プロッター

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インクジェット式プロッター

プロッター (plotter) は、ベクターイメージ印刷するコンピュータ出力機器X-Yプロッタペンプロッターとも。かつてはCADなどの用途に広く使われたが、今では大判の紙に印刷できるプリンターに代替されるようになり、技術的には異なるがそのようなプリンターをプロッターと呼ぶこともある。

また、コンピュータのデータからカッティングシートを切り出してステッカーを作るための機器(ローランド ディー. ジー.「STIKA」など)のことを指すこともある。

概要[編集]

ペンプロッターは、ペンなどの器具を紙の上で動かして図を描く。つまり、プロッターが描けるのは線画に限定され、プリンターのようなビットマップ画像は描けない。ペンプロッターは文字も含めた複雑な線画を描けるが、ペンを機械で動かしているため描画速度は非常に遅い。一般にある領域を色で塗りつぶすことはできず、一定間隔で何本も直線を描くハッチングで塗りつぶしの代替とする。メモリが非常に高価で処理能力が限られていた時代には、高解像度の大きなベクターイメージを描く最速の効率的手段だった。なお、ペンプロッターの描画能力は、可動部のサーボ機能に依存する場合が多く、規模によって使い分けられていた。

古くはプリンターは文字の印刷しかできなかった。そのため制御が容易であり、単にテキストのデータをプリンターに送るだけでページ出力を得るのに十分だった。それに対してプロッターは線画を描くため、「ペンを紙から持ち上げる」、「ペンを紙に置く」、「ここからあそこまで直線をひく」といった命令でペンの動きを一々制御してやる必要があり、多くの制御言語が開発された。特に有名なASCIIベースのプロッター制御言語として、ヒューレット・パッカード (HP) のHPGL2と Houston InstrumentsDMPLがある。例えば "PA 3000,2000; PD" といったコマンドがあった[1]

FORTRANBASICを使っているプログラマは一般にそういった制御言語を直接使うことはなく、Calcompライブラリなどのソフトウェアパッケージを使うか、機種に依存しないグラフィックスパッケージを利用した。例えば、BASIC言語の拡張であるHPのAGLライブラリ、DISSPLAのようなハイエンドパッケージがある。それらは機種ごとに異なる座標の範囲に合わせてスケール変換したり、低レベルなコマンドへの翻訳を行う。例えば、HP 9830 でBASIC言語を使って X*X をプロットする場合、次のようなプログラムになる。

10 SCALE -1,1,1,1
20 FOR X =-1 to 1 STEP 0.1
30 PLOT X, X*X
40 NEXT X
50 PEN
60 END

ペンプロッターは今ではほぼ廃れ、大判のインクジェットプリンターやLEDトナー式のプリンターに取って代わられた。そのようなプリンターをプロッターと称することもあるが、基本的にラスターイメージとして印刷しており、本来のペンを機械的に動かすというプロッターの定義とは異なる。それでも現代のプロッターもHPGL2のようなベクター言語を解釈して印刷できるようになっている。これには、その言語がテキストのコマンドを使って描画方法を効率的に指定できる方法だからという面もある。製図の図面などはラスターイメージで保存するよりもHPGL2などで表した方がずっとコンパクトになる。

1959年の Calcomp 565 のような初期のペンプロッターは、紙をローラーの上に置き、ローラーの回転で紙を前後に動かしてX軸方向の動きとし、ペンはY軸方向にだけ動かしていた。この場合、紙の両端には穴が並んでいて、ローラー両端のスプロケットで紙がずれないようにしている[2]

Computervision の Interact I という機種は、製図用パンタグラフのような機構にボールペンを取り付け、それを動かす電動機をコンピュータで制御する方式だった。動きが遅いという欠点があり、紙を平らに広げて描くため広いスペースを必要としたが、デジタイザーを兼ねることができた。後にペンを取り付ける部分が改良され、自動的に複数のペンを入れ替えて描画できるようになった。それによって多色描画が可能となった。

HPやテクトロニクスは小型のデスクトップサイズのフラットベッド型プロッターを1960年代末から1970年代にかけて発売した。移動するバーにペンが取り付けられていて、バーがX軸方向に動き、ペンはバーに沿ってY軸方向に動くようになっている。バーに重さがあるため、動きは比較的遅かった。

1980年代、HPは小型軽量な HP 7470 を発売[3]。紙の端を上下からホイールで挟んで前後に動かす "grit wheel" 機構を採用しており、20年ほど前のCalcompのプロッターのような穴が不要だった。両端をウレタンでコーティングされたローラーで挟むため、紙の両端に描画されない余白が生じる。ペンは両端のホイールの間を移動するカートリッジに設置される。このような小型プロッターはデスクトップ・グラフィックス用としてビジネスでも研究室でも人気となったが、描画速度は相変わらず遅いため印刷用途には不向きだった。一つの用途として、グラフィックス・インテリジェント端末 HP 2647 はプロッターを使ってOHPシートに大きな文字や図を描くことができた。これは Microsoft PowerPoint のようなプレゼンテーションソフトウェアの先祖に当たる。インクジェットプリンターレーザープリンターが高精細な図を印刷できるようになり、メモリもコンピュータも低価格となってラスターイメージを容易に生成できるようになったため、ペンプロッターは存在価値を失った。ただし、"grit wheel" 機構はインクジェット式の大型の工学用プロッターに今でも使われている。

欧米では、6色のペンを備えた HP 7475 プロッターをスーパーマーケットのグリーティングカード売り場などに置き、好きな図柄のカードを作るというサービスが行われていた。

プロッターは主に製図CAD用途に使われており、高精細な図を大判の紙に描けるというのが強みである。ペンをカッターナイフに置き換えることでプロッターの新たな用途が生まれ、衣料品や看板などの製造によく使われるようになった(カッティングプロッタ)。

民生用をターゲットとした製品が開発されたこともあるが(日本ではローランド ディー. ジー.の「スケッチメイト」がある。対応アプリケーションソフトウェアや、ペンと交換できるカッターも用意されていて加工物は薄い対象に限られたがカッティングプロッタにもなった)一般に広く普及するには至らなかった。

特別な用途として、特殊な紙にプロッターで描画することで触覚で絵が感じられるようにし、視覚障害者がイメージを認識できるようにするという用途がある。

プリンターとは異なり、ペンプロッターの速度はページの印刷速度ではなく、ペンの速度と加速度で比較される。ペンプロッターの速度は使用するペンの種類によっても制限され、ペンの選択も最終的な速度を決める重要な要因となっている。実際、最近のペンプロッターには使用するペンの種類に合わせて移動速度を制限するコマンドも用意されている。

プロッター用のペンは様々なものがあり、今では量産されていないものも多い。製図ペンのペン先がよく使われており、手書き用の製図ペンと部品が共通になっているため、新たに入手可能である。HPの初期のプロッターは独自のペンを使用していた。繊維質のペン先の場合、ペン先の磨耗によって線の幅が変化していく。

ペンプロッターの現代的用例[編集]

2000年代中ごろからアーティストやハッカーの間でカスタマイズ可能な出力機器としてペンプロッターを見直す動きがある[4][5]。紙にペンで線をひくため、通常のデジタル技術での出力とは違った味わいがあることが理由の一つとなっている。30年前の古いペンプロッターでも今もちゃんと動作するものが多く、ネットオークションなどで100ドル以下で入手可能である。現代の商用のグラフィックスソフトはペンプロッターを直接駆動したりHPGLファイルを作成したりできないものが多いが、現代のOS上でHPGLを扱えるソフトウェアパッケージも存在する[6][7][8]

脚注・出典[編集]

  1. ^ この複合コマンドは、絶対座標 (Plot Absolute) を (x,y) = (3000,2000) に設定し、ペンを紙に置く (Pen Down) というものである。
  2. ^ Calcomp 565 plotter
  3. ^ 7470A HP Computer Museum
  4. ^ The Draftmasters
  5. ^ El Muro
  6. ^ chiplotle.org
  7. ^ processing.org
  8. ^ hackaplot

関連項目[編集]

外部リンク[編集]