フェイント
フェイント(英: feint) は相手を惑わせ誘導する偽の動作である[1][2][3]。フェイク(英: fake)とも。
直感的には「特定動作をするふりをする」である[3][4]。球技・格闘技等の競技においてよく用いられる。陽動や牽制(けんせい)つまり引きつけるなどの意味がある[5]。
語源
[編集]もともとは「形成する、こねる」などを意味するインドヨーロッパ祖語の語根「*dʰeyǵʰ- 」から派生し、さらにラテン語fingere(形成する)や古代フランス語feindre(見せかける、ふりをする)から転じて、フランス語feinte(見せかけ、牽制運動)となった[6][7]。これはfeindreの過去分詞で名詞の形である[8]。feinteは英語の語彙にfeintとして取り入れられた[7][9]。同系語にはfeignがある[10]。
原理
[編集]動作の相性で勝敗がつく競技では相手の動作を確認したうえでその対応策を後出しするのが最強の戦法である(例: 後出しジャンケン)。
しかし多くの競技は両者が自由に動き試合がリアルタイムに進行する。そのなかでヒトの反応速度には限界がある[11]。そのため相手の動作が素早い場合、動作を確認してから対応策を後出ししても間に合わない[11]。例えばバレーボールにおいて相手がジャンプし空中へ浮いたことを確認してからブロックに飛んでも間に合わない[12]。
確認で間に合わない動作に対する対策は予測・読みである[13]。相手の傾向や現在の状況から相手の動作を予測し、見てからではなく先回りで対応策を出す[13]。これにより相手が動作をしたときには既に対応策が出ており、読みが当たっていれば、どんな素早い動作にも勝てる。バレーボールの相手が瞬間移動できる宇宙人でも、スパイクの位置とタイミングが読めれば先に飛ぶことで瞬間移動スパイクをブロックできる。もちろん読みを外せば負ける[14]。
確認と予測の中間には「部分的な確認」「確信」がある。多くの動作は状況確認→予備動作→本動作→後動作のように段階を経る。スパイクでは相手の配置をチラ見し、重心を落とし、ジャンプしてボールを叩き、着地する。かつ、対応策は本動作に間に合えばよい。そのため本動作まで若干の猶予がある場合、相手の本動作まで確認せずとも相手の動きが動作 A の状況確認・予備動作だと看破・確信できれば、予測よりは遅いが同様に先回りで対応策を出せる。
この部分的な確認・確信には脆弱性がある。状況確認 a や予備動作 α は動作 A のはじまりの可能性が高いが、動作 B の一部かもしれない(配置のチラ見はブロック後を見据えているだけ、重心落としは爆発的なサイドステップ・ブロードの溜め)。つまり部分的な確認・確信は相手を見て精度を高めた予測に過ぎず、読み違えれば結局負ける。
この脆弱性を突くのがフェイントである。フェイントとは嘘の状況確認・予備動作をおこなうことである[15][16]。相手がこちらの動きに反応するタイプだった場合、フェイントにより相手は困惑し、あるいは間違った対応策を先出しする[1]。これにより自分に有利な状況となり、自分の動作を通しやすくできる[17][16]。これは軍事学における隠蔽(カモフラージュ)・欺騙・陽動に相当する。
技法
[編集]偽の目線
[編集]ある行為の際に、通常向けられると予測される目線(視線)と異なる目線を使用することで、相手をだます方法。例えば、パスを出す時はパスの受け手の位置を確認する必要があるため、目線をそちらに合わせる必要がある。受け手の方は、その目線をヒントにパスが出される方向を予測し、パスカットなどの動作準備を行うが、その虚をつくため、行為の成功率が高くなる。
サッカーやバスケットボールでは、ノールックパスがよく使用される。格闘技でも、目線を下げてローキックを放つとみせかけてハイキックを放つといった方法で使用される。
偽の起こり
[編集]偽の動きの起こりはフェイントとして用いられる。
動きの「起こり」とは始動モーション・予備動作であり、多くの動作で本動作のまえに起きる。相手が別の動作と誤認するような起こりを行うことでフェイントとして機能する。起こりのみをおこなって中断・キャンセルする場合もあれば、本命の動作と起こりが極めて類似した別の動作を最後まで行う場合もある[15]。
偽の起こりは多くの競技で見られるタイプのフェイントである。バスケットボールにおけるシュートフェイント(⇒ #バスケットボール)、バレーボールにおける時間差攻撃(⇒ #バレーボール)が典型的である。
偽の重心
[編集]偽の重心はフェイントとして用いられる。
起こりの最序盤あるいは前段階では重心移動がしばしば行われる。そのため上級者は相手の重心を捉えて先回り対応ができる。これを逆用するのが偽の重心によるフェイントである。
競技での例
[編集]多くの競技でフェイントが技術として取り入れられている。以下はその具体例である。
バスケットボール
[編集]バスケットボールに於けるフェイクの代表的なものに以下が挙げられる:
- 偽のシューティングモーションによるフェイント → 本命のシュート、動いてシュート
- クロスオーバー・ドリブル: ドリブルを素早く左右に切り返す
- Vカット: ゴールへ向かうと見せて、急に戻る
自分がボールを持っている際にある方向へパスを出すふりをし、つられて相手が動いた際に違う方向へパスを出したり、タイミングをずらしてパスを出したり、パスを出さずにドリブルで相手を抜いたりすることにより、相手の守備を破ることができる。
バレーボール
[編集]バレーボールのフェイントは「スパイクを打つと見せかけて弱く返す事」の事である。スパイクに合わせたブロックを回避するのが主たる目的である。
フェイントという用語は一般的な意味では使われないため。他の競技でフェイントとされる物には別の名称が付いている。例えば、時間差を利用したフェイントなどは時間差攻撃などである。
野球
[編集]モータースポーツ
[編集]カーレースなどモータースポーツでは、前方の相手を後方から追い抜かす際に同レベルの競技者同士だと追い抜きが成功しづらいため、順位を上げる技術として一度右側から追い抜くよう動き相手のバックミラーに自分の姿を見せて意識させておき、次の瞬間に逆側に動き相手が動いたブロックラインの反対から進入し追い抜きを成功させるテクニックをフェイントと称することがある。これを行うには直線でのスリップストリームのテクニックが併せて必要である。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- 1 2
フェイントの目的は「相手プレーヤーをあざむき、誤った行為に誘うきっかけにするのと同時に、実際の行為の意図を知らせないでおく」... さらに ... 「的に誤った先取りさえもさせてしまおうとするもの」
(蓬郷 2005, p. 45) - ↑ “フェイント(feint)の意味 - goo国語辞書”. goo辞書. NTTレゾナント. 2022年6月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年6月9日閲覧。
- 1 2 “feintの意味・使い方・読み方|英辞郎 on the WEB”. アルク. 2022年6月9日閲覧。
- ↑ “フェイク(fake)の意味 - goo国語辞書”. goo辞書. NTTレゾナント. 2020年2月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年6月9日閲覧。
- ↑ 大森良子『カタカナ外来語/略語辞典 現代用語の基礎知識』堀内克明(4版)、自由国民社、2011年3月、562頁。ISBN 978-4-426-11204-2。
- ↑ “Reconstruction:Proto-Indo-European/gʰleh₂dʰ- - Wiktionary” (英語). en.wiktionary.org. 2022年6月9日閲覧。
- 1 2 “feint|Etymology, origin and meaning of feint by etymonline” (英語). オンライン・エティモロジー・ディクショナリー. ダグラス・ハーパー (2001年). 2022年6月9日閲覧。
- ↑ “cummerbund - UK English|Lexico.com” (english). オックスフォード大学出版局 (2010年). 2022年1月2日閲覧。
- ↑ “Definition of feint | Dictionary.com” (英語). Dictionary.com. 2019年8月17日閲覧。
- ↑ 小川芳男『ハンディ 語源英和辞典』有精堂出版、1993年7月1日、212頁。ISBN 978-4-640-00188-7。
- 1 2
人が外界の状況変化という刺激に対して反応しようとする時,刺激と同時に反応動作を起こすことは出来ず,必ず刺激より遅れて反応が生起する。
(河辺 & 大築 1982, p. 218) - ↑
バレーボールのブロックにおいて,相手アタッカーがジャンプした(刺激)のを見てジャンプした(反応)のでは反応時間の分だけ相手に遅れてしまうので,ブロックは絶対に成功しない
(河辺 & 大築 1982, p. 218) - 1 2
相手プレーヤーの動きを「読んで」... スポーツにおける基本的に重要な技術の一つである。... 次に起こる状況を予測し,その予測に基いて行動している
(河辺 & 大築 1982, p. 218) - ↑
予測がはずれた場合に,非常に不利な状況に陥ることもまたしばしば経験する
(河辺 & 大築 1982, p. 218) - 1 2
フェイントを成功させるためには、陽動行動の細部にわたってあたかもその運動を行うかのような仕草をしなければならない。
(蓬郷 2005, p. 47) - 1 2
フェイントの目的を遂行するためには、敵をあざむくもしくは誤った先取りをさせるための陽動(見せかけ)行為と後続行為とから構成され、この二つの行為は運動的に一つのまとまりを持たせる必要がある
(蓬郷 2005, p. 45) - ↑
フェイント技術は,相手プレーヤーに自分の動作を予測させ,それを裏切ることによって相手を不利な状況に追い込む技術
(河辺 & 大築 1982, p. 218)
参考文献
[編集]- 河辺, 章子; 大築, 立志 (1982). “フェイント刺激による誤反応の修正 : 対側前腕屈筋への運動指令の切り換え時間について”. 体育学研究. 27 (3): 217–227.
- 蓬郷, 尚代 (2005). “ハンドボールフェイント構造の動感モルフォロギー的一考察”. 伝承. 5: 43–52.