メッサ・ディ・ヴォーチェ

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メッサ・ディ・ヴォーチェ: Messa di voce)は、声楽における演奏技法のひとつ。単一の音高(ピッチ)を維持しながら、声を徐々に強く(クレシェンド)し、次に弱く(ディミヌエンド)する技法である[1]メッザ・ヴォーチェ: mezza voce、半分の声で)という強弱記号と混同されがちであるが、両者は全く異なる。

概要[編集]

メッサ・ディ・ヴォーチェは、非常に高度な声楽の演奏技法と広く考えられている[2]ベルカントの発声法を支える大変重要なテクニックであり、ベルカントの指導者として有名なピエル・フランチェスコ・トージ英語版(Pier Francesco Tosi、1653〜1732)は、彼の著書「古今の歌手に関する見解 Opinioni de' cantori antichi, e moderni 」で大きく扱っている。同じく有名な指導者のジョヴァンニ・バッティスタ・マンチーニ英語版(Giovanni Battista Mancini、1714〜 1800)も彼の著書「装飾の施された歌唱に関する実践的 省察 Riflessioni pratiche sul canto figurato」の中で重要なテクニックとして扱っている[3][4]発声法の訓練としては、吸気筋のコントロールを習得し「完全な演奏を成し遂げる能力を身につけるための」訓練法であり[5]、同時に実声とファルセットを融合させる最終的な訓練法である[6][7]

歴史[編集]

クラシック音楽においては、メッサ・ディ・ヴォーチェはファリネッリなどの有名なカストラート(現在では、バロックオペラで同じ役割を歌っているメゾソプラノカウンターテナー、ソプラニスタ)が得意とし、非常に息の長いメッサ・ディ・ヴォーチェにより聴衆を引きつけた。その後の作曲家ロッシーニドニゼッティベッリーニなどが活躍したベルカント・オペラ時代にも人気があり、オペラノルマ』のアリア「清らかな女神よ」などの、ドラマチックなオープニングにしばしば用いられてきた。オペラの歌唱様式のトレンドが、18世紀ごろの装飾歌唱を基盤としたスタイルから、力強く時には劇的な表現をする方向へと変化するにつれて、メッサ・ディ・ヴォーチェのテクニックは一般的ではなくなった。

ポピュラー音楽においては、メッサ・ディ・ヴォーチェはほとんど一般的ではなかった。しかし、ブラックミュージックゴスペル、またそれらに影響を受けた他のスタイルには、時折メッサ・ディ・ヴォーチェが現れる[8]

脚注[編集]

  1. ^ Messa Di Voce | Definition of Messa Di Voce by Merriam-Webster”. 2012年11月21日閲覧。
  2. ^ Stark, James (2003). Bel Canto: A History of Vocal Pedagogy. University of Toronto Press. p. 116. ISBN 0-8020-8614-4. https://books.google.com/books/about/Bel_Canto.html?id=rVFQdViY7jAC&pg=PA116&dq=%22messa+di+voce%22 
  3. ^ ジャンバッティスタ・マンチーニ 著、渡部東吾 訳『ベル・カントの継承』アルカディア書店、1995年。 
  4. ^ フリードリッヒ・アグリコラ 著、小椋和子 訳『バロックの声楽技法』シンフォニア、1994年。 
  5. ^ D.F.プロクター 著、原田康夫 訳『呼吸, 発声, 歌唱』(新装版)西村書店、1995年、95-97頁。ISBN 4-89013-239-2 
  6. ^ コーネリウス・L.リード 著、渡部東吾 訳『ベル・カント唱法 : その原理と実践』音楽之友社、1987年、109-114頁。ISBN 4-276-14253-9 
  7. ^ 武田梵声『フースラーメソード入門』日本実業出版社、2017年、177頁。ISBN 9784534054746
  8. ^ The New Harvard Dictionary of Music (1986)