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トリコロール/白の愛

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
トリコロール/白の愛
Trzy kolory: Bialy
監督 クシシュトフ・キェシロフスキ
脚本 クシシュトフ・ピエシェヴィッチ
クシシュトフ・キェシロフスキ
製作 マリン・カルミッツ
出演者 ズビグニェフ・ザマホフスキ
ジュリー・デルピー
音楽 ズビグニエフ・プレイスネル
撮影 エドワード・クロシンスキー
編集 Urszula Lesiak
公開 フランスの旗 1994年1月26日
日本の旗 1994年8月20日
上映時間 91分
製作国 フランスの旗 フランス
ポーランドの旗 ポーランド
スイスの旗 スイス
言語 フランス語
ポーランド語
前作トリコロール/青の愛
次作トリコロール/赤の愛
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トリコロール/白の愛』(Trois couleurs: Blanc / Trzy kolory: Biały)は、1994年製作の映画。クシシュトフ・キェシロフスキ監督による「トリコロール」3部作の2作目。

フランスでは1994年1月26日に公開された。日本では同年8月20日からBunkamura ル・シネマにて公開された。

1994年2月の第44回ベルリン国際映画祭では監督賞を受賞した。

トリコロール」3部作は、それぞれの作品が「自由(青)・平等(白)・博愛(赤)」を象徴しており、本作は「愛の平等」をテーマとしている。3部作中で唯一、男性を主人公としており、他2作とは異なる喜劇タッチの作品となっている。

ストーリー

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パリの離婚法廷。ポーランド人理髪師カロル・カロル(ズビグニエフ・ザマホフスキ)は、妻でありフランス人のドミニク(ジュリー・デルピー)から一方的に離婚を言い渡されている。理由は「夫婦生活の不成立」、つまりカロルが性的不能であること。カロルはフランス語も堪能ではなく、自分の弁護もまともにできない。判決はドミニクに有利に下され、カロルは家も仕事も、そして愛する妻までも失ってしまう。

カロルは一文無しになり、駅や地下鉄で夜を明かす羽目になる。かつて愛し合ったドミニクは冷たく、電話にも出ず、荷物も返してくれない。ある日、彼は地下鉄で同郷の男ミコワイ(ヤヌシュ・ガヨス)と出会う。ミコワイは、ポーランドの「暗い社会」や自殺願望などを語りながらも、何かとカロルに親切にする。やがて彼の提案で、カロルは楽器ケースの中に隠れて密航の形でポーランドへ帰国する。

しかしワルシャワの空港に到着した彼は、荷物のように放り出され、犬に噛まれるという屈辱的な姿で祖国に戻る。だがそこからカロルは再起を始める。兄の助けを借りて理髪店を手伝いながら、彼は冷酷な現実を受け入れ、野心的なビジネスマンへと変貌していく。

彼はミコワイと再会し、「誰かが自分を殺してほしいと願っている」と語るその依頼を受け、拳銃を向ける。カロルは相手を撃たずに空砲で倒れたふりをさせることで、自殺願望を試すミコワイの真意を測る。ミコワイはその行為に感動し、カロルに金を渡す。これがカロルの転機となり、不動産と投資の世界で頭角を現す。わずか数年で彼は裕福な男となる。

だが彼の心は、過去に囚われたままだった。ドミニクへの愛と、捨てられた痛み、そして復讐への欲望。カロルは入念な計画を立てる。まず偽の遺言状を作り、自分の死を偽装する。そしてドミニクをポーランドに誘い出し、彼女の名義に莫大な遺産を残すことで、彼女を「殺人の共犯者」に仕立てるような策略を仕掛ける。結果、ドミニクはカロルの死に関与したとされてポーランドで逮捕される。

だがその後、カロルは彼女を刑務所から見舞うように現れる。鉄格子の向こうで彼女はカロルを見つめ、手話で「愛してる」「一緒にいたい」と伝える。カロルは彼女のメッセージを受け止め、涙を流す。

登場人物

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カロル・カロル(Karol Karol)
演:ズビグニェフ・ザマホフスキ
本作の主人公。ポーランド出身の理髪師。フランス人女性ドミニクと結婚し、パリで理髪店を営んでいたが、性的不能を理由に離婚され、財産も地位もすべてを失う。のちに密入国の形でポーランドに戻り、兄の助けを借りて再起。事業で成功を収め、失った地位と自尊心を取り戻していく。
ドミニク・ヴィダル(Joseph Ken)
演:ジュリー・デルピー
カロルのフランス人の妻。パリ在住。彼に対して突然離婚を申し立て、「愛していない」「性的不能」と非情な言葉を突きつける。カロルにとってはすべてを捧げた愛の対象だが、ドミニクは一方的に彼を切り捨てる。物語後半、カロルの復讐によりポーランドへ誘い出され、カロルの偽装死によって結果的に「遺産殺人容疑者」として投獄される。ラストシーンでは刑務所の窓から手話で「愛してる」と伝え、カロルの涙を誘う。
ミコワイ(Mikołaj)
演:ヤヌシュ・ガヨス
カロルがパリの地下鉄で出会う謎めいたポーランド人の男。中年で裕福そうだが、自殺願望を抱えていると語る。彼の「誰かが自分を殺してほしい」という奇妙な依頼が、カロルにビジネスと精神的な再生の機会を与える。
イェジ(Jerzy)
カロルの兄で、ポーランドで理髪店を営んでいる。無一文で帰国したカロルを迎え入れ、再出発の足場を提供する。

評価

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本作は批評家から絶賛されている。 Rotten Tomatoesでは55件のレビューに基づき89%の評価、平均評価は10点満点中7.6点となっている。評論家の総評は「『トリコロール』三部作の他の作品よりも軽快なトーンの『白の愛』は、ウィットに富み、ほろ苦いコメディでありながら、一見すると想像以上に重いテーマを扱っている」となっている[1]Metacriticでは、11件のレビューに基づき100点満点中91点という高評価を得ており、「世界的大絶賛」となっている[2]

ワシントン・ポストのデッソン・ハウは本作が「詩的で象徴性に富んだ作品であり、台詞を最小限に抑えながら人間の感情とアイロニーを描き出している。物語は明快な答えを提示せず、観客に直感的かつ感覚的な鑑賞を促す。」と絶賛した[3]。また、年間ランキングで本作を第5位に挙げた[4]ガーディアン紙のデレク・マルコムは「キェシロフスキは登場人物たちの反応を本能的に把握している」とし、ザマホフスキの控えめな演技と、ポスト共産主義ポーランドの冷酷な資本主義社会の描写を絶賛した。また、「本作は、ほぼ完璧な作品と言えるだろう。暗いながらも最終的には希望に満ちたコメディであり、もし『ホワイト』と名付けられていなければ、『ブラック』と名付けられていたかもしれない。」と評した[5]

受賞

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部門 対象 結果
ベルリン国際映画祭 金熊賞 『トリコロール/白の愛』 ノミネート
監督賞 クシシュトフ・キェシロフスキ 受賞
シカゴ映画批評家協会賞 外国語映画賞 『トリコロール/白の愛』 ノミネート
ヨーロッパ映画賞 作品賞 ノミネート

脚注

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  1. ^ Three Colors: White | Rotten Tomatoes” (英語). www.rottentomatoes.com. 2025年5月31日閲覧。
  2. ^ Three Colors: White Reviews” (英語). www.metacritic.com. 2025年5月31日閲覧。
  3. ^ “[https://www.washingtonpost.com/wp-srv/style/longterm/movies/videos/whiterhowe_a0b068.htm �White� (R)]”. www.washingtonpost.com. 2025年5月31日閲覧。
  4. ^ Howe, Desson (1994年12月30日). “THE ENVELOPE PLEASE: REEL WINNERS AND LOSERS OF 1994” (英語). The Washington Post. ISSN 0190-8286. https://www.washingtonpost.com/archive/lifestyle/1994/12/30/the-envelope-please-reel-winners-and-losers-of-1994/3cf88a79-b416-4c9a-8ff1-8e9c9a91df37/ 2025年5月31日閲覧。 
  5. ^ Malcolm, Derek (2011年11月9日). “Three Colours White - review” (英語). The Guardian. ISSN 0261-3077. https://www.theguardian.com/film/2011/nov/09/three-colours-white-review 2025年5月31日閲覧。 
  6. ^ Kieslowski, Krzysztof (1994-06-10), Trois couleurs : Blanc, Zbigniew Zamachowski, Julie Delpy, Janusz Gajos, MK2 Productions, France 3 Cinéma, CAB Productions, https://www.imdb.com/title/tt0111507/?ref_=nm_flmg_job_1_cdt_t_9 2025年5月31日閲覧。 

関連項目

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外部リンク

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