共有
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共有(きょうゆう)とは、所有権などある一定の権利が複数の主体によって支配・利用されている状態のこと。所有権以外の財産権の共有については準共有(じゅんきょうゆう)と呼ばれる(民法264条)。共有関係にある者のことを共有者(きょうゆうしゃ)という。
民法は単独所有を原則とするが、現実には、共同生活の中で、一つの物に対し複数人が所有することもよく行われるため、249条から264条までの共有に関する規定がおかれた。ただし、共有関係、特に狭義の共有は、法律関係を複雑にし、その把握を非常に困難にする事から、比較的容易に共有関係を脱する事が出来るような規定(共有物分割等)が多くおかれている。
- 民法について以下では、条数のみ記載する。
広義の共有[編集]
概説[編集]
広義の共有は狭義の共有と区別するため共同所有とも呼ばれる。多数人が共同して一つの物を所有する関係を共同所有関係という[1]。ドイツ法での議論の影響を受けた日本では共同所有関係は総有、合有、共有(狭義の共有)の三類型に分類されてきた[2]。ローマ法に由来する共有に対してゲルマン的共同所有を総有と合有に分ける見解はオットー・フォン・ギールケによって唱えられ、日本ではこれが参考にされたが、ドイツでは有力な学説ではあったが一般的に支持されていたわけではなかった[2]。結局ドイツでは民法典制定の際に「総有」は規定されず教科書など講学上も姿を消している[2]。
- 総有(Gesamteigentum)
- もっとも団体主義的な色彩が強い類型。個々の共有者の持分の大きさは観念できないため、利用方法の決定には、持分権を有する者全員の合意が必要となる。権利能力なき社団における共同所有形態はこれであるとされる。民法上の組合が、構成員全員の黙認のもと、個々の共有者の持分の大きさを観念せずに運用されるに至った場合(慣習的に社団化した場合)、結果的に持分権者全員の合意が必要となり、総有となる。各人の持分権の大きさを観念しえないため、単独の構成員による持分の処分(売却など)や分割請求は不可能である。総有関係を解消し合有や共有へ移行するためには、構成員全員の合意が必要である。
- 合有 (Gesamthandseigentum)
- 総有と共有(狭義)との中間的な類型。個々の共有者の持分は観念できるものの、分割請求などは大きく制約される。共同信託や組合がこれである。夫婦間の財産関係(264条参照)については争いがある。利用方法の決定には、持分権における過半数の合意が必要となる。
- 共有(狭義の共有、Miteigentum)
- もっとも個人主義的な色彩が強い類型。個々の共有者の持分は具体的に観念され、分割請求なども自由になしうる。
日本法[編集]
民法第二編第三章第三節において「共有」に関する規定が置かれているが、これは狭義の共有に関する規定である[1]。また、民法は共同所有関係をすべて「共有」と呼んでいるため実際には総有または合有を意味する場合がある[1]。なお、信託法は受託者が2人以上の場合を「総有」と呼んでいる[1]。
狭義の共有[編集]
狭義の共有とは、広義の共有のうち、持分の処分等について各共有者の独立性が強い類型のものをいう。狭義の共有については、民法第249条から、264条に規定されている。
共有持分[編集]
共有者が有する所有の割合の事を持分(もちぶん)または共有持分と言う。その割合は、意思や法律の規定によって定められるが、法律上等しいものと推定される(第250条)。
対内的関係[編集]
共有物に対する権利[編集]
- 共有物の使用
- 共有物の変更行為
- 共有物の管理行為
- 共有物の保存行為
共有物の分割請求[編集]
詳しくは、共有物分割の項目を参照。
- 各共有者は、いつでも共有物の分割請求ができる(256条1項)。ただし、5年以下の期間で分割禁止契約をすることはできる。
- 共有者間で分割の協議が調わない場合は、裁判所に対して分割を請求することができる(258条1項)。
- 分割の方法としては、現物分割、現物分割と過不足分の価格賠償、全面的な価格賠償による分割があり、原則として現物分割による。
対外的関係[編集]
- 第三者に対する共有権確認訴訟は共有者全員による共同訴訟による(最判昭和46・10・7民集25巻885頁)[4]。
共有持分の放棄[編集]
共有の弾力性[編集]
共有者の一人が、持分を放棄したときおよび死亡して相続人がいないときは、その共有者の持分は他の共有者に帰属する(255条)。これを共有の弾力性という。ただし、死亡して相続人がいないときでも特別縁故者がいる場合は、共有者には帰属せず、958条の3による特別縁故者への相続財産の分与が優先される(最判平成元・11・24)。相続人無き死者の財産は、国庫に帰属させるのが原則であるが、いかなる状況の共有持分も必ず国庫に帰属させなければならないとすると、非常に難解な法律関係を国が引き継ぐことになる事態が生じる虞があり、それを避けるために設けられた特則が255条である。なお、国や地方自治体が契約等によって私人から共有持分を取得することは可能であり、鉄道施設の保有など公共事業において行われることが多い。国や地方自治体と私人からなる共有関係において、私人が共有持分を放棄したとき等は、その持分は共有者である国や地方自治体に帰属する。
登記[編集]
共有者の一人がその持分を放棄して他の共有者に帰属する場合、共有者の持分抹消登記ではなく持分移転登記をするべきである(最判1969年(昭和44年)3月27日民集23巻3号619頁)。
放棄した持分は、他の共有者にその持分の割合に応じて移転するのであって、特定の者のために持分放棄に基づく持分移転登記を申請することはできない(登記研究470-97頁)。なお、持分放棄に基づく持分取得は原始取得である(登記研究10-30頁)。
前提の登記[編集]
- 表示変更
- 共有持分放棄をした者がその前に住所を移転している場合、持分移転登記の前提として登記名義人表示変更登記をしなければならない(登記研究473-151頁)。
- 移転登記未了
- A・B共有の不動産につきAがCに持分全部を売却した後、その登記をしないうちにBが持分放棄をした場合、持分放棄を原因とするBからCへの持分移転登記の前提として、売買を原因とするAからCへの持分移転登記をしなければならない(1985年(昭和60年)12月2日民三5440号回答)。
- 更正登記
- 真実はA・B共有であるのに、誤ってAの単独所有である登記がされている不動産につきBが持分放棄をした場合、持分放棄を原因とするBからAへの持分移転登記の前提として、A・Bの共有とする所有権更正登記をしなければならない(1985年(昭和60年)12月2日民三5440号回答参照)。
登記の可否[編集]
- 保存行為
- A・B・C共有の不動産につきAが持分放棄をした場合、AとBの共同申請によりAからB・Cへの持分移転登記をすることはできない(登記研究577-154頁)。
- 一部の移転
- A・B・C共有の不動産につきAが持分放棄をした場合、AとBの共同申請によりAからBへ移転した持分のみについて持分移転登記をすることができる(1962年(昭和37年)9月29日民甲2751号回答)。
- 一部の移転に乗じた残部の移転
- 持分全部移転仮登記がされている場合
登記申請情報(一部)[編集]
登記の目的(不動産登記令3条5号)は、「A持分全部移転」のように記載する。既述一部の移転の場合、「A持分一部移転」のように記載する。
登記原因及びその日付(不動産登記令3条6号)のうち、登記原因は「持分放棄」である。不動産登記法は、民法又は民法の特別法に根拠があるならそのまま登記原因とできる趣旨だからである。持分放棄は単独行為であり、意思表示が他の共有者に到達しなくても効力が発生するから、持分放棄の意思表示をした日を日付とする。
そして、原因と日付を合わせて「平成何年何月何日持分放棄」のように記載する。
登記申請人(不動産登記令3条1号)は、持分を得る他の共有者を登記権利者とし、持分放棄をして失う者を登記義務者として記載する。持分放棄をした者が単独で申請をすることは原則としてできない(登記研究86-40頁)。なお、法人が申請人となる場合、以下の事項も記載しなければならない。
- 原則として申請人たる法人の代表者の氏名(不動産登記令3条2号)
- 支配人が申請をするときは支配人の氏名(一発即答14頁)
- 持分会社が申請人となる場合で当該会社の代表者が法人であるときは、当該法人の商号又は名称及びその職務を行うべき者の氏名(2006年(平成18年)3月29日民二755号通達4)。
添付情報(不動産登記規則34条1項6号、一部)は、登記原因証明情報(不動産登記法61条・不動産登記令7条1項5号ロ)、登記義務者の登記識別情報(不動産登記法22条本文)又は登記済証及び書面申請の場合には印鑑証明書(不動産登記令16条2項・不動産登記規則48条1項5号及び同規則47条3号イ(1)、同令18条2項・同規則49条2項4号及び同規則48条1項5号並びに同規則47条3号イ(1))、登記権利者の住所証明情報(不動産登記令別表30項添付情報ロ)である。法人が申請人となる場合は更に代表者資格証明情報(不動産登記令7条1項1号)も原則として添付しなければならない。
一方、農地につき持分放棄を原因とする持分移転登記を申請する場合でも、農地法3条の許可書(不動産登記令7条1項5号ハ)の添付は不要である(1948年(昭和23年)10月4日民甲3018号回答)。
登録免許税(不動産登記規則189条1項前段)は、不動産の価額に移転する持分の割合を乗じて計算した金額(登録免許税法10条2項)の1,000分の20である(登録免許税法別表第1-1(2)ハ)。なお、端数処理など算出方法の通則については不動産登記#登録免許税を参照。
準共有[編集]
民法の共有の規定は、用益物権など所有権以外の財産権を複数人で有する場合について準用される(264条本文)。ただし、法令に特別の定めがあるときは、この限りでない(264条但書)。
脚注[編集]
出典[編集]
- ^ a b c d 我妻榮、有泉亨、清水誠、田山輝明 『我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権 第3版』日本評論社、2013年、458頁。
- ^ a b c 岡田康夫「ドイツと日本における共同所有論史」『早稲田法学会誌』第45巻、早稲田大学法学会、1995年、47-100頁、ISSN 05111951、NAID 120000792334、2021年8月16日閲覧。
- ^ a b c d 我妻榮、有泉亨、清水誠、田山輝明 『我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権 第3版』日本評論社、2013年、462頁。
- ^ 我妻榮、有泉亨、清水誠、田山輝明 『我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権 第3版』日本評論社、2013年、460頁。
参考文献[編集]
- 香川保一編著 『新不動産登記書式解説(一)』 テイハン、2006年、ISBN 978-4860960230
- 香川保一編著 『新不動産登記書式解説(二)』 テイハン、2006年、ISBN 978-4860960315
- 藤谷定勝監修 山田一雄編 『新不動産登記法一発即答800問』 日本加除出版、2007年、ISBN 978-4-8178-3758-5
- 「カウンター相談-142 共有持分放棄による所有権移転の登記について」『登記研究』655号、テイハン、2002年、187頁
- 「訓令・通達・質疑・應答-107 民法第二百五十五條の規定による共有持分の放棄による所有権(注:原文は「所有權」)の取得は原始取得である」『登記研究』10號、帝國判例法規出版社(後のテイハン)、1948年、30頁
- 「質疑・応答-1641 持分放棄による所有権移転登記の申請人について」『登記研究』86号、帝国判例法規出版社(後のテイハン)、1955年、40頁
- 「質疑応答-6834 共有持分放棄による所有権移転登記について」『登記研究』470号、テイハン、1987年、97頁
- 「質疑応答-7544 持分放棄を原因とする所有権移転登記を権利者の一部から申請することの可否」『登記研究』577号、テイハン、1996年、154頁