オーヴィッツ一家

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オーヴィッツ一家(Ovitz family)とは、そのほとんどが小人症であるユダヤ人家族のこと。アウシュヴィッツを生き残った。

起源[編集]

もともとオーヴィッツ一家はルーマニアのマラマロス地方に暮らしていた、シムソン・エジク・オーヴィッツ(1868年-1923年)を祖としている。バドチェン(衒学的なコメディアン)であり、ラビでもあった彼は2人の妻との間にあわせて10人の子をもった。彼女たちは平均程度の身長だったが、その子供のうち7人が小人症(偽性軟骨形成不全症)。

2人目の妻であるバティアが一家のまとめ役となった。

リリパット座[編集]

子供たちはリリパット座に安住の地を見出した。1930年代から40年代にかけて、歌ったり、小さな楽器を演奏したりしてルーマニアやハンガリーチェコスロバキアをまわった。背の高い親戚たちがその後押しをした。オーヴィッツたちはユダヤ語、ハンガリー語、ルーマニア語、ロシア語、ドイツ語で歌った。巡業していないときには、彼らの配偶者たちとともに一つの家で暮らした。

第二次世界大戦が始まるころ家族は12人になっていた。ハンガリーがトランシルヴァニア北部を獲得した1940年9月、ユダヤ人をエンターテイメントの舞台から締め出す法案が成立した。一家は伝統的ユダヤ人(observant Jews)だが、そのことを省略した書類を手に入れて、44年まで興行を続けた。同年5月、一家そろってアウシュヴィッツに収容された。小人症ではない兄弟の1人が巡視を逃れたが、後に逮捕され、処刑された。

アウシュヴィッツ[編集]

収容所で、オーヴィッツ一家はドイツ人医師であるヨーゼフ・メンゲレ(通称:「死の天使」)の関心をひいた。遺伝形質の実験のための珍品を蒐集していた彼は、他の囚人たちと区別して一家を実験材料に加えた。ヨーゼフ・メンゲレが興味を持ったのは、一家には小人症とそうでない人間がいるということだった。他にも11人が一家の親戚であるとされ、メンゲレはその全員を自分の「人間動物園」に移した。

この小人症の家族の命を救うために (双子などの実験材料よりもはるかに得がたいからだ)、メンゲレは彼らのために特別な住環境を用意し、そこで観察した。人体実験のためには健康を保たねばならないので、衛生には特に気をつかい、食事もよいものにしている。家族には自分たちの衣服を持つことさえ許可し、背の高い人間には小人症の家族を実験施設に運ぶよう命令した。

オーヴィッツ一家は、他の囚人と同様に、いくつもの検査を受けた。遺伝子疾患の特徴を発見するため、メンゲレ付きの内科医が骨髄を引き抜き、歯や髪の毛を抜きとった。耳には冷水や湯を注がれ、薬品を点眼されて目は見えなくなった。婦人科医は結婚した女性を調べた。生後18ヶ月のシンション・オーヴィッツは最も苦しい体験したといえる。彼は背の高い両親に生まれ、しかも未熟児だったからだ。メンゲレは耳の裏と指の血管から血を抜いた。オーヴィッツ一家のように目をつけられた2人の新たな小人症の人間は、煮殺された。彼らの骨は博物館に展示されている。あるとき収容所を訪れた高官たちの前で、メンゲレはオーヴィッツ一家の服を脱がせ、その裸を見物させた。彼はまたヒットラーの娯楽になるようにと一家の映像記録を残している。命を惜しむ一家は、メンゲレが命じるたびに一口話を披露し、ドイツ語で歌をうたった。

メンゲレの実験終了後に殺されるはずだったが、1945年1月にアウシュヴィッツが解放された。赤軍が彼らを難民キャンプへと案内した。

その後[編集]

オーヴィッツ一家は故郷の村へと7ヶ月かけて徒歩で移動した。家が略奪にあっているのを知り、はじめシゲトゥへ、のちにベルギーへと移った。1949年3月、イスラエルに移民し、巡業を再開した。うまく成功し、大きなホールを満員にすることもあった。55年には映画館を購入し、興行を引退した。

オーヴィッツ一家の子孫たちはもっと背が高いが、女性たちは骨盤が小さすぎるために妊娠することはなかった。最初の小人症児、ロジカ・オーヴィッツは98歳でこの世を去った。家族で最期の1人、ペルラ・オーヴィッツは2001年に亡くなっている。

参考文献[編集]

  • Koren, Yehuda. Negev, Eilat. In Our Hearts We Were Giants - the Remarkable story of the Lilliput Troupe.Newyork:Carroll & Graf, 2004.
  • Leroi, Armand Marie. Mutants: On the Form, Varieties and Errors of the Human Body. Newyork:Harper Perennial, 2003.