思春期妄想症

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思春期妄想症(ししゅんきもうそうしょう、: adolescent paranoia)とは、自分の何らかの身体的異常のために、周囲の人に不快な感じを与えて、嫌われたり、避けられていると思い込む、主として思春期に発生する妄想症である[1]自己臭妄想自己視線恐怖醜形恐怖忌避妄想対人恐怖などの症状をもち、二次的にひきこもりが生じることもある。精神科医植元行雄によって初めて報告され、村上靖彦により研究が継続された、日本独自の臨床疾患単位である[2]

治療法については、「思春期妄想症#治療」を参照。

概要[編集]

思春期妄想症は、自己臭妄想・自己視線恐怖・醜形恐怖を一群の病態として取り上げた疾患概念である。複数の疾患の特質と接点を持ちながらも、そのいずれにも属さない比較的輪郭の明らかな構造を持つ。自己不全感や魔術的思考から、ひきこもりや退却神経症とも一部重なる病態である[3]。自我漏洩症状・加害妄想・忌避妄想・重症対人恐怖などの特徴から、比較的重い神経症と理解される[4]

特徴[編集]

  1. 自己臭ないしは自己の視線など何らかの身体的異常のために、他人に不快感を与えているとの妄想的確信をもつ
  2. そのために、人が「嫌がる」「避ける」との関係妄想(忌避妄想)をもち、それに伴う自責感がみられる
  3. 症状は状況依存的であり、他者の現前が症状発現の不可欠の契機をなしている
  4. 一般に治療意欲をもつが、自分の異常を身体疾患に求め、それに即した治療を執拗に要求する
  5. そのほとんどが思春期〜青年期に発症する。単一症候的に経過し、長期の経過にもかかわらず人格の崩れは認められない
  6. 病前性格として「小心で負けん気」「ひっこみ思案で強情」といった「強力性と無力性の二面的矛盾構造」が認められる[2]

治療[編集]

それぞれの症状に応じた治療法については、「自己臭妄想#治療」「自己視線恐怖#治療」「醜形恐怖#治療」「対人恐怖#治療」を参照。また、引きこもりが生じた場合の支援については、「引きこもり#ステージによる特徴と対応」「引きこもり#ケア」を参照。

脚注[編集]

  1. ^ 星野仁彦 (2006) p.186
  2. ^ a b 村上靖彦「〈統合失調症圏の様々な病像を診ぬく〉思春期妄想症」『精神科治療学』第25巻第4号、2010年4月、515-521頁。 
  3. ^ 斎藤環 (1998)
  4. ^ 山内昭雄、今忠 他 (1997) pp.75-76

参考文献[編集]

  • 山内昭雄、今忠、青野牧子、大場奏子、仲田洋子、三島節子、横井妙『こころの辞典』丸善出版、1997年9月。ISBN 9784621043660 
  • 斎藤環『社会的ひきこもり』PHP研究所、1998年11月。ISBN 9784569603780 
  • 星野仁彦『「気づいて! こどものこころのSOS」こどもの心の病全書』ヴォイス、2006年7月。ISBN 9784899760818 

関連人物[編集]

関連項目[編集]