養成に係る実習を積極的に受け入れているのである[4]。
法務教官[編集]
法務教官(ほうむきょうかん)とは、主に法務総合研究所や矯正施設(少年院、少年鑑別所、婦人補導院、刑務所、少年刑務所及び拘置所)に勤務し、被収容者の矯正教育を担当する法務省所属の職員(国家公務員)の官職名である。なお、採用試験の区分の法務教官Aが男性法務教官、法務教官Bが女性法務教官である。それぞれ制服が定められており、貸与されている。
法務教官の官職を有する者は、人事異動などにより上記施設以外の官署(法務省の施設等機関で、矯正職員の研修を実施する矯正研修所など)に属することもあるが、通常、法務教官と呼ぶときは、その「教官」という部分に着目し実際に上記施設で勤務する職員を指すことが多い。なお、法務教官は青少年の更生教育を主な任務とすることから、刑務官のような階級制度はとられていない。
また法務教官は公安職であるが、一般職国家公務員と同様に、労働基本権のうち、団結権と団体交渉権が認められている。
法務教官は、かつては1989年から実施されていた法務教官採用試験(国家公務員II種相当)又は国家公務員採用I種試験「人間科学II」区分合格者から採用されていたが、2012年からは法務省専門職員(人間科学)採用試験の法務教官区分又は総合職試験(人間科学II)から採用されている。 採用後は全国の少年院及び少年鑑別所に配属される(例外的に「自庁採用」という、各施設で個別に実施される試験の合格者も採用されることが稀にある)。
採用されると、通常は自庁における研修を経て、全国8か所に設置されている矯正研修所支所で約3か月間、基礎科研修を受ける。同研修は合宿による集合研修であり、法務教官として必要な学科(少年法、少年院法、矯正社会学、矯正心理学、矯正教育学、基礎的な処遇技法等)及び術科(矯正護身術、戒具使用法、集団行動指導法等)を学ぶことを目的とする。
また、採用後おおむね5年目には、より専門的な学識及び技術を習得するために、矯正研修所支所において、約3か月間、応用科研修を受ける。 さらに上級の幹部職員を養成することを目的とする高等科研修がある。同研修は入所試験合格により入所資格が与えられ(ただし、国家公務員採用I種試験合格者は無条件に入所資格が与えられる)、矯正研修所(東京都府中市)において約6か月間の研修を実施する。
幅広い視野と専門的な知識をもって、少年の個性や能力を伸ばし、健全な社会人として社会復帰させるために、きめ細かい指導・教育を行っている。また、刑事施設(刑務所、少年刑務所及び拘置所)に勤務し、受刑者の改善指導等に携わる道も開かれており、性犯罪や薬物依存などに関わる問題性に働きかける指導のほか、就労支援指導や教科指導等を行っている。
医療従事者[編集]
医療従事者は有資格者を採用し、刑事施設(刑務所、少年刑務所及び拘置所)などに勤務する。矯正医官は医師が務める。法務省では矯正医官を希望する医学生に学費を貸与している。矯正医官は平日勤務時間(38時間45分)のうち最大19時間までを外部医療機関や大学等における調査研究や医療技技術向上を目的とする時間に充てることが可能である。個々の矯正施設の事情にもよるが、施設への出勤日を週2日とすることも可能である。また、国家公務員の医師としては例外的に兼業が認められている。
作業専門官[編集]
作業専門官は民間の技能者を雇用している。
職員数[5][編集]
法務教官 | 心理技官 | その他 | 総数 |
---|---|---|---|
788 | 255 | 155 | 1198 |
※「その他」は、庶務業務従事職員、医療職員等である。
法務教官 | 心理技官 | その他 | 総数 |
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2201 | 26 | 235 | 2462 |
刑務官 | 作業専門官 | 教育専門官 | 調査専門官 | その他 | 総数 |
---|---|---|---|---|---|
17586 | 603 | 264 | 207 | 989 | 19649 |
※「その他」は、医療職員等である。
※「作業専門官」は、各種技能等を有し、受刑者への作業・職業訓練の指導等に従事している。
※「教育専門官」は、主に教育学等を専門とし、受刑者への改善指導や教科指導に従事している。
※「調査専門官」は、主に心理学を専門とし、受刑者の処遇調査やカウンセリングに従事している。
勤務内容[編集]
矯正心理専門職は勤務する施設により実施する内容が異なる。最も勤務が多い少年鑑別所では、面接や各種心理検査を行い、知能や性格等の資質上の特徴、非行に至った原因、今後の処遇上の指針を作成する業務の他、鑑別所に併設されている法務少年支援センターでの相談業務を実施する。少年院では、個々の少年に関する矯正教育計画の策定や各種処遇プログラムの実施、処遇効果の検証等を実施する。刑事施設では面接や各種心理検査を行い、今後の処遇上の指針の作成、改善指導プログラムを実施したり、受刑者に対するカウンセリングを実施する。
医療従事者は刑事施設で医療行為を行う。
作業専門官は刑務所での職業訓練を指導する。
法務教官・矯正心理専門職は、地域住民や学校の教師からの心理相談にも応じており、業務が拡大している。
鑑別の流れ[編集]
待遇[編集]
給与・諸手当[編集]
法務教官・法務技官(心理)[編集]
少年院・少年鑑別所に勤務する法務教官・法務技官(心理)には、一般の国家公務員に適用される行政職俸給表(一)に比べ、12%程度給与水準の高い公安職俸給表(二)(平成29年度現在、東京都特別区内に勤務する場合の初任給の例は、244,320円)が適用される。このほかに,各種手当(扶養手当、住居手当、通勤手当、期末・勤勉手当、超過勤務手当等)が支給される。
保護観察官区分[編集]
保護観察官区分採用者は行政職俸給表(一)が適用される。平成25年度、東京都特別区内に勤務する場合の初任給は203,196円である(地域手当を含む)。なお、保護観察官に任命された場合は、俸給の調整額が加算される。このほか,各種手当(扶養手当、住居手当、通勤手当、期末・勤勉手当、超過勤務手当等)が支給される。
勤務時間・休暇[編集]
法務教官・法務技官(心理)[編集]
1週当たりの勤務時間は、38時間45分(週休2日制)であり、主として交替制勤務(昼間勤務と昼夜間勤務あり)に従事する。 休暇制度としては、年次休暇(年間20日間)のほかに病気休暇、特別休暇(夏季休暇、結婚・出産に伴う休暇等)及び介護休暇の制度が設けられている。
保護観察官区分[編集]
原則1日7時間45分の勤務(午前8時30分から午後5時15分まで)である(ただし、配属庁によっては宿直勤務あり)。なお、大都市では時差通勤制度を採用している。
勤務地・制服・宿舎[編集]
勤務地等については、本人の希望を考慮して決定しており、原則として採用施設を所管する矯正管区の管轄地域内で異動する。制服が定期的に貸与される。官舎は、勤務庁の近隣に設けられており、公安職俸給表適用職員の特例により、その宿舎費は原則として無料となる。
研修・昇進[編集]
法務教官・法務技官(心理)[編集]
採用1年目に新採用職員を対象とした基礎科研修、5年目に専門性を向上させるための応用科研修を矯正研修所で行う。また、幹部職員となるための高等科研修や教育方法等に関する種々の専門研修のほか、海外・国内留学の制度などが設けられている。昇任については、能力主義の人事管理を行っており、採用後おおむね5年目に専門官に昇任し、その後は統括専門官(課長相当)、首席専門官、施設長等に昇任する道も開かれている。
保護観察官区分[編集]
採用後、保護観察所又は地方更生保護委員会に配属となり、一定期間一般的な事務に従事した後、保護観察官に任命される。その後は、実務経験や勤務成績に応じ、統括保護観察官、保護観察所長などへと昇任する。保護観察官に任命された直後の2年間は、保護観察官として必要な基礎的能力を身につけるための「実務訓練期間」と位置づけ、その期間中に、合宿形式の「保護観察官中等科研修」及び「保護観察官専修科研修」に参加するほか、所属庁において保護観察官としての業務に従事しながら、統括保護観察官等の指導官から実務指導を受ける。また、少年院、刑事施設、地方検察庁などへの短期派遣研修も実施している。
不祥事・事件[編集]
広島少年院暴行事件[編集]
広島県東広島市にある広島少年院で2009年4月、複数の法務教官によって在院者に対して腹部や顔面への暴行のほか、トイレに行かせずに失禁させたり、腕立て伏せを1000回するよう命じ、達成できなければ進級[7]を遅らせるとして腕立て伏せを強制するなどといった虐待行為と思われる事案が115件あったことが判明した。この事件で虐待行為をしたとされる5人の法務教官が43件の特別公務員暴行陵虐罪で起訴され、一審の広島地裁では5人全員が有罪判決を受けた。1人は広島高裁に控訴したが、2011年6月30日棄却、弁護側は即日上告[8]、2013年2月19日最高裁判所は請求を棄却し懲役10年執行猶予3年が確定した[9]。
久里浜少年院いじめ暴行事件[編集]
神奈川県横須賀市にある久里浜少年院で、1980年以来断続的に法務教官による新人法務教官に対する暴力を伴ったいじめの事例が発生し、内部告発された[要出典]。
脚注[編集]
- ^ “ココロの専門家公務員「法務省専門職員(人間科学)」の初任給や年収モデル”. 2019年8月27日閲覧。
- ^ “矯正医官について” (日本語). 矯正医官. 2019年11月17日閲覧。
- ^ “法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会第2回会議配布資料”. 法務省. 2019年11月19日閲覧。
- ^ “大学・大学院における公認心理師養成実習受入れ中”. 法務省. 2019年11月15日閲覧。
- ^ “法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会第2回会議配布資料”. 法務省. 2019年11月19日閲覧。
- ^ “[http://www.moj.go.jp/content/001140487.pdf 法務少年支援センターの 地域援助活動]”. 2019年4月11日閲覧。
- ^ 少年院における累進処遇上の級が昇級すること。昇級すると処遇の規制が緩和され、社会復帰への道が早くなる。
- ^ “元首席専門官二審も有罪 広島少年院暴行事件”. 福井新聞 (2011年6月30日). 2013年1月8日閲覧。
- ^ “元首席専門官の有罪確定へ 広島少年院暴行、最高裁が上告棄却”. 2019年5月5日閲覧。
書籍[編集]
- 塀の中の患者様――刑務所医師が見た驚きの獄中生活 日向正光 2013年 ISBN 978-4396614812
関連項目[編集]
リンク[編集]
- 矯正心理専門職区分 - 法務省
- 法務教官区分,法務教官区分 - 法務省
- 法務技官(作業専門官)選考採用 - 法務省
- 矯正医官 募集サイト
- 法務省専門職員(人間科学)採用試験 - 人事院