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ツェンコヴァ ルミアナ

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ツェンコヴァ ルミアナ
生誕 (1955-11-13) 1955年11月13日
 ブルガリア ルセ
研究分野 農業情報工学生体計測工学流体工学
研究機関 神戸大学慶應義塾大学
出身校 ルセ工業大学
プロジェクト:人物伝
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ツェンコヴァ ルミアナ(Roumiana TSENKOVA、1955年11月13日 - )は、ブルガリア生まれで日本科学者神戸大学農学研究科に2021年4月に設立されたアクアフォトミクス研究分野で特命教授[1][2]を務める。ロシアで工学の博士号を、日本で農学の博士号を取得している。

生体の異変を診断する非侵襲的な生体計測方法を確立するために、近赤外分光法を用いた研究を推進し、体液及びin-vivo組織のスペクトルを用いて動物の疾病の診断に近赤外分光法を応用した最初の人物であり、2005年には「アクアフォトミクス」と呼ばれる新しい科学分野を提唱した [3][4][5][6]。 現在も水分子の挙動と生体における水分子の役割との関連の解明に取り組んでいる。アクアフォトミクス国際学会[7] 設立者と会長でもある。ブルガリア語、ロシア語、英語、日本語のマルチリンガルである。

学歴

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1976年 ルセ工業大学(ブルガリア)工学部電子工学自動制御工学科を卒業。

1978年 同大学工学部修士課程修了。

1982年 Department of Automatic Control Engineering, Faculty of Agriculture, Moscow Agricultural Academyロシア)博士課程修了。

1988年 ルセ工業大学(ブルガリア)電子工学自動制御工学科で、工学博士号を取得。

1996年 北海道大学農学研究科農生産物加工工学研究室 博士課程修了。

2004年 北海道大学農学研究科農生産物加工工学で、農学博士号を取得。

経歴

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1979年から、ルセ工業大学(ブルガリア)電子工学部の助教として、乳牛の乳腺炎症(乳房炎)診断用の光センサーの開発に取り組み始める。その後、同大学の准教授となる。1996年、現在の神戸大学農学研究科にて准教授、2006年より同大学の教授となる。2010年から2013年まで、神戸大学の男女共同参画室の室長として活躍。2015年からは、慶應義塾大学薬学部客員教授を兼任。

研究実績

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乳房炎の乳牛のミルクを対象とした近赤外分光解析を通し、生体の非侵襲な病態診断に体液の近赤外スペクトル解析が有効的な手法であることを見出した。[8]

その後、あらゆる溶液中や生体内における水分子のネットワークシステムを理解するため、水と光の相互作用を利用した光のスペクトルパターンの変化に着目した研究を行っている。[3][4][5]


2005年、「アクアフォトミクス(水と光の相互作用を用いたオミクス分野)」と呼ばれる新しい手法体系を提唱した [3][9]。アクアフォトミクスは分光法に基づいており、あらゆる水分子系および生体において不可欠な要素であり、かつ、複雑な構造のマトリックスを形成する「水」に焦点を当てている[10] 。それぞれの波長の光との相互作用から得られる水分子のネットワークの情報は、対象のシステムについての膨大な情報を含むことから、スペクトルパターンがありとあらゆる病態や状態の総合的なバイオマーカーとなりえる。この特性に基づいて、非侵襲的な生体計測、生体診断、バイオモニタリングなどの様々な手法が確立されてきている[3][4][5]。アクアフォトミクスの提唱後、当該研究を行う研究グループは世界中に広がり、現在では10以上になっている[11]。(Aoife Gowen [12][13][14]はツェンコヴァ研究室の卒業生の一人である)。

非侵襲性、全体性、リアルタイムのモニタリングは、ヘルスケア分野への応用や生体システムのさらなる理解において、アクアフォトミクスの最も魅力的な特徴といえる。診断や健康状態のモニタリングの例としては、乳房炎の診断、ジャイアントパンダの排卵日の予測[15]、子牛の牛呼吸器疾患診断[16]などがある。また、紫外線によるDNAの突然変異の検出[17]や、植物の乾燥耐性メカニズム[18][19]などの研究も行っている。

賞詞

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  • 2016年 ルセ名誉市民賞(ブルガリア)
  • 2015年 ルセアンバサダー ルセ市長賞(ブルガリア)
  • 2006年 Tomas Hirschfeld賞[20]
  • 2002年 Near Infrared Buchi Award(スイス)[21]
  • 1998年 日本の近赤外研究会 (JSNIRS) の最優秀賞を受賞

脚注

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  1. ^ Aquaphotomics Research Department | Kobe University”. www.lab.kobe-u.ac.jp. 2021年12月8日閲覧。
  2. ^ TZENKOVA Nikolova Roumiana (大学院農学研究科) | KUID教員業績管理システム”. kuid-rm-web.ofc.kobe-u.ac.jp. 2021年12月8日閲覧。
  3. ^ a b c d Tsenkova, Roumiana (2009-12-01). “Aquaphotomics: Dynamic Spectroscopy of Aqueous and Biological Systems Describes Peculiarities of Water” (英語). Journal of Near Infrared Spectroscopy 17 (6): 303–313. ISSN 1751-6552. https://www.osapublishing.org/jnirs/abstract.cfm?uri=jnirs-17-6-303. 
  4. ^ a b c Muncan, Jelena; Tsenkova, Roumiana (2019-01). “Aquaphotomics—From Innovative Knowledge to Integrative Platform in Science and Technology” (英語). Molecules 24 (15): 2742. doi:10.3390/molecules24152742. https://www.mdpi.com/1420-3049/24/15/2742. 
  5. ^ a b c Kraats, Everine B. van de; Munćan, Jelena; Tsenkova, Roumiana N. (2019-11-25). “Aquaphotomics – Origin, concept, applications and future perspectives” (英語). Substantia: 13–28. doi:10.13128/Substantia-702. ISSN 2532-3997. https://riviste.fupress.net/index.php/subs/article/view/. 
  6. ^ Tsenkova, Roumiana; Munćan, Jelena; Pollner, Bernhard; Kovacs, Zoltan (2018). “Essentials of Aquaphotomics and Its Chemometrics Approaches”. Frontiers in Chemistry 6: 363. doi:10.3389/fchem.2018.00363. ISSN 2296-2646. https://www.frontiersin.org/article/10.3389/fchem.2018.00363. 
  7. ^ アクアフォトミクス -”. アクアフォトミクス. 2021年12月8日閲覧。
  8. ^ Tsenkova, Roumiana; Munćan, Jelena; Kovacs, Zoltan (2021), Aquaphotomics (4 ed.), CRC Press, doi:10.1201/b22513-37/aquaphotomics-roumiana-tsenkova-jelena-munćan-zoltan-kovacs, ISBN 978-1-351-26988-9, https://www.taylorfrancis.com/chapters/edit/10.1201/b22513-37/aquaphotomics-roumiana-tsenkova-jelena-mun%C4%87an-zoltan-kovacs 2021年12月8日閲覧。 
  9. ^ Aquaphotomics.com - Aquaphotomics Founder” (英語). Aquaphotomics.com. 2021年12月8日閲覧。
  10. ^ Elsevier. “Using light to reveal water impurities” (英語). Elsevier.com. 2021年12月8日閲覧。
  11. ^ Aquaphotomics.com - Research Groups” (英語). Aquaphotomics.com (2017年3月28日). 2021年12月8日閲覧。
  12. ^ Women on Walls”. 2021年12月8日閲覧。
  13. ^ Kennedy, John (2013年7月19日). “Three Irish researchers secure €2m each in EU R&D funding - Innovation | siliconrepublic.com - Ireland's Technology News Service” (英語). Silicon Republic. 2021年12月8日閲覧。
  14. ^ ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン”. 2021年12月8日閲覧。
  15. ^ Kinoshita, Kodzue; Miyazaki, Mari; Morita, Hiroyuki; Vassileva, Maria; Tang, Chunxiang; Li, Desheng; Ishikawa, Osamu; Kusunoki, Hiroshi et al. (2012-11-22). “Spectral pattern of urinary water as a biomarker of estrus in the giant panda” (英語). Scientific Reports 2 (1): 856. doi:10.1038/srep00856. ISSN 2045-2322. https://www.nature.com/articles/srep00856. 
  16. ^ Santos-Rivera, Mariana; Woolums, Amelia; Thoresen, Merrilee; Blair, Ellianna; Jefferson, Victoria; Meyer, Florencia; Vance, Carrie K. (2021-01-14). “Profiling Mannheimia haemolytica infection in dairy calves using near infrared spectroscopy (NIRS) and multivariate analysis (MVA)” (英語). Scientific Reports 11 (1): 1392. doi:10.1038/s41598-021-81032-x. ISSN 2045-2322. https://www.nature.com/articles/s41598-021-81032-x. 
  17. ^ Goto, Noriko; Bazar, Gyorgy; Kovacs, Zoltan; Kunisada, Makoto; Morita, Hiroyuki; Kizaki, Seiichiro; Sugiyama, Hiroshi; Tsenkova, Roumiana et al. (2015-07-02). “Detection of UV-induced cyclobutane pyrimidine dimers by near-infrared spectroscopy and aquaphotomics” (英語). Scientific Reports 5 (1): 11808. doi:10.1038/srep11808. ISSN 2045-2322. https://www.nature.com/articles/srep11808. 
  18. ^ Kuroki, Shinichiro; Tsenkova, Roumiana; Moyankova, Daniela; Muncan, Jelena; Morita, Hiroyuki; Atanassova, Stefka; Djilianov, Dimitar (2019-02-28). “Water molecular structure underpins extreme desiccation tolerance of the resurrection plant Haberlea rhodopensis” (英語). Scientific Reports 9 (1): 3049. doi:10.1038/s41598-019-39443-4. ISSN 2045-2322. https://www.nature.com/articles/s41598-019-39443-4. 
  19. ^ Drying without dying: How resurrection plants survive without water: Aquaphotomics sheds light on how plants control their water structure to survive” (英語). ScienceDaily. 2021年12月8日閲覧。
  20. ^ Awardees – ICNIRS.ORG” (英語). 2021年12月8日閲覧。
  21. ^ “NIR news - Volume 13, Number 6, Dec 01, 2002” (英語). SAGE Journals. https://journals.sagepub.com/toc/nira/13/6 2021年12月8日閲覧。 

外部リンク

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