千人計画

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千人計画(せんにんけいかく、: 千人计划; : Thousand Talents Plan; TTP)または、海外ハイレベル人材招致計画(かいがいハイレベルじんざいしょうちけいかく)は、中華人民共和国国務院が国外で優秀な成果を上げた中国人研究者を呼び戻すことなどを目的に始まり、世界のトップ人材も積極的に呼び寄せる2008年に策定された制度。米議会やメディアは「他国の技術を奪う仕組み」だと批判している。日本でも学術研究費など日本資金をそれぞれ1億円以上もらいながら千人計画への参加者らが告発報道され、米連邦捜査局(FBI)も米中両国で研究費補助を受けながら、米国内できちんと申告していなかったケースや、中国軍と関係のあった在米中国人研究者らを摘発した[1][2]

概要[編集]

中国の優秀な学生は海外で高度研究に取り組むことが多く、その多くが華僑として留学後も海外に残っている[3]頭脳流出)。中国側は、「この状況を打開するために、中国の大学の規模と威信を高め、世界最高レベルの大学から華僑や外国生まれの優秀な人材を招致することを目的として、2008年に創設された認定制度」と主張していあ[4][5]。創設は2008年であるが、中国共産党中央委員会中華人民共和国国務院が国内の技術革新と国際競争力を強化するために2010年に共同で構想した中国国家人材育成計画としてその重要度がより高められ、10年間で7,000人以上の人々を呼び寄せた[6][3][7]。日本においても東京大学京都大学大阪大学名古屋大学東京工業大学筑波大学など有名大学の博士ポスドク(博士研究員)を対象に募集が行われている[8][9]。例えば東京大学の場合だと、東京大学中国科学技術振興協会と全日本中国科学技術振興協会が主催している[10][11]

この賞には二つの認定基準があり、一つは中国の学術界への長期的な貢献によるもので、もう一つは国際的な一流大学や研究機関で働く専門家を対象としたものである[4]

また、認定は以下の三つのカテゴリに分類されている。

  • 千人計画-創新人材 - 55歳以下の中国人学者
  • 千人計画-外国人 - 55歳以下の外国人
  • 千人計画-若手学生(または中国の海外若手人材プロジェクト) - 40歳以下

表彰[編集]

千人計画は、主に海外の一流教育を受け、起業家、専門家、研究者として成功を収めた中国国民を対象としている[4]が、科学と技術革新における中国の国際競争力にとって重要なスキルを持つ外国生まれのエリート専門家も少数含まれている[4]。後者のカテゴリーの国際専門家は、通常、ノーベル賞やフィールズ賞などの主要な賞を受賞しており、第一に、中国にとって重要な技術分野で国際的に有名な貢献をしたこと、第二に、世界トップレベルの大学で常勤職に就いているか、国際的に重要な研究機関で上級職に就いていることが期待されている[12]

2013年には、世界有数の大学でインパクトのある研究を行った40歳以下の教員を誘致するために千人計画-青年が創設された[12]。これらの教授職は中国のどの大学に所属していても構わないが、最も権威のある大学(九校連盟)に所属している個人に偏って授与される。本計画と長江学者奨励計画の両方を受賞した数少ない人は、ふつう九校連盟に関連している[13]

この計画は、選抜された個人に「千人計画特別教授」または「若手千人計画特別教授」という名誉称号を与え、様々な優遇措置が適用され[12]、卓越した能力を持つ外国人には中国の入国ビザも発行される[14]。選抜された研究者には100万人民元の一度限りの賞金と、研究や学術交流のための多額の資金、住宅費や交通費の援助が提供される[12]。千人計画の奨学生は、政府からの高水準の資金援助を受けることができる[4]

批判[編集]

この計画は国際的に優秀な人材を中国に招致することに成功しているが、有能な科学者の多くが中国での短期滞在を希望しているものの、欧米の主要大学での終身雇用の地位を放棄したくないということで、これらの優秀な人材を確保するための効果には疑問を持つものもいる[3]。また、中国の2つの最高の学術賞である「千人計画教授賞」と「長江(揚子江)奨学金」のいずれかを受賞した個人は、中国の最も裕福な大学の採用対象となることが多いため、教育部は2013年と2017年に、中国の大学が互いに優秀な人材を引き抜くことを禁じる通知を出している[15][16]

軍事転用可能なデュアルユース技術を含む最先端技術の獲得のために、中国は海外から優秀な研究者を積極的に呼び寄せている[17]。本計画が代表的なもので、「核技術有人宇宙飛行有人潜水艇北斗衛星ナビゲーション・システム軍需産業などの分野でネックとなっていた技術的難関を突破させた」としている[17]

カナダ[編集]

2020年8月、カナダ安全情報局は、国内の大学と研究機関に対して、千人計画を通じて、中国政府が経済的利益・軍事転用のために、新技術へのアクセスを得ようとしていると警告した[18]

アメリカ[編集]

アメリカで鍛えられた科学者を中国に呼び戻す計画の成功は、アメリカから懸念の目で見られており、2018年以降激しさを増す米中貿易戦争を含めた、アメリカと中国の覇権争いも背景にあって、2018年6月の国家情報会議の報告書では、計画の根底にある動機が「アメリカの技術、知的財産、ノウハウを中国へ合法・違法な移転を促進するため」であると述べられている[19]。2019年4月、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターは外国政府から非公式に収入を得ている3人の中国系研究者を解雇した[20][21]。2019年11月、米上院行政監視小委員会と国土安全保障・政府問題委員会は、同計画を国家安全保障への脅威と指摘している[22][23]。兵器にも応用可能な最先端技術を産業スパイとして盗む恐れがあるため[24]、千人計画で採用された人材への監視が厳しくなっており、2020年1月、連邦捜査局は、同計画とのつながりについて嘘をついていたとして、ハーバード大学化学・ケミカルバイオロジー学科のチャールズ・M・リーバー学科長を逮捕するなどの事件も起こっている[25][26]

国務省テキサス州ヒューストン中国総領事館が中国が科学技術の先端情報を違法収集するための一大拠点だったとして、2020年7月24日に閉鎖を命じた[27][28]。ヒューストンには世界最大の医療機関の集積地テキサス医療センターがあり、総領事館は過去10年間に少なくとも50回にわたり、中国人や外国人の研究者を勧誘するのにも使われた[21]。2020年7月、FBIクリストファー・レイ長官はヒューストンの中国系企業の代表だった中国系科学者が潜水艦に使われる技術を盗んだ事件やオクラホマ州バートルズビルのフィリップス66に勤務していた中国人研究者が10億ドル(約1060億円)相当の電池技術に関する企業秘密を盗んだ事件もヒューストン総領事館が関与したと明らかにした[28][29]

日本[編集]

読売新聞の取材によると、44人は確認している。24人の研究者が千人計画への参加や表彰を受けるなどの関与を認め、このほか、大学のホームページや本人のブログなどで参加・関与を明かしている研究者も20人確認されている。13人は学術研究費など日本資金をそれぞれ1億円以上もらいながら千人計画参加者が告発報道された.。今回確認された44人中には、中国軍の「国防7校」所属の研究者が8人おり、うち5人は日本学術会議の元会員や元連携会員である[30]。日本における千人計画の代表人物として、日本に10数年間滞在し、公的研究機関に勤めた後、2005年7月につくば市につくばテクノロジーを設立した王波が挙げられる。同社は日本政府から6億円以上の研究資金を受け、海外に技術を輸出している。また、王波は2006年に中国に帰国し、西安筑波科学技術有限公司を創業し、中国の先端技術産業に貢献している。同氏は、千人計画における海外人材のリクルートや中日交流事業に熱心に取り組んでいる[31]

脚注[編集]

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  1. ^ 【独自】中国「千人計画」に日本人、政府が規制強化へ…研究者44人を確認 : 政治 : ニュース” (日本語). 読売新聞オンライン (2021年1月1日). 2021年3月21日閲覧。
  2. ^ 中国、科学者招請「千人計画」衣替え 米との摩擦減らす思惑か(毎日新聞)” (日本語). Yahoo!ニュース. 2021年3月21日閲覧。
  3. ^ a b c Sharma, Yojana (28 May 2013). “China's Effort To Recruit Top Academic Talent Faces Hurdles”. The Chronicle of Higher Education. https://www.chronicle.com/article/Chinas-Effort-To-Recruit-Top/139485 2018年4月8日閲覧。. 
  4. ^ a b c d e Jia, Hepeng (18 Jan 2018). “China's plan to recruit talented researchers”. Nature 553 (7688): S8. Bibcode2018Natur.553R....J. doi:10.1038/d41586-018-00538-z. PMID 29345644. https://www.semanticscholar.org/paper/493663540ef8ba807c3e83b864e2130c3e78d7f9. 
  5. ^ The Thousand Talents Program”. The Conference Board of Canada. 2020年4月1日閲覧。
  6. ^ Jia, Hepeng (2018). “China's plan to recruit talented researchers”. Nature 553 (7688): S8. Bibcode2018Natur.553R....J. doi:10.1038/d41586-018-00538-z. PMID 29345644. https://www.semanticscholar.org/paper/493663540ef8ba807c3e83b864e2130c3e78d7f9. 
  7. ^ Wang, Huiyao (2010年11月23日). “China's National Talent Plan: Key Measures and Objectives”. Brookings Institution. 2018年4月8日閲覧。
  8. ^ 国家青年千人计划 & 国际青年学者引进项目 中国高校团赴日本招聘青年学者及海外高层次人才洽谈会 参会邀请信息公告-201804 – CASTJP” (中国語). 2020年10月16日閲覧。
  9. ^ 电子科技大学基础与前沿研究院海外招聘–日本站 – CASTJP” (中国語). 2020年10月29日閲覧。
  10. ^ 华东师范大学2017年度海外高层次人才日本专场招聘会—东京大学站 – CASTJP” (中国語). 2021年1月2日閲覧。
  11. ^ 国家青年千人计划 & 国际青年学者引进项目 中国高校人事招聘团赴日海外博士及青年学者人才(东京大学)专场见面会 – CASTJP” (中国語). 2021年1月2日閲覧。
  12. ^ a b c d The 1000 Talents Program”. Recruitment Program of Global Experts. 2018年4月8日閲覧。
  13. ^ Li, Feng; Miao, Yajun; Yang, Chenchen (2015). “How do alumni faculty behave in research collaboration? An analysis of Chang Jiang Scholars in China”. Research Policy 44 (2): 438-450. doi:10.1016/j.respol.2014.09.002. 
  14. ^ Hvistendahl, Mara (27 Jan 2015). “China dangles green cards to entice foreign science talent”. Science. doi:10.1126/science.aaa6406. 
  15. ^ Jia, Hepeng (2017年6月28日). “China sets ground rules for local talent quest”. Nature Index. 2018年4月22日閲覧。
  16. ^ Chinese Ministry of Education (2017年1月25日). “The Office of the Ministry of Education Insists on Correct Guidance in Promoting the Reasonable and Orderly Flow of High-level Talents in Colleges and Universities (教育部办公厅关于坚持正确导向促进高校高层次人才合理有序流动的通知)”. Chinese Ministry of Education. 2018年4月22日閲覧。
  17. ^ a b 対中国輸出管理入門 -中国顧客情報収集・分析の手引き- 2014年版. 一般財団法人安全保障貿易情報センター. (2014-7). p. 6. https://www.cistec.or.jp/publication/teisei_data/f-23-2014/f23-6.pdf 
  18. ^ Kao, Josie (2020年8月6日). “CSIS warns about Beijing's efforts to recruit Canadian scientists”. The Globe and Mail. https://www.theglobeandmail.com/canada/article-morning-update-csis-warns-about-beijings-efforts-to-recruit-canadian/ 2020年11月13日閲覧。 
  19. ^ Capaccio, Anthony (2018年6月21日). “U.S. Faces 'Unprecedented Threat' From China on Tech Takeover”. Bloomberg News. https://www.bloomberg.com/news/articles/2018-06-22/china-s-thousand-talents-called-key-in-seizing-u-s-expertise 2018年7月1日閲覧。 
  20. ^ Waldman, Peter (2019年6月13日). “The U.S. Is Purging Chinese Cancer Researchers From Top Institutions”. Bloomberg Businessweek. https://www.bloomberg.com/news/features/2019-06-13/the-u-s-is-purging-chinese-americans-from-top-cancer-research 2020年10月3日閲覧。 
  21. ^ a b “ヒューストンの中国総領事館はコロナ・ワクチンを盗もうとしていた?”. Newsweek. (2020年7月27日). https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/07/post-94050.php 
  22. ^ Threats to the U.S. Research Enterprise: China's Talent Recruitment Plans”. PERMANENT SUBCOMMITTEE ON INVESTIGATIONS UNITED STATES SENATE. 2020年4月1日閲覧。
  23. ^ Leonard, Jenny (2019年12月12日). “China's Thousand Talents Program Finally Gets the U.S.'s Attention”. Bloomberg News. https://www.bloomberg.com/news/articles/2019-12-12/china-s-thousand-talents-program-finally-gets-the-u-s-s-attention 2020年1月31日閲覧。 
  24. ^ 犬塚 博誠 (2019). エア・パワー研究 第6号 中国のイノベーション. 航空研究センター. pp. 27-31. ISSN 2188-790X. https://www.mod.go.jp/asdf/meguro/center/AirPower6/03China.pdf 
  25. ^ “U.S. Arrests Harvard Chemistry Professor For 'Making False Statements' About China Ties”. Radio Free Asia. (2020年1月29日). https://www.rfa.org/english/news/china/usa-chemistry-01292020173550.html 2020年1月30日閲覧。 
  26. ^ 中国安全保障レポート 2021 ― 新時代における中国の軍事戦略 ―. 防衛研究所. (November 13, 2020). ISBN 978-4-86482-087-5. http://www.nids.mod.go.jp/publication/chinareport/pdf/china_report_JP_web_2021_A01.pdf 
  27. ^ “米政府、ヒューストンの中国総領事館の閉鎖を命令”. BBC. (2020年7月23日). https://www.bbc.com/japanese/53509288 2020年10月3日閲覧。 
  28. ^ a b “破格待遇の中国「千人計画」 経済スパイ疑い、米が集中捜査”. 東京新聞. (2020年7月26日). https://www.tokyo-np.co.jp/article/44845 2020年10月3日閲覧。 
  29. ^ “米司法省、機密情報を盗んだ中国人を逮捕”. ロイター通信. (2018年12月25日). https://jp.reuters.com/article/us-chinese-arrest-idJPKCN1ON17D 2020年10月3日閲覧。 
  30. ^ 【独自】中国「千人計画」に日本人、政府が規制強化へ…研究者44人を確認 : 政治 : ニュース” (日本語). 読売新聞オンライン (2021年1月1日). 2021年1月2日閲覧。
  31. ^ 茨城県つくば市でテクノロジー会社を立ち上げた王波社長 中日交流にも熱意--人民網日本語版--人民日報”. j.people.com.cn. 2020年4月2日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]