ダルク語

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ダルク語
Iyora
話される国 オーストラリアの旗 オーストラリア
地域 ニューサウスウェールズ州 シドニーなど
消滅時期 不明
言語系統
パマ・ニュンガン語族
  • Yuin (en
    • ダルク語
言語コード
ISO 639-1 -
ISO 639-3 xdk
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ダルク語(ダルクご、: Dharuk)またはダールク語(ダールクご)やダルーグ語(ダルーグご、: Dharug)とはパマ・ニュンガン語族に属する消滅した言語である。現在のニューサウスウェールズ州シドニーおよびその周辺に住むアボリジニーにより話されていた。

名称について[編集]

本言語全体を表す自称は記録されていない。しかし通称としてDharuk(Darrook、Dhar'rook、Dharrook、Dharruk、Dharugとも)の名が知られている。これは〈言語〉を表す言葉であった[1]。また、本言語を話す人々は白人との接触の際に自分達の事をEeōraと表した[2]。なお、地名からとったシドニー語英語: Sydney language)という呼び名も存在する[1]

語彙[編集]

動物名「ディンゴ」、「コアラ」、「ワラビー」、「ウォンバット」、そして道具の名「ブーメラン」といった語彙はそれぞれダルク語のdin-gu, gú-la, wa-la-ba, wom-bat, būmarinyに由来するものであるとされる[3]。さらにニューサウスウェールズ州には「パラマタ[4]などダルク語由来の地名がいくつか存在する。

文法[編集]

ダルク語の文法は、DawesやDixonらによって研究されてきたが、未だ確定されていない部分も大きい。以下に述べるのは、両者の記述をもとにした、Jeremy Steel (2005)による再構である。

代名詞[編集]

ダルク語には、独立代名詞(free pronouns)と人称接辞(bound pronouns)が存在する。人称接辞は、接尾辞として動詞の最後に接続する。人称接辞は、人称、数(単数・双数・複数)及び格を標示する。一人称は、包括形除外形を区別する。主格の接辞と対格の接辞では、主格が先に接続する。否定文では、人称接辞は否定辞に接続する。

付属代名詞(主格)
単数 双数 複数
1人称 -ngi -ngun
2人称 -ban
3人称 -ban -ban(d)
付属代名詞(対格)
単数 双数 複数
1人称 -nga
独立代名詞(主格)
単数 双数(除外形) 複数(除外形)
1人称 ngayu ngalu ngyilu
2人称 ngyinu

接辞-ban, -band[編集]

Dawesの記録に17例が見られる接辞-ban及び-bandの用法は、時制と人称をともに標示するうえ、標示される時制がまちまちであるという点で、複雑である。Jeremy(2005)は、この記録を、以下の理由から、疑わしいとする。

  • Dawes自身が、疑わしいことを示すコロンをつけている。
  • ダルク語を含め、オーストラリアの言語には、ゼロ標示による三人称が数多くみられる。
  • -bandに見られる子音連続-ndは、ダルク語では許容されない。
  • Dawesが断言する接辞は一人称単数、二人称単数、二人称双数・複数のみであり、双数と複数の区別には気づいていなかった。

脚注[編集]

  1. ^ a b オースティン(2009)。
  2. ^ ウィリアム・ドーズ英語版のノートによる。外部リンクを参照。
  3. ^ 小西友七 他編『小学館ランダムハウス英和大辞典 第二版』1998年。ISBN 4-09-510101-6
  4. ^ Richards (2015).

参考文献[編集]

  • R. E. アシャー、クリストファー・マーズレイ 編、土田滋、福井勝義 日本語版監修、福井正子 翻訳『世界民族言語地図』東洋書林、2000年。ISBN 4-88721-399-9
  • 「シドニー語」 ピーター・K・オースティン英語版 編、澤田治美 日本語版監修『世界言語百科―現用・危機・絶滅言語1000―』柊風舎、2009年、255頁。ISBN 978-4-903530-28-4
  • Richards, Kel (2015). The Story of Australian English. Sydney: University of New South Wales Press. ISBN 9781742232317 

外部リンク[編集]